小児歯科学雑誌
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マウス臼歯の歯根形成におけるヘルトウィッヒ上皮鞘の機能と運命
青柳 暁子島津 徳人佐藤 かおり苅部 洋行青葉 孝昭
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2007 年 45 巻 4 号 p. 469-480

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抄録

生後3日齢から28日齢のICRマウス下顎第一臼歯遠心根を観察対象として,臼歯の歯根形成におけるヘルトウィッヒ上皮鞘(HERS)の細胞動態と機能的役割を検討した。免疫組織化学によるHERSの表現型と動態に関する観察結果から,上皮2層構造のHERSは歯髄組織と歯根膜組織を隔壁しており,FGF8産生などを介して象牙芽細胞系譜の分化誘導に働くことが示された。HERS上皮細胞は複数の増殖因子に対する受容体を発現しているが,その増殖活性は象牙芽細胞系譜の増殖と象牙基質産生によって規定される歯根形成速度に追随できず,歯根形成の開始直後にHERSは歯冠部エナメル上皮から分離された。
歯根象牙質表面では,HERS由来の上皮細胞集団は連続したシート構造を維持できず,歯根膜組織へ遊離あるいはセメント基質に埋入されて,歯根形成の完了時には歯根象牙質表面から消失した。歯根膜組織に遊離した上皮集団の一部はラミニン陽性の基底膜に囲まれてマラッセ上皮遺残として存続するが,基底膜を失って遊離した上皮細胞は上皮形質を喪失すると推定された。顎骨外萌出期に至ると,HERSにおける増殖因子受容体の発現は不明瞭となり,HERSは退縮した。以上の形態学的所見から,HERSとHERS由来の上皮細胞の運命とその分断化は時空間軸に沿って進行する歯根形成と萌出現象を制御する上で基軸となる役割を果たしていることが示唆された。

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