日本小児血液・がん学会雑誌
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58 巻, 5 号
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第62回日本小児血液・がん学会学術集会記録
特別講演1
  • 堀部 敬三
    2021 年 58 巻 5 号 p. 331-339
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    近年,小児がんの治療成績は著明に改善し,5年生存率が80%以上に達している.しかし,がんは依然として小児期の疾病による主な死因であり,また,治療後長期にわたり合併症等によって命や生活の質が脅かされる懸念がある.しかし,ゲノム情報に基づいたバイオマーカーや治療薬の開発,遺伝子改変技術を用いた免疫細胞治療,さらに,再生医療等製品を用いた機能修復や治療開発が進んでおり,より安全で有効な治療法の確立が期待される.一方,わが国の小児がんの長期追跡データが存在しないため,小児がんレジストリに基づく長期コホート研究が望まれる.小児がんの多くで予後不良である思春期・若年成人(AYA)世代の標準治療の確立も課題であり,成人臨床試験グループと連携した治療開発が望まれる.研究体制については,日本小児がん研究グループ(JCCG)によりデータセンターや免疫・遺伝子,病理,画像の中央診断・試料保存のシステムが整備されており,試料・情報の効果的な利活用の推進が期待される.医療体制については,小児がん拠点病院を中心とした地域連携体制が整備されつつあるが,着実に進む少子化への対応も必要である.医療のゴールは,病気の治癒だけでなく,患者の健全な成長発達と自立を支援することである.患者・家族と意思決定の共有(Shared Decision Making)が大切であり,研究開発においても患者・市民参画の推進が望まれる.

特別講演2
  • 志村 浩己
    2021 年 58 巻 5 号 p. 340-345
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    東日本大震災に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故により,特にチェルノブイリ原子力発電所事故後に発生した小児甲状腺癌が心配されたため,福島県民健康調査「甲状腺検査」が震災の約半年後に開始された.本検査は,甲状腺超音波検査による一次検査と,5.1 mm以上の充実性結節等を指摘された受診者に対する二次検査から構成されている.一巡目検査にあたる「先行検査」は,過去の知見から放射線被ばくによる甲状腺癌発症の潜伏期間と考えられている期間に実施され,また,2014年度からは2年毎に実施される「本格検査」が開始されている.二巡目の検査までの評価では,放射線の影響は考えにくいとされている.現在,2020年度から開始した5巡目の検査を実施している.甲状腺癌にはリスクが極めて低いものが多く含まれていることが知られており,小児~若年者の甲状腺癌も一般的に予後良好とされているが,成人と比較して癌の自然歴に関する知見に乏しく,より慎重な対応が求められている.本検査では,関係学会のガイドラインに従い,甲状腺癌のリスクに応じた検査を行い,2020年度末時点において260例が細胞診診断にて悪性ないし悪性疑いと診断されている.本稿においては,これまでの甲状腺検査の経過と現在の課題を報告するとともに,これまで得られた小児・若年者の甲状腺癌に関するエビデンスについて概説する.

シンポジウム4: 血液基礎・核ダイナミクスからnon-coding RNAによる細胞制御
  • 田代 聡, 孫 継英
    2021 年 58 巻 5 号 p. 346-349
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    Chromosomal translocations are one of the most common types of genetic rearrangement induced by agents that damage DNA. Chromosomal translocations involving 11q23 are the most frequent chromosomal aberrations in secondary leukemia. The molecular mechanisms of chromosomal translocations, however, remain largely unknown. We found that a defect of ATM kinase, a DNA damage signaling regulator, increases the incidence of 11q23 chromosomal translocation in etoposide-treated cells. We also observed that the phosphorylation of ARP8, a subunit of the INO80 chromatin remodeling complex, after etoposide treatment is regulated by ATM and attenuates ARP8 interaction with INO80. The ATM-regulated phosphorylation of ARP8 reduces the excessive loading of your INO80 and RAD51, a recombinase involved in DNA repair, onto the breakpoint cluster region. These findings suggest that the phosphorylation of ARP8 regulated by ATM plays an important role in maintaining the accuracy of DNA repair to prevent etoposide-induced 11q23 abnormalities. We also examined the changes of higher-order nuclear structures around breakpoints of 11q23 translocations. Studies of mechanisms of chromosomal translocations will contribute to the prevention of late effects of cancer treatment in childhood.

