日本体育・スポーツ・健康学会予稿集
Online ISSN : 2436-7257
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学会本部企画
本部企画シンポジウム1
  • 村井 昭彦
    p. 1-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    筋骨格モデリング等を中心とするデジタルツインテクノロジーは、ヒトの身体の運動力学的、生理学的計測や解析により、物理的側面の計測と理解を実現してきた。光学式モーションキャプチャによりヒトの運動を高精細に計測し、また同時にフォースプレートや筋電計を用いることで、床反力等の接触力や筋活動情報を計測する。そして、ヒトの幾何学的、慣性的、解剖学的特徴をモデリングした筋骨格モデルを適用し、ロボティクスにおける運動力学的解析や数学的最適化により、筋張力等のヒトの体性感覚情報を推定する。これにより、ヒトの身体の使い方の可視化や理解が可能となっている。

     近年、このデジタルツインの発展により、物理的側面のみでなく、さらに生理学的、認知的側面を計測、理解しようとする試みがなされている。筋活動情報は力み等に繋がる緊張や疾患情報を表し、また心電情報や皮膚電気情報はあがりなどヒトの心理的状態を表す。このような情報を解析、可視化することで、生理学的、認知的、心理的の相互理解やコミュニケーションの円滑化、ひいては人を含めた社会の拡張につながることが期待される。例えば我々は、脳卒中後の運動障害患者を対象に、麻痺肢の使用減少に関与する主観的要因として運動主体感と不快感に着目し、それらを分離評価する質問紙を開発した。その結果、運動主体感の低下が麻痺肢の使用減少と有意に関連し、主体感の改善が使用の促進につながる可能性を示した。

     この流れは今後の研究において、運動主体感のような主体的身體感覚をデジタルツインに統合することにより、単なる物理的なモデルを超え、ヒトの意思や文化的背景までも反映する「身體文化的デジタルツイン」の構築を示唆している。本シンポジウムでは、従来の物理的なデジタルツイン、そして意思や文化的背景までも反映するデジタルツインがどのように身體文化の創成に貢献するのか、そして身體文化がどのように今後のデジタルツインテクノロジーに影響するのかを議論したい。

  • 身体知の言語化と一般化への挑戦
    岡田 隆
    p. 2-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    人間の身体技能はいかなる極限に到達し得るのか。本問いは、古代・近代オリンピックの存在に象徴されるように、人類にとって普遍的な関心事である。本発表では、テクノロジーの進展が身体技能に与える影響を踏まえ、体育・スポーツ科学が今後創出すべき新たな価値について考察する。

    極限的身体技能の獲得に関して、実践で得られる身体知は未だ数値化・言語化されていない要素を内包しており、実践知と科学的検証の往還による体系化と一般化が求められる。特に筋力トレーニング領域では、主観的感覚と数量的データの相互運用が高度技能獲得に資すると推察される事を、極めて高度な競技者を対象とした研究を題材に提示する。

     また、AIに代表される近年のICTテクノロジーの発展は、人間の身体技能に新たな地平をもたらす可能性を孕んでいる一方で、生物学的進化とは異なる速度と様態で脳機能を補助・拡張するため、身体機能の変容には長期的視点からの慎重な観察が求められる。機能の向上のみならず、退行や喪失にも留意する必要がある。

     産業革命以降、機械技術によって筋活動を代替した人類は、健康維持のために自発的な運動を必要とする社会を形成した。現代において、体育・スポーツの価値はヘルスケア領域へと拡張され、加えて社会変容への適応能力、すなわち心的レジリエンスの涵養が重要な課題となっている。筋力トレーニングは現代人における基盤的な健康行動となり、その実践が心的レジリエンスに及ぼす効果についても検討する必要がある。

     これらの論点を鑑み、体育・スポーツ科学には、身体技能向上や健康支援にとどまらず、心身を一体的に捉える包括的な視座が求められる。本発表では、極限的身体技能に内在する身体知の科学的解明と、その言語化・一般化に向けた挑戦の意義を検討するとともに、「身体教養」の概念を一つの方向性に据え、今後の価値創出に資する可能性を探る。

  • テクノロジーの利用かそれへの依存か
    深澤 浩洋
    p. 3-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    身体文化をより豊かにするために、テクノロジーはいかに関与しうるか。こうした問いに対し、現代社会におけるテクノロジーの目覚ましい発展が身体活動の必要性を低下させてきた側面に鑑みると、果たしてそれが身體文化に寄与してきたと言えるのか疑問が残る。一方、例えば、身体障害者の活動範囲の拡大やスポーツへの参加機会の増大にテクノロジーが貢献している面があるのもまた事実である。そして、AIの発展による人間と機械の境界線の曖昧化は、人類の身体と心、そして社会に大きな影響を与えている。スポーツの世界とわれわれが生きる社会は、科学技術が進展する状況の中で、身体文化のありようを再考する時期に来ている。

     本発表では、テクノロジーの発展を促した背景を資本主義社会の進展から探るとともに今後のいわゆるテクノロジー社会を展望する。その際、決して楽観的とは言えないシナリオに対し、どこに可能性を見出しうるかを述べてみたい。その際、身体文化の価値創造として考えられるものを探り、その必要性の根拠を社会情勢や人間の在り方を通して示したい。そして、冒頭の問いにアプローチするなら、「身體文化における豊かさとはどのように捉えられるのか」や「豊かさが何によってもたらされるのか」といった問題を考えてみる必要がある。これらをテクノロジー(例えば、バイオテクノロジーやコンピューターアルゴリズム)が持つ可能性や課題などと突き合わせ、体育・スポーツ科学が今後取り組むべき課題を示してみたい。こうした検討を通して、価値創造実現を促す条件やそれに向けた方途が展望できれば幸いである。

本部企画シンポジウム2
  • 身体の可能性と多様性
    田中 愛
    p. 4-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「身体」とはなにか、そして、私たちは「身体」をどのように捉えるべきか。この問い立てに対し、本シンポジウムに掲げられている「冗長性」や「不可視性」は、有効な視点であるように思われる。演者の立場からは、現象学という学問の知見を借りながらこの問いについて再考を試みたい。

     考察の手がかりの一つとして、「身体的可能感」を取り上げる。この概念は、体育やスポーツ実践における「できる」か「できない」かの現象のうち、「できない」から「できる」までの過程で、無自覚のうちに本人が抱く感じを指す。この概念を、通常認識されている「できる」との対比から〈できる〉と表記すれば、この〈できる〉は、人間が積極的に行動を起こす際のいわゆる「意欲」にも影響を及ぼすと考えられる。また、これらのことを学校教育という枠組みの中で評価することの難しさについても、とくに「不可視性」との関係から問題提起したい。

     また、上記の議論に加え、「できる」ことの価値を認めつつも、「できない」ことにも「人と人を結び付ける」という独自の意味があることについて、スポーツやパラスポーツの実践場面にみられる能力志向という観点から議論を展開したい。

  • 熟達化の非線形科学
    岡野 真裕
    p. 5-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「非線形科学」とは、物理学や数学のいわゆる「複雑系」「カオス」などの研究に端を発する領域である。非線形科学ではしばしば、システムの構成要素が相互に作用し合うことを通して、複雑でありながら秩序だった振る舞いがシステム全体として生じるという現象(パターン形成、自己組織化)が扱われる。

     人間(他の生き物も)の身体運動も言うまでもなく、筋骨格系、神経系、呼吸器系、循環器系、内分泌系、さらには外部環境といった、相互作用し合う構成要素からなるシステムである。したがって、身体運動が「うまくいく」とは、これらの要素間の相互作用の結果として、システム全体が、目的を果たすのに適した振る舞いをしている状態と言い換えることができる。

     非線形科学というメガネを通して熟達化のプロセスを眺めると、熟達化とは身体・環境システムが現在示している秩序が、さらに目的に適した別の秩序に移り変わる過程だという捉え方ができる。この秩序が移り変わる過程では「臨界ゆらぎ」という、システムの状態が不安定になる局面が観察されることが知られている。

     これらを踏まえると、既存の秩序を維持し続けようとする、すなわち「うまくいく」状態を維持し続けようとすることは、長期的に見て正解といえるのだろうか、という疑問が湧く。このような観点から、冗長性・不可視性を手がかりに、身体性について議論を深めるきっかけとなる話題を提供できれば幸いである。

  • 遠回りするランニングの楽しさとGPSアートの活用
    齋藤 祐一
    p. 6-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    学校体育における持久走や長距離走は、児童生徒の体力維持・向上において一定程度の効果が認められている。しかし一方で、走行距離やタイムといった結果が重視されるあまり、子どもたちからの人気は依然として低く、運動の過程における楽しさが見過ごされがちである。特に限られた場所で実施される授業では、効率よくゴールすることが求められ、A地点からB地点へいかに速く到達するかが重要視される結果、移動過程の価値が軽視される傾向にある。

     本シンポジウムでは、こうした「最速・最短」志向が持久走・長距離走授業に与える影響を考察するとともに、ランニングアプリのGPSトラッキング機能を用いて地図上に文字や絵を描く「GPSアート」を取り上げる。GPSアートを楽しむランナーがどのようにその魅力を感じているのかを探ることで、走行経路を工夫しながら目的地に向かうプロセスそのものに楽しさがあることを示す。さらに、GPSアートの実践がランナーの認識にどのような変容をもたらすかを考察し、従来の持久走・長距離走授業が抱える課題と、その改善に向けた視点を提案する。

