日本体育・スポーツ・健康学会予稿集
Online ISSN : 2436-7257
最新号
選択された号の論文の651件中1~50を表示しています
学会本部企画
基調講演
  • 八田 英二
    セッションID: 1a101-01-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    同志社大学の式典では古代紫地に白の同志社徽章をあしらった社旗が掲揚されます。3つの正三角形からなる徽章は国を意味するアッシリア文字を図案化したもので、同志社英学校卒業生で、神学校教員を務めた詩人湯浅半月による考案です。3つの正三角形は知育、徳育、体育の三位一体を目指す本学の教育理念を象徴しています。一般に、知育は生きるために必要な考察力や判断力、行動力、問題解決能力といった知能を養うことを目的とする教育です。徳育は人間としての意識や道徳的な心情を養うための教育であり、本学ではキリスト教主義による人格形成を目指しています。最後に、体育は身体運動や保健学習を通して心身の健全な発達を促す教育であり、古代ローマの詩人ユウェナリスによる詩、「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」に通ずるところがあります。このような三位一体の教育理念は新島襄がアーモスト大学で受けたリベラルアーツ教育により形成されました。J. D. デイヴィス宣教師は新島の教育観について「日本国の為に徳育、智育、体育の三者を兼備せる、有為の人物を薫陶養成し、健生なる品格と実力ある智識を供へたる是等有為の青年に依て日本の開明文化を確立」と記しています。新島襄が如何にして体育と出会い、如何に我が国の教育現場へ体育を普及させたのか、歴史を振り返りながらその理念を考察したいと思います。

本部企画シンポジウム1
  • JADAの取り組みを例に
    山本 真由美
    セッションID: 1a102-03-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、全世界・全スポーツの統一のルールである「世界アンチ・ドーピング規程(以下、Code)」及びCodeに付随し義務事項である8つの国際基準における「教育に関する国際基準 (International Standard for Education: ISE) 」の国際的なルールを基にする。本発表では、主として以下を紹介する。

    1)2021年版Code (以下、2021Code)及びISEの目的と概略

    2)2021Code/ISEに準拠した日本での体制づくり

    3)価値を基盤とした教育推進のねらい、今後の展望 

    2003年版Codeが2004年アテネ・オリンピック直前に施行されてから、Codeはグローバルなスポーツやアンチ・ドーピング規則違反の状況等を鑑み、3回の改訂がされている。2003Codeから教育に関しては世界規程内に提示され、その重要性はアンチ・ドーピング機構(Anti-Doping Organization: ADO)が認識し実施してきたが、国際基準は存在しなかったことで、共通見解を得ることができなかった。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が2007年2月1日に「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約 (International Convention against Doping in Sport)」を発効し、Codeにおける政府の位置づけ、教育や研修に関する締約国の役割等を明確にした。

    2021年1月に施行したISEでは、「教育 (Education)」を定義すると共に、ISEにおける固有の定義を明示、660以上のCodeの署名当事者(国際オリンピック委員会、国際競技連盟等含む)が共通の言語で教育を推進し、準拠すべき原則を提示した。教育とは、「スポーツの精神を育成し保護する価値観を浸透させ、かかる行為を発展させ、また、意図的及び意図的ではないドーピングを予防するための、学習の過程をいう」と定義し、価値を基盤とした教育、啓発、情報提供、アンチ・ドーピング教育といった教育の4要素を組み込んだ、教育プログラムを推進することを要請している。日本で2021Code/ISEの施行のため、「スポーツの精神を育成し保護する価値観を浸透させ」るための教育体制・プログラムづくりを紹介し、世界的にクリーンでフェアなスポーツ環境を守り創っていくための、価値を基盤とした教育の今後の方向性を紹介する。

  • 体育の価値付けと今後の方向性
    田熊 美保
    セッションID: 1a102-03-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、①OECD Future of Education and Skills 2030・未来の教育スキル2030プロジェクト(以下、E2030)の大枠、②E2030の一環としてのカリキュラム分析、特に、体育・保健に特化したカリキュラム分析、③コロナ後の新たな国際議論の3点から「体育の価値」と「今後の体育の国際的な潮流」の紹介を目的とする。

     OECD教育スキル局では、2015年より、E2030を実施し、新たな未来のビジョン創り(OECDキーコンピテンシーの再定義)と並行して、そのビジョンを教育の中で具現化する一つの政策レバーとして「カリキュラム」を政策分析の中核に添えている。ビジョンとして発表された「OECDラーニングコンパス」の中で、「体育」がどういったコンピテンシーと交差するのか、また、全ての教科を含む相対的な国際カリキュラム分析と並行し、教科に特化したカリキュラム分析として、「体育・保健」と「数学」が合意された。なぜ、「体育・保健」が選出・合意されたのかの国際的な背景にも言及し、18か国参加した分析の内容から、体育教育の国際的な価値付と、今後の方向性を紹介する。また、コロナ禍後、そしてウクライナ侵攻後に、様々な国が「体育(保健を含む)」の再価値付をしている方向性も紹介する。

本部企画シンポジウム2
  • 中平 公士
    セッションID: 2a101-04-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    運動部活動は、少子化の進展により、従前と同様の学校単位での体制での運営は困難になっている。また、必ずしも専門性や意思に関わらず教師が顧問を務める指導体制の継続は、学校の働き方改革が進む中、より困難となっている。このため、少子化の中でも、将来にわたり生徒がスポーツに継続して親しむ機会を確保し、多様で豊かな活動を実現する必要がある。

    スポーツ庁では、有識者会議の提言を踏まえ、新たに策定した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(令和4年12月)において、令和5年度からの3年間を「改革推進期間」として、休日の部活動の地域連携・地域移行に取り組みつつ、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指すこととしている。

    また、令和4年度第2次補正予算では、地方公共団体の移行体制の構築に必要な経費として19億円、令和5年度予算では、地域移行に向けた実証事業や部活動指導員の配置等に必要な経費として28億円を計上している。

    日本体育・スポーツ・健康学会の皆様には、こうした動向を踏まえ、運動部活動の地域連携・地域移行と地域スポーツ環境整備に向け、専門的・科学的な観点からご知見を賜りたい。

  • 1970年代の社会体育化と2000年前後の総合型クラブ連携を振り返る
    中澤 篤史
    セッションID: 2a101-04-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    発表者は運動部活動のあり方や問題を社会学・歴史学の方法論を用いて研究してきた。その立場から本シンポジウムに貢献するため、本発表では、過去の失敗の歴史を振り返ることで現在の地域移行政策の成否を考える。

     矢継ぎ早に出された地域移行政策の是非は慎重に問われるべきだが、それとは別に、そもそもこの政策は上手く行くのか。実際のところ、部活動を学校から地域へ移行できるのか。

     発表者が地域移行政策の成否に疑問を差し挟む理由は、過去に2度、地域移行は失敗してきたからである。1度目は1970年代であり、膨れあがってきた教師の負担問題を背景に「社会体育化」というフレーズで運動部活動の地域移行が謳われ、模索され、結局は失敗した。2度目は2000年前後であり、スポーツ振興基本計画の策定とその後の実践において、総合型地域スポーツクラブとの連携が謳われ、模索され、結局はやはり失敗した。

     1970年代の社会体育化と2000年前後の総合型クラブ連携は、どのような経緯を辿り、なぜ失敗したのか。当時の資料や議論、発表者が集めた調査データを用いて経緯を振り返り、失敗の理由を探ることで、現在の地域移行政策の可能性や課題に対する示唆を得たい。