  • 窪田 博仁, 上野 浩生, 平松 英文, 滝田 順子
    2021 年 58 巻 5 号 p. 350-357
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    小児B細胞前駆体急性リンパ性白血病(BCP-ALL)において,近年の網羅的ゲノム解析とトランスクリプトーム解析により多様な遺伝子異常が明らかにされてきた.予後因子による治療層別化により治療成績は向上してきたが,診断時に低リスク群と分類された患者が依然として再発の大半を占めており,再発のリスクが高い患者を予測するための新たな戦略が必要である.microRNA(miRNA)は,mRNAに結合してその遺伝子産物の発現レベルを制御するnon-coding RNAであり,様々ながんにおいてバイオマーカーや治療標的となりうると報告されている.しかし,小児BCP-ALLにおけるmiRNAプロファイリングの統合的解析を報告した研究は少ない.我々は,小児BCP-ALLにおけるmiRNAとmRNAの発現プロファイリングを包括的に調べるために,再発患者を多く含む140人の検体を対象に解析した.miRNA発現データのクラスタリング解析により,miRNAの全体的な低発現を認める特徴的な一群(miR-low cluster; MLC)が同定され,MLCはBCP-ALLの既知の遺伝的サブグループとは関連していなかった.MLCに分類された患者は予後不良であり,Hyperdiploidの症例においても予後が悪かった.さらに,診断時にMLCでない患者の一部が再発時にMLC様のmiRNAの発現プロファイルを獲得した.miRNAとmRNAの統合的な解析の結果,MLCでは発現低下したmiRNAにより,発がん性シグナル伝達経路の遺伝子群の発現が亢進することが示唆された.今回の解析結果より,小児BCP-ALLにおけるmiRNAとmRNAの統合的な解析の重要性が示され,miRNAに基づく分類がリスク層別化を改善し,BCP-ALLの治療成績の向上が期待される.

シンポジウム5: 小児がんの中央病理診断―次世代へつなぐために
  • 平戸 純子
    2021 年 58 巻 5 号 p. 358-362
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    日本小児がん研究グループが発足し,小児血液腫瘍科医,脳神経外科医,病理医,分子腫瘍学研究者が協力し,世界水準の臨床研究が可能となるように分子診断も含めた統合診断としての中央病理診断を行う体制が構築された.現在の状況について述べ,病理医から見た問題点を挙げて,解決策を検討していただきたいと考える.実際に診断した症例数は2014年度から2019年度まで,それぞれ56例, 53例, 205例, 272例, 265例, 334例と,分子診断を統合した新たなWHO分類が刊行された2016年に急増し,その後も増加傾向にある.腫瘍型の内訳は2019年度のデータでは多い順に髄芽腫57例,胚細胞腫瘍46例,毛様細胞性星細胞腫42例,退形成性上衣腫30例でこの4型で全体の半数を超えている.この他,診断がつけられた腫瘍型は40種類以上に上っている.この中には文献レベルの腫瘍型で,CNS tumor with BCOR-internal tandem duplicationのような腫瘍型も含まれている.また,上衣腫,髄芽腫,および非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍の前方視的な臨床研究が行われており,登録症例は優先して診断を行っている.新たな腫瘍型に対応した検索や診断がなされているが,症例数の増加に伴い,病理医の負担が増加し限界に近づいており,診断の遅れも生じている.マンパワーの不足,次世代への継続性の確保が問題点となっている.

