抄録
各種距離走, 各種持続時間の階段昇降運動および200m走繰返し負荷の最高血圧に及ぼす影響について検討を加え以下の点を明らかにしえた。
(1) 各種距離走の直後値は100m全力走で最も高く, 1, 500m走まで高レベルに維持された。しかし更に走行距離が延長すると, 直後上昇度は縮小するようになった。そしてこの傾向は5, 000m走までは顕著であったが, それ以降は停滞ないしは緩慢となった。
(2) 以上の成績を長時間の運動における最高血圧の消長に適用できるとすれば, Edwardの曲線のような消長を示すことになるが, 他の成績よりすると, 最初低く完走時も低い, 最初低く完走時は高い (ラスト・スパートに由来する) , 最初高く完走時も高い, またはEdwardの曲線のように最初高く完走時は低い (疲憊に由来する) など複雑な血圧上昇度の消長を示す可能性があることが判った。
(3) 10, 000m走の途中数回暫時運動を停止させ測定した最高血圧の上昇度と, 血圧測定時点における400m当りの走行所要時間との間にはr=0.698P<0.01という強い相関があり, 上述の長時間の運動における複雑な血圧の消長は大部分途中におけるペースの変動に基づくものと推測された。しかし持続時間の長い運動における血圧上昇度の縮小傾向には陰性相の際と同様に体液性および神経性降圧因子の影響の関与も否定できない。
(4) 距離の延長で陰性相への突入は早くなりまた達する深さも増す傾向があるが, 深さの増大は5, 000m走以上では停滞し, 降圧への抵抗の強力な一線の存在が想像された。
なお5, 000m走以上の各走行の最も深い陰性相平均は何れも運動前値の80%前後であった。また特に下ばなれた例を除く最も深い陰性相の下限と家兎でのアドレナリン性陰性相の下限 (平均動脈血圧であらわされるが, ある投与量を越すと安定した深さを示す) は何れも70%前後であり, この数的な一致は注目された。
(5) 鍛錬者は非鍛錬者に比して全力運動では最高血圧上昇度が高く, 持久性の運動では直後上昇度の運動持続時間延長による低下は軽微であった。何れの場合も鍛錬者の方がより高い激度の運動を行いうることにより招来されたものと考えられる。