Palliative Care Research
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活動報告
緩和ケアチーム介入患者のうちリハビリテーションを行った患者のADL変化と転帰
佐藤 恭子依田 光正樋口 比登実川手 信行水間 正澄
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2016 年 11 巻 2 号 p. 906-909

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Abstract

【目的】当院緩和ケアチーム(以下PCT)が介入している患者のうち約3割がリハビリテーション(以下リハ)科依頼されている.これらの患者についてADLの変化と転帰について現状調査をおこなった.【方法】1年間に当院PCTが介入していた患者のうちリハ依頼があった患者について,リハ内容,介入時のBarthel Index(以下B.I.)と終了時のB.I.,転帰について後方視的に調査した.【結果】対象患者は86名(平均年齢は65.4歳),抗がん治療が行われていたのは42名であった.B.I.は,上昇35%,不変20%,低下45%で,転帰は自宅退院20.9%,死亡47.7%,転院30.2%であった.B.I.低下群では死亡,転院が多かった.【考察】進行がん患者は治療や症状により容易にADLが低下し回復に時間がかかる.多職種チームでリハの目標を適切に設定しADL,QOLを維持する工夫が重要である.

緒言

がん患者には疾患からおこる障害あるいは治療の侵襲から機能・能力障害が生じる1).がんのリハビリテーション(以下:リハ)が注目される中,緩和ケアチームが介入するような身体症状や精神症状がある時期にリハが必要とされることも多くなっている.

当院緩和ケアチーム(以下:PCT)は組織として正式には2002年から活動しており,年間約300件の新規介入が行われており,常に30~40名の患者を回診して

いる.

一方,当院リハビリテーション科は常勤医師2名,訓練士18名(理学療法士12名,作業療法士4名,マッサージ師2名)で,2014年度の年間総依頼件数は1,688件,うちがん患者へのリハ依頼件数は120件である.

緩和ケアチームもリハ科も依頼はそれぞれ主治医から行われるが,2013年よりリハ医が緩和ケアチームのカンファレンスに参加し医療ソーシャルワーカーも含め多職種でがん患者に関わっている.

緩和ケアチームが介入する患者のうち,およそ3割にリハ科依頼がされているが,当院は特定機能病院であり,急性期の治療や入院期間の制限によりリハ介入時間が限られリハの成果がわかりにくい.このため,これらの患者についてそのADLの変化と転帰について明らかにすべく,現状調査をおこなった.

方法

2014年8月から2015年7月の1年間に当院PCTが介入していた患者のうちリハ依頼があった患者について,リハ内容,介入時のBarthel Index (B.I.)と終了時(入院中であれば調査時)のB.I.,転帰について診療録・リハ総合実施計画書より後方視的に調査した.B.I.は,原法はMahoney2)らが発表したもので100点満点である.表13)のようにADLの各項目の介助量が多いほど点数は低くなる.

表1 Barthel Index

結果

対象患者は86名(平均年齢65.4歳[標準偏差12.8],男性33名,女性53名),このうち非がん患者は4名,緩和的放射線療法・化学療法などを含む抗がん治療が行われていたのは42名(49%)であった.在院日数は平均66.4日(標準偏差37.4),リハ介入期間は平均42.3日(標準偏差31.0)であった.原疾患は,乳がん22名,婦人科がん12名,肺がん11名,大腸がん5名,膵がん5名,血液がん5名,胃がん4名,食道がん4名,前立腺がん2名,その他(がん)12名,非がん4名であり,病期はIII期4名,IV期72名,その他(非がん,血液がんなど)10名であった.リハ介入時のPerformance Status (PS)は,PS 2:3名,PS 3:54名,PS 4:29名であった.緩和ケアチームの介入内容は疼痛などの症状緩和が85%,精神的なサポートが15%であった.一方,主治医および患者のリハへの依頼内容は8割がADLの改善で2割が症状緩和(呼吸苦軽減・リラクゼーションなど)であった.

処方内容は,理学療法が82名(うち作業療法も行ったのは9名),嚥下評価は10名(うち嚥下評価のみは4名)であった.機能訓練としてリラクゼーション,関節可動域訓練,筋力強化訓練,基本動作訓練,歩行訓練,車椅子自操訓練,呼吸機能訓練,嚥下訓練などが施行され,B.I.は,上昇群は35.4%,維持群19.5%,低下群が45.1%であった.転帰は死亡退院;47.7%,転院;32.2%,自宅退院;20.9%,入院中;1.2%であった.B.I.低下群では死亡退院や転院がほとんどで自宅退院は少なく,B.I上昇群では自宅退院が多い傾向であった(図1).