シンポジウム7: 難治性固形腫瘍の新規治療法開発
  • 北河 徳彦, 宮城 洋平, 大津 敬, 後藤 裕明, 田中 祐吉
    2021 年 58 巻 5 号 p. 363-368
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    小児悪性固形腫瘍の治療成績は向上したが,転移を有する患者の予後は未だ不良なことが多い.我々は肺転移を積極的に外科切除しているが,手術のみでは不十分なことも多く,新規治療法の開発が課題である.そこで我々は,実臨床に近い研究プラットフォームの開発とこれを用いた治療法の開発研究を進めるために,切除した肺転移巣を免疫不全マウスに移植し,patient-derived xenograft(PDX)を基盤とする肺転移モデルの研究を開始した.14例の肺転移巣(胸膜播種を含む)をNSGマウス皮下へ移植し,12例で樹立に成功した.腫瘍の種別(樹立数/移植数)は,骨肉腫(6/6),肝芽腫(1/2),ユーイング肉腫(1/1),悪性筋上皮腫(1/1),悪性ラブドイド腫瘍(1/1),肝細胞癌(1/2),卵黄嚢癌(1/1)であった.PDXの生着率は一般に高くないが,肺転移巣を用いたことが我々の高い樹立成功率に寄与している可能性がある.このうち骨肉腫とユーイング肉腫について,皮下PDXをプロテアーゼカクテルで分散しマウス尾静脈に注射することで,肺転移モデルの作製に成功した.腫瘍細胞がヒト,間質構成細胞がマウスというPDXの特性を活かして,皮下と肺転移巣それぞれのPDXで,マウスとヒトのトランスクリプトームを別々に評価し,腫瘍微小環境の視点から肺転移に特化した新規治療法の開発を目指す遺伝子発現解析を進めている.

  • 田中 美和, 中村 卓郎
    2021 年 58 巻 5 号 p. 369-373
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    希少がんの代表ともいえる骨軟部肉腫は,発生部位,臨床像,病理所見が多彩でサブタイプも多く,小児や若年成人に発生するケースも少なくない.有効な治療薬が十分に開発されていない現状で,我々は骨軟部肉腫動物モデルを用いた研究を通して,その成果を臨床へ還元したいと考えている.骨軟部肉腫を再現する動物モデルを確立することは,肉腫本態の解明や発症予防,分子標的治療薬の開発につながると期待される.近年,様々な骨軟部肉腫モデルが作製されるようになり,長い間謎であった肉腫の発生起源や成り立ちに対する答えが導かれつつある.本稿では,肉腫モデルを用いた研究について現状と展望を交えて紹介したい.

  • 川久保 尚徳, 田尻 達郎
    2021 年 58 巻 5 号 p. 374-377
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    背景:神経芽腫の新しい治療戦略として,NK細胞の養子免疫治療が報告されているが,高活性化かつ高用量のNK細胞製剤の報告は未だにない.共同研究施設で開発された,ヒト末梢血から増幅製造されるoff-the-shelf型のNK細胞様製剤に関して報告する.方法:高活性化NK様細胞(GAIA-102)は,CD3陽性細胞を除去した末梢血単核球を接着培養の条件下で14日間培養して作成した.3D培養を行なったIMR-32(神経芽腫細胞株)を蛍光標識GAIA-102と共培養し,GAIA-102の腫瘍塊への浸潤を観察し,その細胞傷害活性をフローサイトメトリーを用いて観察した.結果:スフェロイドを用いた3Dアッセイでは,GAIA-102は,primary NK細胞,抗GD2抗体単独,または両方の組み合わせと比較して,IMR32の腫瘍塊に対する高い細胞傷害活性を示した.ライブイメージングにより,GAIA-102はスフェロイドに対して効率的に浸潤し,スフェロイドの腫瘍細胞が死滅することを確認した.結論:GAIA-102は,3D培養を行なった神経芽腫スフェロイドに対して高い浸潤能と細胞傷害活性を示した.GAIA-102は,再発難治神経芽腫の新規治療に有望な選択肢であると考え,現在,再発性または難治性の神経芽細胞腫の臨床試験を準備している.

