主催: 一般社団法人日本体育・スポーツ・健康学会
1980年ごろから導入された体育選択制授業の主たるねらいは、受験を生き抜く生徒に対しての「自由で楽しい体育の授業」の提供であった。その後、体育選択制授業を導入する学校が急増し、1994年時点で全国の高等学校実施率は83.7%となった (文部省, 1994)。体育選択制授業が開始され40年、今一度選択制授業の現状把握や問題点の抽出、将来の展望などを考える必要があると言える。そこで本研究では、体育選択制授業導入当時の卒業生を対象に、今の社会が目指している「豊かなスポーツライフの実現」に選択制授業が寄与できていたかを探索的に検証し、今後のあり方を提案することを目的とした。体育選択制授業導入当初の卒業生1031名 (平均年齢45.5±4.5歳) を対象に質問紙調査を実施し、168名から回答を得た (回収率:16.3%)。また、20年以上前のことを想起させるため「覚えていない」という回答を設置し、その回答者は分析から除外した (回答割合:29.1±2.4%)。体育選択制授業が与えた影響について『生涯スポーツの実践に役立っているか』という質問に対し、26.2%の人が役立っていると回答したが、40.5%の人は役立っていないと回答しており、体育選択制授業が「豊かなスポーツライフの実現」に寄与できたとは言い難い結果が得られた。当時の体育選択制授業のねらいは、生徒の興味関心に応じた種目を選択させ、学習意欲を高め、積極的な学習を促し、それによって効果的な技能向上を目指し、得意になったという有能感を高めることであった。そうした有能感の高まりが生涯スポーツに繋がると考えていたが、約75%以上の生徒は「楽しく前向き」に授業に取り組んでいたものの、技能向上を実感させるまでは到達できなかった (回答割合: 向上した26.9%; 向上しなかった、変化しなかった73.1%)。そのため今後は、技能向上が確実に期待できる「一斉授業」と意欲向上が期待できる「選択制授業」をうまく組み合わせた新たな形の体育授業の立案が必要と考えられる。