日本体育・スポーツ・健康学会予稿集
Online ISSN : 2436-7257
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学会本部企画
本部企画シンポジウム1
  • 林 洋輔
    セッションID: 1a101-03-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    体育学は人間の身体活動(身体運動)を研究対象とする応用科学、総合科学である。ところで2021年度から始まった学会内部の「横断部会」の軌跡を見渡すに、体育学がいま何を考え、そして向後にいかなる途を歩もうとするかについての視野が拓けてくる。本報告では体育学の全体像や学問としての独自性といった往昔の論題とその成果、「スポーツの価値」など再び勃興し始めた問題群、さらにメタ哲学(Meta philosophy)の知を動員することによる「体育学の目的」にも言及する。その結果、体育学の未来を担う若手・中堅研究者が講演後に共通して携えうる問題意識や問いの立て方、さらにこれから向き合うべき論題についての素材を提供したい。

     講演冒頭では「体育学史」を簡略に紹介することで議論の足場をつくる。具体的には「身体活動」を研究する歴史的な起源、制度としての体育学の誕生、現在に至るまでの軌跡を確認する。次に現在の学術界における体育学の位置づけと課題についても言及する。この言及中にはいずれ対峙すべき「健康・スポーツ科学の軍事利用の是非」といった重大な倫理問題も含まれる。最後に、国内外の社会そして世界のなかで体育学が果たすべき役割と意義そして目的について、横断部会のテーマを総覧・俯瞰しながらまとめていく。

  • 雨宮 怜
    セッションID: 1a101-03-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本体育・スポーツ・健康学会若手研究者委員会では、2024年3月から4月の期間において、「応用(領域横断)研究部会に関するアンケート」調査を実施した。

    調査回答者は467名(女性=104名、男性=350名、平均年齢=44.03歳、SD±12.14)であり、調査の結果、テーマ別シンポジウムへの評価に関する平均点は4.84(SD±1.40)点、テーマ別研究発表への評価の平均点は4.52(SD±1.41)点であった(回答方法:1―7の7件法)。また応用(領域横断)研究部会の継続に対して、同意する程度に関する質問への回答の平均点は6.48(SD=2.59)点であった(回答方法:0―10の11件法)。さらに、記述式の質問への回答から、上記の応用(領域横断)研究部会の取り組みを評価している回答者は、他分野の専門家との交流や情報共有の機会の獲得を評価の理由として挙げている一方、否定的な評価を示す回答者は、議論やテーマの狭さや薄さ、発表時間の短さ、基礎的な内容となることを評価の理由として挙げていた。

    本発表では、調査から得られた上記のような基礎的な情報に加えて、さらに詳細に分析した結果や、そこから読み取れる、会員の先生方が認識されている応用(領域横断)研究部会に対する期待や課題を紹介したい。

  • 研究の統合化と社会実装のための学際的な議論の場の創造をめざして
    來田 享子
    セッションID: 1a101-03-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    学会大会がどのような議論の場であれば、会員にとって学術的刺激となり、ひいては個々の研究成果が社会に還元されるものへと昇華されるのだろうか。本報告では、この問いについて会員と共に考えたい。

    本学会は2021年にその名称を「(一社)日本体育学会」から「(一社)日本体育・スポーツ・健康学会」に変更した。同時に、現代社会の要請に適合するよう定款第3条の本学会の目的が見直された。これらの改革に取り組みに関連する記録からは、専門領域間の連携協力により研究成果を統合し、社会に還元することが強く意識され、そのための戦略が模索されたことがうかがえる。この模索における挑戦のひとつが、専門領域を超え、応用研究部会に会員が参集し、テーマ毎にシンポジウムや発表を行う形式である。

    この形式での開催は、今大会で4年目を迎えるものの、改革の意図が十分に伝わっていないとの声が専門領域や会員から理事会に届けられている。そこで本報告では、理事会における模索の過程をたどり、5つの応用研究部会が置かれた意図を確認する。その上で、現理事会の検討委員会で進めている過去3年間の応用研究部会形式の成果の検証を紹介する。この検証結果を踏まえた同委員会からの冒頭の問いに対する提案を示すことにより、会員の議論を喚起したい。

本部企画シンポジウム2
  • 社会実装や自走・法人化への挑戦
    乾 真寛
    セッションID: 2a101-03-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    福岡大学は9学部2万人の学生が広大なワンキャンパスに集う、西日本でも有数の総合大学である。市営地下鉄、都市高速道路など交通機関の利便性も高く、市街の中心天神地区やJR博多駅からも、地下鉄で20分圏内という好立地が特徴である。

    2022年9月、福岡大学が地域のハブの役割を担い、自治体関連6団体、地元プロスポーツチーム、企業と共に「福岡大学スポーツ・健康まちづくりコンソーシアム」(通称:FUスポまちコンソーシアム)を設立した。初年度は9月以降で20事業約4千人の学外者が地域スポーツ振興のためのイベント、講座等に参加した。

    スポーツ庁委託事業「大学スポーツ資源を活用した地域振興モデル創出事業」にも2年連続で採択され、2023年度は大学周辺にある城南区6中学校の部活動地域移行トライアル事業(集合型と派遣型の併用)にも着手している。事業の継続、自走化を目指し、一般社団法人FUSCを設立し、持続可能な体制づくりと、大学キャンパスを核としたスポーツによる地域創生の取り組みを進めている。「スポーツで誰もが、ともに、つながるまちづくり」をスローガンに“新しい地域スポーツの価値創造基盤”の構築を目指している。これまで約2年間の取り組みについて報告する。

  • 高橋 孝輔
    セッションID: 2a101-03-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    胎内DEERSは2022年に前身から経営体制変更により誕生致しました。練習拠点である東京都調布市からホームタウンである新潟県胎内市に10年かけて移転を目指しているアメリカンフットボールクラブです。このような形態のクラブは他の競技も含めて全国的に珍しいのでないかと思います。私達が目指す、アメリカンフットボールを通じた地域活性化やその背景にある考えをご紹介します。

    胎内DEERSは「アメリカンフットボールを通じて幸福で豊かな10年後の未来を創る。」を理念として掲げています。DEERSと関わる人、DEERSが存在する地域にとって、DEERSがあったから、DEERSと関わったから幸福になった、豊かになった、社会で活躍できる人間になれた。こんな未来を創ることを目指しています。

    私達がクラブ理念による胎内市活性化の取組を重視する理由は、もちろん地域貢献をしたいという思いもありますが、クラブ経営でも重要と考えているからです。クラブが社会の中で高付加価値を発揮するためには、「スポーツは社会を幸福にする」という物語を構築・共有し、多くの人と一緒に実現することによって深い感動体験を生み出すことが重要です。この物語の構築・共有の輪を広げるための事業投資を継続的・計画的に行っていくことが必要と考えています。

  • 松永 敬子
    セッションID: 2a101-03-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    龍谷大学では、「スポ―ツ×地域活性化」をテーマに教育・研究活動を展開している。主な活動事例として、第1回大会京都マラソン2012から京都伝統工芸の活性化をめざし、西陣織などの伝統工芸関連組合と連携してランナー向けのブレスレッドなどを製作・販売し、都路を疾走してもらった。直近では京都マラソン2023・2024において、京飴の老舗企業と健康志向やランナー向けの京飴「龍谷玉」の共同開発を行った。これを契機に、2023年度から農学部との学際的研究プロジェクトを始動。「健康・スポーツ×新規名産品開発=地域創生」をテーマに、野生酵母を使用した高たんぱくアスリートデニッシュの試作品開発にチャレンジし、2024年度より「発酵醸造食品機能性研究センター」を本学瀬田キャンパス(滋賀県大津市)に設置した。今後は、総合大学の強みを活かした健康・アスリート性発酵醸造食品の試作品開発をめざし、2025年滋賀県「国民スポーツ大会」「全国障害者スポーツ大会」後のレガシーをめざしたビジネスモデルの構築について検討を始めている。当日は、これまでの取り組みを踏まえ、産官学連携およびエコシステムの構築に関する展望や可能性について発表する。

