Palliative Care Research
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短報
医療型療養病床での看取りにおける看護師・介護福祉士の役割
渡邉 千春栗和田 直樹細貝 智恵子石岡 幸恵
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2016 年 11 巻 1 号 p. 311-315

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Abstract

【目的】医療型療養病床での看取りにおける看護師・介護福祉士の役割を明らかにする.【方法】医療型療養病床に勤務し,看取りの経験がある看護師4名・介護福祉士5名の計9名を対象とし,半構造化面接法を用い内容分析を行った.【結果】看取りにおける看護師の役割として,〔家族が看取りのプロセスに十分関われたと感じられるように支援する〕等6つのカテゴリーが抽出された.また,介護福祉士の役割として〔介護福祉士としての活動を通して看護師を支援する〕等5つのカテゴリーが抽出された.【結論】より良い看取りを行っていくために,介護福祉士が行うケア・関わりの効果・意義と安全を保証する,介護福祉士の主体性を高めるような機会の提供を看護師・介護福祉士それぞれが意識して取り組む,が挙げられた.

緒言

近年,高齢化率の増加や緩やかな死亡率の上昇1)に伴い,在宅や高齢者施設におけるターミナルケア加算や看取り加算の導入が行われ,死を迎える場所の拡大と多様化が起きている.この中でも,医療保険適用の医療型療養病床(以下医療型療養病床とする)は,死亡退院が全体の32.2~40.9%2),年間の看取り数が1施設あたり33.9人3)との報告があり,今後も多くの看取りが行われることが予測される.

これらの背景の中,医療型療養病床では主に看護師と介護福祉士が勤務しているが,互いの思考や専門性が理解できずに職種間で軋轢が生じているとの報告がある4).また,介護福祉士は,医療補助者として位置づけられることや,医療職不在時の急変対応等により連携に悩んでいる5,6)との指摘がある.

以上のことから,本研究は,医療型療養病床での看取りにおける看護師・介護福祉士の役割を明らかにすることを目的とした.これらを明らかにすることで,互いの尊重・理解を促し,より良い看取りを提供するための示唆を得ることができると考える.

方法

1 研究デザイン

質的記述的研究

2 本研究における用語の定義

看取り:余命が数週間(1カ月以内)であるときから,死亡退院されるまでとする.

役割:看護師・介護福祉士としての価値観や信条,専門性,患者・家族や他職種との関係から,医療型療養病床での看取りにおいて看護師・介護福祉士自身が期待されている,割り当てられている,果たさなければならないと感じる仕事やつとめ.

3 研究期間

2014年4月~2015年1月

4 研究対象

新潟県にある医療法人立川メディカルセンター悠遊健康村病院の医療型療養病床を持つ病棟に勤務し,看取りの経験がある看護師・介護福祉士とした.看取りの経験については,(1)初めて看取りをしてから1年以上経過し,その後も定期的に関わっている(2)夜勤業務を行っている(3)院内・外の看取りに関する勉強会等に積極的に参加している者を条件とし,あてはまる者を病棟師長より選出してもらった.

5 データ収集方法

半構造化面接法を行った.質問の内容として,「あなた自身が看取りに関わる上で大切にしていること」,「看護師(または介護福祉士)として看取りに関わる上で大切にしていること」,「患者や家族から看護師(または介護福祉士)として看取りの中で期待されていると感じていること」,「他職種から看護師(または介護福祉士)として看取りの中で期待されていると感じていること」とし,具体的な事例や経験を踏まえ語ってもらった.

6 分析方法

本研究は,内容分析の方法を用いて行った.作成された逐語録を熟読し,文章の意味を損なわないように簡潔な一文とし,コードとした.コード化の際は,語りの内容とコードにずれがないか対象者に確認を得た.看護師・介護福祉士それぞれのコードを類似性・共通性に沿ってサブカテゴリーとした後,抽象化を図り,カテゴリーとした.また,分析の過程において研究責任者が主に分析を行いながら,共同研究者と複数回に渡り検討し,信頼性・妥当性の確保に努めた.

また,質的研究経験者のスーパーバイズを受けた.

7 倫理的配慮

対象者には,研究目的や協力内容,プライバシーに関する保護,自由意思による参加・同意の撤回等に関する内容を口頭・文書にて説明し同意書の署名をもって同意したこととした.また,インタビューは,プライバシーが保てる個室で行い,録音の際は同意を得た.本研究は,対象施設の看護部と新潟県立看護大学倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

1 対象者の概要

対象者は,看護師4名,介護福祉士5名の計9名であった.

年齢は20~50歳代であり,各資格を取得してからの通算経験年数は2~26年,インタビュー所要時間は,31~41分であった.

2 医療型療養病床での看取りにおける看護師の役割

コードは69であり,16のサブカテゴリー,6のカテゴリーが抽出された(表1).以降,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〈 〉,コードは「 」で表記する.

表1 医療型療養病床での看取りにおける看護師の役割

【患者のその人らしさが保てるようなケア・関わりを行う】は,「ラインや布団をきれいにし身だしなみを整える」等,患者本来の姿が保たれるようなケア・関わりをしていた.また,心身共に不安定な状況にある患者・家族に対して,〈患者との普段の会話や関わりの機会を増やし大切にする〉のような【患者・家族が安心できるように信頼関係を深める】もしていた.【患者・家族の意

思や希望を尊重し意思決定を支援する】では,患者・家族の権利を擁護し,意思決定ができるような調整や支援をしていた.また,家族については,限られた時間の中で後悔や心残りを感じないよう【家族が看取りのプロセスに十分関われたと感じられるように支援する】もしていた.介護福祉士に対しては,急変や臨終に備えられるよう情報提供することや,不安への配慮・対応として【介護福祉士が急変や臨終に対処できるよう支援する】をしていた.また,臨終や死亡時のケアや関わりについてポイントや方法・意味を伝える【看護師・介護福祉士が同じ視点で看取りに関われるよう知識の共有を図る】もあった.