シンポジウム8: ゲノム医療: 小児・AYAがんにおける実装の現状と今後の課題
  • 滝田 順子
    2021 年 58 巻 5 号 p. 378-383
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    小児期からAdolescents and Young Adults=「AYA」世代と称される15–29歳に発生するがん(小児・AYAがん)は,成人がんと比較すると稀ではあるものの,本邦における若年者の主要な死亡原因となっている.とりわけ,遠隔転移を伴うものや再発を来す小児・AYAがんは,依然として極めて予後不良であり,多くの例において標準治療は確立していない.一方,近年のゲノム解析技術の進歩により,ゲノム医療が実装され,標準治療からはずれた小児・AYAがんにおいても遺伝子異常に見合った治療の提供がなされるようになった.しかし,ゲノム医療を推進する中で,小児・AYAがんでは,標的となる遺伝子変異が少ない,有用性が確認されている分子標的薬が少ない,また入れる臨床試験がほとんどないなどのいくつかの課題が見えてきた.さらに小児・AYAがんと成人がんでは,遺伝子変異のスペクトラムが異なるので,小児・AYAがんに適した遺伝子パネルの開発も必要である.小児・AYAがんにおけるゲノム医療をより発展させるためには,これらの課題解決が肝要である.

  • 加藤 元博
    2021 年 58 巻 5 号 p. 384-387
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    がん細胞に生じているゲノム異常を多数の遺伝子について網羅的に検出するゲノムプロファイリング検査(パネル検査)が診療に実装され,小児がんでも積極的に実施されている.小児がんでは,治療薬剤の標的となるゲノム異常の探索だけでなく,病型診断や予後予測も重要である.小児がんは化学療法への感受性が高いことからも,ゲノム特性に基づいた精密な治療選択は再発率の低下と合併症の最小化に有用であり,小児がんゲノム医療のさらなる充実に大きな期待が寄せられている.また,小児がんの発症者では一定の割合でがん好発素因となる遺伝的背景が検出されることがあり,がんゲノムプロファイリング検査を行う際には,検査前からそのことを適切に理解し,必要なカウンセリングとサーベイランス体制を整えておかなければならない.複雑なゲノム検査の結果を診療に利用するためには,検出されたゲノム異常の意義を判定するエキスパートパネルが必要であり,小児がんの特性に対応可能な施設に依頼する特別対応が認められている.小児がんに対するゲノム医療をさらに発展させるためには,早期相試験などの薬剤到達性の向上と,最適化されたゲノムプロファイリング検査の開発や,人材の育成が重要な課題である.

シンポジウム9: 遺伝性骨髄不全症候群
  • 平林 真介
    2021 年 58 巻 5 号 p. 388-394
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    造血器腫瘍では,WHO分類の2016年改訂において生殖細胞系列の素因を有する骨髄系腫瘍の項が提唱された.遺伝性骨髄不全症候群は遺伝性素因によって造血細胞の分化・増殖が障害され,単一系統血球減少症や汎血球減少症を来す.特徴的な外表奇形や所見を伴うことから臨床診断がなされてきた.代表的な遺伝性骨髄不全症候群としてDNA架橋の修復障害であるFanconi貧血,テロメラーゼなどのテロメア長の維持機能の障害を来した先天性角化不全症,リボゾームの機能異常によるDiamond-Blackfan貧血,Shwachman-Diamond症候群などがある.近年の遺伝子解析の進歩により,SAMD9/SAMD9LMECOMERCC6L2変異に加えてADH5ALDH2の2遺伝子変異など新たな遺伝性骨髄不全症候群が確立された.遺伝性素因を背景に環境要因が修飾し,DNAダメージから造血幹細胞に付加的異常が加わり腫瘍化する.一方で時には,reversion変異を獲得して病状が回復することもある.造血細胞移植は遺伝性骨髄不全症候群の根治に重要な治療法となるが,その適応や時期,ドナーの選択,前処置,移植後の合併症や二次がんなどの問題がある.個々の疾患の特徴を踏まえて,適切な診療を行う必要がある.

