体力科学
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相撲力士の体力科学的研究 (その2) (関取の体力と発達)
小川 新吉古田 善伯山本 恵三永井 信雄
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1973 年 22 巻 2 号 p. 45-55

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抄録

巨大な体格, 豪力の持ち主であると考えられている現役上位力士) (関取) の形態, 機能の測定および調査を行ない, 種々なる検討を試みた。
形態的な測定
1.関取の平均身長は180.2cmと, 日本人としてはずばぬけて大柄な集団であるが, スポーツ選手の大型化を考えるとき, 特筆すべき特徴とは考えられない。
2.体重は平均122.2kgと超重量級で, ローレル指数も平均210.5と異常に近い充実度を示し, この超肥満体に力士の特徴がみられる。身体の軟組織に富む周囲径, 特に腰囲は, 114.9cm, 臀囲は115.7cmと著しく大きく, 皮脂厚 (3部位の合計) も109.9mmと驚くべき肥厚を示し, 力士の体型の特徴は皮脂厚の異常なまでの発達にあることがわかる。
機能の測定
3.背筋力の平均は181kg, 握力左右平均47.9kgと予想したほど大きくなく, オリンピックの重量挙や投擲選手以下である。筋力の測定方法等に問題があるにしても, 筋力は形態に比べ予想外に発達していないと考えられる。
5.垂直とび47.9cm, サイド・ステップ35.1回, 腕立屈伸21.4回と, 体重が負荷となるテストでは体重の影響が問題となり, スポーツ選手としては著しく小さい。
6.しかし, 身体の柔軟性や全身反応時間等は肥満体にもかかわらず, さして劣っていない。
7.被検力士の平均肺活量は4918.6mlで, 巨体の割には小さい。
8.ステップ・テストの評点は平均49.4, 体重増が負担となり, 同年令成人より著しく劣っている。
総体して, 形態の発達に比べて, 呼吸循環器系機能の発達が明らかにアンバランスになっていると考えられる。
力士の発育・発連
9.一部関取の形態につき, 過去4年間の測定結果を追跡調査した結果では, 身長の伸びはほとんどみられないが, 体重, 胸囲の発達は著しく, 特に体重では6~29kgの著明な増大がみられた。
10.上位と下位の力士を比較すると, 上位力士は形態, 特に体重, 周囲径が優れており, 機能面では上位と下位の間にそれほど著明な差違は認められない。したがって, 相撲競技では, 形態の大小が勝負に大きく関与していると考えられる。
11.以上の結果を総括してみると, 力士は形態の発達には著しい特徴が認められるが, 機能面では, 他種目の一流スポーツ選手と比較し, 伸びが著しく劣っている。
これらについては, 伝統的な練習方法や稽古, 生活様式等に考慮すべき問題があると考えられる。
謝辞: 本研究は文部省の特定科学研究費, IBP.HA班の研究助成金をえて実施されたことを銘記しておく。なお, 本研究について, 多大の理解と好意を賜った日本相撲協会の武蔵川理事長, 故秀の山監事, さらに直接御協力を願った各部屋の親方, 責任者, 関取衆に感謝の意を表するものである。

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