  • 山口 香
    セッションID: 2a101-04-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    少子化や中学校、高等学校教員の多忙化が深刻化している背景などから、国は運動部活動の地域以降を段階的に進めていくことを決めた。現在、それぞれの地域では、地域の特性を考慮しながら実行への可能性を模索している。ここでは主に、地域移行に伴って必要となる人材の確保について検討したい。体育系の学部等を有していない大学であっても高い競技レベルで活動する運動部を有しているところは多い。また、競技団体は指導者として活動できる人間が登録(登録していなくても潜在的に存在し、発掘できる可能性がある)している。生徒を指導するにあたっては専門的な競技技術のみならず、安全への配慮や技術レベルに応じた適切な指導法などの知識を有していることが必要になる。各地域が大学やスポーツ組織と連携、協働し、人材発掘、養成を実施していくことが望まれる。また、女性活用のあり方も模索していく必要があるだろう。学生時代等に競技経験があるものの、出産、育児によってスポーツから離れてしまった女性は少なくない。地域移行の課題の一つである人材の確保について様々な可能性を論じてみたい。

  • 松田 雅彦
    セッションID: 2a101-04-04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    地域・学校から見た「運動部活動の地域移行」の課題として以下が考えられる。

    ・子供たちのスポーツライフの矮小化

    すべての部活動を地域で請け負うことができるのか。休日だけでなく、平日の移行も視野に入れた仕組み作り

    が必要である。

    ・運動部活動の質的改革がどこまでできるのか

      複数の活動ができる環境やチャンピオンシップスポーツとマス〈大衆〉スポーツの融合など、運動部活動を質

    的に改革することが地域移行の前提である。

    ・ゴールイメージのばらつき(地域移行の評価軸の不在)

    「運動部活動の地域移行」を単なる部活動のアウトソーシングをとらえるのか、学校や地域改革のきっかけと

    してとらえるのかで、新しい仕組みのミッションやビジョンが違ってくる。単なるアウトソーシングであれ

    ば、部活動が塾化することとなり活動に参加できない生徒が出てくる可能性がある。

    これらの課題は、学校か地域かという二項対立的視点から生まれている。それゆえ、それらを解決するには、学校と地域を分断しない仕組みの構築が必要である。当日は、これらの課題とともに、学校内部に受け皿団体を設立した本校の取組(スクール・コミュニティクラブひらの倶楽部)について紹介する。

テーマ別シンポジウム
スポーツ文化研究部会【課題A】シンポジウム
  • 尾崎 正峰
    セッションID: 1a1306-08-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    オーストラリアの社会には「主流」のアングロ=ケルティック系の人々と移民や先住民との間に不平等が長く、そして根深く横たわっていたが、1970年代、政治主導で「白豪主義」から多文化主義に舵を切った。その後の道のりは決して平坦ではなかったとはいえ、現在に至るまでの彼の地の経験は今後への示唆を多く含んでいる。では、オーストラリアのスポーツは不平等にどのように向き合ってきたのだろうか。結論的に言えば、社会と同様に跛行的な道筋をたどり、かつ社会の動きに同期するばかりではなく時に逆のベクトルを示すことすらあった。本報告では、相互扶助の基盤としての移民コミュニティ、その場でのスポーツ活動が民族アイデンティティの拠り所であったが、そのことが「移民のスポーツ」としてサッカーが色眼鏡で見られる一因となったこと。オーストラリアン・フットボール・リーグの競技の場で人々の差別意識とその対抗が可視化され差別禁止条項の制定につながった事例などを取り上げる予定である。社会の不平等に対してスポーツではできないこと、スポーツだからこそ可能なこと。両者を截然と切り分けることは難しいが、その割り切れなさをも含み込んだ議論としたい。

  • 植田 俊
    セッションID: 1a1306-08-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「定住者」という在留資格が新たに設けられた1990年の入管法改正以後、現在に至るまでいわゆる「日系人」の南米からの移入が続いている。来日の目的が、移入現象が見られ始めた当初の「帰国を前提とした短期的労働」(=出稼ぎ)から次第に「日本での長期的滞在・定住」へと変化する中で、日系南米人たちが日本での生活において直面する問題もまた変化してきた。中でも、日本における調整弁的労働力としての構造的位置づけと、所帯をかまえ家族を養育するために「日本の生活」に同期を図り安定化させていかなければならないことと、いつか実現するかもしれない母国への帰還のために文化的・言語的な備えをもしなければならないという、相矛盾する複数の生活課題の調停は、彼らにとって重要な問題として定位し続けている。本報告では、この問題に対して同じサッカーチームのファンであることを共通項としてサークルを全国各地で形成し、それぞれをネットワークでつなぎ合わせることで対処している日系ペルー人たちの事例を取り上げる予定である。当該実践の背景にあって彼らが日本での生活において直面している問題を浮き彫りにしつつ、スポーツがもつ意味について議論したい。

  • 期待と課題
    遠藤 華英
    セッションID: 1a1306-08-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、国際社会として「障害」の問題を捉え,障害者の選択肢拡大と権利向上が目指されている。障害者差別を禁ずる法律や条約の制定など,各国における障害に関する権利保障制度の進展に影響を受け、障害者スポーツも福祉政策からスポーツ政策への移管が進められている。現在では先進諸国のみならず,東南アジアやアフリカ地域など一部の途上国地域においても障害・非障害問わずスポーツ政策として公的サポートを得られるような体制整備が進められている。この政策的な変化を後押しするために、競技団体や各国政府,NGOらによって途上国地域に対する障害者スポーツに関する国際協力事業も行われている。パラリンピックなど障害者スポーツ国際大会の参加国・地域数の増加している一方、特に後発開発途上国にとっては国際大会への出場自体も困難である状態が続いていることを鑑みると、スポーツ参加をめぐる国際的な二極化構造は依存として深刻であり、また途上国内部においても格差が生じていることが考えられる。障害者スポーツ振興は、個人・集団・社会に障害に関する不平等是正に期待が寄せられているが、実際にどのような影響を及ぼしうるか、また限界性は何か議論したい。

スポーツ文化研究部会【課題B】シンポジウム
  • 杉山 文野
    セッションID: 2a1305-07-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「多様性が大事」と言葉で言うのは簡単であるが、多様な人々の多様な意見は多様すぎてまとまらない。また「マイノリティの意見を大切に」と言いながら多数決で決めるわけにもいかず、多様性社会推進における意思決定は非常に困難である。そのような中で、性的少数者の権利獲得のための人権啓発イベントであり、多様性の祭典である「東京レインボープライド」はこの10年で急成長を遂げた。新宿二丁目のLGBTQ+タウンでお店お営むママや全国各地のLGBTQ+当事者から、一部上場企業、各国大使館や国会議員などを幅広く巻き込み、2012年に5000人だった参加者は2023年には24万人を超えアジア最大級となり、LGBTQ+の認知拡大に大きく貢献している。本シンポジウムでは、多様な立場や意見を取り入れながらひとつのイベントに集約する過程において、どのような課題と向き合い実践してきたかを紹介する。また、NPO法人東京レインボープライドがコンソーシアムメンバーを務める「プライドハウス東京」プロジェクトにも触れることで、LGBTQ+とスポーツが直面する課題を共有し、社会×スポーツ×多様性の議論を深めたい。

  • 山西 哲郎
    セッションID: 2a1305-07-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    1970年代の市民スポーツ、特に、ランニングは中高年の市民によって生活化され生涯スポーツの主たる種目になって今日まで至っている。それは前回の本シンポジウムの「身体・組織・支援の観点から」と合わせて検討すれば十分に理解できる。