テーマ別シンポジウム
スポーツ文化研究部会【課題A】シンポジウム
  • 岡出 美則
    p. 7-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、カンボジア,ミャンマー,ボスニア・ヘルツェゴビア、南スーダンにおいて展開されたJICAの体育カリキュラムの開発、実施に関わるプロジェクトに専門家として従事してきた経験からプロジェクトの遂行に関わり現場で派生する課題について紹介したい。これら4ヶ国は期間の長短や時期が異なるとはいえ、いずれも内戦経験国であり、現在もその影響が残っている。また、体育のカリキュラム開発には公教育の保証に向けた取り組みであるとはいえ、体育の制度的な位置づけやその実行体制、能力も異なっている。他方で、プロジェクトの予算は規模が違うとは言え、配当されている。しかし、使い勝手がいいわけではない。この点を踏まえつつ、本発表では、1)自分は受け入れられるのか、2)言葉の意味は共有可能か、3)成果を届けるシステムが存在しない、4)現地での見えないステイタス、手続きが存在する、 5)カウンターパートが来ない、 6)お金で動くわけではない、本音はどこにあるか、7)自立に向けた自走と持続可能なシステム構築に必要な時間とは、という7つの課題を紹介し、スポーツを通じた平和構築かかわるプロジェクトの実行段階の現場で派生する問題やその解決に向けた取り組みについて紹介したい。

     なお、プロジェクトの現場という場合、企画が認められない、予算規模が不足する、専門家が常駐できない、あるいはいない、等々の問題も派生する。同時に、体育のプロジェクトという場合、競技化された近代スポーツの形態や競技の結果のみに目を奪われやすい。その結果、スポーツの持つ多様な価値に目が向けられなくなってしまうリスクも派生する。スポーツはプロジェクトの契機となり得るとはいえ、教育という課題のもとにおかれた体育の価値やその実現に必要な制度、文書、手続きにも目を向けることが求められる。

  • アフリカの草の根クラブとの協働事例から考える
    岸 卓巨
    p. 8-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、「平和」を、人々が互いの尊厳を認め合いながら共に生きることができる状態と定義し、スポーツが地域社会におけるセーフティネットとしてどのように機能し得るのか、アフリカでの事例を通して検討する。

    ケニアでは、貧富の差が大きく、貧困層の人々は公的支援を得ることが困難な状態にある。そこでは、日々の生活を維持するために人と人とのつながりが、「ライフライン」として機能している。 こうした地域において、多くの草の根のサッカークラブが、スポーツの場にとどまらず、ストリートチルドレンの保護、コミュニティスクールの運営といった多様な地域活動を行っている。サッカークラブの運営者が、そうした活動に取り組む背景には、様々な社会的要因があり、地域活動を通じた人とのつながりが、自らの暮らしを支える基盤となっている現実がある。

     発表では、これまでの「スポーツを通した開発」の研究において、十分に取り上げてこなかったスポーツの実相をより具体的に理解する手がかりとして、A-GOALの取り組みを紹介する。A-GOALでは、ナイロビのキベラスラムにおいて、複数の既存クラブや指導者とともにユースサッカーリーグを、年間を通して運営し、コミュニティの力を高めている。そこでは、政府系のプロジェクトなどで取られがちな「支援者と裨益者」といった2項対立的な構図ではなく、現地住民が主体となり、地域内での助け合いを日本や遠隔地から伴走的に支えるという関係性が築かれている。もともと、地域に根ざした活動を行い、人々のつながりを育み出している草の根のスポーツクラブとNGOが連携するからこそ、現地のニーズに根ざした活動や持続可能性の担保、その時々の社会情勢(物価変動・災害等)に合わせた臨機応変な対応を可能にしている。

     本発表では、スポーツがいかにして地域のセーフティネットとなり得るのか考察するとともに、地域や立場を超えて広がる協働のかたちを考える機会としたい。

  • 井本 直歩子
    p. 9-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    国際的な紛争現場での緊急支援の現場において、「スポーツ」というセクターは未だメインストリームの地位を確立してはいないものの、心のケアの一環など、スポーツのプログラムはめずらしいものではなくなってきた。本発表では、小職が国連児童基金の教育専門家として、スリランカ(内戦)、マリ(内戦)、ギリシャ(難民)の緊急支援の教育プログラムの一環で実践してきたスポーツの活用事例、またモザンビーク北部の紛争地域でのNGOによるスポーツと平和のプロジェクトの実践事例を紹介する。緊急支援においてスポーツ・プログラムがどのようにその地位を確立してきたのか、目的、実施形態、予算配分、時間配分、効果測定、持続可能性等の観点からその効果や課題を検討したい。

スポーツ文化研究部会【課題B】シンポジウム
  • 教育言説からのアプローチ
    神谷 拓
    p. 10-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本報告では、運動部活動がスポーツ文化に及ぼした影響を教育言説の観点から読み解いていく。これまで学校でスポーツ活動に取り組む際に、その教育的意義が「体力づくり」「競争」「道徳」に見出されてきた。これらは学習指導要領の目標として、そして、内申書・調査書の評価項目として位置づけられてきたことによって教育現場に影響を及ぼしてきた。また、学校の対外試合の方針を定めた対外試合基準も、「体力づくり」「競争」「道徳」を理由に緩和され続け、各時代の教育政策を具現化する役割を果たしてきた。

     しかし、これらの教育言説は、学校に部活動を位置づける論理として脆弱であった。実際に1969年以降、さらには、1998年以降に部活動の地域移行が進められたが、「体力づくり」「競争」「道徳」は学校でなくても取り組める教育内容でもあり、これらの言説は学校に部活動を位置づける根拠にならなかった。その問題は2008年以降の学習指導要領でも続いており、「総則」で示された部活動の方針に貫かれている原理は、依然として「体力づくり」「競争」「道徳」である。そのため、現在も学習指導要領の方針から部活動を捉える限り、学校に位置づける根拠を見出すことはできないのである。

     そのような問題をふまえ、修正を図ろうとする対抗言説もあった。戦後初期の学習指導要領で提唱された「レクリエーション」言説であり、また、その言説を教師の専門性との関連で理論化しようとした宮坂哲文、城丸章夫、中村敏雄といった民間在野の研究者たちの主張である。しかし、それらの理論を推進する役割を果たすことが期待された教職員組合には、部活動よりも教師の労働環境の改善を重視する人も多く、この言説は一部の実践家に継承されるに止まり、3つの教育言説を批判・是正する勢力にはならなかった。今後のスポーツ文化の在り方を展望するうえでも、このような教育言説の歴史をふまえた議論が求められる。

  • 体育社会学的解釈をもとに
    谷口 勇一
    p. 11-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「部活動の地域移行のことですか、行政と学校、それに地域の三者間の思いみたいなものが噛み合っていない状態が続いていますね。難題そのものです…。」直近にフィールドワークを実践した際、某県教育(スポーツ)行政指導主事から得られたコメントである。批判の学問である体育社会学の研究者としては実に興味深い。

     スポーツ庁(文部科学省)が推進している部活動の地域移行・展開をめぐる今日的様相は、各自治体および地域事情により大きく異なっている。都道府県もしくは市区町村教育(スポーツ)行政による積極的主導をもとに、自治体単位で推進されている事例とそうでない事例とが混在しているのである。それもまた興味深く、研究関心を高揚させてしまう。上記したような部活動をめぐる今日的様相は「それが当然、それで構わない」のである。

     スポーツが文化であること、そのことに疑いの余地は一切ない。但し、スポーツを取りまく「場」にもまた各々の文化が形成・醸成されてきた。文化とは、一義的な概念ではなく実に多義的なのである。教育社会学者である久冨善之の文化論は「(組織・集団をめぐる文化とは)歴史的に選択され、形成され、継承され、また創造されながら変容していく」とされている。すなわち、スポーツに関与し続けてきた学校、地域、そして行政においては、各々に「スポーツへの関わりに伴って形成されてきた文化内容」が存在しているのである。しかるに、今日の学校部活動を取りまく構造変革の動向は、学校、地域および行政各々が有してきた個々のスポーツ文化(観)をめぐるコンフリクト(揺らぎ=文化的営為)が生起されつつある状態との解釈こそ妥当であろう。当該のコンフリクトの「勝者」は、社会学的再帰論の観点からしても学校になるであろう(なるべき)と思えてならない。地域資源の活用を基軸とした学校「部活動」の再生は、社会に新たなスポーツ文化の創出をもたらすに違いない。