シンポジウム10: 小児・AYAがん患者の長期フォローアップ体制
  • 田中 太晶
    2021 年 58 巻 5 号 p. 395-398
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    私は骨・軟部腫瘍を専門とするがんセンター勤務歴のある整形外科医であり,成人科としてAYA世代の診療について考え方や経験を述べたい.AYA世代の患者には治療開始前に妊孕性温存についての説明を行うが,治療は2つに分けて対応している.おおむね15歳から19歳の場合はがん治療により,これまで当たり前であった学業が中断されることが多く,学業支援が必須でありまた精神,経済的に自立しておらず本人のみならず保護者への対応も重要となる.18歳未満であれば小児慢性特定疾病の申請,骨肉腫等で人工関節置換を行った場合は身体障害者手帳の申請を行う.おおむね20歳から39歳の場合は就労,恋愛,結婚,出産など人生が劇的に変化する年代であり,そのステージに応じた対応が必要になってくる.身体障害者手帳の申請に加えて,就職を考えている方には「障害者雇用枠」について説明を行うことがある.四肢に人工関節置換を行っているケースは,身体的ハンデキャップと捉えがちであるが,障害をオープンとすることで雇用枠と働きやすい環境を整えてもらえるというメリットもある.治療は初診時の診察室(患者と医師)から始まるものの,良い治療は医師と患者だけで決して作り上げるものではなく,一連の治療に関わるすべてのスタッフの高いプロ意識や協力が必須であり,患者の幸せのためにMDT(MultiDisciplinary Team:多職種専門家によるチーム)によるサポートが大切であると信じている.

  • ~LCAS研修会への期待と実践における課題~
    竹之内 直子
    2021 年 58 巻 5 号 p. 399-404
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    治療成績の向上に伴い,小児がん経験者にとって,トータルケアの一環である長期フォローアップのニーズは高まっている.また,国のがん対策においてもその体制の必要性が示されている.これらから2017年より「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制整備事業」として,小児がん患者の長期フォローアップを担当する医療従事者が,小児がんの長期フォローアップや移行期医療の知識および診療のあり方を習得できるよう研修会が開催されている.これまでの参加者のうち約4割は看護師で,参加者の背景には変化もみられている.研修参加者へのアンケート調査から,看護師は,研修前には十分備えていなかった知識を獲得し,また,成長・発達の過程にある小児がんの患者に対して,診断後から長期的な関わりの必要性の認識が高まったことが示唆され,研修参加の効果が評価される.一方で臨床現場でのフォローアップ外来の運営には,組織の体制づくりに関連したマンパワーや診療報酬などの課題が伴う.小児がん経験者のニーズがよりよく満たされるよう,今後の課題についても検討が必要であると考える.

ワークショップ2: 小児・AYAがん患者の教育支援: 高校教育
  • 上田 素子, 坂田 尚己, 杉本 圭相
    2021 年 58 巻 5 号 p. 405-409
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    近年の高校進学率は98%を超えている.しかし,小中学校と違って療養中の教育の保障はない.2015年度には,文部科学省から,長期療養により登校できない生徒への配慮に関する通知がなされているが,未だ対応を行わない高校も多く,学習意欲のある生徒が学習を継続できない例が後を絶たない.

    大阪府には,府立高校生に対する学習支援制度がある.制度化された2012年度以降,当科で長期療養が必要となり学習支援の導入を検討した高校生は23名であった.2020年度までに入院した府立高校生11名は,訪問授業をベースに,遠隔授業,授業動画の閲覧等を組み合わせた個別の支援計画に基づいて学習を続け,試験や課題提出による評価を受け,他のクラスメイトとともに進級や卒業を果たした.一方,私立/他県立高校生8名は,支援が得られず,各校が定める欠課数に達すると留年や退学になった.また,コロナ禍の面会制限の影響で,2021年度に入院した4名は支援が得られていない.

    当該制度の対象となる府立高校生は,長期療養中も学習を継続し,進級や卒業を達成している.ところが,私立/他県立高校生は,支援が得られず,将来への不安を抱えながら療養生活を送らざるを得ないのが現状である.コミュニケーション環境が充実し,多様な学習支援方法が可能となっている現代を迎え,こうした生徒間格差を是正すべく,早急な制度改革が求められる.