     市民によるランニングの普及は、欧米を中心に運動不足対策として科学的に有酸素運動としてのジョギングが認められたからである。そこで、障害者にもラン・ウオークが適した運動として実践され、特別支援学校の生徒にとっても身体的にも心理的にも同様である。

     75年にホノルルマラソンは心臓病のリハビリで回復した患者のための大会を年令は11歳以上、42.195㎞を制限タイムは問わない条件で始めた。そこで、学校生活のなかで健康と楽しみつくりを日常化して、その目標として高等部の修学旅行としてこの大会に参加することとした。各生徒に伴走者をつけ、走と歩の組み合わせを繰り返す技術を身につけ、全員がゴールを目指すことにある。それには、長時間わたって継続する心身の困難を、走る楽しさをもって、参加者と共有できる感性を持てるように努めた。

     障害が社会的不利にならないようにする、それには能力不足の改善と社会的条件を改善することを前提にして、従来、創り上げてきたランニング文化を全うできるのである。

  • 近藤 智靖
    セッションID: 2a1305-07-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    現行の中学校学習指導要領解説保健体育編では、「体力や技能の程度及び性別の違い等にかかわらず、仲間とともに学ぶ体験は、生涯にわたる豊かなスポーツライフの実現に向けた重要な学習の機会であることから、原則として男女共習で学習を行うことが求められる」(文部科学省,2018)といった記載があり、男女が同じ場で共に学ぶことを強く推奨している。こうした施策の背景には、共生社会の実現やジェンダーの問題等の現代的な課題がある。しかし、長年、学校現場で男女別習を展開してきた保健体育教師たちの間には、この施策に対する賛否が見られており、批判的な声も少なくない。男女が共に学ぶことについては、その意義を理解しつつも、体力や運動能力の差異、、安全性、動機づけ等の生徒の資質・能力の視点から批判的な見解を持つ教師も多い。また、生徒の男女比率や教師側の指導の不慣れ等の組織・運営上の視点、さらには、教師自身が男女共習の授業経験を生徒としてしてきたかなど、教師の経験の視点もあり、様々な議論が展開されている。

     こうした論議を踏まえ、今回のシンポジウムでは、以下の三つの話題に触れたいと考えている。

    一つ目は、学びの保証の視点である。男女が共に学ぶことを想定した場合、男女を別習とするのか共習とするのか、といった組織の問題のみならず、生徒にとってどのような学びをもたらすか、個々の生徒の学びはどう保証されるものか、という視点からも議論が必要であると考える。その際、包摂性(Inclusion)、公正性(Equity)という視点も踏まえて検討をしていく。二つ目は、我が国の体育授業におけるジェンダー問題についてOECDが発行した報告書の内容について触れる。三つ目は、可能であれば所属先大学の授業の取り組みについて触れる。

スポーツ文化研究部会【課題C】シンポジウム
  • 子どもの運動・スポーツの現状と課題
    武長 理栄
    セッションID: 2a1312-14-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    笹川スポーツ財団「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」より、わが国の12~21歳のスポーツを「する・みる・ささえる」の観点から構造化すると、2019年ではこれらすべてを享受している群は7.2%であった。一方「しない・みない・ささえない」群は17.3%存在し、推計では202万人にのぼる。

     スポーツ基本計画では、第2期より中長期的なスポーツ政策の基本方針として、全ての人々が「する・みる・ささえる」という様々な立場でスポーツに関わることを目指し、その施策の一つとしてスポーツ参画人口の拡大が示された。しかし、このようなスポーツとの関わりを持たない青少年は増加傾向にあり、今後スポーツとの接点を作っていくための施策が求められる。

    自由な遊びの機会が少ない現代では、子どもは運動・スポーツを行うためにはクラブに加入しなければならず、家庭の経済的な状況や保護者の意識などによってスポーツができる子ども・できない子どもが生じている。また、子どもの組織スポーツの課題として生涯スポーツと競技スポーツの分断が挙げられる。子どもの運動・スポーツの現状と課題について示すとともに、今後必要な取り組みについて検討したい。

  • 朝飛道場の取り組み
    朝飛 大
    セッションID: 2a1312-14-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    朝飛道場は、幼児~小学生~中学生の各カテゴリーを合わせて200名ほどの入門者を抱えている。館長自身が最も柔道を楽しみ、文武両道の精神で社会に貢献できる人、世界に通用する選手、そして柔道に恩返しできる指導者を育てることをモットーに日々稽古をしている。

     本シンポジウムでは、次のような点に関して本道場の取り組みを紹介する予定である。本道場の運営において心がけているのはどのようなことか。その方針の下で具体的に子どもたちにどのようなことを実践したり、言葉がけを行っていたりするのか。そうした日々の稽古を通して、彼らが道場にどういった楽しみを見出し、何を求めているのか。柔道以外に楽しみを見出している可能性があるのか。子どもたち同士や指導者との関係はどのようなものか。また、入門を勧めた保護者らがどのようなことを我が子に期待し、彼らの様子から保護者がどのようなことを感じられ、満足されているのか。このような点から本道場で入門者が増えている理由の一端をご紹介できれば幸いである。

  • 笠野 英弘
    セッションID: 2a1312-14-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、本企画の1年目で指摘された「スポーツ文化は保存できない」という視点から、スポーツ文化の構成要素は社会や時代によって変化するものであることを前提として、本企画の2年目に指摘された「スポーツ実践における身体から身体への(「心」を含めた)伝承・継承」といった極めて個人的かつローカルな場での伝承・継承を、その個別性かつ多様性を維持しながら、いかに広げていくことができるのかを、制度や組織との関係から考えてみたい。発表者は、多様なスポーツ愛好者の組織化についてドイツや日本のサッカーを主な事例として研究をしている。その中で、ガース&ミルズ(1970)が示した『性格と社会構造』の理論を中心にして、制度論、組織論、社会化論等も援用しながら、多様なスポーツ愛好者を包摂する制度をスポーツ組織が主体となって生成していく必要性を指摘してきた。これらの議論や理論は、極めて個人的なもの(性格)と組織や制度との関係を把捉する視点を有していることから、先に示したような個別具体のスポーツ文化の伝承・継承をいかに組織や制度として広げていくことができるのかという点に関して、有用な示唆をもたらすものだと考えている。

学校保健体育研究部会【課題A】シンポジウム
  • 高橋 浩二
    セッションID: 1a608-10-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、1年目のシンポジウム及び研究発表に基づきながら、大学体育の社会的使命とその実現可能性を検討する。シンポジウムでは、これまでの大学教育の制度や大学体育の実践によって積み重ねられてきた知を歴史的変遷から読み直し、現代社会に求められる大学体育のあり方について探究した。その内容はSoTL等を用いた大学体育の知見の集積方法及びその意義、大学教育の目的や授業実践と授業者の研究者としての態度との関係、共通した大学体育の社会的使命の設定についての是非及び高校までの体育・保健体育と生涯スポーツとの繋がりを作る大学体育の意義であった。研究発表では、大学体育における学修者主体の授業への転換に必要な目標設定、オンラインによる体育実技授業の改善方法の提示、オンラインと対面を併用した「主体的な学び」のための工夫点、コロナ禍の大学体育における授業デザイン、大学体育授業におけるアクティブラーニングを取り入れたより深い学びに対する有効性、コロナ禍における大学体育の授業の目標到達度や身体不活動時間とライフスキル等との関連から客観的評価と効果の検証について報告がなされた。以上の総括から未来の大学体育を描き出したい。

