日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム4: 血液基礎・核ダイナミクスからnon-coding RNAによる細胞制御
B前駆細胞性急性リンパ性白血病の統合的microRNA解析
窪田 博仁上野 浩生平松 英文滝田 順子
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2021 年 58 巻 5 号 p. 350-357

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抄録

小児B細胞前駆体急性リンパ性白血病(BCP-ALL)において,近年の網羅的ゲノム解析とトランスクリプトーム解析により多様な遺伝子異常が明らかにされてきた.予後因子による治療層別化により治療成績は向上してきたが,診断時に低リスク群と分類された患者が依然として再発の大半を占めており,再発のリスクが高い患者を予測するための新たな戦略が必要である.microRNA(miRNA)は,mRNAに結合してその遺伝子産物の発現レベルを制御するnon-coding RNAであり,様々ながんにおいてバイオマーカーや治療標的となりうると報告されている.しかし,小児BCP-ALLにおけるmiRNAプロファイリングの統合的解析を報告した研究は少ない.我々は,小児BCP-ALLにおけるmiRNAとmRNAの発現プロファイリングを包括的に調べるために,再発患者を多く含む140人の検体を対象に解析した.miRNA発現データのクラスタリング解析により,miRNAの全体的な低発現を認める特徴的な一群(miR-low cluster; MLC)が同定され,MLCはBCP-ALLの既知の遺伝的サブグループとは関連していなかった.MLCに分類された患者は予後不良であり,Hyperdiploidの症例においても予後が悪かった.さらに,診断時にMLCでない患者の一部が再発時にMLC様のmiRNAの発現プロファイルを獲得した.miRNAとmRNAの統合的な解析の結果,MLCでは発現低下したmiRNAにより,発がん性シグナル伝達経路の遺伝子群の発現が亢進することが示唆された.今回の解析結果より,小児BCP-ALLにおけるmiRNAとmRNAの統合的な解析の重要性が示され,miRNAに基づく分類がリスク層別化を改善し,BCP-ALLの治療成績の向上が期待される.

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