Palliative Care Research
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原著
タペンタドール徐放錠の中等度から高度の癌性疼痛を有するオピオイド新規導入患者およびオピオイド切り替え患者を対象とした多施設共同非盲検試験
今中 啓一郎吉村 大志冨永 裕慎古賀 裕海廣瀬 敬一郎
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2016 年 11 巻 2 号 p. 147-155

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Abstract

中等度から高度の癌性疼痛を対象にタペンタドール徐放錠(ER)50〜500 mg/日の有効性および安全性を多施設共同非盲検試験で検討した.タペンタドールERの開始量は,オピオイド新規導入患者では50 mg/日,オピオイド切り替え患者では,先行オピオイド鎮痛薬量に応じた投与量とし,患者ごとに用量調節した.投与期は用量調節期と用量調節を達成した患者が移行する用量固定期の二つから構成されており,用量調節を達成した患者の割合は,オピオイド新規導入患者で93.3%,オピオイド切り替え患者で80.6%であった.主要評価項目の用量固定期における疼痛コントロールを維持した患者の割合は,それぞれ,89.7%および92.9%であった.中等度から高度の癌性疼痛を対象としたタペンタドールERの忍容性は良好であり,主な有害事象は悪心,嘔吐,傾眠,便秘等のオピオイドに特徴的な事象であった.

緒言

タペンタドール塩酸塩(以下,タペンタドール)は,グルネンタール社(ドイツ)で創製された新規の中枢性鎮痛薬である(図1).タペンタドールは,海外では速放性製剤および徐放性(以下,ER)製剤が開発されており,速放性製剤は急性疼痛に対する治療薬として,ER製剤(以下,本剤)は慢性疼痛に対する治療薬としてすでに汎用されている.

図1 タペンタドール塩酸塩の化学構造式

タペンタドールは,薬理学的にμオピオイド受容体作動作用(オピオイド作用)およびノルアドレナリン(以下,NA)再取り込み阻害作用(非オピオイド作用)の二つの作用機序を有しており,非臨床試験において両作用機序が鎮痛作用に寄与することが確認されている.また,タペンタドールはヒトμオピオイド受容体に対してアゴニスト活性を示す一方で,胃腸管機能の抑制作用はモルヒネよりも弱いことが非臨床試験で確認されており,疼痛治療にタペンタドールを用いることでオピオイドの投与時によくみられる便秘の発現あるいは程度が軽減される可能性が示唆されている.非癌性慢性疼痛を対象とした海外第III相試験では,本剤の有効性は強オピオイドの代表的な経口製剤であるオキシコドン徐放錠に劣らない一方で,便秘,悪心,嘔吐等の胃腸障害の発現率はオキシコドン徐放錠と比較して本剤で低いことが確認されている1,2)

本邦においては,本剤が癌性疼痛に対する新たな治療選択肢となることを期待し,開発が進められた.本稿では,中等度から高度の癌性疼痛に対する本剤の有効性,安全性の探索的評価を目的とし,オピオイド新規導入患者およびオピオイド切り替え患者を対象に実施された多施設共同非盲検第II相試験の結果について報告する.

方法

1 試験デザイン

本試験は,多施設共同,非盲検,非対照,任意増量試験であり,前観察期(3〜7日間),投与期(8〜19日間)および後観察期(7日間)で構成した.さらに投与期は,用量調節期(3〜14日間)および用量固定期(5日間)で構成した.本試験はヘルシンキ宣言等各種規程を遵守して実施し,患者には事前に同意書を取得した.

2 対象

対象は中等度から高度の癌性疼痛を有するオピオイド新規導入患者またはオピオイド切り替え患者とした.

オピオイド新規導入患者は,癌性疼痛を有し,オピオイド以外の薬物治療で十分な除痛が得られず(NRSスコア3)の平均が4以上),オピオイドの投与が必要と医師に判断された患者とした.

オピオイド切り替え患者は,癌性疼痛を有し,オピオイド(120 mg/日以下のモルヒネ徐放性製剤,80 mg/日以下のオキシコドン徐放錠,4.2 mg以下のデュロテップ®MTパッチ,2.5 mgのデュロテップ®パッチ)の投与により十分な除痛が得られている(NRSスコアの平均が4未満)患者とした.