  • 永瀬 義規
    p. 12-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「また、永瀬が変わったことをやりだした・・」17年前、起業して2年目からスタートした『スポーツひのまるキッズ』、5年後に一般社団法人を立ち上げ事業を移してからも一貫して実施したのは『スポーツで親子の絆を深め、子と夢をつなげる』こと。そして、その取り組みはやがて『スポーツのテーマパーク』を言われるようになり、数年前、『勝利至上主義につながるから』と全柔連が小学生の個人戦を主催しないと決定した時点で唯一無二の全国小学生柔道イベントとなった。〝当たり前のことを当たり前にできる子供の育成″を掲げ、エントリーシートには〝勝負だけにこだわる人の参加はご遠慮ください″と明記され、最高の賞は学年で1名しか選ばれない『マナー賞』。さらに、『一回戦で負ける人は半分、負けてからが勝負』とオリンピアンが講師となって受け身コンテスト、打ち込みコンテストを実施し点数をつける。イベントが終わったら全国400社のスポーンサーがバックアップする衣食住遊のブースで楽しみまくる・・・。試合、コンテスト、ブース参加ですべての規範となるのが『ひのまるキッズ六訓』。柔道以外の競技でもそれぞれの特性を活かしつつ『親子で参加』『マナー賞が一番』の形は崩さず展開している。今回は、これまで参加無償で実施されている部活動を地域で有償で継承するにあたり、すでに『道場』という地域活動の拠点を持っていた柔道界においてある意味ビジネス化できつつある要因を検証していきたい。「ライバルは?」と聞くと真顔で「ディズニーランドです」と答える弊社スタッフ代表として・・・。

学校保健体育研究部会【課題A】シンポジウム
  • 佐野 信子
    p. 13-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表は、「男女」がお互いを強く意識し合い、最も男女共習体育の実践が難しいと考えられる、中学校の男女共習体育授業について述べるものである。現行の学習指導要領解説保健体育編では、「原則として男女共習で学習を行うことが求められる」と示されている点をまず確認したい。しかし、「原則」故か未だそれが守られず、男女別習体育を実践し続けている学校が散見されるのが現状である。

     さらには、「男女」共習という用語が独り歩きし、「男女」が一緒に体育の授業を受ければよいのだろう、と短絡的に解釈されているようにもみえる。そのため、グループ作りも「男女」同人数で分けられたり、スポーツが苦手な「女子」に配慮したルールで授業が進められたりといった実態が確認できる。これらが、少なからぬ中学校でまかり通っている「男女」共習体育の実際の一部である。

     本発表者は、今、希求されているのは「ジェンダー平等な体育」の理念を有した「男女共習体育」であると考えている。

     では、「ジェンダー平等な体育」とは、どのようなものであろうか。それは、あらゆるジェンダーの生徒の中で合理的な配慮が必要な生徒には配慮がなされた上で、ジェンダーに関わりなく、生徒達が共に学習することのできる体育ではなかろうか。そのため、グループの構成が同じジェンダーだけの場合もあれば、ランダムなジェンダーになる場合もある。スポーツが苦手な「女子」への配慮ではなく、スポーツが苦手な「学習者」への配慮が必要な場面はあるかもしれない。

     このような授業を可能とするためには、体育を離れ、普段の学校生活の中でも、「ジェンダー平等」な実践がなされてなければならないであろう。そして、体育でのこのような試みが浸透していくことによって、「ジェンダー最後の砦」といわれるスポーツを学ぶ体育の時間が、学校内に「ジェンダー平等」を定着させる起爆剤ともなり得るのではないか、と本発表者は考えている。

  • 綿引 清勝
    p. 14-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    現行の学習指導要領の解説(小学校体育編/中・高等学校保健体育編)では、改訂の要点として「運動やスポーツとの多様な関わり方を重視する視点から、体力や技能の程度、年齢や性別及び障害の有無にかかわらず、運動やスポーツの多様な楽しみ方を共有することができるよう指導内容の充実を図ること。その際、共生の視点を重視して改善を図ること」と示されており、共生社会の実現へ向けた学校保健体育の果たすべき役割として、運動やスポーツの価値の一つに「共生」が含まれている。第三期スポーツ基本計画においても「生涯にわたって運動・スポーツを継続したい子供の増加」や「体育授業への参加を希望する障害のある児童生徒の見学ゼロを目指した学習プログラムの開発」が目標に掲げられており、運動につまずきがある児童生徒も含めたすべての子どもたちがどう身体活動を楽しみ、学びを深めるかは重要な教育課題だと言える。

     近年、通常の学級や特別支援学級の授業研究などでも教育現場を訪問する機会をいただいている。様々な相談の中には、協調運動の困難さを示す発達性協調運動症や肢体不自由等の体育の授業に直接関連する学習上の困難さだけでなく、授業におけるつまずきや失敗が不適応の原因になっているという事例がある。一方で、体育の授業を介して日常生活場面でも社会的な関わりが広がったという事例もある。

     本シンポジウムでは、神奈川県立総合教育センターが令和の日本型学校体育構築支援事業の委託を受けて取り組んだ「共に学び共に育つ体育授業の調査研究」の成果と課題を交えた話題提供を行う。そこから得られた知見や教育現場からの声を参加者と共有しつつ、多様な学習者が共に学び、共に育つインクルーシブ体育のあり方について議論を深めたい。

  • ジェンダー・セクシュアリティの視点から
    井谷 惠子
    p. 15-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    人々の多様性を考えるにあたって、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、国籍、障害などのカテゴリーがそれぞれ別個にではなく、相互に関係し、人びとの経験を形づくっていることを示すインターセクショナリティ(交差性)という概念を捉えることが重要である。「多様性を尊重」するとは、多様な側面を持つ個人の存在を認め、尊重するだけでなく、複合的な差別や権力関係、特権の交差に眼を向ける必要がある。

     一方、学校体育の現状を見ると、エリート男性の教育手段として発祥・発展してきた競技スポーツが体育カリキュラムや運動部活動の中心に置かれており、経験でも能力でも優位な特権性を持つ者が制度設計や指導にあたっていることが常である。「ボールが怖い」「水着が嫌」「体育がなくなればいいのに」という「体育嫌い」の子どもたちの思いがカリキュラム作成や指導の場にどれほど反映されているのか改めて問い直す必要があるだろう。例えば、「スポーツはすべての人の権利である」と謳われながら、スポーツでも学校でも性別二元制は絶対的な規範として機能している。男女に分けることによって見えなくなる存在は、置き去りにされている。また、学習指導要領の変遷とともに体育の目標が変化しても、実践段階での評価は相変わらず技能に重心が置かれている。

     本発表では、「体育は多様性を受け入れることができるのか?」という基本的クエストに立ち、ジェンダー、セクシュアリティの視点からから議論を深める。発表の構成として、⑴多様性とは何か ⑵男はできて当たり前? 女は嫌いでも仕方がない? ⑶競技スポーツ中心の学校体育の問題 ⑷解決に向かうために を予定している。

学校保健体育研究部会【課題B】シンポジウム
  • その技術支援と「深い学び」への展望
    山田 孝禎
    p. 16-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    コロナ禍を経て、ICTを活用した実践をさらに推し進めようとする動きが高まった。この動きの中で試行錯誤されてきたICTの活用方法は、対話的な学びに一定の貢献を果たしていると評価される一方で、技能の獲得や改善・向上に直結させようとするものであるようにも捉えられる。学習者の興味・関心や学習意欲を高め、さらに主体的で対話的な学びを促進し、「深い学び」へ繋げられるようなICTの活用方法が求められる。とりわけ、学校保健体育領域においては、動きの可視化・客体化を目的にICTが活用される場面が多いが、動画撮影・閲覧に留まっているケースが大半である。ICTとバイオメカニクスあるいは運動生理学等の分野で代表される動きのキネマティクスや筋電図あるいは心拍数等とを組み合わせ、簡便にかつリアルタイムで授業実践に活用されているケースは稀である。導入に向けて、経済的なハードルをはじめ、授業者の活用スキル(パラメータの選択や提示方法)、学習者の情報を読み取る力(情報量や読み取り方)等、多くのハードルが想定される。本発表内容が今後の学校保健体育分野におけるICTの活用を通した「深い学び」のきっかけになることを祈念する。

  • 清水 和弘
    p. 17-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    競技における最大限のパフォーマンス発揮には、体力や技術、心理に加え、疾患、用具、スケジュール、戦略・戦術等、多岐にわたる要因を望ましい状態に調整すること(コンディショニング)が求められる。コンディショニングは、アスリート自身がその知識や技能を備えて主体的に実践・継続できるようになることが重要であり、そのための支援が必要である。例えば、演者はコンディショニングの相談窓口(免疫機能を数値化し、主観や運動、睡眠、リカバリーを鑑みたコンディショニングを提案)、ハンドブックやセミナーを通じて、アスリートのコンディショニングのリテラシー向上を図った試みを進めている。このようなハイパフォーマンススポーツのコンディショニングの知見はライフパフォーマンスの向上に貢献できる可能性があり、その検討や取組みが始まっている。コンディショニングの知識や技能の習得、習慣化は早期になされることが望ましく、学校教育は最適な場であると考える。しかし導入には、学習指導要領や教員の負担、コスト、学習者の運動・スポーツへの興味・関心等、様々な観点の検討が必要である。本発表は、その課題解決の糸口を見出す場にできればと考える。

  • 高橋 浩二
    p. 18-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、大学を含む学校保健体育における「身体」の教育を概観し、その教育と近年注目されているフィジカルリテラシーやライフパフォーマンスの向上との関係について検討する。例えば、フィジカルリテラシーは身体活動に取り組む全ての者にとって育成可能であり、学校保健体育における真正の学びや本質的な問いの設定に繋がる。また、ライフパフォーマンスの考え方は学校教育における「生きる力(未来を生き抜く力)」と類似する点が多く、この能力の向上は学校保健体育の目的の一つとなり得る。特に、学校保健体育では、主体的・対話的に学習(修)を進める過程で自己の心身の変化を自覚しながら調整して対応したり、先を見通す力が養われる。そこには他者への気付きも含まれ、生涯にわたる身体活動への動機、自信にも繋がるだろう。しかし、それらの適用には競技力の向上といった先鋭化の問題や数値による評価といったメリトクラシーの問題が生じる可能性があり、スポーツ科学や健康科学の知見を学校保健体育と連携させる際には注意する必要がある。学校保健体育で育成される能力は時代の要請によって変化するが、その基盤は「人間の身体」であり続けることになる。

