Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
緩和ケア病棟のスタッフがサポートグループ「がんカフェ」に参加することの意味
髙世 秀仁北川 美歩堀江 亜紀子西連寺 隆之立花 エミ子谷 忠伸上村 貴代美桑名 斉
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2015 年 10 巻 3 号 p. 915-919

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Abstract

【緒言】がん経験者,家族,遺族に対する心理社会的サポートの提供は重要だが,未だ不十分である.サポートグループ「がんカフェ」は,がん経験者,家族,遺族,誰でも参加でき,心理社会的サポートを提供し,緩和ケア病棟スタッフが支援している.【症例】53歳男性,2001年に肺がんで手術を行い,2006年治療中に再発した.治療中の2012年に家族で「がんカフェ」に参加した.本人は患者として,妻と子供は家族として,当事者,緩和ケア病棟スタッフと交流ができた.6カ月後本人が緩和ケア病棟に入院した時,顔見知りのスタッフがいて本人と家族は安心していた.退院後,妻は遺族として「がんカフェ」に参加され,同じスタッフがグリーフケアを行った.【考察】「がんカフェ」に緩和ケア病棟スタッフが参加することで,入院前の早期から退院後のグリーフケアまで,心理社会的サポートを中心とした緩和ケアを継続的に提供することができた.

緒 言

 緩和ケアは身体的苦痛の症状緩和だけではなく,がん経験者および家族,遺族に対する心理社会的サポートの提供も重要である1).心理社会的サポートの1つとして,セルフヘルプグループやサポートグループなど,がん経験者や家族の当事者同士がお互いを支えあうピアサポートが行われる2).また,2012年がん対策推進基本計画で,「がんに関する相談支援と情報提供」の項目にピアサポートの推進が明記され,心理社会的サポートの重要性が盛り込まれた3)

 われわれは,がん経験者,家族,遺族が自由に交流できる場所を提供して,安心して病気について語り合うことで当事者のサポートを行うことを目的に,2011年に地域の患者サロン「がんカフェ」を始めた.本稿では「がんカフェ」の活動内容の報告を行い,症例を通して緩和ケア病棟スタッフが「がんカフェ」に参加する意味を考えたい.

「がんカフェ」の活動内容

 「がんカフェ」は,患者,家族,遺族の当事者のみならず,がんに関心がある人も自由に参加することができるサポートグループである.「がんカフェ」は当院が中心に開催しており,当院の緩和ケア病棟スタッフである医師,認定看護師,訪問看護師,ソーシャルワーカー,臨床心理士,作業療法士,理学療法士,音楽療法士,ボランティアが参加している.病院の最寄り駅の近くの公共の施設を借りて,2カ月に1度土曜日の午後1時30分から3時30分の時間で開催している(開催情報http://gan-cafe.main.jp).はじめに,自分の気持ちを話してもらうこと,聞いたことは他では話さないこと,プライバシーを守ること,特定の薬や民間療法などの話はスタッフに相談すること,などの規則を説明する.次にスタッフによるミニレクチャーを行う.テーマは,「がんについて」,「緩和ケアについて」,「療養中の食事について」,「音楽療法について」などである.その後,1人ずつ自己紹介して6〜8人程度のグループに分かれて,お茶やお菓子を提供して自由に会話を楽しんでもらう.グループ分けは,がん経験者グループ,家族グループ,遺族グループに分かれることが多い(図1).時間になったら次の会の案内を行い終了している.会場には他のがんサロンのパンフレットや患者会のパンフレット,療養に役立つ講演会などの案内をおき,情報提供を行っている.「がんカフェ」には専門職が参加しているために会話の中で困ったことに対してはアドバイスを行い,「がんカフェ」が終わった後に個別に相談している4, 5)

がん経験者,家族,遺族のグループに分かれて話す

図1 「がんカフェ」の様子

 「がんカフェ」は2011年から2014年3月まで計21回開催し,参加人数はのべ271人,1回あたり平均12.9人であった(図2).参加者の内訳は,がん経験者30.8%,家族22.4%,遺族24.4%,医療関係者14%,その他8.4%であった.