  • 大林 太朗
    セッションID: 1a608-10-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、2年目のシンポジウム・研究発表の成果に基づきながら、主題となる大学体育の社会的使命と実現可能性について検討したい。シンポジウムでは、現代的課題の一つとして「共生社会の創造」を念頭に、多様性の理解を促進するという観点から①聴覚・視覚障害学生のための大学体育、②ジェンダー・セクシュアリティの視点を取り入れた大学体育、③有形・無形文化財を活用した大学体育の拡がりについて議論した。研究発表では、専門領域の垣根を越えたプレゼンテーションが展開され、例えば大学体育を通したコロナ禍の大学生の心身フィットネスの向上、将来的な医療費・介護費の削減への社会的影響、ジェンダー・スタディーズなどをキーワードとしたディスカッションが展開された。本発表では主に以上の内容に関するまとめを試み、現代的課題と関連させながら今後の大学体育の可能性に関する議論につなげていきたい。

  • 2040年に向けて
    村山 光義
    セッションID: 1a608-10-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2018年に中央教育審議会は「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」を答申し、Society5.0時代に向けて教育改革の指針を示した。また、2040年には我が国の20-65歳の生産者人口の激減と75歳以上の人口再増加という超々高齢化社会の到来が予測されている。本発表ではこの2040年という近未来の大学体育を展望するとともに、進むべき方向・乗り越えるべき課題について検討したい。主な観点は、VUCA時代に求められる“資質・能力”の育成や各大学のポリシーの実現に対する大学体育の役割と価値、高大連携としての初等中等教育からの教材・教育手法・評価方法などの一貫性および大学の独自性、“体育教育”の持つ普遍性と時代性(DX・ICT・AIなど)の検証、大学体育の担い手の育成や大学体育研究とスポーツ科学研究の関係性、などである。いずれも、社会の変化に対応するための大学改革の課題と連動し、複雑で多様な道のりを進まねばならないであろう。個々の大学や教員の知恵と力を結集し、本学会を含めた組織的な取り組みによって、その道標を立てていく必要があると考える。

学校保健体育研究部会【課題B】シンポジウム
  • 中村 利之
    セッションID: 2a805-07-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    学校体育・保健体育では、子どもたちの豊かなスポーツライフに向けた取り組みを進めることが求められているが、子どもたちに伝えるべき、子どもたちが身につけるべきものとして、何が必要なのだろうか。これからの学校体育・保健体育のあり方についていくつかの事例を交えて考えたことについて述べる。特に、現在の学校現場では、ミドルリーダー世代の教員の不足といった現状のなかで、若手教員の育成が喫緊の課題とされている。そのなか、これまでの「先輩の背中を見て学ぶ」といったスタイルから、「先輩教員と一緒に学ぶ」というスタイルで実践のスタイルが移り変わっている現状がある。こうした現状のなかで、子どもたちにとって意味のある実践を実現するためには、教師と学校外が豊かにつながっていくことが求められる。その点を含めて、学校内外をつなぐ取り組みの現状と教師に求められる力について考えてみたことを述べる。このような取り組みを、良質な保健体育の授業につなげ、子どもたちの豊かなスポーツライフを実現していきたい。

  • 三田部 勇
    セッションID: 2a805-07-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    予測困難な時代を生きる子どもたちが豊かなスポーツライフを実現するためには、柔軟な考えを持ち、その場や多様な集団に合わせて、スポーツを「創る」力が求められる。演者は現在、教員養成に携わり、保健体育科の指導法において模擬授業を実施している。その過程において、学生の一つの大きな特徴として挙げられるのが、自身の受けてきた授業と部活動での運動経験による、練習を積み重ねて試合に向かうような授業観である。また既成の公式ルールや固定観念にとらわれ、柔軟に運動教材やルールを工夫するといった考え方が出来ない面も見られる。しかし、実際の学校現場においては、運動の技能やスポーツへの興味関心に大きな差が生じている子どもはもちろんのこと、障害のある子どもや外国籍の子ども等が所属する多様な集団に対しての指導に直面することになる。そういった場で、子どもたちの実態に合わせて取り上げる教材や手立てを変えていく、子どもに工夫するポイントを提示して運動の行い方を考えさせるといった、柔軟な対応力が資質能力として必要であると考える。それを身に付けるためには、教科指導の専門性のみならず、自己の視野を広げる多様な経験が必要であり、本シンポジウムではその事例をもとに考えを述べていく。

  • オルタナティブな授業の提案
    宮口 和義
    セッションID: 2a805-07-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    ここ数年で教育現場は大きく変わってきた。新型コロナによる子どもたちの体力低下も問題ですが、グローバル化や人工知能・AIなどの技術革新が急速に進み、子どもたちが自ら考え行動する「生きる力」を育むことが求められるようになってきた。しかし、実際の現場では旧態依然とした授業が展開されているケースも少なくないように思われる。子どもたちの知的好奇心をくすぐるワクワクするような体育授業が展開されているであろうか。

     最近、オルタナティブ○○という用語を耳にするようになった。「型にはまらない」「既存のものに取ってかわる新しいもの」という意味らしいが、これからの体育授業もオルタナティブな要素をどんどん取り入れていくべきではないだろうか。先達の知恵が詰まった新学習指導要領を参考にするのは当然であるが、一歩踏み出し、最新のスポーツサイエンスを取り入れた、より革新的でまさにオルタナティブな授業づくりが必要ではないだろうか。また、部活動の地域移行が進む中、身近にスペシャリストがいるなら、そのつながりをもつことも大いに有効であろう。本シンポジウムでは、地元で取り組んできた事例を挙げながら、今後の体育授業のあり方について提案したいと考えている。

学校保健体育研究部会【課題C】シンポジウム
  • 準備運動の見直しで楽しさと基礎運動能力の向上を目指す
    春日 晃章
    セッションID: 2a709-11-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    我が国の子どもの体力や運動能力は年々低下傾向を示し,コロナ禍においてさらに大きく低下するとともに,二極化傾向も示され,運動・スポーツへの興味なし群も増加している.社会状況の変化により放課後の身体活動が困難な現在において,体育実技の時間が唯一,皆が身体活動に従事できる時間と言っても過言ではない.しかし,楽しさを感じさせ,一定の身体活動量を確保するような体育が行われているのか,本当に生涯スポーツに繋がる体育なのか疑問である.もちろん,指導要領に沿って授業展開することが求められるため,教師の自由度も少ない.そこで,授業始めの準備運動に注目してみた.全国的に体育授業の準備運動としてランニング,徒手体操,単元に関わる動きなどがこれまで主流に実施されている.この部分の取り組みにJSPO-ACPを参考にした運動遊び要素や基礎運動能力向上要素を盛り込んだプログラムを用いながら体育を実践し,その効果を多角的に検証している.

     本シンポジウムでは,これまでの取り組みや効果検証の結果を示しながら,今の時代に合った体育授業のあり方について,また,今後の指導要領のあり方について論究したい.

  • 木島 章文
    セッションID: 2a709-11-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    3年目を迎える応用部会の取り組みをまとめ,部会員が実際に取り組んだ研究・教育活動を示したい.その行程は以下の通りである.1)初年度のシンポジウムに提示された長距離走の授業の問題を取り上げ,そこに「主体的・対話的な深い学び」を誘発する機能を埋め込んだ授業例を示す.2)運動心理学の伝統的理論であるスキーマ理論に基づいてその教育効果を検証した結果を示す.3)同シンポジウムにて示される「楽しさを感じさせ,一定の身体活動量を確保するような体育(春日)」,「身体を柱とした教育活動を支えるスコープ(松田)」に内包される「楽しさ」を,授業に埋め込める可能性と限界を提案する.

