抄録
小児がんの治療は日々進歩し,現在では4人に3人の子どもたちが治る時代になった.しかしこれは適切な診断・治療を受けられた場合である.全世界で毎年発症する小児がん患児の約8割は,適切な治療・ケアにアクセスできず,多くの尊い子どもたちが命を落としている.国や地域で医療の格差が生じている要因として,診断・治療の遅れ,治療中断・拒否,さまざまな資源の不足,感染予防などの治療環境の不備,社会経済的な理由が挙げられる.問題は複層的である.よって,ダイバーシティ・ホリスティックな視点を持ち,医療面と同時に社会・経済・福祉・文化・習慣面から地域に根ざした事業を展開する必要がある.
国際協力において,現場の実情を正しく理解し,ステークホルダーのニーズを把握することは欠かせないプロセスである.その上で,ヒト・モノ・カネ・情報,そして時間という資源の面から計画立案,実行,評価,フォローアップを実施していくことになる.そこで何より大切なことはコミュニケーションであり,知識・経験の共有,課題解決へのアイディア創出が,真の国際貢献につながると考える.
国・経済力・家庭環境にかかわらず,適切な診断・治療・ケアが確実に提供され,ひとりでも多くの小児がんの子どもたちが笑顔で成長していくことを願ってやまない.そのためにも,連帯と実践を積み重ね,日本が持ち合わせた資源を総動員し,積極的かつ協調的な国際協力の体制を推し進めていくことが求められる.