競技スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 筒井 香
    p. 19-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    指導者、特に監督やヘッドコーチになれば意思決定をする場面も多く、勝敗の責任を背負っている立場として非常にプレッシャーのかかるポジションである。そのため練習や試合、遠征、合宿と休日返上で現場に出て身体的に疲労するだけではなく、見えない心理的疲労も多くあると考えられる。日頃スポーツ心理学に基づくメンタルトレーニングの専門家として、指導者の方に携わる機会が多いが、「選手に成長してほしい」「選手には心身のコンディショニングをしっかりしてほしい」などといったように選手に対するコメントが多い傾向にあり、自分自身のことは後回しになっている印象を持つことも少なくない。

     実際、アスリートを支える人々であるアントラージュの重要性が謳われているが、指導者のアントラージュに関してはまだ議論が進んでいないと思われる。また、アスリートのキャリア支援の重要性はスポーツ庁もその必要性を発信しているが、指導者のキャリア形成も課題が多いと考えられる。

     そこで本シンポジウムでは、指導者の抱えるストレスとの付き合い方について、自分自身によるセルフマネジメントと他者の存在によるソーシャルサポートの両側面からのアプローチを示し、皆様と議論を深めたい。

  • 伊藤 雅充
    p. 20-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    アスリートセンタード・コーチング――それは何を意味するのか。アスリートファーストとは何が違うのか。なぜ、今この概念が改めて問われているのか。そして、それはスポーツ指導者に何をもたらすのか。これらの問いを起点に、シンポジウムでは皆さんと共に考えていきたい。

     セリグマンは、持続的幸福の構成要素として、肯定的感情、深い関与、意味や意義、達成、関係性を挙げている。スポーツ指導者が「有能感への欲求」を抱いているのは自然なことであり、「自分が勝ちたい」と思うこともまた、人として当然の感情だ。采配や指揮が求められる競技では、指導者同士が明確に勝負の一部を担っており、そこでの判断や戦略が競技結果を左右する。

     加えて、指導者にとって「自律感の欲求がどのように充足されているか」も重要な視点である。アスリートのニーズに応えることが、指導者自身の意思による選択であれば、自らの価値を実感しうるだろう。しかし、義務感や周囲の期待に応じるだけの行為であれば、自律性はむしろ脅かされる可能性がある。

     アスリートを“ファースト”にすることで本当によいのか。アスリートセンタード・コーチングをより豊かに発展させていくために、本シンポジウムでは、あえて挑戦的な問いを投げかけてみたい。

  • 及川 晋平
    p. 21-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    車いすバスケットボールという競技において、アスリートを指導すること、チームを強化していくとはどういうことか?という大きな問いがある。選手の身体の状態は、下肢、上肢など、障害は多様であり、そのレベル(重度・軽度)も様々だ。そもそもインターネットや書籍などで得られるスポーツに関する情報は健常者と言われる選手たちのものであることが多い。常識的なことでも多くの情報は全く通用せず、しかしあるものは大変なヒントや答えになる。指導者として、選手たちと一緒にどうしたら強くなるのか、うまくなるのか、勝てるチームを作れるのかは、手探りであり、自分たちでその答えを導き出していくプロセスが重要になる。そして、答えを明確に探し出すことが難しいこのパラスポーツの世界で選手と一緒に強化、成長に注ぐ時間や機会は指導者にとっての醍醐味だと感じている。

     指導においては、健常者のスポーツと目指すゴールは一緒であり、原則的なところでは同じであるものの、様々な観点での大きな違いがあることも事実だと思われる。本シンポジウムでは、パラリンピックの日本代表強化をはじめ、様々な観点でその経験を振り返り、その違いとは何か?を共に考える場としたい。

競技スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ
    久木留 毅
    p. 22-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)は、国立スポーツ科学センター(JISS)、HP戦略部、連携・協働推進部、国際情報戦略部、運営部等で構成されている。これらの部門は、日本オリンピック委員会、日本パラリンピック委員会などと連携・協力し国際競技力向上のための事業を展開している。HPSCの事業目的は、国際競技力向上である。スポーツ医・科学、情報面からの支援、アスリートの発掘・育成への関与、地域や大学との連携・協力、国際的なネットワークの構築と人的交流など様々な事業展開を行っている。また、JISSにおいては「JISSプラン2034」を作成し、知見の共有や人材育成なども視野に入れ外部への情報共有を図っている。さらに、HPSCは組織内外の情報についても広く展開する試みを実施している。具体的には、パッケージの地域への展開やフォーラム、カンファレンス、大学との連携講義の設定など、ハイパフォーマンス領域で得た知見を加工してライフパフォーマンスの向上を考慮した取り組みを始めている。さらに、2025年大阪・関西万博では、国連と連携しスポーツを通した開発と平和へのフォーラムやオーストラリアパビリオンでの東京2020大会のレガシーでの発信も行なっている。

  • 「活用」の観点から
    菊 幸一
    p. 23-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    国際競技力向上をめざすトップアスリート養成は、これまで<発掘→育成→強化>という時間軸でそのパスウエイが想定され、ひたすらメダル獲得に向けた施策や事業が展開されてきた。しかし、今日の国際的なスポーツビッグイベントにおけるゲームは、スポーツそれ自体のゲームと並行して、あるいはそれ以上に国際政治における政治的ゲームやグローバル経済における経済的ゲームのアリーナ(場)と化している。トップアスリートのパフォーマンスは否応なくこの2つのゲームに巻き込まれる身体性を有しているのだ。多額の税金や経済資本を投入して養成されたトップアスリートは、これら2つのゲームの手段や消費・消耗的な存在であってはならないだろう。これから求められる豊かな社会が、これまでの消耗・消費を最善とする産業型社会とは異なり、成熟型社会の循環・共生的ライフスタイルによって実現されるとすれば、トップアスリート養成の社会的意義はどのように変化せざるを得ないのであろうか。本報告では、文明(テクノロジー)と自然(エコロジー)の最前線(フロンティア)に身を置くトップアスリートだからこそ実現可能な両者の融和への示唆やその危機に対する予知的可能性といった、ポスト「強化」における「活用」の観点から新たな社会的意義について論じる。

  • 室伏 由佳
    p. 24-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本陸上競技連盟は2014年より、競技者育成指針と連動した強化育成パスウェイの一環として、競技力と共に人間性・国際性を備えた人材を育成する「ダイヤモンドアスリート(DA)制度」を展開し、修了生の約3割が国際大会に出場、金メダル獲得者も輩出している。本制度では、専門家を招聘して行う語学(英語)・栄養・心理・リーガル・メディア対応・金融リテラシー等の研修や、海外での競技活動を通じて、国際的な舞台で活躍する際に求められる素養を備えると共に、競技引退後にもスポーツ界や国内外の社会で活躍できる次世代人材の育成も目指している。第8期には、他競技団体へのヒアリングを通じて得た多面的育成の成功例を分析した。一方、陸上競技は専門化の遅さや進学時の環境変化の特性を踏まえ、高校生から大学2年生までを対象とする従来の選考方針を維持しつつ、他競技の知見を制度の強化に活かした。第11期生では、プレッシャーへの配慮としてDAの前段階に「Nextage」を設け、また主体性を重視した自薦制の導入等、選考・支援体制の改革を進めている。本発表では統括団体の立場から、「豊かな社会の実現」に貢献するアスリート像の構築に向けた育成の在り方を共有する。

生涯スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 家庭と地域の実態とその展望
    香村 恵介
    p. 25-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    子どもの身体活動をめぐる環境は、この20年で大きく変化している。かつては放課後や休日に友達と自由に遊ぶ姿が一般的だったが、現在は幼児の約半数が平日に園外で外遊びをまったく行っておらず、小学生でも高学年女子を中心に外遊びをしない子どもが3〜4割を占めている。一方で、習い事の参加率は上昇しており、2019年時点で小学生の約8割が何らかの習い事を行っている。自由に遊ぶ時間は減り、費用をかけて運動機会を得る構造が広がっている。筆者が関わった笹川スポーツ財団の調査では、世帯年収が低いほど運動系の習い事をしていない幼児の割合が高く、年長児では高所得層と低所得層の間に40ポイントを超える差が確認された。運動習慣の獲得が家庭の経済状況に左右される実態が明らかになっている。

     このような子どもの現状の背景には、「親子の三間」(時間・空間・仲間)のあり方が関係している。同調査では、親子で体を動かす頻度が高い家庭ほど幼児の運動時間が長く、「親子でまったく体を動かさない」家庭に比べ、「ほとんど毎日」遊ぶ家庭では週あたり7.5時間の差があった。また、両親とも週1回以上運動している家庭では、そうでない家庭よりも運動時間が約1.2時間長い。さらに、保護者同士のつながりがある家庭の子どもほど、運動時間が長い傾向も示されている。