テーマ別シンポジウム
スポーツ文化研究部会【課題A】シンポジウム
  • 国際紛争の影響
    昇 亜美子
    セッションID: 2a1104-06-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年再び,国家の代表が出場する国際スポーツ大会における政治的中立性の問題について,2つの異なる側面から注目が集まっている。第一に,人権侵害やジェンダー・人種差別といった社会正義の問題への国際的な規範意識の高まりである。第二に,米国と中ロそれぞれの勢力圏が対立するような新冷戦といわれる国際的分断が,国際的メガ・スポーツ・イベントに持ち込まれている点である。本報告では特に、下記の課題について議論する。

    第一に、「政治的中立」の意味について、アスリートコミュニティを含む国際社会のコンセンサスが得られていない点である。IOCとIPCが参加を容認している「個人中立選手」の定義をめぐっても議論がある。

    第二に、大会において反戦やロシア・ベラルーシ選手の参加反対といった政治的意見が選手から表明される可能性についてである。

    第三に、国際紛争下におけるパラリンピックの政治的性格を指摘したい。ロシアでもウクライナでも、紛争下で、傷痍軍人のスポーツ参加を通してパラリンピックと軍との結びつきが強まっている。

    最後に、オリンピックとパラリンピックをめぐる国際的な分裂が、国際的なスポーツ運動そのものを分断する可能性についてである。ロシアが友好国を招待して大規模な国際的なスポーツイベントを開催している点などを議論する。

  • 黒須 朱莉
    セッションID: 2a1104-06-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2023年11月、国連総会で2024年パリオリンピック・パラリンピックに向けた通称「オリンピック休戦決議」が採択された。大会前後を含む期間の休戦を求めるオリンピック休戦は、古代オリンピックの休戦協定に由来する。休戦決議は1993年から大会前年の国連総会で採択されており、パラリンピックも対象に含むようになった。しかし、この休戦決議は機能不全に陥っている。周知のように2022年にロシアはウクライナに侵攻し、3度目の決議違反を犯したからである。これは、スポーツと平和における理想と現実を如実に表しているといえるだろう。他方、国際オリンピック委員会(IOC)は、ロシアによる3度目の違反に対し、初めて休戦決議違反を明白に非難し、違反国家と政治指導者にスポーツ側からの制裁を下した。しかしその後、ロシアとベラルーシ選手の参加を容認したIOCの判断に対しては国際的な批判も起こった。本発表では、この国際的な決議が確立した契機とその目的を確認しながら、オリンピック・ムーブメントの観点から「オリンピック休戦決議」の現在地と、今後の展望についての私見を示したい。

  • 野上 玲子
    セッションID: 2a1104-06-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツは戦争に対して無力なのか。「スポーツと平和」「オリンピックと平和」への研究を深めていく中で、無力感に苛まれることは多い。2024年5月、パリ五輪を控えているフランスのマクロン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、パリ五輪期間中の戦闘停止を呼び掛けたが、「休戦はロシアの思うつぼ」と返され、拒否された。ロシアのプーチン大統領も五輪休戦を支持しない意向を示唆した。そもそもオリンピックと戦争は別物であり、オリンピックがどのような平和運動を展開しても、戦禍は続くという現実がある。かといって、そのような無力感によって戦争から目を背けるのではなく、戦禍の中で開催されるオリンピックだからこそ、「平和」のために何ができるかを考え続け、「平和」への想像力を働かせることが重要であろう。21世紀の武力戦争という問題を、スポーツ、オリンピックはいかにして立ち向かい、「平和」を創出していけるのだろうか。

    本シンポジウムでは、ドイツの哲学者カントが1795年に記した『永遠平和のために』の平和思想をもとに、「世界市民」や「歓待の権利」の観点から、現代の「スポーツと平和」「オリンピックと平和」の分析を試み、検討していく。

スポーツ文化研究部会【課題B】シンポジウム
  • 佐藤 善人
    セッションID: 2a1111-13-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    教師や指導者にとってスポーツは教育の手段である。例えば体育授業では「知識及び技能」や「思考力・判断力・表現力等」などを育成しなければならないし、学校教育全体では「体力・運動能力」の向上が求められている。地域のスポーツクラブでは、少しでもよい成績を収めるために,指導者は上手くなることを子どもに強いるし、チームワークの必要性を殊更に説く。一方、子どもにとってスポーツは目的であり内容である。子どもはスポーツの面白さに魅了され、自己目的的に挑戦する。その瞬間にこそ子どもにとっての教育的意義があるように思われる。このように両者の立場からスポーツの教育的価値を比較すると、乖離が生じていることは明らかである。

    本シンポジウムでは、子どものスポーツ場面での具体的な出来事を例示しながら、子どもにとってのスポーツの教育性を問い直してみたい。私たち大人は、スポーツを教育の手段としてのみ用いるのではなく、子どもにとっての遊びとしての価値を基軸として指導に当たるべきであろう

  • 早期専門化とマルチスポーツに注目して
    永野 康治
    セッションID: 2a1111-13-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツに伴う怪我はつきものと言われるが、とりわけ子どもにとっては成長に伴い身体が大きく変化する時期であり、怪我の発生がスポーツ実施の妨げとなり,さらに生涯にわたるスポーツ活動に支障を来す場合も少なくない。近年、「年間の大半にわたり高強度に1つの種目に注力する状態」を「スポーツ専門化」と呼び、早期に専門化が起こることで特定の動作が長期間繰り返され、身体の同一部分に負荷が加わり続けることで慢性的なスポーツ障害発生につながることが危惧されている。一方で、複数種目を実施するマルチスポーツは早期専門化を防ぎ、障害発生を減らし、パフォーマンスアップにつながる報告がある。しかし、こうした知見は本邦とはスポーツ実施環境が異なる欧米を中心とした議論に留まっている。我々の調査によると、本邦におけるマルチスポーツ実施率は欧米に比較して大幅に低く、早期専門化が起こりやすい状況であった。一方で、マルチスポーツ実施者は実施頻度が高く運動負荷が高くなる傾向もみられた。本発表では本邦における早期専門化やマルチスポーツの実施状況の実態や、スポーツ障害発生との関連を明らかにすることで、今後のスポーツ活動の形・場について検討する。

  • 山口 大輔
    セッションID: 2a1111-13-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    「スポーツには世界を変える力がある。人の心を揺さぶる力がある。他ではできない方法で人々を“ひとつ”にする力がある。子どもたちに理解しやすい言語となって語りかける。暗闇の中に光を照らし、希望をもたらすことができる。政治よりも強い力となって人種の壁を崩せるものである。あらゆる差別も笑い飛ばしてしまう。」

    ネルソン・マンデラが言ったように、スポーツには私たちの人生に大きな影響と学びを与えてくれる素晴らしい力がある。スポーツ本来の力を解放することで、子どもたちは動くことの楽しさを体感し、目標に向かって成長する喜びを実感し、仲間の個性を尊重して力をあわせる大切さを体験できる。指導や教育を行う側の私たち大人がスポーツの持つ力を理解し、“うまく”活用することで子どもたちの限りないポテンシャルを引き出すことが可能になる。勝敗や優劣ばかりではないスポーツの“真の価値”を伝えていくために大事なこととは何なのか、「場」「空間」のありかたとはどのようなものなのかについて、考えたい。