教育セッション6: QOL/長期フォロー
  • 力石 健
    2021 年 58 巻 5 号 p. 410-413
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    近年の小児がん治療におけるリスク層別療法や支持療法の発展により,小児がんの生存率は大きく改善している.一方で,小児がん経験者は疾患が治癒した後も依然として晩期合併症のリスクをかかえている.小児がん経験者が,健康的なライフスタイルを促進・維持していくための,長期的なフォローアップの重要性については論を俟たないが,フォローアップが必要な患者すべてが適切なフォローアップを受けているわけではない.小児がん経験者に起こり得る晩期合併症のスペクトルの広さのため,提供すべきケアが複雑となり,時として移行期支援の障壁となったり,フォローアップが中断されてしまったりすることもある.患者自身の合併症と長期フォローアップに対する知識もまた,フォロー継続の大きな要素である.経験者のヘルスリテラシー獲得のための患者教育は,小児がん経験者の長期フォローアップを充実させていくための重要な要因である.日々変化していく小児がん診療の中で,フォローアップのためのツールやフォローアップ体制の充実が望まれる.

How I Treat 2
  • 福島 啓太郎
    2021 年 58 巻 5 号 p. 414-418
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    小児の白血病や悪性腫瘍において,侵襲性真菌感染症がひとたび発症すると難治で予後不良なことが多く,診断と治療の遅れは患者の予後を左右しかねない.小児では早期の確定診断が困難なことが多いため,適切な補助診断法で早期診断を心がける必要がある.また,発症リスクの高い急性白血病治療時や造血幹細胞移植後などでは予防が重要である.治療および予防では目的とする菌種に応じて適切な抗真菌薬を選択すべきである.小児では成人に比べ肝代謝が速いため,トリアゾール系抗真菌薬では体重当たりの至適投与量は成人より高用量が必要である.トリアゾール系抗真菌薬を用いる場合,チトクロムP450(CYP)代謝に関与する薬剤との相互作用に注意を払う.シクロスポリンやタクロリムスは代謝が阻害されるため血中濃度が高値となる.ビンクリスチン,シクロホスファミドやゲムツズマブオゾガマイシンなどの抗腫瘍薬も代謝が抑制されるためその副作用が増強される.それぞれの薬剤の投与開始あるいは中止の際には薬剤相互への影響を考慮すべきである.ボリコナゾールは代謝に関与するCYP2C19に遺伝子多型が存在するためトラフ血中濃度測定によるモニタリングを行う.

原著
  • 渡邊 奈美, 佐藤 聡美, 加藤 実穂, 浦山 ケビン, 清谷 知賀子, 松本 公一
    2021 年 58 巻 5 号 p. 419-423
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    本邦における小児がん経験者の認知機能に関する研究は限られている.その背景の一つに,認知機能を簡便に測定する尺度の不足が挙げられる.そこで本研究では,本邦で実用可能な尺度を確立するために,米国セントジュード小児研究病院にて開発された認知機能測定尺度(以下CCSS-NCQ)の日本版を開発し,異文化間における適合性の検証を行うこととした.CCSS-NCQはすでに有用性が検証された自記式の認知機能測定尺度であり,作業効率(Task Efficiency),感情統制(Emotional Regulation),組織化(Organization),記憶(Memory)の4領域の評価より構成されている.本研究において小児がん経験者34名に日本版CCSS-NCQを実施し,確認的因子分析により因子構造妥当性の検証を試みたところ,原版CCSS-NCQにて抽出される4因子構造ではなく,「作業効率」と「記憶」が1因子に収束した3因子構造が認められた.本研究において脳腫瘍患者群が過半数を占めていたことから,この結果は同疾患群の傾向を捉えている可能性がある.今後は本尺度の信頼性と妥当性の確立のために,対象疾患をより多くの全小児がん種に拡大させより多くの症例を解析する必要がある.