オピオイド新規導入患者およびオピオイド切り替え患者ともに,①各種癌の診断が確定し,告知されている,②20歳以上の男性または女性,③本剤投与期間中,入院が可能な患者を組み入れた.また,用量調節期への移行には,前観察期の検査値を元に移行基準を設けた(図2).

図2 患者の内訳

*用量調節期PPS(Per Protocol Set):用量調節期移行例のうち,有効性の評価に影響を及ぼすと考えられる重大な治験実施計画書逸脱例を除外した集団

**PPS:用量固定期移行例のうち,有効性の評価に影響を及ぼすと考えられる重大な治験実施計画書逸脱例または5日間の用量固定期を完了していない患者を除外した集団

※重大な治験実施計画書逸脱:「選択基準」「中止基準」「本剤投与規定」「併用薬・併用療法」のいずれかの違反

3 用法・用量

1)本剤の投与方法および投与期間

本剤は,1日2回,12時間ごとに経口投与し,投与期間は,用量調節期3〜14日間,用量固定期5日間,計8〜19日間とした.

用量調節期では2)に基づき用量を増量し,連続する3日間に,①同用量の本剤が連続して6回投与されている,②本剤投与直前NRSスコアの平均が4.0未満,③各日のレスキュー・ドーズ投与回数が2回以下,のすべての基準を満たした患者が用量調節を達成したとして用量固定期に移行した.

用量固定期は,本剤の用法用量を変更しなかったが,有害事象の発現等,安全の理由による減量は可能とした(原則50 mg/日ごと).

2)開始量および増量法

オピオイド新規導入患者は,25 mg錠1日2回(50 mg/日)で投与を開始した.

オピオイド切り替え患者は,前観察期終了時の各オピオイド鎮痛薬の投与量に応じ,本剤の初回投与量を決定し,1日2回に分けて投与を開始した.初回投与量に対する本剤,オキシコドン,モルヒネおよびフェンタニルの換算比は,本剤:オキシコドン:モルヒネ:フェンタニル=10:2:3:0.03とした46)

用量調節期に同用量の本剤を2回連続して投与した患者は,①連続する2回の本剤投与直前NRSスコアの平均が4.0以上,②連続する2回の本剤投与直前NRSスコアの平均がその前2回の平均を上回る,③レスキュー・ドーズの投与回数が1日3回以上のいずれかに該当する場合,医師の判断で本剤の増量を可能とした(原則50 mg/日ごと).

4 レスキュー・ドーズ

鎮痛効果が不十分(突出痛を含む)となった場合は,レスキュー・ドーズとして速放性の経口オピオイドを使用した.

オピオイド新規導入患者におけるレスキュー・ドーズには,速放性の塩酸モルヒネ製剤を使用した.本剤の1日量が100 mg以下の場合はレスキュー・ドーズの1回投与量上限は5 mgとし,以降本剤の1日量が50 mg増えるごとに,レスキュー・ドーズの投与量上限は2.5 mgずつ増量した.ただし,用量固定期のレスキュー・ドーズ1回投与量は変更しないこととした.

オピオイド切り替え患者におけるレスキュー・ドーズは,前観察期に使用していたレスキュー・ドーズの種類および1回投与量を変更せず使用した.

5 併用禁止薬・併用制限薬

後観察期を除く試験期間中は,本剤の有効性や安全性の評価に影響する麻薬拮抗性鎮痛薬,麻薬拮抗薬,オピオイド鎮痛薬(レスキュー・ドーズ,退薬症候への処置は除く)等の併用は禁止した.また,試験前から投与していた非オピオイド性鎮痛薬,鎮痛補助剤は用法用量を変更せず使用した.

6 評価項目

有効性の主要評価項目は,用量固定期の「疼痛コントロールを維持した患者」の割合とした.「疼痛コントロールを維持した患者」は,①5日間の用量固定期を完了,②用量固定期に実施した本剤投与直前NRSスコアの平均が4.0未満,③用量固定期の各日のレスキュー・ドーズ投与回数が2回以下,のすべてを満たした患者とした.

有効性の主な副次評価項目として,用量調節を達成した患者の割合,24時間NRSスコア(11-point NRS),レスキュー・ドーズ,患者の総合的印象の変化を評価した.