学校保健体育研究部会【課題A】シンポジウム
  • 内田 匡輔
    セッションID: 2a705-07-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    中央教育審議会は、2019年4月に文部科学大臣から「新しい事時代の初等中等教育の在り方について」諮問されたことを受け、「令和の日本型学校教育」の構築を目指す答申を2022年1月に発表した。そこには、「子供たちの多様化」として、障害のある子供たちの増加と多様化、特定分野に特異な才能のある児童生徒の存在、外国人児童生徒数の増加、さらには18歳未満の子供の貧困率、いじめの認知件数、暴力行為の発生件数、不登校児童生徒数はいずれも増加傾向にあることが述べられ、学校は「これまで以上に福祉的な役割や子供達の居場所としての機能を担うことが求められている」。

    このような役割を求められる学校の学習指導要領には、「共生の視点」が示され、教科「体育・保健体育」にも、インクルーシブ体育の実践が急務である。また、学校体育は、教科「体育・保健体育」を包含することから、教育課程内外における体育的活動を全てに対する合理的配慮の必要性も窺える。

    本発表では、障害者差別解消法の改正を受けて義務化された合理的配慮が、学校体育に与える影響の有無という点に着目し、学校における体育的活動のひとつひとつが、全ての子供達たちにとって、安心安全な居場所づくりの一助として機能するための情報共有を目的としている。

  • 国際社会学の視点から
    小ヶ谷 千穂
    セッションID: 2a705-07-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本の学校現場において、「外国につながる子ども」の存在が顕在化して久しい。文部科学省も日本語指導が必要な児童生徒」の数を発表しており、また教育課程における日本語指導や外部日本語教員の派遣など「日本語指導」の面では一定の制度化が進んでいる。また、地域社会と学校現場が協同しながら、外国につながる子どもたちの成長を見守る仕組みが生まれてきている地域もある。しかしながら、必ずしも「日本語能力」だけでは判断しきれない、外国につながる子どもたちを取り巻く課題は多様である。なぜ「外国につながる子ども」たちが増加し、それぞれどのような多様な現実(在留資格、国籍、家族関係、出身国との関係など)を抱えているのかについての、日本社会側からの想像力、さらには学校現場における理解は依然として十分とは言えない現実があるだろう。

     本報告では、「外国につながる子ども」の現状とかれらをとりまく諸課題について紹介するとともに、これまで報告されてきた学校現場における「外国につながる子ども」の教育課題を整理することを通して、学校保健体育分野での共生教育の実現を目指される先生方との対話の場を作ることを目的としたい。

  • 久保 元芳
    セッションID: 2a705-07-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    共生社会の実現に向けた学校保健体育の貢献として、ジェンダーへの配慮を含むセクシュアリティの課題に取り組むことは不可欠である。特に近年の日本では、国際比較の視点からジェンダーギャップやセクシュアリティ教育の内容などについて、取り組みの不十分さが指摘されることも多く、喫緊の課題と言える。

    一方で、日本の学校教育の制度やそれを取り巻く環境等を改めて見直し、活用を図るならば、今後の学校保健体育において、児童生徒がジェンダーへの配慮を含むセクシュアリティに関する課題に気づき、そうした課題の解決に向けた資質・能力を身に付ける機会を充実させることが期待できる。例えば、現行の学習指導要領で重視されているカリキュラム・マネジメントの考え方に基づいた取組は効果的であると考える。

    本報告では、学校保健体育におけるジェンダーに関する課題の例として月経等を取り上げながら、体育科・保健体育科の「保健」はもとより、「体育」、特別活動、運動部活動等の機会を含めた学校教育活動全体で効果的に取り組む指導の推進に向けての提案を行う。それを踏まえ、共生社会の実現に向けて学校保健体育が持つ可能性についての議論を深める契機としたい。

学校保健体育研究部会【課題B】シンポジウム
  • 武田 雅裕
    セッションID: 2a712-15-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    中学校体育授業で実施する長距離走単元にペース走の時限を配置し、そこに変動練習の方法を持ち込んだ。シンポジウムでは、その具体的な事例を紹介する。授業では生徒の能力に合わせて個別に設定した目標タイムを再生させる課題を与え、その誤差のチームメンバーの和を最小にするように練習させた。シンポジウムにおいては、そこで得られた1)目標タイムの変動が生徒の取り組みに与える効果、2)集団で誤差を最小化する課題設定の効果を提示する。変動練習によって、自分にとって良いペースそしてそれを維持する運動感覚が研ぎ澄まされた。また、集団で練習することによって他者の意見に基づいて多角的に自らの感覚を振り返り、工夫を加える場面がみられた。実際に天候や気温などによって生徒の動機づけが左右される側面はあったが、ペース再生感覚を精緻化できる教育効果は通常の長距離走訓練法では得難いと思われる。当日はこの成果の紹介に加えて、他者からの援助という変数を介在させて生徒全体に一定以上の動機づけを与える方策を提案したい。

  • 樋口 俊祐, 桜井 伸二
    セッションID: 2a712-15-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    小学生が立ち幅跳びを習得する過程を運動学的・動力学的に捉え、小学生の跳躍距離に関する継時変化に影響を与える運動要因を検討した。下肢関節のキネマティクスに学年間の差はなかったが、腕の振り方に学年間の差が見られた。学年が上がるにつれて、体重あたりの水平地面反力の最大値が増加した。腕の前方スイングの反作用から地面に対して強く後方へ押す力が確保できたことがこの結果をもたらしたと考えた。跳躍距離を従属変数とした重回帰分析をもとに、立ち幅跳びの飛距離を伸ばす指導をするには、学年を問わず前方への腕振りの速度を高める必要があると考えた。また、跳躍距離に対して低学年では股関節の伸展速度の貢献度が大きく、中学年・高学年では膝関節角の伸展速度の貢献度が大きいことが明らかとなった。この知見をもとに、低学年から高学年に向けて立ち幅跳びの跳躍距離を伸ばす指導ポイントを示したい。本来は体力測定の検査試技に過ぎない立ち幅跳びを教材として扱う意義を示すことで、シンポジウム全体で比較的簡易な課題を扱った主体的な学びの場の構築可能性を議論したい。

  • 幾留 沙智
    セッションID: 2a712-15-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    学習者が自身の取り組みを予見・遂行制御・自己省察という3つの段階で循環させながら進めていく学習を自己調整学習という。筆者は、スポーツ競技者の自己調整学習能力を検討し、予見段階が計画と自己効力感という方略及び動機づけに規定されること、遂行制御段階がセルフモニタリングとエフォートという方略及び動機づけに規定されること、そして自己省察段階が評価・内省という方略に規定されることを報告した。さらに本邦最先端水準のスポーツ選手にそれぞれの段階実施の優越が見られたことから、上記5つの方略及び動機づけに通底する練習に対する「主体性」が卓越した競技能力を獲得する重要な条件であると考えた。今回の講演では、自己調整学習理論の紹介を通してスポーツ選手に求められる「主体性」の具体的なかたちを示しながら、これまで本部会が主張してきた「主体的」な学びを促す可能性を提示したい。また、当日報告・提案される学校現場での取り組みや指導法と自己調整学習との接点についても可能な限り触れていきたい。