     こうした活動の一例を示しながら,今後の教育・研究方針:本部会が掲げる「実践のエビデンス」の紡ぎ方に具体性をもたせることを目的として発表を行う.

  • 松田 恵示
    セッションID: 2a709-11-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    多角的領域のエビデンスを踏まえたこれまで2年間のシンポジウムは,生成系の人工知能が社会変革の引き金になろうとしている極めて変化の激しい現代社会において,新しい意味での「身体」を柱とした子どもたちをめぐる教育活動の必要性と実践レベルでの評価の問題が大きいことが示唆されている.

     そこで,シンポジウムでの成果をもとに,これからの保健体育を「身体を楽しむこと」「身体を護り育てること」「身体を知り活用すること」の3つのスコープを設ける領域横断的な教育活動として,学会サイドから新しく再構築することを提案してみたい.また,現場,研究,政策が三位一体となって実践を作り出す営みへと保健体育を改革するとともに,それを支えその実践のエビデンスを支える研究(学会活動)の新しいカタチをシンポジウムで検討してみたい.

競技スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • トレーナーの視点から
    柴田 真紀子
    セッションID: 1a208-10-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「トップアスリートの高等学校から大学への接続」を実現するために、高校生アスリートが大学進学後の自らの活躍を自負できるかが挙げられるのではないか。そして、この自信を持つためには競技に打ち込むためのフィジカルの強さが関与すると考える。このことは成長期に、いかにスポーツ障害を発症することなく過ごすことができたかとも言い換えられる。代表的なスポーツ障害の一つである疲労骨折は、男女とも16歳が発症のピーク、疲労骨折の発症は長期の競技離脱を余儀なくされることがあると報告されている。特に、女子アスリートにおいては、アメリカスポーツ医学会が利用可能エネルギー不足は無月経や骨粗鬆症の起点となることや、無月経もまた骨粗鬆症の発症に影響を与えることに警鐘を鳴らしており、骨粗鬆症の発症は二次的な疲労骨折の原因となり得る。

     日本人成長期女子アスリートを対象とした体組成を検討する研究において、身長、除脂肪量、骨量の順でピークが観察された。これは日本人中学生男子サッカー選手を対象とした研究と同じ結果であり、疲労骨折などスポーツ障害の予防は、成長スパート開始以降に、いかに体組成のピークを迎えられるかが重要であると考える。

  • 部長教員の視点から
    木内 敦詞
    セッションID: 1a208-10-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    競技とそれ以外の生活の調和を表す「スポーツ・ライフ・バランス」(荒井ほか、2018)。これを実現する学生アスリートの育成は、大学スポーツ界にとどまらず高等教育全体の課題、さらには社会的課題とさえ言える。近年発覚した東京五輪汚職事件などは、スポーツとの関わり方を見直すべき対象が、アスリートやその指導者限定のはずがないことを示している。私たちスポーツ関係者は、スポーツが人や組織、地域や国を育てる力を持っていると信じているものの、それを裏づけたり効力を高める方略については、十分な知見集積に至っていない。

     シンポジウムでは、学生アスリートのスポーツ・ライフ・バランスの実現へ向けた展望と現状について論じる。具体的には、現場で指導する監督・コーチではなく部長という立場で約30年、大学スポーツに関わってきた私自身の体験と、これまでの限られた学術的な知見の整理を試みる。スポーツといかに関わることが人としての成長につながるのか、幸せにつながるのか、社会の発展につながるのか。参加者のみなさんとともに考えたい。

  • 運動部活動の歴史と教育論の視点から
    神谷 拓
    セッションID: 1a208-10-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本シンポジウムで掲げる「トップアスリート養成の拠点としての大学」や「トップアスリートの高等学校から大学への接続」を実現する教育制度がスポーツ推薦入試である。それは、1980年代に国策として大学運動部の強化が進められたことを背景に、各大学において制度化が進み、日本の競技力向上を支えてきた。

     しかし、以下に見る3つの点において転換期を迎えている。まず、①競技成績に特化した評価が、勝利至上主義的な部活動運営の原因になってきたことがある(歴史的課題)。次に、②国が示す「大学入学者選抜実施要項」において、これまでの競技成績に特化した選抜を改め、各大学のアドミッションポリシーと関連づけて部活動のプロセスを評価することが求められている(教育制度的課題)。最後に、③競技成績の評価と大学における学びのミスマッチが指摘されており、運動部活動とキャリア形成の関係が問われていることがある(教育内容的課題)。これらの課題をふまえて、本報告では部活動を自治と社交の場として捉える「運動部活動の教育学」の立場から、大学の学びと関連づけたスポーツ推薦入試の在り方と、キャリア形成につなげる部活動の考え方を示したい。

競技スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 西川 誠太
    セッションID: 2a205-07-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本シンポジウムでは「ジュニア(育成年代)競技スポーツのコーチ養成」のなかでも、「コーチ養成システム」について公益財団法人日本サッカー協会(以下、JFA)の事例を紹介する。JFAは「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」という理念のもと、代表強化・ユース育成・指導者養成・普及の“四位一体”を掲げている。指導者養成は、指導者養成講習会・チューター制度・リフレッシュ研修会の3つを柱に事業を展開している。指導者養成講習会は、子どもを対象としたD級ライセンスからプロ選手を対象にしたS級ライセンスまでのコアとなるライセンスに加え、指導者の多様な学びのニーズに対応すべく、ゴールキーパーやフィジカルなどポジションや分野に特化したライセンスも提供している。育成年代に特化したライセンスも2007年から始めており、今年これらを更にブラッシュアップしたところである。これらJFAの指導者養成システムの現状と今後について紹介し、これからの日本全体のジュニア(育成年代)競技スポーツのコーチ養成のありかたについて議論したい。

  • 中山 紗織
    セッションID: 2a205-07-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    小学生スポーツを取り巻く課題として、全国小学生大会の在り方や公式戦の1試合あたりにおける個人の出場時間数の偏り、暴力やハラスメントなどの不適切な指導、早期専門化によるバーンアウトなどが挙げられている。また、国内外のさまざまな競技において、小学生時期に競技を始めた場合、将来オリンピックやプロ選手として活動する確率は低いことが報告されている。

    これらの諸問題の解決を目指して、すでに国内においてさまざまな取り組みが行われている。例えば、サッカーでは2011年に8人制が導入され、バスケットボールでは2015年にマンツーマン防御が義務化、柔道では2022年に全国小学生大会・団体戦が廃止されている。これらの取り組みの背景、すなわち多くの子どもにとって将来スポーツが彼らの人生を彩るものになるようなコーチング活動を実現させるためには、大人のスポーツ活動のコピーや分解による簡易化ではなく、子どもには子どもに適したものがあるということを前提に取り組む必要がある。本発表では、ジュニア期の初期段階としての小学生年代に焦点を当てて、具体的なコーチングのあり方、トレーニングの方法および内容について考えていく。

  • キャリアパスの視点から
    北村 麻衣
    セッションID: 2a205-07-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    バスケットボール女子日本リーグ(通称WJBL)には現在200名程度の選手が所属している.この選手たちは高校卒業後,大学に進学するか,WJBLに入団するかの進路を選択する.7〜8年前までは高校卒業後にすぐWJBLに進む選手の方が圧倒的に多かったものの,2年前には大学卒業後にWJBLに入団した選手が半数を超え,進路選択の幅が広がってきている.

