日本小児血液・がん学会雑誌
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教育セッション2: 急性リンパ性白血病
ダウン症候群に合併した急性リンパ性白血病
岡本 康裕
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2018 年 55 巻 3 号 p. 217-222

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抄録

ダウン症候群(DS)において急性リンパ性白血病(ALL)の発症する頻度は,非DS-ALLの20倍とされる.21番染色体上にあるHMGN1の働きでリンパ系の増殖が起こり,さらにP2RY8-CRLF2融合などによるCRLF2の過剰発現により,JAK-STATの活性化が起こり,ALL細胞が増殖するという機序が考えられる.このCRLF2の融合はDS-ALLの50–60%に認められる.現在,CRLF2の下流のPI3KとmTORの阻害薬や,TSLPR/CRLF2抗体などが開発中で,JAK2阻害薬は第二相試験が米国で開始された.世界の研究グループからの658例を対象とした後方視的研究では,DS-ALLの8年無病生存率は64%で,非DS-ALLの81%より有意に低い.DS-ALLでは,予後良好である高二倍体やETV6-RUNX1異常などが少ないこと,予後不良のCRLF2の異常が多いこと,また粘膜障害,感染合併症などによる副作用死亡が多いために,ALLの治療成績の向上の歴史から取り残された.しかし,最近のDana-Farber癌研究所の報告では,38例と少数であるが,5年無病生存率が91%で,非DS-ALLと差がなかった.微小残存病変などによるリスクに応じた適切な治療や,適切な副作用対策を行えば,DS-ALLの治療成績が改善する可能性がある.このためDS-ALLを独立した疾患として特化した臨床研究が望まれる.DS-ALLの希少性を克服するために,シンガポール,マレーシア,台湾,香港と日本が参加する国際共同研究が2018年に始まった.微小残存病変をフローサイトメトリー法によって評価し,予後良好群では治療を軽減する.本試験によりDS-ALLに対する標準治療が確立され,さらに特異的な治療が開発されることが期待される.

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© 2018 日本小児血液・がん学会
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