  • 梶田 和宏
    セッションID: 2a712-15-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    高校生・大学生・社会人の各世代で「心と体を一体として捉え、生涯にわたる心身の健康の保持増進や豊かなスポーツライフの実現」を目指して、学校保健体育はいかに貢献できるだろうか。DX時代の教育改革では、高校・大学・社会(以下、高大社)のトランジションが求められており、人が潜在的に持つ身体の可能性を顕在化するために、我々は主体的・対話的に身体に向き合う学びのあり方を学校保健体育の枠組みの中で統合的・発展的に考察する必要がある。そこで本発表では、高校・大学・生涯にわたる身体の教育を見据えた保健体育の可能性とあり方について論じる。具体的には、これまでわが国で蓄積されてきた学校保健体育の身体性に関する多角的エビデンス(総合知)を概観し、主体的・対話的に身体と向き合う高大社を貫く保健体育のかたちを議論したい。そのために、大学体育が身体性の教育に取り組む上で再検討すべき課題と主体的・対話的な学びを高校から大学へ拡張する見通しを提案する。そこから最終的に、学校保健体育から生涯スポーツに繋げる新たな視点を提示し、体育・スポーツ・健康科学に関する研究において、今後集積すべき科学的エビデンスについて議論を深めたい。

競技スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 高井 秀明
    セッションID: 2a905-08-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    昨今の急速な科学技術の発展は、競技者を取り巻く環境に大きな変化をもたらし、科学技術の活用がパフォーマンスの良し悪しに影響を及ぼすといっても過言ではない。科学技術は、スポーツ科学の様々な研究領域で競技者のパフォーマンスおよびその関連データを客観的に評価するために利用され、さらには競技者の解像度を上げるために貢献できるものと期待されている。しかしながら、客観的な評価基準を定めにくいスポーツ心理学の領域では、科学技術の活用事例は限定されている。スポーツ心理学の領域においては、競技者自身に新たな気づきを得てもらう目的で、競技者に内省してもらう機会を提供したり、心理検査を利用して自己分析してもらう機会を提供したりすることがある。本シンポジウムではこれまでのスポーツ心理学のアプローチに加え、心理面に関係する生体情報を競技者自身にうまく活用してもらえるよう試みた事例も紹介する予定である。そして、競技者には様々な心理的な特徴があるため、それらの特徴を考慮したうえで競技者の解像度を上げるポイントについても提案したい。

  • 上田 憲嗣
    セッションID: 2a905-08-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    競技力を向上させるため、競技者、指導者、保護者といったステークホルダーは、互いに連携して、日々パフォーマンス改善・向上に取り組んでいる。また、それぞれが目標設定を行い、その目標が達成されたかどうかを評価し、自らの目標を実現しようとしている。こうしたプロセスにより、成功した競技者は高い自己受容が得られるものの、成功しなかった競技者は、失敗を経験したことが身体的・精神的な状態に影響を与える。こうしたスポーツの競技力に向き合う経験は、成功、失敗に関わらず、競技者の成長に影響を与えると報告されている。しかし、我が国の競技者を対象とした競技力育成のためのプロセスが、競技者の身体的・精神的のみならず、社会的にも満たされた状態を示す「ウェルビーイング(Well-Being)」に与える影響に関する報告はいまだ寡少である。

     そこで、シンポジウムでは、これまでジュニア〜ユース期の競技力育成として、地域タレント発掘育成プログラム(TID)に関係してきた事例より、競技者のウェルビーイングに与える影響に関する情報提供を行う。その後の議論を通じて、競技スポーツの豊富化に向けた展望について考えたい。

  • スポーツ現場への活用
    松生 香里
    セッションID: 2a905-08-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    アスリートは競技力の向上を目指し、試合で勝利を得るため、日々トレーニングに励んでいる。日常の体調管理が充分な選手でも、試合前など何らかのストレスが引き金となり、体調不良に繋がる場合がある。選手の緻密な体調管理は、起床時の心拍数や体温、尿中の指標等をはじめとする生理学的指標が活用され、基礎的研究から得られた情報に基づいて、指導者やスタッフとともに各選手のコンディションの把握を行うことが多い。

    本シンポジウムでは、アスリートの生理学的指標と活用したコンディショニング対策を中心に、主に長距離・マラソン選手を対象とした合宿時の簡易的な測定データの活用事例、スポーツ現場での調査研究について紹介する。研究者側は、スポーツ現場での情報や疑問から、基礎研究ベースでの検証を行い得られた知見に基づいて現場の糧になるよう還元を目指すが、研究と現場との隔たりが生じる場合も否めない。

    選手と指導者・スタッフの現場における対応実例について触れるとともに、生理学的指標を中心とした情報の利活用が「効果的であった点・改善が必要であった点」等について共有し、生理学の立場からスポーツ競技を豊かにする方法についてディスカッションしたい。

  • 藤澤 潔
    セッションID: 2a905-08-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2016年リオパラリンピック以降、パラスポーツ界を取り巻く環境は急激な変化を見せた。専用拠点が整備されると、代表活動に拘束される日数が増加し、競技活動を継続するために十分な時間・資金を確保する必要が生じた。代表チームがフィジカル強化を方針に掲げると若手が台頭し、全体的な競技レベルが向上した。

    私自身、武器であるシュート技術を発揮するため、フィジカルを鍛え直すことへ意識が向くが、代表争いは熾烈を極め、シュート確率に一喜一憂する機会が多くなった。

    パラリンピック金メダル獲得という最大の目標を達成するためには、技術・体力面へ意識を向けるだけでは足りず、心理面へのアプローチが不可欠と感じ、筒井氏とのメンタルトレーニングを2017年に開始した。具体的な取り組みとして、日々の感情を振り返り日記に書き出す(現状認識、言語化)、状況と対処のイメージトレーニング(予期、対策)、対策の実行、定期的なセッション(整理、改善)を行った。

    結果、様々な感情に気づき、不安や焦り緊張、時には喜びを感じる自分を知ることができた。日々の振り返りは大義を意識させ、どうありたいかを考え行動し続けることができた。競技に集中するために必要な言動を考える力は、予期や対策の精度向上に繋がった。「全てを使い切る」ということを心理面で取り組んだことにより、身体においてはパワーだけでなく、土台となる体幹など麻痺の境界線まで使い切るという感覚が向上した。

    評価と選考が続き、大会開催が不確実だったコロナ禍においても、自身の解像度を高め続けたことが上質な行動に繋がり、その積み重ねがパフォーマンスと成長に繋がったと考える。

    当日はこうした経験について共有させていただき、フロアの皆様と活発にディスカッションしたい。

競技スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 山口 香
    セッションID: 2a913-16-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2023年9月26日に、日本学術会議、健康・スポーツ科学分科会より「社会参加につながるスポーツのあり方」についての報告がなされた。本報告では、スポーツが持つ身体や精神への有益性に加えて、スポーツを通じて社会的弱者、さまざまな格差の下位にある人々、好ましくない環境に生活せざるを得ない人々などが、差別や孤独から解放され、社会とつながっていくための力となる可能性についても言及している。その一方で、本邦の現状をみると、未だ

    スポーツの世界にも格差や差別が存在し、スポーツのへの参画や恩恵を全ての人々が享受できていない現実が存在することを指摘している。本報告書で示された、すべてのひとの社会参加につながるスポーツのあり方に関する現状と課題を整理し、本シンポジウムの議論の礎とする。

  • 高岡 英氣
    セッションID: 2a913-16-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    競技スポーツが社会理念の実現に貢献するための最もオーソドックスな方法は、自らの実践においてそれを体現することではないだろうか。本報告では哲学の立場からシンポジウムのキー概念である多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の概念整理を試み、その体現が本当に可能なのか検討する。