  • 佐藤 聡美, 瀧本 哲也, 小阪 嘉之, 佐藤 篤, 湯坐 有希, 康 勝好, 角南 勝介, 種山 雄一, 堀 壽成, 太田 節雄, 松本 ...
    2021 年 58 巻 5 号 p. 424-431
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    大量メトトレキサート療法やMTX髄注は知的機能に長期的に影響を及ぼしうる.我々は23施設と共同で2011年から2016年(登録期間2011年から2013年)にわたって小児急性リンパ性白血病の標準リスク群の患児への認知機能を検討する観察研究を行った.初回検査時年齢3歳から9歳の57名の登録があったが,4回の検査を完遂した解析対象は43名となった.ウェクスラー式知能検査を用いて,全般的知的能力(FSIQ),言語理解(VCI),知覚推理(PRI),ワーキングメモリー(WMI),処理速度(PSI)の得点を測定した.検査スケジュールは,寛解導入療法終了直後をベースラインとし,そこを起点に1年後,2年後,3年後の計4回であった.統計解析は,4つの指標得点(VCI, PRI, WMI, PSI)と4つの観測時点間(T1, T2, T3, T4)でANOVAを行った.全般的知的能力(FSIQ)の平均は,99.09(SD=14.72),99.26(SD=15.01),102.30(SD=11.08),101.12(SD=11.69)と正常の平均域で推移していた.T1では「言語理解」の指標得点が低く,T2以降は「ワーキングメモリー」の指標得点が低かった.今後は,これらの得点の推移と日常生活の困難を照合していく必要がある.

  • 西尾 周朗, 納富 誠司郎, 濱端 隆行, 今井 剛, 田中 優, 本田 徹郎, 板坂 聡, 脇 研自
    2021 年 58 巻 5 号 p. 432-436
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    Adolescent and Young Adult(AYA)世代のがん患者において,妊孕性温存は治療後の人生を見据えた際に克服すべき重要な課題である.髄芽腫の治療法として用いられるSt. Jude medulloblastoma-96 protocolでは,腫瘍摘出術・放射線療法の後に自家末梢血幹細胞移植を併用した高用量アルキル化薬を含む大量化学療法が行われる.高い治癒率が得られる一方で,妊孕性の喪失が問題である.症例は小脳髄芽腫の16歳女性.腫瘍全摘出術後,術後14日で末梢血幹細胞採取を行い,24日から23.4 Gyの全脳全脊髄照射および32.4 Gyの腫瘍床照射を開始した.放射線治療後,抗ミュラー管ホルモンは1.84 ng/mLと低値であった.ランダムスタート法での妊孕性温存を行う方針とし,FSH製剤を9日間投与後,卵胞成熟のためにhCG製剤を投与した.4個の卵子を凍結保存できた.卵子保存に伴う有害事象はなく,大量化学療法も遅滞なく終了した.ランダムスタート法による卵子保存は,原疾患治療の遅滞なくAYA世代がん患者の妊孕性温存を実現する技術として期待される.

症例報告
  • 佐野 正太郎, 吉川 利英, 有賀 譲, 鈴木 孝二, 谷澤 昭彦, 田村 知史, 大嶋 勇成
    2021 年 58 巻 5 号 p. 437-441
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    治療中に再発した急性リンパ性白血病の9歳男児.骨髄破壊的前処置後にHLA一致同胞より骨髄移植を行った.移植の3か月後,アントラサイクリン最終投与からは5か月後にBNP上昇,心拡大,左室駆出率低下を認めた.アントラサイクリンに加えシクロホスファミドや全身放射線照射なども心機能障害の危険因子であり,治療関連心機能障害と診断した.心不全を合併したためカンデサルタン,カルベジロールを含む治療を行い,20.9%まで低下した左室駆出率は治療開始から8か月後には56.7%まで改善した.成人の場合,アントラサイクリンによる心毒性の多くは最終投与から1年以内に発症し,早期の治療介入により心機能の改善が見込めるという報告がある.小児例においても,心機能障害をもたらす複数の危険因子を有する場合には,定期的なBNP測定と心臓超音波検査により心不全症状出現前に心機能障害の早期発見に努めることが肝要と考えられた.