     本発表では、こうした調査結果をもとに、子どもの運動習慣を支えるために必要な視点として、①保護者の時間確保と意識啓発、②家族で一緒に、または自宅でも体を動かせる環境の整備、③地域コミュニティや仲間づくりの支援、という三つの柱を提案する。それぞれの柱に対応する実践として、大学での学生向け授業プログラム、親子で参加できるスポーツ環境や動画を活用したアクティブなスクリーンタイム、公民館を活用した親子や異年齢の運動遊びによる交流機会などを紹介し、「親子の三間」を支える取り組みの方向性を考察する。

  • 佐藤 善人
    p. 26-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    体育授業は、子どもの豊かなスポーツライフの実現に寄与することが目指されている。小学校から高等学校まで必修であり、実に多くの時間をかけて運動・スポーツの学習を実施している。しかしながら、少なくない数の体育嫌い・運動嫌いを生んでいることは現実であるし、その代表格は持久走・長距離走(以下、ランニング)の授業である。この状況は改善されるべきであるが、一向にその兆しは見えず、ランニングの授業自体が豊かなスポーツライフの一場面とはなっていないと思われる。この状況を生み出している責任を教師や子どもといった個人に見出そうとするならば、問題を改善することは難しいであろう。

     アイリス・マリオン・ヤング(2022)は、社会における不正義を改革するには、自己責任から政治責任へ目を向ける必要性があると訴えている。また、2025年はじめに放送されたTBS系ドラマ「御上先生」において、主人公の教師が「The personal is political」(個人的なことは政治的なこと)を用いて話題となった。ランニング嫌いを生んでいる体育授業の責任は、教師や子ども個人にあるのではなく、ランニングを取り巻く政治や社会の構造にあるとは言えないだろうか。

     例えば、小学校学習指導要領解説体育編(2018)には、体つくり運動に「かけ足」あるいは「持久走」としてランニングは位置づいている。すなわち、「ランニング=体力向上の手段」であり、その魅力を味わわせにくい状況をつくり出している。あるいはメディアはトップアスリートスポーツとしてのランニングを報道する。これらは「ランニング=速さ(苦しさ)」といったステレオタイプを社会全体に浸透させており、その状況が、速く走らせること/走ることを、教師/子どもに強要しているとは考えられないだろうか。

     一人でも多くの子どもが運動・スポーツを楽しみ、豊かなスポーツライフを実現することを目指して、体育授業におけるランニングの現状を契機として考えてみたい。

  • 遊びを通じた地域クラブの取り組み
    永田 厚
    p. 27-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、スポーツクラブへの加入率が減少傾向にある。私たちのクラブでも、この5年間で約30%の減少が見られた。全国的にも、小学校5・6年生の加入率が大きく減少しているというデータ(2022年 笹川スポーツ財団)がある。背景には、学校部活動の地域移行により学校での活動機会が減ったことがあるが、民間や地域クラブへの流入も想定ほど伸びておらず、全体として競技人口が減少している。

    もう一つの要因として、子どもや保護者のスポーツに対する価値観の変化が挙げられる。従来の「勝ちたい」「上手くなりたい」といった競技志向から、「楽しい」「仲間と関わりたい」といった楽しさやつながりを重視する傾向に移行していると感じている。

     そこで私たちは、スポーツをもっと気軽に、誰でも楽しめる「遊び」のようなものにしたいと考え、遊びの要素を取り入れた「サッカーあそびスクール」や「親子deボルビ」といったプログラムを実施している。また、幼稚園や保育園を訪問し、保育時間内に「リーベ式運動あそび」や「出前サッカーあそび」も展開している。

     これらの活動により、運動が苦手だったり内向的だったりする子どもがクラブに参加し、ボール遊びやスポーツの楽しさを体感している。一方で、運動が得意になった子どもが、より競技性の高い環境を求めてクラブを移るという傾向も見られる。

    こうした状況から、「競技を本格的にやりたい層」と「楽しむことを重視する層」との二極化が進んでいるのではないかと感じている。そしてその背景には、「苦しいことを乗り越えることが競技力向上につながる」とする社会的な価値観も影響していると考えられる。

     私たちは、幼少期には親子や仲間と気軽にスポーツを楽しみ、その過程で「もっと上手くなりたい」「競技に挑戦したい」という自然な欲求が育まれることが、結果として持続的な競技力向上につながるということを示していきたい。

生涯スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 松井 陽子
    p. 28-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「パスウェイ」という言葉が我が国のスポーツ政策の文脈で初めて登場したのは2016年にスポーツ庁から発表された「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」である。同年には日本スポーツ振興センター(JSC)が「アスリートパスウェイの戦略的支援事業」を開始し、2019年衣笠らが「日本版FTEM」を開発、発表した。FTEMはFoundation、 Talent、 Elite、 Masteryの頭文字をとったもので、オーストラリア国立スポーツ研究所で開発されたアスリート育成パスウェイの枠組みであり、2013年に発表された。このFTEMフレームワークでは人がスポーツの土台となる遊び・動作に触れるところからトップアスリートに至る過程を10段階に分けているが、日本版FTEMでは日本の文化的・社会的背景を考慮し、11段階に分けられた。現在この日本版FTEMを活用し、アスリートがスポ―ツをしていく中で経験するであろう事柄を競技レベル(段階)によって整理しつつ、各段階において必要な育成環境やプログラム、次の段階に進むためのシステム、コーチや関係者の役割などを明確化し、それぞれのスポーツにおけるアスリート育成パスウェイ(競技別パスウェイモデル)を関係者の共通認識として共有する活動が行われている。この競技別パスウェイモデルの作成にあたっては、トップコーチだけでなく、例えば地域のジュニアコーチや医科学スタッフ、競技団体の事務局など様々な関係者の意見を統合する。競技別パスウェイモデルは、そのスポーツを「する人」の指標となるだけでなく、「ささえる人」の共通言語を構築し、連携・協働を促すことで、「する人」が歩むアスリート育成パスウェイをよりスムーズに、歩きやすくする。JSCでは、スポーツを実施するねらいには大きく分けて「身体活動/活動的な生活習慣」、「スポーツへの参加」、「国際競技力の強化」の3つがあると考えられるが、それぞれのねらいに違いはあっても、一つのアスリート育成パスウェイによってつながっている、としている。

  • 兒玉 友
    p. 29-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    東京2020パラリンピック競技大会は、障害者スポーツへの社会的関心を高め、「誰もが個々の力を発揮できる社会」の実現という理念を可視化する契機となった。しかし、障害のある人にとって、こうしたレガシーを活かした持続可能な「生涯スポーツ」環境は、いまだ十分に整っているとは言い難い。本発表では、パラアスリートのパスウェイを軸に、障害のある人が生涯にわたりスポーツに関わり続けるための条件や環境整備について、スポーツ実施における促進要因・阻害要因を含む具体的事例を交えながら検討する。特に、学校、スポーツセンター、自治体、民間団体など、既存の地域リソースを活用した団体間の連携により、選手の発掘・育成から競技力向上までを支える仕組みが構築されつつある現状を紹介する。新たな制度や施設を設けるのではなく、既存資源をつなぎ直すことこそが、持続可能な推進体制の鍵となる。こうした地域連携は、競技の普及と強化、さらには誰もがスポーツにアクセスできる社会基盤の整備に寄与すると同時に、トップアスリートの育成にも資するものといえる。地域で育った選手が全国や国際大会で活躍することは、障害のある人のスポーツ参加においてロールモデルとなり、当事者や周囲の意識を変える契機となる。また、競技を継続する上で鍵を握るのが、アスリートを取り巻く関係者である「アントラージュ」の存在である。本人の意欲や能力だけでなく、家族や指導者、医療・福祉・教育機関との連携を含む支援体制が、競技継続やキャリア形成に深く関わる。さらに、セカンドキャリアまでを見据えた中長期的な支援のロードマップを描くことが、スポーツ参加の質を高める上で不可欠である。本発表では、既存資源を活かした連携体制の構築、支援環境の整備、促進・阻害要因への対応といった観点から、障害者スポーツを軸とした持続可能なスポーツ社会のあり方について議論を深める機会としたい。

  • 彦次 佳
    p. 30-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、世界的に広がりを見せているマスターズスポーツ(ムーブメント)は、「技を磨き競う」というスポーツが本来持っている楽しさに挑戦することを目的とするスポーツ実施のことを言い、世界各地でマスターズスポーツイベントが増加している。我が国でも国内のマスターズスポーツイベントや国際的なマスターズスポーツイベントが起ちあがってきており、2027年にはWorld Masters Games 2027 Kansaiが、コロナ禍の2度の延期を乗り越えいよいよ開催されることになっている。このことは、長く根付いていた「競技スポーツ」(トップスポーツ)と「生涯スポーツ」(グラスルーツスポーツ)の2項対立的な感覚・間隔に、徐々に変化をもたらしてきている。例えば、国内レベルの野球のマスターズスポーツイベントである「マスターズ甲子園」では、高校硬式野球を引退した後も硬式野球というスポーツにこだわり、同窓会チームを作って高校時代と同じように甲子園を目指す場を提供している。また一方で、世界最大の国際マスターズスポーツイベントと言われる「World Masters Games」では、参加資格は年齢のみと定められていることから、競技レベルに関わらずに世界一を目指す場を提供している。前者はスポーツ種目はそのままに、高校3年間という限られた期間と世代の枠を超えた競技の楽しさを拡げ、愛着のあるスポーツを一生涯続けていくことの意味や価値を深めることに貢献しており、後者は、競技経験が浅くてもかつてのオリンピック選手やプロ選手にチャレンジできるなど、楽しみ方のバリエーションを拡げる潜在力を大いに持っている。本シンポジウムでの役割として、これらの事例を紹介し、歳を重ねていく中でよりスポーツライフが多様に、豊かになっていく可能性と期待について共有しながら、トップスポーツやグラスルーツスポーツの垣根を超えた生涯スポーツ社会(の実現)について、議論する契機となれば光栄である。