     社会理念としてのダイバーシティは、1960年代アメリカにおいて、個人の属性による雇用差別を禁じた雇用機会均等法の中で登場したものである。1980年代以降、グローバル化やサービス経済化の進展において、多様な人材の活用により企業の競争優位を獲得する「ダイバーシティ・マネジメント」が注目され、企業経営の手法として位置づけられていった。一方、ソーシャル・インクルージョンは1970年代のフランスでソーシャル・エクスクルージョンとの対比において登場したものであり、障害者、薬物依存症者、非行少年といった社会的に排除された人々を支援し、社会に包摂することを目的とした概念である。すなわち前者は企業経営、後者は社会政策という、全く異なった文脈に由来する概念である。

     こうした認識を前提として、競技スポーツの実践と両者の親和性の有無について考察していく。

  • 歴史的観点から
    松浪 稔
    セッションID: 2a913-16-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツは現代社会を映し出す鏡である。現代は、人間一人ひとりの個性を尊重し、様々な価値観を共有する多様性の時代といわれている。それはスポーツにおいても同様であり、だから「競技スポーツは多様性の包摂に貢献できるか」というテーマが設定されているのだろう。とはいえ、このテーマの奥には「競技スポーツは多様性を包摂することができる」という主張がみえ隠れしている。

     SDGsで知られる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択されたのが2015年。「誰一人取り残さない」というキーワードが多様性を包摂する社会の確立を目指すことにつながっている。そこでまず、スポーツにおける多様性とは何かを確認したい。

     次に、近代スポーツはこれまで人間の持つ多様性にどのように対峙してきたのか考えたい。特に取り上げたいのは、スポーツのなかの女性(ジェンダー)、障がい者、国籍(人種、民族)などである。女性や障がい者などがスポーツに参画する際に生じていた障壁を確認することは、現代社会や競技スポーツが多様性を「あたりまえ」に受け入れるためにも、重要なことだと考えている。

  • 運動生理学的観点から
    山田 満月
    セッションID: 2a913-16-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    2020年の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会においてトランスジェンダー女性が女性として競技に参加して以来、トランスジェンダーの競技スポーツへの参加に対する賛否両論が世界的にメディアに取り上げられるようになった。これらの報道を受け、近年では多くの競技団体がトランスジェンダー女性選手の競技への参加規定を設けており、中には出場禁止を宣言している団体も存在する。ここでは主に、トランスジェンダー選手の競技スポーツ参加への現状を把握し、運動生理学分野における科学的根拠から多様な人々が認められる社会づくりについて検討していきたい。トランスジェンダー女性では男性ホルモン濃度が高値であること、また骨格の特性が女性と異なることで、アスリートとして有利になるという懸念がある。生命医学研究や医療において十分に研究が進んでいないが、これまでの科学的知見からトランスジェンダーの身体機能やパフォーマンスについて理解していくことが必要となる。運動生理学分野から観たトランスジェンダーの競技スポーツへの参加を中心として、多様性の尊重と社会的包摂に向けた議論をしていきたい。

生涯スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 中西 純司
    セッションID: 2a305-07-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    人間中心の超スマート社会(Society 5.0)とそれに伴うスマートシティ構想は、DX化によって、人間のWell-beingの向上をめざしている。しかし、こうした便利で効率的な社会は本当に、人々のWell-beingな生活を実現することができるのだろうか。むしろ、「人間中心の社会」とはいえ、DX化(≒人間の手間を省くの)と引き換えに、人間の主体性や思考力・創造力、および身体能力などを退化させてしまう「人間的貧困」(宇沢、1989)をもたらし、人間的可能性(幸福を追求し健康で文化的な生活)が淘汰される「リスク社会」(Beck、1986=1998)へと変貌していくのかもしれない。

     それゆえ、こうした人間崩壊社会におけるスポーツの「文化」的な役割(価値)の再考は、21世紀生涯スポーツ社会の創新にとっても喫緊の課題である。いってみれば、スポーツは、「身体運動の制御・表現」(伊藤、1974)の楽しみや喜びを自発的に求めていく点に独自の意味があり、「不便で面倒くさい運動に自ら進んで挑戦しなければ得られない価値(益)」がある「不便益」(川上、2019)文化なのである(中西ほか、2020)。

     本発表では、「スポーツの価値」を総論的に提示しながら、次代に向けて、スポーツという「不便益」文化を継承し、人間的可能性の開発との好循環を創出する必要性について議論を深めたい。

  • 渋倉 崇行
    セッションID: 2a305-07-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    青少年がスポーツ活動を行う場として運動部活動がある。運動部活動は、参加者の現在と将来における健康を実現する機会として重要な役割を担っており、そこでの経験が参加者の幸福(well-being)に及ぼす影響は極めて大きい。しかし、スポーツ活動の内容によっては、参加者はそのような運動部活動の効果を得られないどころか、心身の健康を脅かす様々な不利益を被る可能性もある。一方、生涯にわたる健康を実現するための機会が運動部活動に内在していると考えるならば、たとえ運動部活動がストレスを含む活動であったとしても、参加者がその環境への適応を試みることは重要なことである。

    筆者はこれまで、運動部活動におけるライフスキルやストレスマネジメントをテーマとして研究を行ってきた。その主な関心は参加者がスポーツの価値に触れることができる活動条件を見出そうとすることに他ならない。そして、現在は研究の知と実践の知とを結びつける活動に軸足を置き、コーチ育成を展開している。これからの時代に求められるグッドコーチには、参加者がスポーツの価値に触れられる活動環境を整えたり、参加者の環境への適応力を育んだりすることに向けた指導力を備えることを期待したい。

  • 髙橋 徹
    セッションID: 2a305-07-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツの価値を考えようとする際に避けては通れない論題が、「スポーツとは何か」という問いである。なぜなら、スポーツという言葉のもつ語意に対する一定の共通了解なしには、「スポーツの価値とは何か」についての答えの範囲がどこまでも広がり得ると考えられるからである。

     しかし、スポーツを定義づける試みは容易なものではない。その理由の一つとして、スポーツという言葉の指し示す範囲が状況によって変化しすぎることが挙げられる。今やスポーツの厳密な定義や範囲の決定はほとんど不可能であるとさえ指摘されている(林、2024)。

     このようにスポーツの価値に関する議論には困難が伴うものの、本発表ではスポーツを経験するという視点からスポーツを照査し、スポーツの特徴を考える上での一つの視座の提供を試みたい。例えば、元来スポーツは身体性という特徴がゆえに、我々の身体に対し直接的な経験を提供する文化として認識されてきたが、近年のテクノロジーの進化によって、身体という制限を放棄した形でもスポーツが存在し得ることが示されている。このような状況を直接経験と間接経験という観点から議論することで、スポーツの価値に関する議論の一助を示したい。

生涯スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 菊 幸一
    セッションID: 2a312-14-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツと公共性との関係が問題とされ始めたのは、そう古い話ではない。少なくとも19世紀以降の近代スポーツは「ブルジョア」スポーツや「アマチュア」スポーツと言われていたように、ある特定の(上・中流)階級や階層(学生・企業)に閉じられた活動として存在し、その公共性は主に教育的価値(教育的公共性)によって長らく担保されてきたからである。しかし、1990年代以降の現代スポーツ状況(大衆化と高度化の急速な進展)は、よりオープンな政治・経済・社会との関係を深めることによって、これまで隠蔽されてきたスポーツにおける格差や不平等などを社会問題化した。つまり、それは、スポーツにおける公共性に対する社会(市民)的な問いや関心の現われであり、公共性(official, open & common)の対象としてスポーツがみられている一証左でもある。そこで本発表では、「社会の中のスポーツ」という観点からスポーツの公共性を考え、社会に求められる市民的公共性構築に向けた「メディアとしてのスポーツ」の意義や価値を改めて歴史社会的に論じる。そのためには、近代スポーツの社会発生をレジャー概念に求めるとともに、そこでの社会的性格が現代スポーツの公共的性格とどのようにつながり、スポーツの大衆化と高度化との関係をどのように持続可能なものにしていけるのかを考える必要がある。