安全性の評価項目は,有害事象,バイタルサイン(血圧,脈拍数,および呼吸数),臨床検査値,12誘導心電図とした.

7 統計

1)有効性

有効性の主たる解析対象集団は治験実施計画書に適合した集団(per protocol set; PPS)とした.

主要評価項目は,PPSでの,用量固定期における「疼痛コントロールを維持した患者」の割合およびその両側95%信頼区間(95%CI)を算出した.

副次評価項目について,用量調節期PPSの用量調節の達成率は,割合およびその両側95%CIを算出した.24時間NRSスコア(11-point NRS)は,実測値および本剤投与前からの変化量について,評価時点ごとに記述統計量を算出した.レスキュー・ドーズは,投与回数および投与量について,1日ごとに記述統計量を算出した.患者の総合的印象の変化は,本剤投与開始前と比較し,PGIC(Patient’s global impression of change)の7段階評価(1=非常に改善した〜7=非常に悪化した)を用い評価時点(用量固定期の1日目と後観察期の1日目または投与中止時)ごとに度数集計または記述統計量の算出を行った.

2)安全性

本剤の投与を1回でも受けた患者を安全性解析対象集団とし,安全性を評価した.

有害事象の本剤との関連性は,「関連なし」,「多分なし」,「可能性小」,「可能性大」または「ほぼ確実」の5段階で医師が判定し,本剤との関連が否定できない有害事象(「多分なし」,「可能性小」,「可能性大」,「ほぼ確実」)を副作用とした.

有害事象は,本剤投与後から後観察期終了時までに発現した有害事象および悪化した有害事象を対象とし,有害事象発現例数および発現率を算出した.副作用についても,同様の集計を行った.

臨床検査,バイタルサイン,12誘導心電図は,前観察期の所見をベースラインとし,治験担当医師が臨床的に異常変動と判断した場合は有害事象とした.これらはデータの性質に応じて,記述統計量の算出,クロス集計,度数集計を行った.

3)症例数

癌患者を対象に海外で実施されたtransdermal buprenorphine の二重盲検比較試験7)における用量固定期でのレスポンダー率(transdermal buprenorphine 群74.5%,プラセボ群50%)を参考に,本剤の用量固定期における「疼痛コントロールを維持した症例」の割合を70%程度と見込み,閾値を50%に設定し,割合の両側95%CIの下限値が50%(閾値)を下回らないことを80%の確率で示すのに必要な症例数を算出したところ47例であった.用量固定期および用量調節期での中止・脱落および解析除外例の割合をそれぞれ10%,30%と仮定し,目標症例数を80例と設定した.

結果

1 試験期間および参加医療機関

2008年11月〜2009年7月に全国24医療機関で実施し,すべての医療機関において,治験審査委員会の承認を得た.本試験は医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に従い実施し,本試験成績は本剤の癌性疼痛適応に関する申請資料として,規制当局の審査・承認を受けたものである.本試験のClinicaltrials.gov. IdentifierはNCT00805142である.

2 患者の内訳

同意取得95例のうち78例(オピオイド新規導入患者:36例,オピオイド切り替え患者:42例)が用量調節期に移行した.用量調節期に移行した患者のうち62例が用量固定期に移行した(図2).試験途中に中止した患者は18例であり,有害事象による中止が最も多かった(図2).

3 解析対象

用量調節期移行例78例のうち,用量調節期PPSは66例(オピオイド新規導入患者:30例,オピオイド切り替え患者:36例)であった.用量固定期移行基準を満たした症例62例のうち,主要解析対象集団である用量固定期のPPSは57例(オピオイド新規導入患者:29例,オピオイド切り替え患者:28例)であった(図2).

安全性の解析対象は,用量調節期に移行した78例全例であった.

4 患者背景

安全性解析対象集団78例のうち,男性が67.9%,65歳以上の患者が75.6%であった.年齢の平均値は70.3歳であり,BMIの平均値は20.33 kg/m2であった.性別,年齢,BMIに,両患者集団間で著しい不均衡は認められなかった.オピオイド切り替え患者の先行オピオイドは,オキシコドン(47.6%)が最も多く,次いでフェンタニル(33.3%)が多かった(表1).