図1 リハ介入前後のB.I.変化と転帰との関係

また,リハ介入時にB.I.が10点以下であった患者のうちB.I.上昇群の割合は24%であったのに対し,リハ介入時のB.I.が11点以上であった患者においては,B.I.上昇群の割合は40.3%であった(図2).

図2 リハ介入時B.I.とADL改善度との関係

考察

緩和ケアチームの介入を要する症状のある患者は,がん治療や腫瘍による症状(疼痛,呼吸症状,消化器症状など)により食事量が減少し床上で過ごすことが多いため廃用も進みやすい.今回の調査で緩和ケアチームが関わる時期に至っても約半数の患者のADLが維持・改善されていることが示されたが,ADL改善群でも自宅退院は半数にとどまる.進行がん患者を対象に調査した在宅療養移行に関する報告では,村岡ら4)は,最終B.I.と最終歩行能力が自宅退院に関与していると報告している.当院の平均在院日数(12.4日)に対し本研究の介入患者の入院期間が大幅に長いことは,自宅退院できずに転院の方針になったのち転院するまでの待機期間が影響している可能性がある.また,入院期間はリハ介入期間より3週間以上長く,ADLが低下してからリハ科依頼されている可能性がある.入院期間を短縮し,よりよいADLでの自宅退院を増やすためには,入院早期から廃用を生じやすい患者をスクリーニングし,ADL低下を予防する取り組みが病棟スタッフにも必要である.

また,リハ介入してもADLが低下した群では死亡退院,転院が多かった.死亡原因のほとんどは原疾患(がん)であり,肺塞栓や出血などによる急な変化を生じない限り,ADLが徐々に低下し主治医チームの指示もしくは本人の希望によりリハ介入が終了し,その後亡くなるという経過が多い.介入時のリハの目的がADLの回復であっても,状態によって必要なリハは変化するものであり,本人家族の希望を踏まえ,主治医チームや緩和ケアチームと予後やリスクを再評価した上で,リハの目的を適宜変更しADLの維持を目的とした維持的リハや,リラクゼーションや症状緩和などを目的とした緩和的リハを提供する必要がある57)

リハ介入時にB.I.が10点以下の全介助の患者では,ADLの改善は難しいことが示されたが,リハの目的がリラクゼーションや拘縮・褥瘡の予防などが中心となる場合には,そもそも身体的自立度(B.I.)によるリハの評価は適切とはいえない.一方で,ADLの改善がなくてもリハが生きがいや楽しみとなる患者も経験する.今後の研究では満足度や患者の心理社会面も評価しリハの効果を明らかにしていくことが課題である.

結論

緩和ケアチームが関わる時期でもリハ介入後約半数の患者のADLが維持・改善されていた.ADLが全介助レベルまで低下してしまうと短期間でのADL改善は困難であり,多職種での適切なリハのゴール設定と患者や家族の満足度の向上につながる取り組みが重要である.

References
  • 1)  辻 哲也,里宇明元,木村彰男編.癌のリハビリテーション.金原出版,東京,2006; 53-9.
  • 2)  Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation; the Barthel index. Md Med State J 1965; 14: 61-5.
  • 3)  千野直一編.現代リハビリテーション医学,改訂第3版.金原出版,東京,2009; 207-8.
  • 4)  村岡法彦,岩渕達也,道免英仁,他.緩和ケアチームにおける理学療法士の役割.北海道理学療法2014; 31: 16-20.
  • 5)  特定非営利活動法人日本緩和医療学会専門的・横断的緩和ケア推進委員会.緩和ケアチーム活動の手引き,第2版.2013; 19-21.
  • 6)  宮田千恵子,辻 哲也.緩和ケアが主体となる時期のがんリハビリテーション.MB Med Reha 2014; 173: 67-73.
  • 7)  関根龍一,千葉恵子,横田久美,他.急性期病院緩和ケアチームが取り組むリハビリテーション─亀田総合病院の現状と今後の課題.看護学雑誌2010; 74: 26-32.
 
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