  • 久木留 毅
    セッションID: 2a312-14-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    東京2020大会以降,エリート・スポーツ領域での国際会議などにおいて,その発表内容に変化が生じていることはあまり知られていない。例えば,大会前は国際競技力向上に関するものが多かったが,大会後はアスリートの安全を守るためのセーフガーディング,メンタルヘルス,アスリートのウェルビーイング,そして環境に配慮したアスリートの行動などSDGsに関するものも見受けられる。そこで,ここでは国際競技力向上にスポーツ医・科学,情報面から関与しているハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)の取り組みについて,東京2020大会以後の現状に関して紹介したい。HPSCでは,地域社会への知見の還元を考え「ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ」という考え方を掲げて様々な取り組みを行なっている。特に,アスリートの発掘・育成・強化の道筋であるアスリートパスウェイと地域で行われているタレント発掘事業などにも触れつつ,現在のエリート・スポーツに関する状況を共有したい。その上で,スポーツの持つ公共性への関与について議論を深めたい。

  • 下窪 拓也
    セッションID: 2a312-14-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本が格差社会と呼ばれて久しい。格差は、学力や進学機会、希望といった将来への意識、文化および経済的な生活水準、そして健康状態など、さまざまな領域で不平等を引き起こす。すくなからず経済的あるいは時間的な資源を必要とする運動・スポーツ参加もまた、この格差の問題とは無関係ではいられないだろう。運動・スポーツ参加は健康の維持向上につながることから、運動・スポーツ参加の格差は健康格差にもつながる可能性がある。さらに、親の運動・スポーツ経験は子の運動・スポーツ参加に影響することから、世代を超えた運動・スポーツ参加格差の再生産が生じている可能性も考えられる。

     本報告では、いくつかの統計資料を参考に、運動・スポーツ参加の格差について確認する。具体的には、経済状況や学歴、職業などの社会経済的状況による運動・スポーツ参加状況の差異を整理し、ライフコースを通じた運動・スポーツの参加格差の現状を概観する。そして、運動・スポーツ参加の格差がもたらす帰結について議論していきたい。

健康福祉研究部会【課題A】シンポジウム
  • 山田 実
    セッションID: 2a205-07-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    今、フレイル対策(≒介護予防)領域において、『運動の専門家』の需要および期待度は高まり続けている。この10年だけみても、当該領域で活躍する『運動の専門家』は激増しており、その経験値や専門性は飛躍的に上昇した。それに伴い、これまでの運動の指導ができる専門家から、フレイル対策・介護予防を包括的に管理できる専門家としての活躍が期待されるようになりつつある。社会的にフレイル対策・介護予防の認知度が向上し、これらへのニーズが高まり続ける中、『運動の専門家』が有しておかなければならない考え方とは何か。最新の知見を紹介しながら、『運動の専門家』として有しておくべき情報を整理したい。

  • 大高 千明
    セッションID: 2a205-07-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    健康寿命の延伸、健やかな生活に向けて、多方面で様々なフレイル対策が行われているが、骨盤底フレイル(骨盤底機能不全)による骨盤臓器脱や尿失禁などのトラブルに対する予防や改善に向けた取り組みは不十分な現状がある。骨盤臓器脱や尿失禁などは、プライベートな問題を含み、明るみに出にくいことから、隠れたハイリスク者が多く存在するといわれている。生命に直結することではないため、医療分野において積極的な治療が進んでいないが、不快感に悩まされるだけなく、趣味や仕事など行動の制限から、引きこもりや離職など社会的な影響まで、さまざまな問題に繋がるため、生活の質(quality of life : QoL)を豊かにしていく上で、看過できない。そのため、骨盤底フレイルの予防・改善に向けた取り組みは、喫緊に解決すべき課題であると考えられる。男性と女性、それぞれに特有の骨盤底機能障害がみられるが、特に女性の場合、妊娠出産などライフイベントの影響から、骨盤底の支持組織が弱化しやすく、トラブルが生じやすい。

    本報告では、女性を対象に開発・作成した「骨盤底機能年齢推定式」や、骨盤底機能と生活習慣や体力・運動能力との関連について紹介するとともに、骨盤底フレイルの予防啓発に向けて、どのような取り組みが必要であるのか考えていきたい。

  • 運動との併用効果検証
    松井 崇
    セッションID: 2a205-07-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    孤独は運動不足や肥満よりも重大な心身の健康リスクであり、フレイル予防には運動、栄養、休養とともに社会参加が重要である。1人でする運動は心身の健康を増進するが、孤独解消には直結しない。一方、他者と対戦を楽しむスポーツは孤独解消に寄与しうるが、プレーに体力水準の壁がある。この壁を越える一策として、ビデオゲームの対戦によるeスポーツが期待される。私どもは、eスポーツのオフライン(対面)プレーが、オンラインとは異なり、絆ホルモン「オキシトシン(OT)」を通じて若者の絆形成に寄与することを報告した(Matsui、ICSSPE、2024)。この際、心拍数や笑顔の同調が対面でのみ生じ、免疫機能も亢進する。高齢者におけるeスポーツの対面プレーは、若者と同様に笑顔の時間と強度を増やし、動的なプレー姿勢を引き出す。日頃軽運動に取り組む高齢者がeスポーツの対面プレーを3ヶ月間追加実施したところ、ストループ課題で評価した実行機能がOTや心理的絆と関連して脳トレビデオ鑑賞よりも向上する。したがって、eスポーツの対面プレーはOTによる絆形成を通じて高齢者の認知機能に及ぼす運動効果を増強するフレイル対抗策となりうる。

健康福祉研究部会【課題B】シンポジウム
  • 坂本 拓弥
    セッションID: 2a212-14-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の目的は、子どもたちが身体的存在として生きていることを、体育哲学、特に身体論の立場から示すことである。この試みは、デジタル化が急速に進む今日の社会や学校において、子どもたちが何を、どのように経験し、またそれが子どもたちにとってどのような意味を持っているのかを考えることでもある。

     子どもを身体的存在と捉えることは、我々の持つ「子ども観」を変える可能性がある。例えば、子どもが友達と上手く付き合えないという事象は、「思いやり」といった心の問題ではなく、むしろ他者との身体的なかかわりの問題として捉えられる。それは同時に、従来の体育において体力や運動の技能に限定されてきた子どもたちの身体の力を、より広い文脈に置き直し、その「豊かさ」を示すことにもなる。

     そのような身体の力は、学校や家庭を含めた生活の場において、子どもたちが多様な身体的経験を積むことによって培われる。だからこそ我々には、スポーツ運動に囚われず、子どもたちの身体そのものに改めて目を向け、その身体を豊かに育むとは如何なることなのかを探求することが求められるだろう。さらにはその「豊かさ」が、デジタルが隅々まで浸透する社会において、子どもたちの存在と生に実感を与えることを示していきたい。

  • 武藤 芳照
    セッションID: 2a212-14-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    現代の子どもたちの身体活動と運動・スポーツは二極化しており、過多によるスポーツ外傷・障害が多く発生する一方、過少に伴い体力・運動能力の低下、運動器機能不全・生活習慣病の増加という現象を起こしている。こうした「運動器疾患・障害」が、中央教育審議会答申(2008年)にも「子どもたちの現代の健康課題の一つ」として位置づけられ、次いで学校健康診断の中に運動器検診が本格的に導入された(2014年)。しかし、検診後の事後措置としての運動器の健康に関わる保健指導や予防教育が、必ずしも十分に対応できていない現実があり、その活動の担い手として、公益財団法人運動器の健康・日本協会(BBJ)が養成する「認定スクールトレーナー」(ScT)の構想が生み出された。