参加人数の推移を示す

図2 開催回数と参加人数

 参加者の感想は,がん経験者は「自分の気持ちを話す良い機会となりました.」「患者同士ざっくばらんに色々な話ができて,笑うこともたくさんできて,免疫力アップでした.」 家族・遺族は「会の気軽さがよかった.」「こうした機会が普通にあればいいなぁとつくづく思いました.」「大変気持が楽になりました.」などであった.

 入院前から本人または家族が「がんカフェ」に参加し,早期からの緩和ケアを提供できた症例は6症例で,3例は当院緩和ケア病棟に入院した.また,当院緩和ケア病棟を利用した遺族が「がんカフェ」に参加し,グリーフケアを提供できた症例は11症例であった.入院前から退院後のグリーフケアまで継続的に関わることができた症例は3症例であった.

症例提示

 「がんカフェ」に参加し緩和ケア病棟を利用した症例を経験した.

1 症例

 A氏53歳 男性.職業は教師.妻と小学生の息子との3人暮らし.

2 現病歴と経過

 2001年に右肺がんと診断されて手術と化学療法を行った.2006年に肺内に再発を認めて再手術を行い,化学療法を開始した.2012年6月に治療を継続していたが今後のことを考えて当院緩和ケア病棟を申し込み,医師,ソーシャルワーカーと面談した.妻が夫の発病以来うつ病の治療中で自宅で生活を続けることができるかどうか,子供との関わりについて心配していた.面談では緩和ケアと今後の体調の変化について説明し「がんカフェ」を紹介した.

 2012年7月夫婦で「がんカフェ」に参加された.A氏はがん経験者,妻は家族の立場で参加し当事者同士で会話を楽しんでいた.「がんカフェ」に参加していた当院の緩和ケア医師と看護師は一緒に会話を楽しみ夫婦の思いを聞いた.医師,看護師から自宅療養の相談や社会資源を紹介した.

 2012年10月に当院緩和ケア外来を夫婦で受診し,胸水を認めるようになったこと,化学療法を中止したことを報告された.その後,同月に胸水貯留のために他院に入院となった.

 2012年11月,A氏は入院中であったが,妻と息子が「がんカフェ」に参加した.

 2012年12月,A氏より緩和ケア病棟入院の希望があり転院となった.呼吸困難のため車いすで移動する状態で入院24病日に永眠された.

 退院後,妻は2013年7月,11月,2014年1月,11 月に「がんカフェ」に4回参加した.緩和ケア病棟のスタッフは遺族としての思いを傾聴しグリーフケアを行った(図3).

PCU: palliative care unit 緩和ケア病棟

図3 症例の経過と「がんカフェ」のかかわり

3 妻へのインタビュー

 2014年3月に妻にインタビューを行った.

1 「がんカフェ」に対する感想

 妻は同じ立場の家族と話せたこと,夫婦で離れたテーブルに座って普段言えないことが話せたこと,夫が亡くなったあとも「がんカフェ」で気持ちを話せたことで精神的に楽になった.早く「がんカフェ」を知っていたら精神的に楽な療養生活ができたと考えていた.

 A氏は同じ病気の人たちと話せて良かった.友達や職場の同僚にも話すことができないと苦しんでいた.A氏も早く「がんカフェ」を知っていたら生活が違っていたと話していた.

 子供を連れてきたのは,子供も親に言えないことがあると考えたためで,子供は「がんカフェ」で何も話せなかったが,家に帰る途中で「大人の人も悩んでいるんだね」と話し,子供(自分)も悩んでいることを母に伝えることができた.

2 「がんカフェ」に参加した後の変化

 夫婦間では,それまでは話すことができなかったことを正直に話すようにしてコミュニケーションをとるようにした.子供に対しても病気のことをできるだけ話すことにし,子供も両親と病気のことを話す機会が増えた.

3 その他の感想

 緩和ケア病棟に入院する時は,夫も妻も顔見知りの医師や看護師がいる病棟であることを知っていたので,安心して入院を決断することができた.退院後,妻が「がんカフェ」に参加するときも,顔見知りの人たちがいることが安心だった.