健康福祉研究部会【課題A】シンポジウム
  • 桜井 良太
    p. 31-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    加齢に伴うフレイルとは、生理的な予備能力が低下し、心身に問題が起きた際の抵抗力が低くなる状態を示している。従来、フレイルは主に身体的脆弱性の特徴(Frailty phenotype)や、広範な健康障害の蓄積(Deficit accumulation frailty)に基づき評価されてきた。その後の研究や世界保健機関(WHO)の提言により、個々の機能低下に着目するのではなく、包括的な視点でフレイルを捉えることの重要性が認識されるようになってきている。このような背景から、社会的な健康リスク要因とフレイルの関連についても着目されてきているが、そこには問題も含んでいる。本シンポジウムでは関連する知見の紹介から、体育分野でのフレイル対策を社会的側面から考えていく。

  • 岸本 裕歩
    p. 32-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    フレイル予防をめぐる体育・スポーツの多面的な役割を議論する中で、演者は地域に根ざした研究の一例として「糸島幸福長寿研究」の取り組みを紹介する。高齢者が継続的に関わる運動支援をどのように設計し、社会的・心理的・身体的側面をどう捉えるべきか。本シンポジウムでは2つの研究成果を中心に考えたい。

     1つ目は、遠隔通信を活用した運動教室の試みである。週1回60分、筋力トレーニングが主体のプログラムを、対面指導群と遠隔指導群に分けて3ヶ月間実施し、身体的フレイルの割合の変化を比較した。その結果、両群に違いはなかったが、終了後に遠隔指導の継続を希望した参加者はいなかった。音声や映像の不具合、視聴覚的負担の理由は想定していたが、「寂しかった」といった交流欠如も主な理由に挙がった。運動の場が身体のためだけでなく、他者と共に過ごす社会的・心理的空間であることを参加者の声から再認識した。

     2つ目は、ウォーキングと身体的フレイルとの関連をみた横断研究である。地域在住高齢者846名を対象に、ウォーキング習慣の有無と他の運動の実施状況から4群に分類し比較した結果、ウォーキング習慣のみある群の身体的フレイルの割合は、運動習慣がない群と変わらなかった。一方、ウォーキングに加え他に運動している群や、他の運動を継続している群では身体的フレイルの割合が有意に低く、多様な運動の組み合わせがフレイル予防に有効であることが示された。また、「運動習慣」「社会参加」「活動量基準」を軸に8群で検証したところ、2項目以上に該当する人々で身体的フレイルの割合が低かった。

     これらの知見は、単一の運動介入や手法では不十分であり、量・質・つながりからなる“身体活動のデザイン”が求められることを示唆している。今回は、データのみならず、参加者の意見も交えながら、身体的・心理的・社会的な視点で高齢期の「運動・スポーツのある暮らし」を考えるきっかけとしたい。

  • 小澤 多賀子
    p. 33-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    茨城県では、少子高齢・人口減少社会を見据え、平成17年から住民主体の介護予防事業として「シルバーリハビリ体操指導士養成事業」を展開している。本事業では、大田仁史氏が考案した介護予防体操「シルバーリハビリ体操」を普及する高齢のボランティア「シルバーリハビリ体操指導士」(以下、指導士)を養成し、住民自らが資源となり、住民が住民を育てる介護予防システムを構築してきた。

     本事業では指導士の活動促進による介護予防や重度化防止を掲げ、体操普及活動による家族や高齢者自身の「自助」、地域社会で支え合う「共助」、公的制度の「公助」を組み合わせて継続・機能していく体制づくりをしてきた。指導士は、概ね60歳以上(令和2年度より概ね50歳以上)の県民で、令和6年3月の指導士養成数は10,369人である。指導士は茨城県全44市町村に指導士会を設立し、行政と連携して活発な体操普及活動を展開してきた。体操普及活動は新型コロナウイルス感染症の影響で抑えられたが、令和5年度に開催された体操教室は延べ約3.5万回、参加高齢者は延べ約37万人、教室に携わった指導士は約12万人であった。

     演者らは、シルバーリハビリ体操は、①指導士や地域で暮らす高齢者が取り組みやすく、両者の生活の質や生活機能の保持に有効で、長期にわたり安全に継続できる、②指導士の活力年齢は若く、地域社会での活躍が期待できる、③長期間かつ高頻度の体操普及活動に取り組む指導士はフレイル該当率が低く、精神的健康度が良好に保たれる可能性を報告した(2014,2015,2023)。さらに、指導士による体操普及活動は、地域における介護保険料、軽度の要介護認定率や介護保険給付費の抑制、健康余命の延伸に寄与する可能性も報告している(2014, 2015, 2017, 2023,2024)。本事業は全国に広がっており(16道県97市町村、令和6年10月)、本シンポジウムでは地域における介護予防の推進に向けた住民主体の運動支援策の事例として紹介する。

  • 佐藤 敬広
    p. 34-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    様々な身体運動を実施対象者の特性(障害、体力など)に応じてアダプテッド(adapted)することは、スポーツを含む身体運動の楽しさを享受することは基より、多くの対象者におけるフレイル予防の観点からも重要である。またスポーツは、動きのダイナミックさや速さ、滑らかさ等を競うものに限らず、障害等による動作の制限下においても主体的・能動的に身体を動かそうとする行動も含めた広義な健康増進活動として捉える必要がある。演者はこれまで、脳血管障害者を含む多様な疾患・障害を有する集団におけるスポーツ・フィットネス等の運動支援を中心としながら、約500名の障害者の体力評価、介護予防事業における一次・二次予防対象者と脳血管障害者における体力評価の分析、アダプテッド・スポーツの要素を用いたフィットネスによる身体的・心理的・社会的効果を介入研究によって示唆している。一方でスポーツ的要素は、対象者が主体的に活動できるツールとして有用であるが、過負荷や転倒などのリスクが存在し、それらが起こり得る背景には障害や体力、技術、コンディションなど様々な要因が考えられる。地域の指導・支援者が対象者による主体的な行動・活動を支援する上では、対象者の挑戦する意思や意欲を尊重しながらも、安全で効果的な環境と支援体制を作ることが重要である。本シンポジウムでは、アダプテッド・スポーツの要素を用いたフィットネスによる身体的・心理的・社会的効果を示しながら、スポーツの要素を用いたフレイル予防について、トレーナビリティとリスクマネージメントの両面から考える機会にしたい。

健康福祉研究部会【課題B】シンポジウム
  • 田中 千晶
    p. 35-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の目的は、障害のある者とない者をともに含むすべての子ども・青少年の身体活動促進に関する国際的な動向、および日本の現状を概観することである。2020 年に発表されたWHO(世界保健機関) Guidelines on physical activity and sedentary behavior(身体活動・座位行動ガイドライン)では、WHO のガイドラインとしては初めて、障害を有する人々などを対象とした推奨が含まれた。5~17 歳の子ども・青少年と、同年齢の障害を有する子ども・青少年の推奨を見ると、身体活動・座位行動のいずれについても、推奨の数値的な部分は、障害の有無に関わらず同じである。

     Guthold et al.(2020)によると、世界146 か国における青少年の81% が身体不活動であることが報告されている。一方、障害のある者については、「Active Healthy Kids Global Alliance」に参画する57の国・地域のうち、身体活動量のデータを報告できたのは11の国・地域のみ(20%)であった(Ng et al. 2022)。このように、世界の多くの国が、障害のない青少年の身体不活動の状況を調査・報告しているのに対し、障害のある青少年を対象に調査する国は少ない。日本における既存の調査の主眼はスポーツ参加状況に置かれており、子ども・青少年の日常生活全般の身体活動量がわかるデータはほとんどない。障害を有する日本の子ども・青少年のスポーツ参加については、ソフト・ハードの両面において課題が多く、同年齢の障害のない人たちに比べ、総じてスポーツを行うことが少なく、行うスポーツのバリエーションも乏しい。本報告ではこれらの調査結果を紹介するとともに、障害のある者とない者をともに含むすべての子ども・青少年の身体活動・運動・スポーツを考える上での論点を提示して議論につなげたいと考えている。

  • 内田 匡輔
    p. 36-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2024年4月から我が国では、改正障害者差別解消法は施行され、法律に基づき合理的配慮の提供が、努力義務から法的義務に変更となった。この法的義務の対象となる事業者は、これまで努力義務であった民間企業や私立学校も対象として含まれている。この変更は事業者によって受け止め方や進め方はそれぞれであるが、合理的配慮提供の取り組みは、進みつつある。一方、公的機関である、役所や病院、学校では、法的義務として合理的配慮の提供が進められ、それぞれの現場で実践は進みつつある。

