Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
当院の緩和ケアチーム活動における歯科との連携
河端 秀明西川 正典猪田 浩理田中 章夫柿原 直樹多賀 千明小東 睦中村 光男長谷川 知早神田 英一郎西村 暢子中川 ゆかり西谷 葉子能勢 真梨子浅野 耕太佐久間 美和藤村 恵子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 11 巻 1 号 p. 901-905

詳細
Abstract

当院では歯科医師が緩和ケアチーム(PCT)の一員として活動を共にしている.2009年から2014年までに当院PCTが介入したがん患者127例のうち,17例(13.3%)に口腔内の症状を認め,PCTで治療方針を検討した.口腔内の痛み,口腔乾燥,味覚異常,舌苔付着,唾液過多,食思不振,および開口障害に対し専門的治療を行い,全例に口腔内所見の改善が得られ,16例(94%)に症状の改善を認めた.歯科医師のPCT加入は介入患者の症状緩和に有効であり,チーム員の口腔に対する意識も向上した.またPCTによる口腔内観察は,患者のQOLの改善に寄与するだけでなく,医療スタッフの口腔への関心を高める効果も期待される.さらに多診療科連携を深めることにより,より質の高い緩和ケアを提供できるものと考える.

緒言

 終末期がん患者は,全身状態の悪化,経口摂取量の低下,セルフケア能力の低下などにより,口腔乾燥や歯周疾患など様々な口腔内の問題を抱えている14.また,終末期だけでなく,手術や化学療法,放射線療法など治療に伴う口腔内トラブルも少なくない5.これらの問題は,不快感や疼痛などの口腔症状を引き起こすだけでなく,咀嚼や発音などの口腔機能や心理社会面にも影響し,QOLの低下を招くことが知られている6,7

 一般的に口腔ケアは,①不快症状の軽減,②食事の楽しみ,③コミュニケーションの円滑化,④誤嚥性肺炎の予防,などの効果をもたらす8とされるが,近年緩和医療領域でも,口腔合併症に対する歯科診療や専門的口腔ケアが患者のQOLの改善に寄与するとの報告が散見される24,7,9,10

 しかしながら,がん患者の担当医は原疾患の診断・治療に追われ,口腔への注目度は高いとは言えない.口腔を観察する習慣がないことや口腔に関する知識不足もこの原因として指摘されている4.当院ではセルフケア能力の低下した患者に対し病棟看護師が口腔ケアを行うが,患者の訴えがなければ口腔合併症が見逃される危険性がある.また患者も病状や全身状態の悪化とともに口腔への関心が薄れる場合が多い.

 このような背景から歯科領域に関する勉強会開催や,ベッドサイドでの口腔ケアの実施,口腔トラブルのスクリーニングシステムなど,医療者の口腔に対する関心を高める試みが報告されている11,12.当院でも定期的に院内勉強会を開催しているが,口腔ケアの重要性が医療者に十分浸透しているとは言い難い.

 緩和ケアにおいては,患者・家族の全人的ニーズに対応するため,専門性を生かした多職種によるチーム医療が必要である11,13.そのため,緩和ケアチーム(PCT)は身体および精神症状緩和担当医師,看護師,薬剤師,医療ソーシャルワーカーなど多職種で構成されるが,PCTの一員としての歯科医師や歯科衛生士の活動報告はわずかである14,15

 当院では歯科医師にPCTの一員としての参加を依頼し,2009年から活動を共にしている.

 本稿では当院PCTにおける歯科医師の介入状況を報告し,その有用性を明らかにする.

対象と方法

 当院では,口腔内症状が強い場合や看護師が対応困難な場合に,主治医を通じて歯科医師に診察を依頼する.

 一方,PCTの活動内容は,主治医あるいは病棟スタッフからの依頼に基づき,医師,看護師,薬剤師の各職種1名ずつから成る小チームが患者を訪問し,治療・ケアの助言や提案を行う.訪問時口腔内に問題があると判断した場合に,歯科医師も小チームに加わり専門的な介入を進める.介入状況を週1回のPCTカンファレンスで報告し,今後の方針を話し合う.

 今回は,2009年1月から2014年12月にPCTが介入した担がん患者127例のうち,歯科医師が介入した17例(13.3%)を対象に,口腔内症状,診察所見,処置・投薬内容,患者の転帰を解析した.また,PCTの活動開始から歯科医師のPCT加入まで,すなわち2008年の1年間にPCTが介入した9例のうち,歯科医師が介入した2例(22%)も同様に解析した.

 歯科医師による口腔内の診察所見は,Revised Oral Assessment Guide (ROAG)16のうち歯/義歯,粘膜,歯肉,舌の4つのカテゴリーを用いて評価した.すなわち正常所見の1度から最も悪い3度を各項目につき3段階で評価し,それらの合計により歯科介入前後の所見を比較した.また,症状の評価は,食事摂取量,診療録,看護記録,PCT介入記録から行った.