     また,引退後のセカンドキャリアについても,大学院に通い直す選手やコーチを志す選手,学生時代にできなかった留学経験をする選手など,辿る径路が多様化してきている.さらには,現役中に起業する選手や,選手とコーチのどちらも行うといったデュアルキャリアを歩む選手も現れ始めている.こうしたことから,女子バスケットボール界では,「自分らしい生き方を実現していく過程」であるキャリア発達への注目度が高まっている.

     本報告では,女子バスケットボール選手が実際に辿ってきた進路・キャリア選択過程について,いくつかの事例を示しながら,選手のキャリア発達をサポートするために,ジュニア(育成年代)選手のコーチには何が必要であるのかを議論したい.

競技スポーツ研究部会【課題C】シンポジウム
  • 広瀬 統一
    セッションID: 2a208-10-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    フィジカル・トレーニングはRouxの法則に依拠したトレーニングの原理・原則や、運動制御と運動学習の原則的な考え方にもとづき計画および実践される。特に成長期には身体内環境の変化に加えて、生物学的な成長段階によって運動刺激に対する生理的応答の差異も見られる。「個別性の原則」の観点からも、これらの事象を踏まえたうえでフィジカル・トレーニングを計画し、実践することが望ましい。また、指導者(大人)が子ども達の運動能力を評価する際には、生物学的成熟度の差異が各種運動能力に影響することも念頭におく必要がある。

  • 小俣 よしのぶ
    セッションID: 2a208-10-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    Jリーグは今年で30年目を迎えた。設立目的のひとつに日本サッカーの国際競技力向上があり、その施策の一環としてリーグ所属全クラブに育成組織保有を義務付けた。プロスポーツリーグによるタレント発掘育成は当時においては画期的で、その後、他競技の強化育成方策にも影響を及ぼしたと言っても過言ではない。

    しかし、30年を経てJクラブを取り巻く社会環境が変化し、強化育成も方向転換の必要性に迫られる状況にある。例えば、人口減少と少子化によるタレントプール減少、地域間格差や地方経済の低迷がクラブ経営に影響を及ぼし強化育成への投資に波及している。これらのマクロ社会要因は、特に地方に本拠地を置くクラブにとって強化育成の阻害要因となっている。

     ㈱いわきスポーツクラブが運営するいわきFC(現J2)は、2007年に育成組織を開設した。歴史の浅いクラブ(2022年J3昇格)、いわき市の社会問題、加えて東日本大震災の影響もあり、他のクラブとは異なるマクロ要因の中での仕組み作りが求められた。本発表では、いわきスポーツクラブが進める地域社会の実情に則した育成の仕組み作りを事例に基づき、さらに参考とした先行研究を交え紹介する。

  • 石井 孝法
    セッションID: 2a208-10-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本の国際競技力の変化は、オリンピックや世界選手権大会のメダル数の変遷から大まかに読み取ることができる。柔道競技においては、男女で国際競技力の変化が大きく異なる。オリンピック競技大会に採用された1964年以降、競技柔道の国際普及が急激に進み。世界の国際競技力の水準も非常に高くなってきた。これに合わせて、選手養成制度、タレント発掘・育成システムが形になってきたソ連やドイツが台頭してきたことで、男子は1970年代後半から1980年代にかけて「日本が勝って当たり前」ではなくなり、2000年代が最も厳しい状況であった。女子は、世界選手権大会が始まった1980年以降でみると、1980年代が最も厳しく、2010年代が最も成果をあげており、国際競技力を向上させてきていることがわかる。スポーツ科学やテクノロジーの発展で、国際的に競技の内容は専門化・精緻化され、競技水準の高度化が進んでいるが、日本柔道は2013年以降「世界一」であり続けている。それはなぜか。ここに、ユース年代の育成が強く関係していると考えている。

    マクロの視点での調査・研究が少なく、私見が含まれるが、日本におけるハイパフォーマンスアスリート育成の視点そのものの問題点をあげて対話したい。

生涯スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 内田 匡輔
    セッションID: 1a1507-09-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    これまで課題Aでは、「共生社会の実現に向けた生涯スポーツ政策と協働システムをいかに構築するか」というテーマに対し、パラダイムチェンジの必要性とスポーツの見方を変え広げる必要性を確認してきた。これまでの議論を踏まえると、共生社会と生涯スポーツは、例えばスポーツボランティアが広がり、“支えるスポーツ”というスポーツの見方が定着するというパラダイムチェンジが起きれば、持続可能であることが明らかになったと考えている。

     現に東京2020オリンピック・パラリンピック大会では、障害当事者のボランティアがDiversity&Inclusionを促進し、ソフトレガシーにつながることも確認されている。しかし持続可能という点では、支え手となる人たちの交代が進まず高齢化や、障害ごとに起きる問題への丁寧な対応、異なる価値観からボランティアを論じる必要性など、多数派中心の価値からの転換がなければ持続しないことも明らかになってきた。

     本発表はこれまでの議論で具体的に挙げられた、共生社会が実現しているシステム(イベント、スポーツ大会)をまとめ、持続可能な協働システムの構築に向けた課題や方策について議論していきたい。

  • 中野 貴博
    セッションID: 1a1507-09-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    これまで,生涯スポーツ部会課題Cでは,スポーツ権の補償というテーマに対し,子ども,高齢者,中年などの年代区分,女性,障害者,元アスリートなどの背景の違いによるスポーツ実施の現状と課題を検討してきた.その中でスポーツに対する価値が多様であり,また,以前に比べて価値自体が変化してきている様子も見られた.例えば,高齢者では健康増進を主題としたものが多いが,子ども世代では,近年は体力向上や健康増進よりも,人間力や教育といったより根源的な子どもの成長へのスポーツの貢献が議論されてきている.女性や障害者では,パーソナリティや障害の程度による違いや障害者同士のつながりを大事にするなどの特有の価値も示された.また,元アスリートではスポーツを再定義することの必要性が示され,みんなのスポーツやユニバーサルスポーツといった枠組みでは,運動嫌いへの対応やセミフォーマルなスポーツとしての位置づけが示されるなど,スポーツの価値が一様ではなく,様々な価値を理解し,それに応える取り組みが必要であることが示されてきた.そこで,本発表ではこれらを整理し,これまでの公共施策で見直すべき点や我々研究者がそのために示していくべきエビデンスなどについて議論をしていきたいと思う.

  • スポーツ研究から向かう健康そしてWell-Being
    林 洋輔
    セッションID: 1a1507-09-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本報告では課題Bの3年にわたる歩みを総括する。具体的には「子どもたち」「Well-Being」そして「スポーツ」を鍵語として進めてきた議論の軌跡を確認し、未来への指針を検討する。さらに、領域横断部会が体育学の全領域を巻き込む活動である以上、体育学の現在と未来の在り方にも視界を拓く論じ方が必要となろう。

    手がかりがある。数種にのぼる日本学術会議の健康・スポーツ科学委員会による提言文書を繙こう。子どもの発育発達に対する研究者の強い関心、より完成された「健全」の実現に向かう研究と科学エビデンスの確保、そして政策学の言説により研究成果を広く発信する姿勢がこの文書より確認できる。翻って「生涯スポーツ部会」課題Bの3年を回顧するとき、生活のなかのスポーツ環境をいかに整備・享受・活用するかといった課題に継続した関心を向けて来たことが明らかである。これら双方を踏まえ、身体教育としての体育(PE)や学校内外のスポーツ活動、さらに健康増進のための軽運動(エクササイズ)といった身体活動の総体の先に見晴るかす「ウエル・ビーイング」の実質をわれわれはいかに構想し、いまどう考えるのか。フロアの見識にも教わりつつ討議を深めたい。