     今回、報告するのは「共に学び共に育つ授業」を目指し取り組まれた、授業研究についてである。この授業研究は、「令和の日本型学校体育構築」を目指し、各教科にて取り組まれている中の、体育、保健体育の授業研究である。この授業研究を通じ、次期学習指導要領を見据え、学校における教科教育、すなわち「授業のあり方」が問われている。

     障害のある子どもたちの増加や児童・生徒の多様化への対応も含め、令和の学校は、これまで以上に福祉的な役割や子ども達の居場所としての機能を担うことが求められている。この学校の中核を構成するのは、授業である。その授業は、教科と教科外で構成されている。この授業の内容は、法的拘束力のある学習指導要領(本体)として告示されている。現行の学習指導要領には、「共生の視点」が示され、すべての教科においてインクルーシブな視点での授業実践が進んでいる。この共生の視点に基づき実践される通常学級の体育・保健体育の授業は、障害のある児童生徒が共に学び、共に育つ学習がプログラムとして組み込まれていなければならない。

     すべての子どもたちにとって、個別最適な学びと協働的な学びの一つとしての体育授業は、具体的には、技能の習得に偏らず、思考力判断力表現力等に視点があるという様子がある。合理的配慮として提供され変更や調整があるインクルーシブを目指す、学校体育の取り組みについて、報告する。

  • 宮嶋 泰子
    p. 37-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2028年のロサンゼルスオリンピックでも男女混合の競技種目が増えてきた。男性も女性も平等にスポーツをする機会を持てるようにという理念はオリンピックによって牽引されてきたと言ってもいいだろう。長い間日本の学校体育の現場では世界の潮流とは異なり男女別習が行われてきたが、ダンスと武道が必須となり、男女共修の目的や理念も理解されるようになり、子ども自身や親の考えにも変化が表れてきた。しかし、中学女子の三分の一は身体活動が週に60分未満という調査結果もあり、運動嫌いの女子が存在することは否めない。部活動の地域展開が行われる中、特別な用具がなくてもできる体操やダンスは民間クラブなどでも人気だ。世界でも類を見ない見事な動きのハーモニーを見せる日本の男子新体操を行う子ども達の中に最近では女子の姿が見られるようになってきた。女子の新体操といえばレオタードに種具をもって華麗に演じるものであったが、男子新体操を行う女子たちは黒いスパッツの地味な衣装を着てバク転や静止技を繰り出していく。ここで大切なのは指導者の考え方だ。子ども達がやりたいと言ったときに指導者はどのような声掛けをしているのか。2024の大会で女子だけのチームが優勝して周囲を驚かせた。

     長きにわたり女子種目であったアーティスティックスイミングにも今では男子加入が認められているが、1990年代に米国で一人の男子選手が女子だけに許されていた重い扉をこじ開けた。その指導者はどのように彼をサポートしたのか。選手への言葉がけは常にやりたいという意思を尊重するものだった。さらには指導者だけではなく、選手達が大会に出場できるように国内ルールを作って尽力してきた役員たちの存在も忘れることはできない。

     またダウン症の障害を持った子ども達に運動の機会を積極的に与えている親の考え方など、本来誰もが持っている「スポーツをする権利」について改めて考える。

  • 佐藤 弘道
    p. 38-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    12年にわたるNHK「おかあさんといっしょ」での体操のお兄さんとしての経験や全国での親子体操教室、幼児・小学生の運動あそび指導や幼稚園・保育園・こども園の先生方への実技研修会に関わった経験から、子どもたちの体を通した運動やあそびの世界について紹介する。具体的には、2015年に弘前大学大学院で親子体操をテーマに博士号を取得した学位論文の知見や体操教室での夏・冬のキャンプでの経験も踏まえて、今まさに現場で起こっている課題や指導的配慮についても述べていく。子ども(幼児)の身体活動は「スポーツ」ではなく「あそび」が中心である。その「あそび」の何が大切で、指導者として何に配慮をしながら指導実践を積み重ねてきたのかを実践内容を交えながら述べていく。

     また、自身においては2024年6月に脊椎梗塞を患い、現在もなおリハビリを継続している。病と向き合い、日々続くリハビリに取り組む中で実践してきたこと、運動が持つ可能性について、子どもたちの「あそび」との共通項を探しながら、私の経験を語りたい。 そして、生涯を通した豊かなスポーツ(運動・あそび)ライフの重要性について参会者の皆様と共に確認できたらと考えている。

専門領域別企画
体育哲学 浅田学術奨励賞受賞記念講演
  • スポーツにおける人間理解の1つの方法
    坂本 拓弥
    p. 39-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本講演の目的は、スポーツという現象を人間の欲望という視点から捉え、そこに浮かび上がるいくつかの論点を提示することである。具体的には、以下の3点について論じたい。

     まず、受賞論文において参照した欲望論の特徴を改めて検討する。それは、フロイトによる無意識の心理学との対比を通して、ジラールの「三角形的欲望」論の位置づけを示すことであり、同時に、現代社会における人間の欲望を再考する手がかりを示すことでもある。次に、その欲望論の視点から、スポーツにおいて暴力的行為が生じる背景を探る。これは受賞論文の主題であり、なおかつ、今日もスポーツの場に現出している様々な倫理的問題にかかわる論点でもある。最後に、スポーツにおける欲望論の可能性を示したい。例えばそれは、オリンピックをはじめとした大規模スポーツイベントを巡る欲望であり、子どものスポーツを巡る大人の欲望であり、さらには、スポーツにおけるテクノロジーの導入や応用に関する我々の欲望を描き出すことである。

     スポーツを巡る欲望を捉えようとする以上の試みは、人間の文化としてのスポーツが一体何であったのかを考えるための不可欠の視点を示すとともに、そこに生きる我々自身を理解するための1つの方法ともなるであろう。

体育史 キーノートレクチャー
  • 『健康朝鮮』から見えるもの
    林 采成
    p. 40-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の課題は「健児」・「健民」・「健兵」といった複眼的視点から植民地朝鮮における健康な身体作りを検討し、そこで見られる植民地性と近代性を論じることである。平時より植民地政府は健康な身体作りに関心を寄せ、急性感染症の発生を契機として衛生警察・衛生組合などを通じて個々人に対する身体的管理を追求した。学校では学生を対象として「保健及体位向上」を図ろうとする学校衛生が実行されるとともに、学校体育は身体活動の運動化を超えて、身体活動のスポーツ化が重視されることとなった。その一方で、工場・事業場では労働者を対象とする労働衛生はもとより、各種スポーツ活動を通じて働く身体の健康状態が重視されており、社会的にも生活環境改善だけでなく、ラヂオ体操などによる社会一般の健康増進も政策当局の主導下で進められた。とりわけ、人的不足が著しくなる戦時期になると兵隊としての動員を含めてこの目標は切実なものになっていた。そこで、健康な身体作りが全面的課題として浮上し、「健児」・「健民」・「健兵」が目指されたが、それには民族別格差を伴いながら、植民地住民に対する帝国側からの同化・統合が強調されたのである。

体育社会学・体育経営管理 合同シンポジウム
  • 本田 由紀
    p. 41-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本の教育は垂直的序列化と水平的画一化が浸透している現状にある。前者は「学力」や「主体性」等による優劣の軸で児童生徒を評価する視線の充満を意味し、後者は特定の「態度」や人間像を望ましいものとして要請する圧力の充満を意味する。これらは児童生徒の出身家庭の諸資源による格差や排除を生み出すという点でも問題であり、また急増する不登校やいじめ、自殺などの要因ともなっている。これらの陰で、過少になっているのが水平的多様化、すなわち個々の児童生徒の特性や意思、感情などを尊重した自由度が高くきめ細かい学習のあり方である。水平的多様化は、単元別自由進度学習や探究学習において部分的に導入されつつある。

     こうした現状理解を体育に当てはめるならば、体育もまた身体能力に基づく序列化・競争や、一斉行動および積極性の要請など教育全般の問題性を色濃く反映しており、ジェンダーとも絡み合いながら「体育嫌い」を生み出していることが指摘されている。個々の児童生徒の身体性の尊重、様々な形態で体を動かす楽しさなど、水平的多様性を取り入れたこれからの体育のあり方を実現してゆくためにはいかなる条件が必要かについて考察する。

  • 松田 恵示
    p. 42-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「体育」と「学校」いう教育的営みや制度の社会的評価は、常に、背景となる社会の状況との関係でなされてきた。第二次世界大戦後の日本、高度経済成長期の日本、成熟期から「失われた30年」を経た日本、そして高度情報化社会と少子高齢社会の日本など、概観すれば、そうした社会背景、ないしは広く社会構造の変化に応じて「体育」や「学校」という概念とその在り方が結局のところ結晶化している。他方で、民間の教育研究団体や学術研究が現場において切磋琢磨する実践開発から、行政主導のもとの実践開発へと、大きくその発展の仕方がトレンドとして変化しつつある。また、人工知能に代表される社会構造の抜本的な変化を予見させるテクノロジーの日常化や科学技術の現代的進歩は、「体育」や「授業」という営みをより脱神格化させ民主化する反面、経験として蓄積されてきた価値や制度が問い直されないままに過去のものへと思考停止の中でオミットされることも起こっている。社会/教育/学校というベクトルではなく、遊び/スポーツ/ウエルビーイングというベクトルの中で「体育」の価値と制度を問い直したとすれば、今、有用な視座は多彩な「壁」を超える思考とか、「循環」という観点からなされる複眼性や動的認識の中に見出すことができるのではないか。そしてそれは、新しい意味での身体、あるいは「現代的な身体」の問題をめぐることにならざるをえないのではないか。より具体のレベルで、当日考えてみたい。

