Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
緩和ケア病棟を併設している療養病棟における緩和ケアの実態調査
村上 真基大石 恵子綿貫 成明飯野 京子
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2017 年 12 巻 1 号 p. 101-107

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟(PCU)を併設している療養病棟における緩和ケアの意義や普及可能性を探求するため,その実態と課題を明らかにする.【方法】PCU併設の療養病棟24施設の病棟責任者に対して無記名自記式質問紙調査を行った.質問内容は,医療用麻薬(麻薬)管理,スタッフ体制,がん患者受け入れ,PCUとの連携,緩和ケアに対する困難感等とした.【結果】18施設(75%)から回答を得た.療養病棟で麻薬を使用可能14施設,麻薬をPCUと同様に使える10施設,緩和ケアか麻薬処方に詳しい医師の配置10施設,緩和ケア経験看護師の配置11施設であった.がん患者は全18施設で受け入れ,病状変化によるPCU転棟は17施設で実施していた.困難感は,人員配置不足,専門性・教育の不足,麻薬管理の問題等であった.【結論】調査対象の療養病棟では,いずれもがん患者の緩和ケアを実施していた.解決を要する課題の存在も明らかとなった.

緒言

現在,わが国の死因の約3割はがんであり,年々死亡者数は増加している.がん患者の療養の場の確保は重要な課題であり,療養病床・病棟においてもがん患者の多様な苦痛に対応する緩和ケアは必須になってきている.

全国の病院病床数のうち約20%が療養病床であり,約32万床を占めている.そのうち,死亡者数は100床あたり医療療養病床55名/年,介護療養病床29名/年であり,その死因のうち悪性腫瘍の割合は医療療養病床15.1%,介護療養病床8.3%であると報告されているため,そこから推計すると療養病床(病棟)において死亡するがん患者は,年間2万人前後と考えられ,がん死亡者数(36万人/年)の5~6%である13).これは,緩和ケア病棟(以下,PCU)の死亡者数(約3.9万名)4)と比較しても決して少ない数字ではない.

筆者の施設は,PCUと療養病棟を有し,PCU入院患者数の約2割にあたるがん患者を緩和ケア目的で療養病棟へ受け入れている実態がある.そこでは,積極的に医療用麻薬(以下,麻薬)も使用して苦痛緩和を行えることについて報告した5)

このようにPCUと療養病棟を併設している医療機関が散見され,PCUのスキルを活かし,それぞれの施設で独自の方法で効果的なケアを模索していると推察される.しかし,療養病棟におけるがん患者への緩和ケアとしての実態を報告したものは少なく57),進行がん患者のケアの開発のためには,これらの課題を明らかにする必要があると考える.

本研究の目的は,PCUを併設している療養病棟における緩和ケアの実態を調査して,その課題を明らかにすることである.

方法

1 調査対象

緩和ケア病棟入院料届出施設のうち,日本ホスピス緩和ケア協会会員となっている東日本(東北・関東・甲信越)の98病院(2015年11月現在)から各病院のホームページを検索し,療養病棟(医療型,介護型)を併設している25施設を選定した.このうち1施設は,PCUと療養病棟が別の敷地に立地していることが調査段階で判明したため除外し,24施設を対象とし,それぞれの療養病棟管理責任者を対象とした.

2 調査方法

2015年11月〜2016年1月の間に,郵送法による無記名自記式質問紙調査を行い,回答は療養病棟管理責任者へ依頼した.療養病棟が複数ある施設の場合は,がん患者を多く受け入れている病棟に回答を依頼した.

3 調査内容

調査項目は,療養病棟における麻薬の管理(保管庫の有無)および使用の実態,緩和ケアの専門性の高い医師・看護師の存在,がん患者受け入れ体制(受け入れの有無,経緯,受け入れ方),PCUとの連携(PCUへの受け入れ・転棟),がん患者の診療・ケアにおける困難,非がん疾患患者の緩和ケアに対する認識とし,選択肢に関しての有無を問う設問と,自由記述からなる内容とした.

4 分析方法

記述統計を算出するとともに,自由記述については内容分析に準じて複数のスタッフにより分析し,記述の意味単位を抽出してカテゴリー化した.

5 倫理的配慮

本研究は,救世軍清瀬病院倫理委員会の承認を得て実施し,各施設への調査依頼書に,質問用紙への回答をもって学術的発表に同意取得とする旨を記して,調査を行った.また,集計・分析において施設名や個人が特定されないように配慮した.