 統計学的解析にはt検定を用い,p値0.05未満を有意とした.

結果

 対象症例の内訳は,男女比14/3例,平均年齢64.1歳(32~86歳),原発は消化器:8例,泌尿器:4例,造血器:3例,頭頸部:2例で,終末期患者は13例であった.PCTへの依頼目的は,疼痛緩和:13例,疼痛以外の症状緩和:9例,精神的ケア:11例,ホスピス・在宅支援の紹介,家族ケア:各2例であった(重複あり).歯科介入に至った症状は,口腔内の痛み(口腔粘膜,舌,咽頭,口唇,歯):10例,口腔乾燥:4例,味覚異常,舌苔付着:各2例,唾液過多,食思不振,開口障害:各1例であった(重複あり).歯科医師の診察所見は,口腔乾燥,付着物 (プラーク:3例,白苔:2例,歯石,喀痰,食渣:各1例),および炎症所見 (舌:3例,口腔粘膜:2例,歯肉:2例,咽頭:1例):各8例,腫瘍(口唇,臼歯部):2例,義歯不適合,う蝕,歯の動揺,開口障害,および口臭:各1例であった(重複あり).これらに対し,口腔ケアに加え行った歯科治療を表1に示す.口腔乾燥には人工唾液処方:4例,保湿剤推奨:2例,付着物は全例除去,炎症所見には含漱薬処方:3例,軟膏処方,抗真菌薬処方:各2例,義歯調整,保湿剤推奨:各1例,腫瘍による痛みには軟膏処方,義歯不適合や歯の動揺には義歯調整,その他う蝕治療や開口障害に対する開口訓練を行った(重複あり).

表1 歯科医師の診察所見および口腔ケアに加えて行った歯科治療

 口腔内の所見は,16例(94%)でRAOG値の改善を認めた(図1).初診時のRAOG値4~8(平均6.2)点に対し,介入後は4~6(平均4.4)点まで改善し,統計学的に有意差を認めた(p<0.001).残りの1例はRAOG値が変化しなかったが,膀胱がんの下唇転移巣と義歯の接触による炎症に対し義歯調整と軟膏処方を行い,口唇びらんは消失した.すなわち,口腔内の所見は歯科介入後全例で改善した.

図1 歯科介入前後のRevised Oral Assessment Guide (ROAG)値の変化

 また,食事摂取可能な8例の歯科介入前後5日間の平均食事摂取量は,口腔症状改善により全身状態が悪化した1例を除く7例で増加し,有意差はないものの0.2~5.7(平均3.7)割から0~9(平均4.1)割となった(p=0.722,図2).食事が摂れない患者も,持続する嘔気が週1回に減少したり,水分摂取が可能となったり(2例),「痛みが楽になった」(4例),「痛みで起こされなくなった」,「保湿剤が気持ちよかった」といった感想が得られ,16例(94%)に介入効果を認めた.

図2 食事摂取可能な8例の歯科介入前後5日間の平均食事摂取量の変化

 歯科医師の診察回数は1~9回(中央値2回),歯科介入期間は1~55日(中央値9日)であった.

 歯科医師のPCT加入前1年間に歯科が介入した2例の内訳は,術後開口障害および口内炎による疼痛であり,各々開口訓練,および口腔ケアを行った.

考察

 本検討では,歯科医師の介入を要したのは全体の13%であった.歯科医師のPCT加入前より歯科介入率は低下しているが,口腔乾燥や舌苔付着など自覚症状が軽微な患者の拾い上げができており,チーム員の口腔内への意識が高まったと考えられる.PCTは口腔に関連する症状や訴えがある場合に口腔内を観察しているため,全例観察すれば介入率はさらに上昇する可能性がある.なかには,痛みなど不快な症状を伴うものや,治療や処置に時間を要するものも見られ,また専門的治療によりほぼ全患者の症状が改善したことから,PCTによる口腔内観察は患者のQOL改善に寄与すると考えられる.さらに,担当医や病棟スタッフの口腔への関心を高める効果も期待できる.岩崎ら2は,終末期がん患者においては半数以上に口腔乾燥,歯周疾患,舌苔などの口腔内合併症が存在し,死が近づくにつれ高頻度になると報告している.このことを念頭に置き,自覚症状や訴えがない場合にもPCT介入患者全例に口腔内観察を行い,症状の顕在化,重症化を予防すべきと考える.その結果を踏まえ,病棟看護師を主体とした高リスク患者に対する口腔内スクリーニングシステムを構築することが次の課題である.