    ScTは、医療国家資格である理学療法士が、BBJの実施する所定のカリキュラムに則した講習と試験を経て取得する新たな資格であり、小・中・高等学校等において、地域の医師(整形外科医・学校医等)と連携しつつ、文部科学省の推進するコミュニティ・スクール(地域学校協働活動)の一環として、児童生徒等の運動器の健康増進と運動器疾患・障害に関わる保健指導と予防教育の活動を担う役割を果たす。

    一人一人の児童生徒等が、「動く喜び 動ける幸せ」を実感して、生涯健康で幸福な日々を過ごすことができるように、全国でこの体制が広がっていくことを希望している。

  • 母親調査を手がかりに
    宮本 幸子
    セッションID: 2a212-14-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    笹川スポーツ財団が実施した「小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究」(2017,2022)では、子どものスポーツ活動にあたり母親が家庭内・チーム内においてケアの役割を担う実態や、その役割をめぐる葛藤などを、質問紙調査およびインタビュー調査から明らかにしてきた。調査からは「子どものスポーツ」のはずが保護者の負担や人間関係といった「大人の事情」に苦しむ母親の姿が浮かび上がり、保護者やクラブ関係者から共感の声が届くようになった。

    同時に、本研究は常に「子どものために親がサポートするのは当たり前」「親のサポートがあるから活動の費用が抑えられ、多様な家庭の子どもが参加できる」などの指摘や批判を受ける。本部会のテーマである「子どもを誰一人取り残さない」「健やかな成長に寄与するスポーツ活動」と、「『子どものため』を理由に保護者の負担を看過しない」「家庭に過度に依存しないスポーツ活動」とは、どのように両立できるのか。本報告では前提となる調査結果を紹介するとともに、学校や地域社会を含めた子どものスポーツ環境を考える上での論点を提示して議論につなげたいと考えている。

専門領域別企画
体育哲学 浅田学術奨励賞受賞記念講演
  • 髙橋 徹
    セッションID: 1a1801-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本研究の目的は,体育学分野の研究としてデューイの教育論を取り上げる際の議論の前提を再構築するために,その理論の主張や立場を正確に把握することであった.そしてその上で,体育学分野におけるデューイの教育論受容の経緯とその影響について明らかにすることであった.

     デューイの教育論は日本の教育に大きな影響を与えたと言われているが,その理論は経験主義の立場へと矮小化して解釈されることがある.しかし,本来のデューイの教育論は,近代教育が想定する系統主義対経験主義,受動的学習対能動的学習などの枠組みではなく,経験の再構成を通した子どもの成長という教育観に立つことで,いずれの方法であるにしろ子どもの成長に対して意味のある経験を提供しようとする教育の考え方である.したがって,それは従来の近代教育の枠組み自体の積極的な解体と再構築を目指した理論として捉えることができる.

     現在でも,体育学の分野ではデューイの教育論を取り上げた研究が継続的に行われている状況にあることから,そこで提出された研究成果を批判的に検証する際には,デューイを矮小化して解釈することなく,その理論の主張や立場を正確に認識しておくことが今後の建設的な研究の進展のためには必要になる.

体育史 キーノートレクチャー
  • 歴史からの検証
    中村 哲也
    セッションID: 1a1601-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本スポーツ界における体罰やしごき、厳格な上下関係といった問題は、長年にわたり問題視され、議論の対象となってきた。特に、2012年に発生した桜宮高校バスケットボール部事件以後、日本スポーツ界における体罰問題は、一般社会も含めて強く関心を持たれるテーマになっている。

     しかし一方で、本研究テーマに関する実証研究は不足しており、体罰の実態とその変化、体罰が発生・拡大した要因等について、具体的に明らかになっているとはいいがたい。そこで本報告では、野球界を中心にして体罰・しごき・上下関係といった事柄は、いつ、どのようにして発生するようになったのか。その実態はどのようなものだったのか。それらが発生・拡大することとなった要因はなにか。これらの疑問に対して歴史学的な方法論を用いて実証的かつ構造的に明らかにしていく。さらに、その知見を踏まえて、日本スポーツ界から体罰・しごき等を根絶するために必要と思われる具体的な方策を提言する。

体育社会学 キーノートレクチャー
  • 現状と格差対策へのヒント
    鎌田 真光
    セッションID: 1a701-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    人々の身体活動量は収入や学歴などの社会経済的要因の影響を受けている。その影響の方向性は身体活動のドメイン(余暇・仕事等)で異なるほか、「座って非活動的な時間」はデスクワーク中心のホワイトカラー職種で顕著である。子どもに目を向けると、未就学児と小学生では世帯収入とスポーツクラブ・運動部の加入割合の関連が示されている。

     このような社会経済的要因による行動の格差は、介入によっても助長され得る(Intervention-generated inequalities)。往々にして、情報提供やメディア・キャンペーンなどの“下流”の介入単独では格差拡大につながりやすく、格差縮小には、環境整備や職場ぐるみの組織的対策など“上流”の介入や、社会経済的に不利な状況にある集団に焦点を当てた介入など様々な取り組みが必要と考えられている。

     本講演では、演者らが行ってきた具体的な介入の事例として、地域の運動実施率向上に世界で初めて成功したクラスター・ランダム化比較試験(島根県雲南市)、主観的家計状況に基づく身体活動格差の縮小に成功した多面的地域介入(神奈川県藤沢市)、プロ野球パ・リーグの公式アプリ「パ・リーグウォーク」で利用者の世帯収入や学歴によらず歩数が増加した知見なども紹介し、今後必要となる対策を考える機会としたい。

体育社会学 ワークショップ
  • 千葉 直樹
    セッションID: 1a702-02-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    このワークショップでは、鎌田先生のキーノートレクチャーの内容を参考にして、子どものスポーツアクセスの格差解消に向けて参加者間でグループを作り話し合いを行います。このワークショップを行う問題意識は、「子どものスポーツ格差」拡大をどのように食い止めるべきかにあります。例えば、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2018年度の子どもの貧困率は13.5%でした。さらに清水編(2021)は、2018年に岐阜県多治見市で児童・生徒とその保護者に大規模な質問紙調査を行い、親の学歴や年収と子どもの学力や体力に密接な関係があり、「子どものスポーツ格差」が拡大していることを指摘しました。文化社会学者の片岡栄美(2024)は、2023年に首都圏の母親を対象にウェッブ調査を行い、親の収入や学歴など社会的地位が高い家庭の子どもほど、学校外で習い事やスポーツ活動など多様な経験をしていることを報告しました。これらの先行研究は、日本社会で階層によるスポーツ格差が拡大する傾向を指摘しています。このワークショップでは、「子どものスポーツ格差」について様々な立場の研究者が自分の意見を交換し、「学び合う」ことで解決策を考えます。

体育心理学 キーノートレクチャー1
  • 理論と実践の新たな統合へ向けて
    山田 憲政
    セッションID: 1a301-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    日本におけるスポーツ心理学の萌芽と、情報理論を運動解析に初めて応用したフィッツの古典的実験に焦点を当て、以下の二つの側面からスポーツ心理学の発展に寄与することを目指す。

    1.学問分野の成熟と基盤の強化:日本におけるスポーツ心理学の萌芽を検討し、その独自性を明らかにすることを試みる。学術的基盤を再考することで、現在の実践への過度な依存を批判的に見直し、理論と実践の健全なバランスを再構築し、分野全体の洗練と進化を促進することを目指す。