  • 芦原 康介, 松村 梨紗, 望月 慎史, 森下 祐介, 野間 康輔, 川口 浩史, 小林 正夫, 岡田 賢
    2021 年 58 巻 5 号 p. 442-445
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は6歳男児.混合形質性急性白血病に対し化学療法で第一寛解に至った.治療開始後25か月,維持療法開始後11か月で,急激な貧血を伴う血球減少の進行と発熱を認めたため,維持療法を中断し精査目的に入院となった.骨髄像では低形成骨髄であるものの明らかな白血病細胞の出現はなく,少数の巨大前赤芽球がみられた.抗菌薬投与と免疫グロブリン補充および赤血球輸血を行い,数日で解熱し血球数も徐々に増加した.血清ヒトパルボウイルスB19(HPVB19)-IgMと骨髄液中のHPVB19 DNA定量が上昇していたため,HPVB19感染に伴う汎血球減少と診断した.白血病維持療法中に急激な貧血を伴う血球減少が認められた場合,原疾患の再発に加え,HPVB19感染の鑑別が必要である.

  • 多加喜 望, 大曽根 眞也, 今村 俊彦, 西本 雅和, 廣田 達哉, 下村 雅律, 井上 匡美, 田中 智子, 古川 泰三, 細井 創
    2021 年 58 巻 5 号 p. 446-449
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    FUS-ERG融合遺伝子陽性の急性骨髄性白血病を発症した5歳の女児.治療抵抗性で2か月間寛解を達成できず,無顆粒球症が続いた.その後,咳,発熱,背部痛が出現し,胸部CT検査で左肺膿瘍があり,血清アスペルギルスガラクトマンナン抗原(GM抗原)が陽性で,侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)と診断された.Voriconazole(VRCZ)とMicafungin(MCFG)を投与したところ症状は徐々に改善したが,治療開始16日目に大量喀血し,造影CTで左肋間動脈に仮性動脈瘤を認めた.緊急の経皮的動脈塞栓術で止血に成功し,4日後に左肺上区域切除術を行った.VRCZを継続の上で2か月後に同種造血細胞移植を行ったが,移植後12か月までIPAは再発せず経過した.動脈塞栓術と肺切除術を組み合わせた集学的治療は,大量喀血を来したIPAに有効であった.

  • 遠渡 沙緒理, 大城 一航, 安江 志保, 篠田 邦大, 小関 道夫, 大西 秀典
    2021 年 58 巻 5 号 p. 450-454
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    初発の小児ホジキンリンパ腫の標準治療は確立されているが,治療に抵抗性を示す難治再発例では,従来の化学療法でのコントロールが困難であり,予後は非常に不良である.我々は,brentuximab vedotin,自家末梢血幹細胞移植にて寛解達成後にも関わらず再発した,治療抵抗性古典的ホジキンリンパ腫の小児例に対して,免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)であるnivolumabを使用した.投与開始後,速やかに患児の症状は改善し,4コース施行後のPET/CT検査上FDG集積は消失し,3回目の寛解に至った.その後,合併症のためやむなく使用を中止したが,中止後も長期寛解を維持できており,希少な経過であると考えたため,その経過について報告する.

  • 本田 護, 福岡 講平, 津村 悠介, 森 麻希子, 入倉 朋也, 渡壁 麻衣, 平木 崇正, 井上 恭兵, 三谷 友一, 大嶋 宏一, 荒 ...
    2021 年 58 巻 5 号 p. 455-458
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    ジャーナル フリー

    MEK阻害剤であるtrametinibは,BRAF遺伝子異常を有する視神経膠腫に対する有効性が期待されているが,本邦において小児の視神経膠腫に対する本薬剤の使用経験は極めて乏しい.今回我々はがん遺伝子パネル検査によってKIAA1549-BRAF融合遺伝子が検出された治療抵抗性の視神経膠腫に対してtrametinibを使用した症例を経験したため報告する.症例は8歳女児で生後7か月に視神経膠腫と診断された.診断後から合計5種類の化学療法と生検を含めて4回の手術療法を受けたが腫瘍は増大傾向であった.水頭症による意識障害が進行したが,髄液蛋白濃度が高く脳室腹腔シャントは施行できなかった.がん遺伝子パネル検査でKIAA1549-BRAF融合遺伝子が検出され,trametinibを2か月間投与した.投与期間中は画像上腫瘍増大の抑制効果を認め,髄液蛋白濃度も低下した.NCI-CTCAE version 5においてGrade 3以上の有害事象を認めなかった.本邦におけるtrametinibの有効性と安全性について,今後の症例の蓄積が重要と考えられる.

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