結果

対象24施設中の18施設(回収率75%)から回答を得た.回答者は看護師17名,医療相談員1名であった.

1 麻薬の管理・使用について

療養病棟において,麻薬保管庫は14施設(78%)に設置され,このうち13施設は麻薬を使用できる体制であったが,1施設は使用できないと回答した.また,麻薬保管庫のない4施設(22%)のうち3施設は使用もできないと答え,1施設は麻薬使用可能と回答した(詳細については不明).麻薬使用できる14施設のうち,PCUと同様に使用できるのは10施設,麻薬の種類や投与方法に制限のある施設は合わせて4施設であった(表1).

表1 療養病棟の麻薬管理状況,医師・看護師体制

2 緩和ケア担当の医師・看護師

緩和ケア医が病棟を担当しているのは9施設(50%)であり,内訳は緩和医療専門医・暫定指導医が勤務しているのが4施設,緩和ケア病棟医・チーム医が勤務しているのは6施設であり,このうち両方在籍が1施設であった.緩和ケア医はいないものの麻薬投与に習熟している医師が担当しているのは1施設(6%)であった.

また,緩和ケア従事歴のある看護師が配置されている病棟は11施設(61%)であり,がん・緩和ケア関連の専門・認定看護師が勤務しているのは2施設,PCU経験看護師が勤務しているのは10施設,このうち両者在籍が1施設であった.

緩和ケアに詳しい医師と看護師がともに不在なのは6施設(33%)であり,このうち5施設は麻薬保管庫が備えられて麻薬使用も可能な施設であった(表1).

3 がん患者の受け入れ体制

回答のあった18施設すべてでがん患者を受け入れており,そのうち11施設(61%)は原則的に無条件で受け入れていた.受け入れ決定の経緯は,患者・家族の希望を考慮しているところが9施設(50%)と多く,その一方でPCUへ入れなかった患者の受け入れ,医療相談員による振り分け,PCUあるいは療養病棟の医師・看護師による判定など,PCUと療養病棟が一体となった患者受け入れ体制をとっていた(表2). 

表2 がん患者の受け入れ体制,緩和ケア病棟との連携

また,受け入れの判断材料について14施設(78%)から回答があり,麻薬使用状況,ケアや処置に少ない人員配置で対応できるか,苦痛症状の種類や程度,余命・予後は長いか,患者・家族の希望があるかなどが考慮されていた.麻薬使用できないと答えた4施設は,いずれも麻薬の使用状況が受け入れ判断の要素となっていたが,このうち3施設は療養病棟で受け入れできない患者をPCUで受け入れていた(次項参照)(表3).

表3 がん患者受け入れの判断材料(自由記述)

4 PCUと療養病棟の連携

療養病棟で受け入れできなかったがん患者を「PCUで受け入れている」,あるいは「受け入れを検討している」のは14施設(78%)で,「PCU受け入れを行っていない」3施設(17%)のうち1施設は「PCUで受け入れできなかった患者を療養病棟で受け入れる体制を取っている」と答えた.入院後の病状変化時にPCUとの間で患者を転棟させているのは17施設(94%)であった(表2).

5 療養病棟においてがん患者の診療・ケアを行うことへの困難

16施設(89%)から回答があり,「人員の不足」が緩和ケアを困難にしている,「専門性の不足」が緩和ケアを困難にしているなどの人的な要因が半数以上の施設から示された.また,「麻薬管理の問題」,「医師側の問題」も挙げられていた.「苦痛症状のケアが難しい」ことで,患者の状態によって受け入れ・対応できないときがあるという実態も示された(表4).

表4 がん患者の診療・ケアを行うことに困難な点はあるか(自由記述)

「専門性の不足」を挙げた9施設のうち6施設は緩和ケアに詳しい看護師の配置がなく,5施設は緩和ケアに詳しい医師の配置がなかった.緩和ケア医・看護師の両者がともに不在の6施設は,いずれも薬剤・麻薬調節の困難や症状緩和困難などの不安材料を挙げていたが,病状変化時のPCU転棟対応は行っていた.

6 非がん疾患に対する緩和ケアについて

9施設(50%)から回答があり,非がんに対しても看取りケアが必要であること,症状緩和が必要であると認識されており,非がん疾患に対する緩和ケアを否定的に考えている施設はなかった(表5).

