抄録
遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis: HS)は赤血球膜タンパク異常を有する溶血性貧血として最も代表的な疾患である.本研究ではHSをその他の溶血性貧血であるサラセミア,ヘモグロビン異常症,赤血球酵素異常症,自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia: AIHA)それに鉄欠乏性貧血と健常人の末梢血液塗抹標本〔Wright-Giemsa (WG) 染色〕での赤血球形態観察とeosin-5'-maleimide (EMA) による赤血球の染色像を共焦点レザー顕微鏡で観察,それに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でのヘモグロビン分画,SDS-polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE) による赤血球膜タンパク量の測定を行い,HSを他の溶血性貧血から鑑別を試みた.その結果,脾臓摘出前のHSの多くは末梢血液像で小型球状赤血球が多数出現し,それらの赤血球EMA染色像は健常人に比し暗く染色されていた.HPLC像ではHSは異常波が出現しなかったが,他の貧血例ではそれぞれ特徴のある波形がみられた.脾摘前のHSではSDS-PAGEでのband 3タンパク量の減少しているものがあり,EMA染色像も暗いという相関がみられた.また脾臓摘出後のHSの赤血球EMA染色像は健常人のそれに比し暗いが,脾臓摘出より明るく染色されていた.その他の溶血性貧血では赤血球のEMA染色像は明るくそれぞれ特徴のある染色像を示し,また,SDS-PAGEでのband 3タンパク量や他のband像も健常人との差はみられなかった.
以上からEMA染色像の暗さやHPLC像それにSDS-PAGE像からほとんどの脾摘前や脾摘後のHSでも他の貧血例から鑑別できたが,その他の検査のSDS-PAGEによる膜タンパク分析でも確定できず,DNA解析が必要とされる診断が困難な症例もあった.