3 医療型療養病床での看取りにおける介護福祉士の役割

コードは75であり,12のサブカテゴリー,5のカテゴリーが抽出された(表2).この中には,看護師の役割でも抽出された【患者のその人らしさが保てるようなケア・関わりを行う】があった.ケア・関わりについては,「顔や臭い等の細かい所まで気づいて患者や家族から丁寧と思われるケアをしなきゃいけない」等,【患者・家族の立場や思いに配慮したケア・関わりを行う】もしていた.また,療養生活全体の中で生じる不安や寂しさが緩和し,【患者の生活が充実し過ごしやすいものとなるよう支援する】をしていた.さらに,これらの日々の関わりを通して患者・家族の意思や希望を確認しながら,限られた環境の中で【患者・家族の意思や希望を尊重し実現できるようにする】をしていた.看護師に対しては,介護福祉士としての専門性や活動を活かしながら,協力して対応できるよう【介護福祉士としての活動を通して看護師を支援する】もしていた.

表2 医療型療養病床での看取りにおける介護福祉士の役割

考察

看護師・介護福祉士共に【患者のその人らしさが保てるようなケア・関わりを行う】ことを役割としていた.看取りの時期にある患者は,セルフケア機能の低下等により,自己のコントロール感の喪失を伴うことがある.それに対し,患者が本来ありたい姿で過ごせることは,スピリチュアルケアとして重要である.また,患者の尊厳を保つという意味では,意思決定も重要な課題であり,看護師・介護福祉士との信頼関係の構築が不可欠である.そのためには,看護師が【患者・家族が安心できるように信頼関係を深める】のはもちろん,介護福祉士も【患者・家族の立場や思いに配慮したケア・関わりを行う】や【患者の生活が充実し過ごしやすいものとなるよう支援する】を行うことが必要となる.また,看護師は意思決定支援者として,介護福祉士は日々の生活の中で【患者・家族の意思や希望を尊重し実現できるようにする】が求められる.こういった日々のケアや関わり全てが【家族が看取りのプロセスに十分関われたと感じられるように支援する】につながり,家族の悲嘆のケアともなる.そのため,看護師はこれらの過程を見守り調整していくことが重要である.だが,介護職は,死への恐怖・不安において,看護師に対し有意に高い8)との報告があり,看取りの時期にある患者・家族へのケアや関わりに不安を抱えている.そのため,看護師は介護福祉士が行うケア・関わりの効果・意義と安全を保証し,不安の軽減を図る必要がある.

また,医療型療養病床は,看護補助者として,医療・介護の資格がない者もおり,ケアの質にばらつきが生じている4)ことが課題である.このような状況の中で,介護福祉士は介護のスペシャリストとして看護補助者全体のケアを高めていく必要がある.また,先行研究では【介護福祉士が急変や臨終に対処できるよう支援する】のように,看護師が介護福祉士の不安や活動を支える姿がみられた911).だが,本研究では,介護福祉士が自らの専門性や活動を活かしながら,【介護福祉士としての活動を通して看護師を支援する】を行っていた.これは,看取りの中で介護福祉士として何ができるかを意識,行動した結果であるといえる.このような介護福祉士の主体性を高められるよう【看護師・介護福祉士が同じ視点で看取りに関われるよう知識の共有を図る】といった勉強会等の機会の提供を看護師・介護福祉士それぞれが意識して取り組むことが重要である.

結論

医療型療養病床での看取りにおける看護師の役割として6のカテゴリー,介護福祉士の役割として5のカテゴリーが抽出された.より良い看取りを提供するための示唆として,介護福祉士が行うケア・関わりの効果・意義と安全を保証する,介護福祉士の主体性を高めるような機会の提供を看護師・介護福祉士それぞれが意識して取り組む,が挙げられた.

本研究の限界と今後の課題

先行研究2)から,医療型療養病床における看取りの実状に即していること,積極的に看取りに関する勉強会を行っていることから,対象施設を選定した.だが,医療型療養病床は,看取りの取り組み方や経験において施設間で差が生じている3)ことから,結果に偏りが生じる可能性がある.そのため,一般化は困難であり,更なる追試・検討が必要である.今後は,複数の医療型療養病床の看護師・介護福祉士と検討し,追加・修正していく.また,多施設を対象とした医療型療養病床における看取りの実態を明らかにし,より良い看取りを行うための体制や方策について検討していくことも課題である.

付記

本研究は,第41回日本看護研究学会で発表した内容を加筆・修正したものである.

References
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  • 4)  横山利枝.高齢者サービスに関する研究─療養病床と看護管理の課題,星雲社,東京,2008; 156-78.
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  • 7)  倉鋪桂子,齋藤智江,永田寿子.高齢者ケアに関わる看護師と介護職員の死生観についての検討.第44回日本看護学会論文集 看護総合 2013; 185-9.
  • 8)  出村早苗,中村房代.特別養護老人ホームのターミナルケアにおける介護福祉士の役割.文京学院大学人間学部研究紀要2012; 13: 219-36.
  • 9)  坂下恵美子,西田佳世,岡村絹代.特別養護老人ホームの看取りに積極的に取り組む看護師・介護士の意識.南九州看護研究誌2013; 11: 1-9.
  • 10)  青田正子,太田節子.介護老人福祉施設における看護職のターミナルケアの取り組み.滋賀医科大学看護学ジャーナル2012; 10: 64-71.
  • 11)  大村光代.特別養護老人ホームの看取りに求められる看護職に対する看護職の連携能力の因子構造.日本看護研究学会雑誌2013; 36: 47-53.
 
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