生涯スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 山本 敦久
    セッションID: 2a1504-06-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、スポーツは二つの局面において近代の規範的な「人間」のあり方に対して鋭い問いを提起している。この問いに与えられた概念を「ポスト・スポーツ」と呼びたい。近年、多くのアスリートたちが、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動や#MeToo、フェミニズム運動の世界的なうねりを引き起こす重要な存在となっている。彼ら/彼女らの動きは、西洋白人男性中心主義やジェンダーの二元性、ヘテロセクシュアリティ、そして健常さの規範を理想的な身体としながらグローバルに君臨してきた近代スポーツへの厳しい異議申し立てと言えるだろう。SNSのような新しいメディア環境に繋がったアスリートたちが、既存の社会における支配的な社会関係を組み替える「ソーシャルなアスリート」として登場している。また、近代スポーツは自然/文化の二元論を維持しながら「人間中心主義」を謳ってきた。しかしポスト・スポーツの時代において、アスリートたちは新しいテクノロジー(機械、非人間)を部分とする身体を形成している。スポーツの身体は、もはや「生身」とその文化的加工・規律訓練を意味するのではなく、機械(モノ、テクノロジー)や情報(データ)や自然環境を組み込んでいる。このような身体のリアセンブリーは、近代の理想的な人間性を越えて、多様な差異を多様なままに接続/非接続する。この視座からスポーツや体育が生み出す“Well-Being”について考えていきたい。

  • 小林 寛道
    セッションID: 2a1504-06-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    世界一流スポーツ選手の走技術の基礎原理を体験的に習得する「足が速くなるマシン」(スプリントトレーニングマシン)を1995年に開発した。このマシンに含まれる要素を発展させ「船漕ぎマシン」「車軸移動式パワーバイク」など20種類の「おもりの負荷を用いないトレーニングマシン」を開発し「認知動作型トレーニングマシン」と名付けた。筋肉痛が起きにくい、力を抜いて動作する、体幹深部筋を無理なく強化する、脳の活性化をもたらす、歩行動作や走動が改善する、などのことから、地域高齢者を主対象とする小規模トレーニングジム(十坪ジム)を徒歩10~30分圏内に多数つくり、地域の活性化を促すとともに高齢社会の健康増進事業を2004年から展開した。NPO法人を立ち上げ、指導者は地域の中高齢者を養成し、最高齢指導者は91歳であった。最盛期には、柏市内に10店舗、会員数1650名となったが、コロナ禍により、現在は会員数500名。事業承継により、柏市内に5店舗、NPOは解散した。理想とした理念、発展と隆興、衰退、課題などを18年間の事業経営の経緯を踏まえて発表する。現在の会員の平均年齢は70歳代後半、80歳代は多数。

  • 萩原 悟一
    セッションID: 2a1504-06-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「Taiikuとは人間の幸福における身体的ならびに社会的基盤づくりに貢献する身体運動の総称(林,2020)」であるならば、バーチャルスポーツは体育・Taiikuになりうるか。体育・スポーツ科学分野では、バーチャルスポーツの効果を懐疑的に見ている者が多いのが現状ではないだろうか。バーチャルスポーツの研究を進める際に世界的に研究のキーワードとなっているのがエクサーゲームである。エクサーゲームは、フィットネス、教育、健康の分野で新たな世界のトレンドとなっているバーチャルスポーツの一種だとされている。エクサーゲームは、一般的に体の動きを必要とするデジタルゲームと認識され、アクティブなゲーム体験が身体運動の一形態としてとらえられている。エクサーゲームが普及してきたことで、その有用性が体育・スポーツ科学分野でも主張されるようになってきている。例えば、American College of Sports Medicineでは、エクサーゲームが「子供や青少年の身体活動と健康を促進する“フィットネスの未来”」と紹介されている(Benzing & Schmidt, 2018)。

生涯スポーツ研究部会【課題C】シンポジウム
  • 辻󠄀 大士
    セッションID: 2a1510-12-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    令和4年10月に開始した、社会技術研究開発センター(RISTEX)「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」の第4期研究開発プロジェクト『【共進化枠】スポーツ参加の促進要因の探索と支援政策の評価研究 - 国・自治体・個人レベルの重層的アプローチ』(研究代表者: 近藤克則・千葉大学)について、プロジェクトの概要や構想を紹介する。本プロジェクトの目的は「A. スポーツ施設整備推進政策の妥当性の検証」、「B. スポーツ参加促進要因の探索」、「C. デジタル技術を活用した身体活動の促進」の3つである。Aについては公園・スタジアム等の施設に着目し、スポーツ促進効果や介護費・医療費等との関連を検証することで、国レベルのスポーツ施設整備推進政策のブラッシュアップを狙う。Bについては自治体レベルでスポーツ振興関連要因の「見える化」を行い、Good Practiceを抽出し要因分析を行うことで、市町村のスポーツ振興政策の底上げを目指す。Cについては、スマートフォンアプリを活用することで個人の行動変容を促し、身体活動量の増加を狙う。得られる知見を基に、客観的な根拠に基づくスポーツ政策形成・評価検証の基盤づくりを目指す。

  • 英国の事例
    金子 史弥
    セッションID: 2a1510-12-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、日本では「エビデンスに基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making: EBPM)」が政策領域や国・地方自治体のレベルを問わず、推進されている。スポーツ政策の領域においても2020年6月に出された日本学術会議による提言『科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方』に代表されるように、EBPMをより積極的に活用していこうという動きがみられる。本発表の対象である英国は、EBPMの活用において「先進国」であると言われている。英国では、1997年に誕生したブレア労働党政権が政府の「現代化」を掲げる中で、EBPMという考え方が積極的に導入されていった。スポーツ政策もその例外ではなく、英国のスポーツ担当省である文化・メディア・スポーツ省や関連する政府系機関、競技団体、および各自治体で、EBPMに基づく政策運営が目指されてきた。また、その展開においては、政策形成・評価のためのフレームワークづくりやエビデンスの提供などの形で研究者が貢献してきた。本発表では、2000年代以降の英国におけるEBPMに基づくスポーツ政策の展開について概説しながら、その中で研究者が果たしてきた役割や研究者によって指摘されている課題について考察する。

  • 本多 良樹
    セッションID: 2a1510-12-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    現代の行政機関はその役割が大きくなるにつれ、裁量権が拡大してきており、首長や議会の政策を効率的に実現させる機能だけでなく、市民等の利害関係も踏まえた施策立案を自ら行うことが求められるようになってきている。しかし、同時に、行政機関は中立性に基づく組織であるため、いわゆる「政治判断」による利害調整は行うことができず、客観的なデータや理論に基づく施策立案や制度設計により、様々な視点・意見・利害を持つ市民の理解を得ていく必要がある。ここに、行政として研究者との共進に取組むべき理由があると考えている。

     本発表では、名古屋市が実施している小学校部活動の民間委託化について、その立案から実践に渡り、研究者の方に関わっていただいた経験などをもとに、多様な価値観を持った市民の合意形成のための客観的・科学的なエビデンス活用等、行政の施策立案・実践における研究者との共進の事例について紹介する。

