2023 年 60 巻 1 号 p. 1-6
小児血液腫瘍疾患における遺伝子パネル検査によって,Germline変異が同定された場合の結果開示の方針については,固形がんの遺伝子パネル検査における二次的所見開示指針が参考になる.しかしながら,血液腫瘍パネルでは治療標的探索のみならず,診断と予後予測も目的としていることから,臨床的有用性(actionability)の違いに注意する必要がある.
Germline変異の情報は診療上有用であることも多い.例えば,Li-Fraumeni症候群(LFS)の原因となるTP53遺伝子生殖系列病的バリアントは二次がん発症のリスク因子であり,放射線治療の適応決定に有用である.LFSでは診療ガイドラインが策定され,がんサーベイランス臨床試験が開始されるなど,フォローアップ方法も確立されつつある.小児遺伝性腫瘍全般に関しても,サーベイランス方法などを記載した診療ガイダンスが公表されている.
常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる遺伝性腫瘍では,当該病的バリアントが親から受け継がれたものであれば,確定診断された患者の親ときょうだいは50%の確率で病的バリアント保持者である.患者が幼小児の場合は,親が後からがんを発症する可能性もあり得る.きょうだいの遺伝学的検査適応は腫瘍の発症年齢を勘案する必要がある.
生殖細胞系列病的バリアント情報を有効に活用するためには,遺伝性腫瘍患者を取り巻く社会的,心理的,倫理的状況を認識し,対応することがより必要となると考えられる.