表1 患者背景(安全性解析対象集団)

原疾患は,両患者集団で肺癌(オピオイド新規導入患者30.6%,オピオイド切り替え患者23.8%)が最も多く,次いで胃癌(11.1%,11.9%)であった.

5 本剤の投与期間および投与量

用量調節期における本剤の投与期間中央値は,オピオイド新規導入患者では6.0日(範囲:3〜14日),オピオイド切り替え患者では3.0日(範囲:1〜12日)であり,用量調節期終了時の本剤の平均投与量中央値は,それぞれ100.0 mg/日(範囲:50〜300 mg/日),100.0 mg/日(範囲:25〜500 mg/日)であった.

用量固定期における本剤の平均投与量中央値は,オピオイド新規導入患者では50.0 mg/日(範囲:50〜250 mg/日),オピオイド切り替え患者では100.0 mg/日(範囲:50〜500 mg/日)であった.

6 有効性

1)用量調節の達成率(用量調節期)

副次評価項目である用量調節期PPSでの用量調節達成率は,オピオイド新規導入患者で93.3%(28/30例,95%CI 77.9〜99.2%),オピオイド切り替え患者で80.6%(29/36例, 95%CI 64.0〜91.8%)であった.いずれの患者集団でも,用量調節の達成率は80.0%以上であり,本剤の用量調節が良好に行われた.

2)疼痛コントロールを維持した患者の割合(主要評価項目,用量固定期)

PPSでの疼痛コントロールを維持した患者の割合は,オピオイド新規導入患者で89.7%(26/29例,95%CI 72.6〜97.8%),オピオイド切り替え患者で92.9%(26/28例,95%CI 76.5〜99.1%)であった.疼痛コントロールが維持できなかった患者は,オピオイド新規導入患者で3例,オピオイド切り替え患者で2例のみであった.

いずれの患者集団においても,本剤により良好な疼痛コントロールが維持された.

3)24時間NRSスコアの経時的推移

用量調節期(3〜14日間)における24時間NRSスコアの推移および,用量固定期(5日間)における24時間NRSスコアの推移を図3に示す.

図3 (a)用量調節期における24時間NRSの経時的推移(用量調節期PPS)(b)用量固定期における24時間NRSの経時的推移(PPS)

○; オピオイド切り替え患者,●; オピオイド新規導入患者

用量調節期移行前2日間(ベースライン)および用量調節期最終評価時の24時間NRSスコアの平均値±SDは,オピオイド新規導入患者で4.9±1.40および2.6 

± 1.10,オピオイド切り替え患者で1.3±1.30および1.6 

± 1.73であった.オピオイド新規導入患者では,本剤の投与直後から,経時的な24時間NRSスコアの低下がみられた.一方,オピオイド切り替え患者では,ベースラインと比較して24時間NRSスコアの若干の上昇がみられた.

用量固定期では,用量固定期移行前3日間および用量固定期5日目の24時間NRSスコアの平均値±SDは,オピオイド新規導入患者で2.5±1.00および2.3±1.17,オピオイド切り替え患者で1.4±1.42および1.5±1.40であり,両患者集団で安定した24時間NRSスコアの推移を示した.

4)患者の総合的印象の変化(PPS)

オピオイド新規導入患者では,用量固定期終了日の患者の総合的印象の変化を「非常に改善した(1例)」「改善した(13例)」「わずかに改善した(10例)」「変わらない(5例)」と評価した患者は100%(29/29例)であった.

オピオイド切り替え患者では,「非常に改善した(0例)」「改善した(1例)」「わずかに改善した(6例)」「変わらない(15例)」と評価した患者は78.6%(22/28例)であった.

5)レスキュー・ドーズ

用量調節期1日目および5日目のレスキュー・ドーズの投与回数の平均値±SDは,オピオイド新規導入患者で0.2±0.55回/日および0.1±0.35回/日,オピオイド切り替え患者で0.4±0.68回/日および1.6±2.57回/日であった.用量固定期移行3日前および用量固定期5日目のレスキュー・ドーズの投与回数の平均値±SDは,オピオイド新規導入患者で0.1±0.26回/日および0.2±0.41回/日,オピオイド切り替え患者では0.2±0.39回/日および0.4±0.79回/日であった.いずれの患者集団においても,レスキュー・ドーズの投与回数の平均値は2回以下であった.

