日本小児血液・がん学会雑誌
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教育セッション9: 組織球症
組織球症の病態解明と治療の進歩
森本 哲
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2016 年 53 巻 5 号 p. 428-435

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抄録

組織球症,すなわち,組織球が増殖する疾患の代表的なものとして,血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic LymphoHistiocytosis: HLH)とランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans Cell Histiocytosis: LCH)がある.前者はマクロファージ,後者は未熟樹状細胞の増殖症である.

HLHは,細胞傷害性T細胞またはNK細胞の過剰活性化に伴う二次的なマクロファージの増殖症である.一次性HLHは,T細胞/NK細胞の殺細胞分子のperforin自体,または,perforinを内包する殺細胞顆粒の細胞内輸送・細胞外放出の障害による,細胞傷害能の低下が根本にある.EBウイルス関連HLHでは,EBウイルスに感染したCD8陽性T細胞のクローナルな増殖により生じる.HLHの標準治療はetoposideとdexamethasoneによる免疫化学療法であるが,抗interferon-γ抗体の治験が行われており有望である.

LCHは,骨髄に由来する未熟樹状細胞の形質を持つLCH細胞の腫瘍性増殖に,重度の炎症が合わさった「炎症性骨髄性腫瘍」である.LCH細胞にはRAS/ERKシグナル経路の遺伝子にBRAF V600Eを代表とする活性化変異がある.病変部位にはLCH細胞以外に好酸球やリンパ球,マクロファージ,破骨細胞様巨細胞などの炎症細胞浸潤があり,これらが互いに活性化し合い,オステオポンチンやIL-18, CCL2を代表とする炎症性サイトカイン/ケモカインが多量に分泌され,組織破壊が生じる.リスク臓器病変陽性多臓器型LCHの生命予後はシタラビン/ビンクリスチンの導入により著しく改善したが,再発と非可逆的病変が問題である.今後,BRAF阻害剤などの分子標的療法が期待される.

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© 2016 日本小児血液・がん学会
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