抄録
我が国における特に小児悪性脳腫瘍の治療体制には極めて重大な問題があると言わざるを得ない.例えば,悪性度の高い頭蓋内胚細胞腫に対して,素晴らしい手術が行われ,MRI上,見事に全摘された症例があった.しかし,この腫瘍の病態を理解していれば,更に放射線化学療法が行われなければならないが,残念ながらその症例は,おそらく全摘されたが故に,後治療が行われず,数か月後には元通りの大きさの腫瘍の再発を来してしまった.これはほんの数年前の実例であるが,この腫瘍に対して,手術だけで治癒する可能性はなく放射線化学療法の追加が必要であることを,勉強していなかった担当医の責任なのか,あるいは我々のこれを知らしめる努力が足りなかったのか.
一方で,小児悪性脳腫瘍のここ数年の欧米における基礎研究の進歩はめざましいものがある.NatureやScienceといった雑誌に次々と論文が掲載され,疾患分類も見直されつつある.治療戦略も見直しが行われる動きが始まっているが,この動きに我が国は大きく遅れを取っている.
遅ればせながら,日本脳腫瘍学会と日本小児神経外科学会が共同で始めた遺伝子解析ネットワーク形成の動きや,新たなAMED受託費を用いた小児科医と脳神経外科医が協力して行う臨床試験・臨床研究ネットワークがスタートする.