7 安全性

全体で5%以上に認められた有害事象および副作用を表2に示す.

表2 全体で5%以上の患者に発現した有害事象および副作用(安全性解析対象集団)

有害事象は,オピオイド新規導入患者で91.7%(33/36例),オピオイド切り替え患者で69.0%(29/42例)に認められた.主な有害事象は,オピオイド新規導入患者では,悪心(52.8%),嘔吐(47.2%),便秘(41.7%),傾眠(33.3%),食欲不振,発熱,下痢(各11.1%)であった.また,オピオイド切り替え患者では,悪心(26.2%),嘔吐(14.3%),傾眠,白血球数減少(各11.9%)であった.

副作用は,オピオイド新規導入患者で72.2%(26/36例),オピオイド切り替え患者で38.1%(16/42例)に認められた.主な副作用は,両患者集団ともに,消化器症状,傾眠であった.

有害事象の重症度は,いずれの患者集団においても主に軽度または中等度であった.投与中止に至った有害事象(原疾患の悪化も含む)は,オピオイド切り替え患者で 9.5%(4/42 例),オピオイド新規導入患者で13.9%(5/36 例)に認められた.本試験では死亡例の報告はなかった.

重篤な有害事象は,オピオイド新規導入患者で13.9%(5/36例),オピオイド切り替え患者で9.5%(4/42例)認められたが,いずれの患者集団でも,2例以上に認められた重篤な有害事象はなかった.本剤との因果関係が否定できない重篤な有害事象は,オピオイド新規導入患者では胃潰瘍(可能性小),呼吸抑制(ほぼ確実),徐脈性不整脈(ほぼ確実)の3件であり,オピオイド切り替え患者では薬物過敏症(可能性大)の1件であった.

臨床検査,バイタルサインで,治験担当医師がベースラインと比較して,異常変動と判断した所見は認められなかった.

考察

主要評価項目である用量固定期における「疼痛コントロールを維持した患者」の割合は,両患者集団で80%を超えており,良好な疼痛コントロールが維持され,副次評価項目においても,本剤の有効性を示唆する結果が得られた.

有害事象は,オピオイド新規導入患者で91.7%(33/36例),オピオイド切り替え患者で69.0%(29/42例)に認められた.両群間の有害事象の発現頻度差は主に悪心,嘔吐,傾眠,便秘の発現頻度の差が寄与していた(表2).上記のようにオピオイド新規導入患者における発現率が若干高かったものの,いずれの患者集団においても有害事象の重症度は主に軽度または中等度であった.また,オピオイド新規導入患者でみられた主な有害事象(悪心,嘔吐,傾眠,便秘等)はオピオイド投与時によくみられる事象であった.以上より両患者集団における本剤の安全性プロファイルに大きな違いがないことが推察された.また本剤新規投与時には必要に応じ悪心,嘔吐,傾眠,便秘への対応が肝要と思われた.

癌性疼痛の治療には薬物療法および非薬物療法が組み合わせて用いられるが,薬物療法の中心となるのは鎮痛薬である8).また, WHO方式がん疼痛治療法では,鎮痛薬の段階的な使用方法を示した三段階除痛ラダーに従った鎮痛薬の使用とその経口投与が推奨されている9).本剤はμ-オピオイド受容体作動作用とNA再取り込阻害作用を有する新たな徐放性の経口鎮痛薬であり,本剤が癌疼痛治療の選択肢に加わることは,臨床的に意義が高いと考えられる.

なお,本試験の限界として,試験デザインが非盲検,非対照であること,またオピオイド切り替え患者における前治療時の安全性データが未入手であることが挙げられる.

本試験の結果を受けて,オピオイド新規導入患者を対象とした日韓共同第III相試験と,オピオイド切り替え患者を対象とした国内第III相試験の二つの検証的第III相試験を実施し,それぞれの試験において本剤の有効性および安全性が確認された6,10,11).これらの試験結果から,本剤は本邦において「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」の適応で承認された.

結論

中等度から高度の癌性疼痛を有するオピオイド新規導入患者およびオピオイド切り替え患者を対象とした第II相試験では,いずれの患者集団においても本剤の有効性および良好な安全性および忍容性が示唆された.

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