    2.理論的基盤の拡充と古典研究の再解釈:情報理論を運動解析に初めて応用したフィッツの古典的実験を取り上げ、私たちが発案した軌道の情報処理分析を用いた現代的な再解釈を通じて、スポーツ動作へのフィッツ則の適用の意味を検証する。この学際的アプローチを通じて、速さと正確さを同時に最大化する可能性を探り、理論の深化を図りつつ、結果として実践に近づくことができるという点を示す。これは、スポーツ心理学の知識と実践への拡張を具体的に例証するものである。

体育心理学 キーノートレクチャー2
  • スポーツ心理学研究者・実践者・経営者として
    筒井 香
    セッションID: 1a302-02-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    大学教員を目指していた私がなぜ起業の道を選んだのか?周りからも「博士号まで取ったのに大学教員にならずになぜ起業?」と疑問に思われることもある。でも実は博士号を取ったからこそ起業したと言える。巷に溢れかえる謎のメンタルトレーナーたちを見て、「これは危険だ。でもどうすることもできない」と感じた時に、博士号を持つ自分が起業をし、体育・スポーツ心理学の理論を活用した正しいメンタルトレーニングを会社という枠組みで形にしなければならない、という勝手な使命感が生まれたからである。この道を確立することは、アカデミックな人材の職域を広げることへの挑戦でもある。だからこそ、起業経営の道一本では意味がない。実践者・経営者である自分のキャリアを築きながらも、大学と連携することを大切にし、インターンシップ生の受け入れや学会での委員を務めることも積極的に行い、研究者として調査や論文執筆に取り組む責任も自分に課している。大学の強みもあれば、企業の強みもあり、最終的に目指す道は社会課題の解決を実現することに他ならない。「どちらの強みにも触れている人材だからこそできるアプローチとは?」「心理学を活かしてどうやって社会に貢献し、それを生業として生きていくのか?」という問いに、研究者・実践者・経営者としてどう向き合い続けているかについて共有する時間としたい。

バイオメカニクス キーノートレクチャー
  • 多自由度運動制御の統一的理解を目指して
    萩生 翔大
    セッションID: 1a1701-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトの運動は冗長な自由度を有している。そのため、個性豊かな多様な運動が生み出されるが、一方で、この多様性が運動の普遍的な理解を複雑にする側面もある。そういった中、筋活動の制御面に焦点を当てると、異なる動作や個人間の共通性が見えてくることがある。筋は運動制御系の最終出力器官であり、筋電図によるその活動の計測は、運動の制御過程を理解するための重要な手法の1つである。しかし、特定の運動に関与する多数の筋から得られる膨大なデータを、どのように解釈すればよいかという問題が浮上する。この問題に対処するために、筋間の協調性に着目した考え方が浸透しつつある。例えば、歩行動作に関与する多数の筋の活動時系列は一見複雑であるが、個々の筋電図間の関係性を統計的に分析すると、その信号は歩行の相に対応した少数の活動パターンの組み合わせとして説明することができる。こうした共通の活動パターンを持つ筋のまとまりは、筋シナジーと呼ばれている。こうした手法により、運動を簡略化してとらえ、運動制御の共通性や相違性を定量的に示すことが可能となる。本講演では、筋協調の観点から異なる運動や個人における運動制御の共通性と相違性をとらえた研究を紹介しながら、筋活動の協調構造が持つ理由や意義、今後の可能性についても議論したい。

体育経営管理 セミナー1
  • スポーツ文化のさらなる発展を目指して
    齊藤 隆志, 出口 順子, 佐野 昌行
    セッションID: 1a1901-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    これまで体育経営管理専門領域および日本体育・スポーツ経営学会では、「みるスポーツ」を娯楽として消費される一過性のものではなく、永続的な文化的営みとして捉え、日常生活を豊かにするという視点から研究を進展させてきた。またスポーツを観る人についてもスポーツを「みる力」に関する研究プロジェクトを通じてその力量構造を解明し、育成支援のためのスポーツプロデュースのあり方について議論してきた。

     この度「スポーツをみる」ことについてのこれまでの研究的知見を整理し、学会編として取りまとめて出版した。このセミナーにおいては、これまでの研究成果をもとに「スポーツをみる力」について概観したのち、出版するにあたり実施した調査の結果について報告する。1つ目は、スポーツをみる人たちの観戦スタイルに関する調査報告である。現在では試合会場での観戦だけでなく、オンラインでの観戦機会も増えている。その現状について報告するとともに、オンラインでの観戦の楽しさについても言及する。2つ目はアーティスティックスポーツに焦点を当てたスポーツをみる力についての調査報告である。特にフィギュアスケートを対象とした観戦能力の構造について報告する。

体育経営管理 セミナー2
  • 吉廣 精人
    セッションID: 1a1902-03-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    福岡県では2023年3月に「福岡県における地域クラブ活動の構築に向けたガイドライン」を策定し、生徒がスポーツ・文化芸術に親しむ環境の整備と教師の働き方改革に取り組んでいる。そこで本セミナーでは、本県における部活動の地域移行をめぐる方針・進捗状況を説明するとともに、今後の取組を提示する。具体的には以下、3点について説明・報告していく。

     まず、本県における部活動の地域移行の方針等について、本県が作成したガイドラインをもとに説明する。

     次に、本県に所在する市区町村の地域移行の進捗状況を説明する。特に、スポーツ庁からの委託事業である「地域スポーツクラブ活動体制整備事業(地域スポーツクラブ活動への移行に向けた実証事業)」において、昨年度、地域移行を進めた市町村の取組や、今年度、実証事業に取り組んでいる市町村の進捗状況等についても紹介する。

     最後に、今年度の本県の取組について、説明する。

  • 坂下 玲子
    セッションID: 1a1902-03-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    熊本市部活動改革検討委員会は、市教育委員会からの諮問を受け、子どもの多様な体験の機会を確保するとともに、持続可能な運営を図るための今後の在り方について、10回にわたって議論をおこなった。本委員会で大切にしたのは、子どもたちのスポーツや文化活動との出会い、成長の場としての機会を減らさないことと現在部活動に参加していない子どもたちも参加できるようなさらなる充実であった。

     議論のなかで、学校部活動の教育的意義、地域の受け皿の確保が見通せない状況であること等を踏まえ、学校部活動を継続させることとした。新たな部活動の在り方として、教職員や地域人材で指導を希望する者が指導することを前提とし、地域人材を指導者として確保するための人材バンクの設置、学校・指導者との調整等を行うコーディネーターを配置すること、新たに発生する費用(指導費及び人材バンクの運営に係る費用)について、公費負担と受益者負担の在り方を整理する等を含む、4つの基本方針と具体的施策を示した。実現に向けての課題も多く、ご参加の皆様より専門的な立場からのご意見等を頂戴したい。

発育発達 キーノートレクチャー
  • 鈴木 宏哉
    セッションID: 1a1401-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツ基本計画の中では「生涯にわたって運動やスポーツを継続し、心身共に健康で幸福な生活を営むことができる資質や能力(いわゆる「フィジカルリテラシー」)の育成を図る。」としてPhysical Literacy(PL)が登場する。International Physical Literacy Associationは“Physical literacy can be described as the motivation, confidence, physical competence, knowledge and understanding to value and take responsibility for engagement in physical activities for life.”と定義している。生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を育成することを目標とする学校体育とフィジカルリテラシー・PLは極めて近い概念である。カナダではLong-Term Athlete Developmentの文脈でPLが紹介されており、一般の子供だけでなく、競技者を目指す子供にとってもPLは重要視されている。国内では、定義や用語も定まっておらず、測定方法に関する研究も緒に就いたところである。本発表では、諸外国のPLの定義や測定方法、そして国内の調査・研究の一部を紹介したい。

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