健康福祉研究部会【課題A】シンポジウム
  • 高尾 将幸
    セッションID: 1a1107-09-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年、生理のための衛生用品や教育、衛生施設、そして廃棄方法に対して十分にアクセスできない状態が「生理の貧困(Period Poverty)」として問題視されている。とりわけ、新型コロナウイルス感染症の拡大は、小売業や飲食業などの女性従業員比率の高い職場での失業や収入減をもたらすとともに、この問題が途上国だけのものでないこと、健康的な生活を送る条件においてジェンダーによる差異があることも顕在化させた。健康をめぐる科学的認識と実践的能力の発達を謳う保健科教育において、こうした「女性」特有の健康問題は、これまでどのように、あるいはどの程度、取り上げられてきただろうか。本報告では過去から現在までの保健科の教科書における月経の記述を分析し、その歴史と現在を確認する。それを踏まえた上で、知識の実践性を強調するヘルスリテラシー概念が、今後、十全に機能するための諸条件について考察してみたい。

  • 上地 勝
    セッションID: 1a1107-09-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    ヘルスリテラシーは概ね「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための能力」と定義されている。子供たちの健康課題の多様化、複雑化に加え、ICTの活用が進む教育現場の状況に鑑みると、ヘルスリテラシーの育成は喫緊の課題と言えよう。そのことは、学習指導要領実施状況調査(国立教育政策研究所)の結果にも表れており、各校種で次の課題が指摘されている。○小学校:図を読み取り健康情報を分析すること。○中学校:健康に関する抽象的な内容を具体的な事象に適用したり応用したりすること。○高等学校:個人の健康の保持増進と社会環境づくりを関連付けること。これらをヘルスリテラシーの定義に沿って解釈すると、小学校では「健康情報を理解し、評価すること」、中学校では「健康情報を活用すること」、高等学校では「知識を統合化し、より深い概念を理解すること」に課題があると考えられる。

     本発表では、子供たちのヘルスリテラシーを育成する手立てとともに、そのことが体力や運動とどのように関わるのか考察したい。

  • 本田 由佳
    セッションID: 1a1107-09-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本は妊産婦死亡率、周産期死亡率ともに低率で世界で最も安全なレベルの体制を提供している一方、少子化問題や、若い世代の望まぬ妊娠のための人工中絶、高齢化に伴う不妊治療数の増加が諸外国に比較し多い。さらに、痩せた女性が増え、低体重体重児(2,500g未満)も増加していることから、慢性の非感染性疾患(NCDs)のリスクを負う子どもが増加している。これらの問題は、健康教育の根底となる生物・進化学・形態学のみならず、性と生殖に関する教育の国際標準への未到達と、それに伴うヘルスリテラシーの低さが要因の一つではないかと考えている。現在、私は、これらの改善に有用な健康教育プログラムの検討をしている。シンポジウムでは、現在、我々が開発しているエンターテイメントや体操の要素を取り入れた産学官医・メディア連携の「はかる・知る・楽しむ・おしゃれ」から始まる女性の健康教育プログラムやFemtechライナーの一部。さらには、「個の予防」の視点で胎児期から成人期へ繋がる切れ目のないソサエティ5.0のユースヘルスケア・プラットホーム構想ついて紹介し、これらが体力・運動に与える影響や健康・福祉分野への展開の可能性について議論したい。

健康福祉研究部会【課題B】シンポジウム
  • 日常生活動作解析から
    根本 みゆき
    セッションID: 2a1105-07-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    認知症の早期発見・早期介入方法の確立は喫緊の課題であり、その方策が様々に検討されている。筆者らは現在、AIを用いて、日常生活動作から認知症早期発見のためのスクリーニング手法の研究開発に取り組んでいる。具体的には、歩行の速度、リズム等の歩行動作の特徴、言いよどみの頻度や発話速度といった言語・音声的特徴、描画の速度や筆圧といった描画動作の特徴から、認知機能低下の程度を評価することが期待されている。認知症の診断やスクリーニングは、体液や分子イメージング等のバイオマーカー検査が侵襲的あるいは高額であることや、認知機能検査に対する心理的負担等の課題があり、筆者らの手段は非侵襲的で実行しやすいツールの一つとして近年注目されている。本シンポジウムでは、筆者らの研究成果および、認知症早期発見後のサポート・介入について実際の取り組みを紹介し、認知症早期スクリーニング技術を活用した先進的な認知症対策について議論したい。

  • 安田 和弘
    セッションID: 2a1105-07-02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    脳血管障害後に生じる半側空間無視(USN)とは、大脳半球病巣と反対側の視空間領域に存在する刺激を発見し、反応することができなくなる高次脳機能障害である。われわれは、バーチャルリアリティ(VR)技術を用いて、USN患者における無視領域を3次元的にマッピング化する技術を開発してきた。本システムの特徴は、無視症状が乖離するとされる近位(身体近傍空間)・遠位(身体外空間)の双方において、3次元的に無視領域を視覚化・定量化できることである。また、左USN患者は注意が非無視側に引き寄せられ、頸部や視線が常に非無視側を向く傾向が強い。この症状はMagnetic attraction(MA)として知られており、発症初期のUSN患者における特徴的な症状である。この問題に対するあらたな介入手法として、非無視側からの注意の「解放」と無視側への注意の「移動」を同時に誘導するための可動スリットシステムを併せて開発した。本シンポジウムでは、われわれが実用化した没入型VRを用いたUSNに対する3次元的評価および介入システムについて、患者に対する使用例と併せて紹介したい。

  • 樋口 貴広
    セッションID: 2a1105-07-03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    バーチャリリアリティ(VR)を運動学習の現場で活用することには、様々な期待がある。例えばドレッドミルを用いた単調な歩行リハビリに対して、連動して動く風景をVRで提示することにより、飽きずにトレーニングを継続できたり、環境に応じて歩行を調整する能力を高めたりする効果が期待される。しかし、いくらVR環境のリアリティ(没入感)が大きくても、奥行き知覚の違いや映像呈示の時間遅れなど、VR環境は実環境とは異なる側面がある。演者は現在、VRを運動学習の支援に生かすことを目的とした研究課題として、「高齢者を対象とした衝突回避能力の向上」ならびに「スポーツ動作が苦手な、いわゆる不器用な子(発達性協調運動症児)を念頭に置いた協調能力の向上」という2つの課題に取り組んでいる。本シンポジウムでは、この2つの研究課題で用いているシステムや現状の成果を紹介する。そのうえで、バーチャルリアリティを用いた運動学習の支援について、現状の考えを述べる。

健康福祉研究部会【課題C】シンポジウム
  • 障害のある人を対象にした実践からの気づき
    岩沼 聡一朗
    セッションID: 2a1112-14-01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日常的な運動不足は、障害のある人において、二次的な問題として心身機能の低下をもたらすことが懸念される。障害のある人の日常的な運動・スポーツの実施率は、障害種別によって異なるものの、一般的な人と比べると格段に低い。運動・スポーツへの参加に何らかの困難さがある場合、既存のやり方にこだわらず、「ルールや用具、身体活動の方法を個人の状況に応じて作り変えていく」アダプテッド的視点に立つことで、実践を可能にする。この視点は、研究成果を実践に応用する場合にも有効な視点なのではないだろうか。

     発表者は知的障害のある人たちへスポーツ活動の場を提供するスペシャルオリンピックスにて長年活動してきた。知的障害のある人たちは、運動不足に加え、肥満や早期老化などの健康問題を抱える人が少なくない。近年、スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人と知的障害のない人が共に活動をするユニファイドスポーツ🄬に取り組んでいる。そのようなスペシャルオリンピックスでの実践の中で発表者が得た気づきを紹介し、研究と実践の橋渡しについて考えてみたい。

feedback
Top