考察

 「がんカフェ」は当院の緩和ケア病棟のスタッフが中心になり開催しているサポートグループで,誰でも無料で参加できる.がん経験者,家族は「がんカフェ」に参加してそれぞれの当事者同士で交流ができ,心理社会的サポートを提供できる.「がんカフェ」には緩和ケア病棟スタッフが参加しているので,がん経験者,家族そして遺族に緩和ケアを提供できる.症例に示したように緩和ケア病棟スタッフは「がんカフェ」でがん経験者,家族と入院前の早期から出会え,退院後は遺族として「がんカフェ」で会うことができる.がん経験者,家族は顔見知りのスタッフがいることで安心して入院でき,遺族になっても顔見知りのスタッフがいる「がんカフェ」に安心して参加できた.

 「がんカフェ」に緩和ケア病棟のスタッフが参加することの意味を以下にまとめる.

1 早期からの緩和ケア

 「がんカフェ」では,当事者同士の交流などの心理社会的サポートとともに,緩和ケア病棟のスタッフによる症状の緩和などの専門的な相談もできており,早期からの緩和ケアの提供ができていた.緩和ケアを早期から提供することが最近の課題であり,がん対策推進基本計画でも解決すべき課題とされている3, 6).緩和ケア病棟スタッフがサポートグループを支援することで早期からの緩和ケアを提供できると考えられる.

2 がん経験者,家族との関係性の構築

 緩和ケア病棟スタッフが「がんカフェ」に関わることで,がん経験者,家族にとっては緩和ケア病棟スタッフと顔見知りになれて,緩和ケア入院時や退院後の「がんカフェ」参加時が安心であった.また,緩和ケア病棟スタッフにとっては,入院の前から療養経過や家族背景を把握でき,本人,家族の思いを理解することができる.近年,緩和ケア病棟の入院期間が短縮し,がん経験者,家族との関係が築きにくくなっている7).緩和ケア病棟スタッフが「がんカフェ」に参加することでがん経験者,家族との関係性を築くことが容易になると考えられる.

3 継続的なグリーフケア

 「がんカフェ」は誰でも参加できるため,家族が遺族の立場になっても参加が可能である.「がんカフェ」では,家族の立場で参加すると家族の当事者と,遺族の立場で参加すると遺族の当事者と交流できた.また,同じ緩和ケア病棟スタッフが関わることができ,提示した症例は「がんカフェ」に遺族として2年以上参加できている.身体的ケアは短期間であったが,心理社会的サポートとグリーフケアを中心とした緩和ケアを長期間提供できた.

結語

 「がんカフェ」はがん経験者,家族,遺族そして興味がある人たちが自由に参加できる.そして緩和ケア病棟のスタッフがサポートグループ「がんカフェ」に参加することで,がん経験者と家族に対して,入院前の早期から,退院後の遺族に対するグリーフケアまで切れ目なく心理社会的サポートを中心とした緩和ケアを長期間提供できた.

付記

本報告の要旨は,第19回日本緩和医療学会学術集会(2014 年,神戸市)において発表した.

References
  • 1)  野中 猛.がんサバイバーという臨床活動.緩和ケア2013;23:266-7.
  • 2)  季羽倭文子.グループによるサポートの意義と役割.ホスピス・緩和ケア白書.2010;57-60.
  • 3)  がん対策推進基本計画[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_keikaku02.pdf
  • 4)  髙世秀仁,北川美歩,立花エミ子,他.「がんカフェ」の立ち上げと現状.緩和ケア2014;24:374-5.
  • 5)  髙世秀仁.「がんカフェ」(東京都・清瀬市).阿部まゆみ,安藤詳子 編.がんサバイバーを支える 緩和デイケア・サロン,第1版.青海社,東京,2015;64-6.
  • 6)  清水奈緒美,志真泰夫.がんの診断から緩和ケアを提供する―苦痛や苦悩に焦点を当てた支援の重要性―.緩和ケア2012;22:102-6.
  • 7)  佐藤一樹,志真泰夫,羽川 瞳,他.緩和ケア病棟は10年間にどう変わったか.Palliative Care Reseach 2013;8:264-72.
 
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