日本小児血液・がん学会雑誌
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教育セッション3: 感染制御
耐性菌時代の血液腫瘍領域における感染症診療
堀越 裕歩
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2016 年 53 巻 2 号 p. 91-96

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抄録

WHOは耐性菌に対して“No action today, no cure tomorrow 今,行動を起こさなければ,明日の治療はない”という声明を出した.新たな耐性菌の出現に対して,新規抗菌薬の開発が追いついておらず,抗菌薬のない時代に逆戻りしてしまうことが真剣に危惧されている.既に医療だけでなく,国際的な公衆衛生上の問題として考えられている.人での菌の耐性獲得のリスクは,腸内細菌群などに代表される菌叢へ抗菌薬が曝露することで選択圧がかかり,病原性菌に耐性遺伝子が水平伝播することである.抗菌薬などの抗微生物薬の適正使用を勧めるには,Antimicrobial stewardship program (ASP) が有効である.広域抗菌薬の処方に制限をかけるだけでなく,治療の標準化,培養適応の適正化,Therapeutic drug monitoring (TDM) などの介入は多岐に渡る包括的なプログラムである.医師個人の経験的な治療のみに依存せず,病院がシステムとして適正使用を推進する.感染症診療の原則である臓器診断,病原体診断をして,予想される微生物のスペクトラムをカバーする治療を適切に行う.組織的な適正使用の推進によって,少しでも耐性菌の出現を遅らせて,未来の子供たちに治療の選択肢を残してあげることが重要である.

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© 2016 日本小児血液・がん学会
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