日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム(教育セッション)6: 小児凝固・線溶異常症の新たな治療戦略
小児血友病A治療における第VIII因子代替bispecific抗体
野上 恵嗣
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2016 年 53 巻 2 号 p. 69-74

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抄録
小児血友病Aにおける現在の重大な課題として,第VIII因子製剤の頻回経静脈投与とそれに関わる血管アクセスの問題,製剤投与後に発生するインヒビター出現とその止血治療が挙げられる.これらの課題に対し,ヒト型bispecific抗体(ACE910,一般名emicizumab)が創薬された.本抗体の抗原部位の片方に第IX因子,もう一方に第X因子が結合し,両因子がリン脂質膜上で適切な位置関係を維持することにより,第VIII因子代替作用を発揮するコンセプトである.前臨床試験のサル後天性血友病Aモデルで,本抗体は出血に対する止血効果および自然関節出血の出血予防効果を示した.そこで,本抗体の薬物動態,薬効そして安全性に対しての第1相臨床試験が,本邦で健常人64名,血友病A患者18名を対象に開始された.本抗体関連の重篤な有害事象は認めず,本抗体の血中半減期は約30日であった.週1回の皮下投与により,出血回数はインヒビターの有無に関係なく減少した.現在,その継続試験である第1/2相臨床試験が継続中である.bispecific抗体は長時間作用を有し,皮下投与であり,さらにインヒビターの有無に関わらずに出血を予防し得る利点から,小児血友病A患者の長年の課題を克服し,その結果QOLが著しく向上することが期待できよう.
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© 2016 日本小児血液・がん学会
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