表5 療養病棟では非がん疾患患者の緩和ケアについてどのように考えているか(自由記述)

考察

療養病棟の医療・看護・介護に関する実態調査や意識調査は,終末期医療・ターミナルケア,あるいは看取りについては多数の調査報告がある2,8,9).一方で,「緩和ケア」はWHO10)でも定義されている通り,終末期・看取り期だけではなく疾患の早期から提供され,苦痛緩和やQOL改善をめざすケアであり,緩和ケアという視点で療養病棟多施設のケアの実態とPCUとの連携について調査した報告は,われわれが調べえた範囲では本研究が初めてと思われる.

療養病棟全体の調査として,医療療養病棟のうち夜間も麻薬を用いた疼痛管理ができる施設は56%と報告されている11).また,麻薬処方できる医師が配置されている施設は医療療養病棟65%,介護療養病棟60%と報告されているが,同じ調査では,PCU併設あるいは緩和ケアに携わる医師・看護師の配置などによりがん患者受け入れを推進している施設が医療療養・介護療養病棟ともに7%,院内の緩和ケアチームに相談できる体制がある施設も医療療養病棟9%,介護療養病棟7%であり,実際に麻薬を処方して苦痛緩和を行っている患者も少ない11,12).今回の調査で緩和ケア医や緩和ケア経験看護師の配置が高頻度であったのは,研究対象となった療養病棟はいずれも院内にPCUを併設していることとの関連は想像できるが,今回の結果の範囲で理由は明らかになっていない.

患者の受け入れや病状変化に伴う転棟について,施設ごとの違いはあるものの,PCUと療養病棟が連携して運営していることも明らかとなった.患者・家族の希望を大切にしつつ,麻薬使用状況やケア内容などの病状を判断しながら患者を適切な病棟へ案内することは,本来の役割が違うPCUと療養病棟の機能を最大限に生かすことになり,病床管理上もメリットとなる.患者個々にとっては,適切な緩和ケアの提供を同一施設内で受けられれば転院などで振り回されることがなくなり,患者全体から考えると,緩和ケアを受けられる患者数が増えることを通して,がん難民を減らすことにも貢献すると思われる.なお,今回の調査では,両病棟が連携を取っていることは確認できたが,具体的な連携内容については調査が不足しており,今後のさらなる検討が必要であると思われる.

療養病棟における緩和ケアの課題も明らかとなった.入院受け入れの判断材料と,療養病棟での緩和ケアの困難さの回答から見えてきたのは,療養病棟の人員配置不足と専門的知識・技術の不足が緩和ケア実施のハードルを高くしていることである.療養病棟には介護職も多く配置されている実情を見据えると,医療職だけではなく介護職も含めたいっそうの人事面や教育・研修面の工夫が必要であると思われる.

また,診療報酬上の「緩和ケア診療加算」は一般病床で算定可能であり,有床診療所ですら基準を緩やかにした「有床診療所緩和ケア診療加算」の設定はあるが,療養病棟では緩和ケアに関する算定はできない.今後,療養病棟の緩和ケア,非がん疾患に対する緩和ケアを普及させるためには制度の見直しも望まれる.

今回の調査で,非がん疾患の緩和ケアに対して関心を持っていたのは9施設(50%)にとどまったが,これらのいずれの施設でも症状緩和と看取りケアなどの緩和ケアの必要性を指摘していた.療養病棟ではがん患者よりも非がん患者のほうが多く,今後は非がんの緩和ケアも必然となることを現場では認識しているものと考えられる.

本研究論文の限界としては,(1)本研究はPCUを併設している療養病棟のみを対象としており,PCUを併設していない療養病棟の実態を明らかにしていない.そのため,がん患者の受け入れ状況など本調査の結果がPCU併設の有無による効果であるのかが明らかでない.(2)調査は病棟管理者の回答に基づいており,情報の正確性が担保されていない.(3)本調査はおもに構造を明らかにするものであり,プロセス・アウトカムは明らかとなっていない,などが挙げられる.今後は,PCUを持たない病院の療養病棟の実態調査,現場スタッフの意識調査,質的評価,遺族調査をすることなどが,療養病棟の緩和ケアを普及させるために役立つものと思われる.

結論

PCUを併設している療養病棟の緩和ケアの実態を調査した.対象となった療養病棟では,いずれもPCUと連携を取りながらがん患者の緩和ケアを実施していた.多くの施設で緩和ケア医・看護師が配置されていたが,麻薬使用における保管庫,処方する医師,実施する看護師の問題,あるいは人員配置不足や緩和ケア教育の不足などが課題として明らかとなった.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
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