日本小児血液・がん学会雑誌
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多診療科シンポジウム (教育セッション): 造血幹細胞移植
造血幹細胞移植前処置としての放射線治療
秋庭 健志
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2016 年 53 巻 5 号 p. 384-390

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抄録

造血幹細胞移植前処置の目的は適切な免疫抑制と抗腫瘍効果である.このため大量化学療法とともに放射線の全身照射(TBI)が用いられる.前処置にTBIを用いる利点として,強力な免疫抑制効果と化学療法の聖域への抗腫瘍効果がある.疾患の状況や患者の状態,移植ソースの適合状況などにより,TBIを含むか否か前処置レジメンが検討される.小児では特に移植後の成長や発達,二次癌などの影響を考慮する必要がある.一般に低年齢児へのTBIはできるだけ避けるべきとされる.近年では静注ブスルファン(BU)の導入によりTBIと同等の成績が報告されている.放射線治療装置はTBI用には作成されておらず,各施設の状況に合わせた技術的な工夫が必要である.TBIの方法はさまざまであるが,線源体軸間距離を長くとったLong SAD法が,特殊な追加設備を要さず比較的導入が容易なため多くの施設で用いられている.他に寝台移動法などが一部の施設で用いられている.線量分割に関しては,骨髄破壊的前処置では肺線量を8 Gyに補正した12 Gy/6回/3日が,骨髄非破壊的前処置では2–4 Gy/1–2回が多く用いられている.非腫瘍性疾患の場合には抗腫瘍効果は不要のため,TBIの代わりに主要なリンパ組織や造血骨髄をターゲットとした全リンパ節照射(TLI),胸腹部照射(TAI)も用いられる.新たな方法として,トモセラピーや強度変調回転放射線治療(VMAT)技術を用いた全骨髄照射(TMI)が導入されている.今後も長期的なQOLの向上を目指した移植前処置の開発が望まれる.

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© 2016 日本小児血液・がん学会
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