 歯科医師がPCTのチーム員であることにより,患者訪問時に口腔内に問題がある場合,特に迅速な対応が望まれる場合に気軽に相談し,速やかに適切な治療を開始できる.また,歯科医師にとっても,全人的な観点で患者情報を共有できるため,個々の患者背景も考慮した診察や治療を進めることが可能である.カンファレンスでも,多角的視点から幅広い意見や提案が得られ,PCTメンバーがより中身の濃い議論を行えるようになった.現在はコンサルテーション型の歯科介入が一般的であるが4,9,多くの利点と緩和ケアにおける需要を考慮すると,今後PCTの一員としての歯科介入を推進すべきと考える.

 近年病院の診療体系は専門化・細分化が進み,自身の診療科以外の知識や経験が不十分になりがちである.PCTメンバーは,主に内科系あるいは外科系医師,麻酔科医,精神科医などで構成されており,歯科,皮膚科,耳鼻科などの専門領域の医師が属することは少ない.また,一括りに内科系,外科系と言っても,循環器,呼吸器,消化器,脳神経など専門領域が細分化され,専門外の症状に対して適切な評価や提案ができていない可能性がある.多職種連携に加え,複数の診療科医による多診療科連携により,がんの終末期だけでなく治療期に生じる様々な症状を,様々な角度から専門的な観点も加味した評価ができ,速やかに適切な治療に繋げることが可能である.当院では,皮膚科医師がPCTメンバーとして活動していた時期があり,同様の効果が得られている.今後さらに多診療科連携を進めるために,PCTメンバーとして多くの医師の協力が得られるよう働きかけていきたい.

結論

 歯科医師のPCT加入は介入患者の症状緩和に有効であり,チーム員の口腔に対する意識も向上した.またPCTによる口腔内観察は,患者のQOL改善に寄与するだけでなく,医療スタッフの口腔への関心を高める効果も期待される.さらに多診療科連携を深めることにより,より質の高い緩和ケアを提供できるものと考える.

References
  • 1)  Sweeney MP, Bagg J. The mouth and palliative care. Am J Hosp Palliat Care 2000; 17: 118-24.
  • 2)  岩崎静乃,大野友久,森田達也,他.終末期がん患者の口腔合併症の前向き観察研究.緩和ケア2012; 22: 369-73.
  • 3)  大久保和美,朝比奈悠,塚本敦美.終末期患者の口腔内環境に影響を及ぼす要因とその対応について―特に口腔乾燥について―.有病者歯科口腔外科医療2005; 14(2): 65-72.
  • 4)  大野友久.終末期癌患者の緩和ケアにおける口腔ケア.医学のあゆみ2012; 243(8): 664-8.
  • 5)  片倉 朗.がん治療の予後に大きく影響する口腔ケア.歯科衛生士2010; 34(8): 70-3.
  • 6)  内藤真理子,鈴鴨よしみ,中山健夫,他.口腔関連QOL尺度開発に関する予備的検討General Oral Health Assessment Index(GOHAI(改変))日本語版の作成.口腔衛生会誌2004; 54: 110-4.
  • 7)  高橋由希子.終末期がん患者における口腔関連QOLとそれに影響を与える因子.日衛学誌2011; 5(2): 23-37.
  • 8)  米山武義,吉田光由,佐々木秀忠,他.要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究.日歯医学会誌2001; 20: 58-68.
  • 9)  大田洋二郎,安達 勇.緩和医療を受ける患者の口腔ケア.看護技術2006; 52(14): 46-9.
  • 10)  藤井 航.緩和ケアと口腔疾患(ステージと発現頻度).日歯福祉誌2010; 15(1): 9-11.
  • 11)  藤田智子,木下優子,白土辰子.緩和ケアチーム主導の公開カンファレンスと多職種連携促進効果.死の臨床2006; 29(1): 77-82.
  • 12)  大野友久.がん患者に対する歯科診療の役割と実際.MB Med Reha 2009; 111: 10-6.
  • 13)  高木明子,角田真由美,伊藤達彦.緩和ケアチームにおける多職種間の連携.最新精神医学2011; 16(5): 555-61.
  • 14)  冨本麻美,宮下清美,東森秀年,他.専門的口腔ケアを導入した緩和ケアチームの活動.共済医報2012; 61(3): 261-5.
  • 15)  北川有佳里,武塙香菜.地域がん診療拠点病院における緩和ケア対象患者への歯科口腔外科衛生士の介入実態と今後の課題.日衛学誌2014; 8(2): 46-52.
  • 16)  Andersson P, Hallberg IR, Renvert S. Inter-rater reliability of an oral assessment guide for elderly patients residing in a rehabilitation ward. Spec Care Dentist 2002; 22(5): 181-6.
 
© 2016 日本緩和医療学会
feedback
Top