  • 野崎 武司
    p. 43-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    筆者に課されている課題は、学校部活動の地域展開がもたらす保健体育教師へのインパクトである。そのイメージを捉えるには、まず地域移行・地域展開の実態に触れる必要がある。今回は、東京都品川区(部活動は学校教育の一環)、茨城県土浦市(学校教員主導の地域展開)、長野県長野市(部活動を学校教育から分離)の三つの事例の改革の経緯を調査した。様々に相違はありながら、「部活動という価値ある重たいものを存続・発展させるための地域移行・地域展開だ!」という、改革推進の中で培われたビジョンについては共通していると感じた。この7月で地域移行を整えるという長野市においても、「今後の状況を捉え、部活動の今後のあり方、学校・教員のあり方を見直す機会としての時間があると思う」という声があった。現時点で、地域移行・地域展開後の状況を明確に捉えることはできないと言っていい。

     筆者の理論的立場は、コミュニケーションが<自己>と<世界>を産出する、というものである。加えて、ある強固な世界の見え方がある場合、そこにはそれを生み出す「語り口・語られ方」の堆積ともいうべきディスコース(言説)が存在することとなる。今回は、学校部活動を支えてきたディスコース(例えば「部活がしっかりしていると、学校は落ち着く」、「学校教員は、部活だけでなく、教室での様子や行事などの様々な場面での子どもの様子をトータルに見て、教育に生かしている」、「競技成績ばかりでなく、子どもが中学生として成長することが第一だ、と考えるような、そんな外部指導者に、部活動の面倒を見てほしい」、「現在の部活改革は子どものことを後回しにしている」等)とその背景を捉え、その揺らぎの状況(=地域移行・地域展開が齎す保健体育教師へのインパクト)を、改革の関係者との対話の中で探っていきたい。

体育心理学 キーノートレクチャー1
  • 江田 香織
    p. 44-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    アスリートの心理的発達や自己形成については、古くから関心が持たれてきた。一方で、具体的にどのような体験によって彼らの心理的発達が促進されるのかという点については、十分議論されていない。競技力の向上を望めば、自ずと競技に専心する傾向が強くなり、必然的に体験内容も競技に限られていく。その中では、一般的な心理的発達過程で体験すべき体験ができないこともある。では、競技経験は心理的な発達を阻害するのであろうか。競技経験には、他では味わうことのできない特別な体験がある。特に身体を存分に扱うという点においては、他の芸術や勉強、仕事などと異なるのではないかと考えられ、そこに競技経験の独自性があり、心の成長に貢献する体験が潜んでいるのではないだろうか。本キーノートレクチャーでは、この点について、研究や事例を踏まえながら実践的な内容を提案したい。

体育心理学 キーノートレクチャー2
  • 心理社会的アプローチと実践の方向性
    渋倉 崇行
    p. 45-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    生徒は運動部活動への参加を通じて、身体的・精神的・社会的な成長を遂げることが期待されている。しかし、適応のあり方によっては、こうした効果が得られないばかりか、心身の健康が脅かされる危険性もある。一方、指導者の主要な役割は、生徒が運動部活動へ適応できるよう導くことであるが、近年、指導者による暴力やハラスメントの報告は増加傾向にあり、その実態は本来の役割とは大きく乖離していることが示唆される。筆者はこれまで、運動部活動におけるライフスキルの獲得や部員のストレスマネジメントを主なテーマとして研究を行ってきた。関心の中心は、生徒が運動部活動のもたらす肯定的な効果に触れうる活動条件を見出そうとすることにあった。近年は、研究の知と実践の知とを結びつける活動に軸足を置き、指導者育成に関わる研修会の企画や実施に携わっている。

     本レクチャーでは,運動部活動における適応を個人的な側面だけではなく,文化的・社会的な要因と結びついた心理社会的なプロセスと捉え、その上で、暴力がいかに存在し、正当化されてきたのかを検討したい。また、指導者育成や環境整備を通じた、暴力根絶に向けた実践の方向性についても考察を試みたい。

バイオメカニクス キーノートレクチャー
  • 福谷 充輝
    p. 46-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    我々が高くジャンプする時、だれもが一度しゃがみ込んでからジャンプする。これは、反動を使うとその後の運動パフォーマンスが増強することを誰もが経験的に知っているからといえる。しかし、なぜ反動によって運動パフォーマンスが増強するのかという疑問に対しては、未解明な点が残っている状態である。これまで、反動動作 (stretch-shortening cycle) による筋力増大に関しては非常に多くの研究が行われてきており、伸張反射と腱の弾性エネルギーが主要なメカニズムと考えられている。しかしながら、これらの解釈に再考を迫るようなデータも存在する。また、神経と腱を含まない単一の筋細胞においてもstretch-shortening cycleによる筋力増大が起こることは明白であるため、伸張反射と腱の弾性エネルギー以外の要因が存在する可能性は非常に高い。この要因としてはクロスブリッジ、およびタイチンが考えられている。本発表では、これらの要素を包括的に紹介し、現時点で言えること、言えないことを整理することで、今後のstretch-shortening cycleに関する研究の方向性を議論したい。

発育発達 キーノートレクチャー
  • 河村 剛光
    p. 47-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    わが国におけるマルチスポーツは、海外に比べて一般的ではない。子どもの頃に複数(マルチ)のスポーツ種目を経験して、その後に専門とする競技を選択していくマルチスポーツの考え方には利点も多い。マルチスポーツに関連した怪我・オーバーユース・燃え尽きについての報告例は一定数以上あるが、本キーノートレクチャーでは幅広く先行研究を概観し、わが国の子どものスポーツ経験に関わる我々の研究調査を含めて報告する。これまでも発育発達期には、多様な経験、多様な動きをすることが推奨されてきた。かつて我が国では、専門的に競技を行うのは中学生以降であることも多かったが、近年では子どものスポーツ環境が整ってきた影響もあり、早期に1つの競技に専門化するケースも増えた。我々の調査では、小さな頃から1つの競技種目だけに特化しなくとも、一定の競技レベルに到達することが可能であると考えられた。また、年代や競技種目による特徴の違い、競技を終えた後の(健康のための)運動習慣という観点からも検討を行ってきた。本キーノートレクチャーの最後では、これらの研究経験とレビューから、今後の研究課題として必要とされる切り口についても考えていく。

測定評価 統計相談
測定評価 キーノートレクチャー
  • 中山 正剛
    p. 49-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2007年の統計法全面改正によって、公的統計は「行政のための統計」から「社会の情報基盤としての統計」に転換し、そのことで統計データの研究への利活用が促進されることとなった。しかしながら、体育・スポーツの研究者らが公的統計を二次利用した事例は多くない(中潟ら、運動疫学研究 早期公開)。他方で、エピソードベースからエビデンスベースの政策立案の推進が強調されるようになって久しいが、行政担当者はどのように公的統計を政策立案や基本計画の策定に生かしているのかはあまり知られていない。

     例えば、スポーツ庁健康スポーツ課が担当する統計調査に「体力・運動能力調査」や「スポーツの実施状況等に関する世論調査」などがある。前者は利用申請を行うことで調査票情報(ローデータ)を利用することができるし、後者に至っては、申請無しにスポーツ庁のホームページからローデータをダウンロードして自由に利用することができる。演者はスポーツ庁健康スポーツ課専門職として、統計調査の実施・公表に従事している。そういった立場から、担当する統計調査の概要、政策立案への影響、データ利活用の実態などについて講演していただく。また、司会からも研究者として体力・運動能力調査データを研究利用した実例を紹介したい。

コーチング学 キーノートレクチャー
  • 青山 清英
    p. 50-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    現代においては、さまざまな種目が誕生し、多様化する中で種目間での「共通言語」で可能にするための「理論的枠組み」が求められるようになってきた。そのような状況下、日本コーチング学会は「トレーニング(練習)と指導に関する一般理論」として「一般コーチング学」を体系化し、その成果を2017年に叢書『コーチング学への招待』として上梓している。個別種目のコーチング学と一般理論としての一般コーチング学は、相補的な関係にありながら発展してきた。しかし、一方では個別種目の理論の「蛸壺化」が進み、一般コーチング学の広がりが見られないといった問題点がある。そこで両者を架橋する類型別コーチング学という考え方が生まれてきた。

     類型別コーチング学では、競技スポーツの勝敗を決定する方法の違いに基づいて、①測定スポーツ、②評定スポーツ、③判定スポーツの三領域に競技スポーツを分類している(金子、2005)。この三領域ごとに当該領域に位置づけられる種目間での「比較競技論」を発展させることができれば、個別理論と一般理論を架橋し、両理論の乖離を解消することが可能となる(金子、2015)。今回のキーノートレクチャーでは、コーチング学の学体系のなかで、このような位置づけにある「比較競技論」の意義と課題について概説する。

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