Palliative Care Research
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総説
がん悪液質の病態生理と緩和ケアでの治療戦略における栄養サポートの重要性
天野 晃滋石木 寛人
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2017 年 12 巻 2 号 p. 401-407

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Abstract

がん悪液質は進行性の骨格筋の減少を特徴とする複合的な代謝障害で従来の栄養療法では改善が難しいとされている.その治療には栄養療法・運動療法・薬物療法の組み合わせが必要だとされ,栄養療法は症状緩和・栄養カウンセリングとともに栄養サポートの一環と考えられている.われわれの緩和ケア病棟での調査では,進行がん患者・遺族の栄養サポートのニーズはそれぞれ76・73%と高く,選別患者に対する栄養療法の効果を期待できることが示唆された.また,がん悪液質の本態は慢性炎症であることから血中C-reactive protein(CRP)値のがん悪液質のマーカーとしての意義を示した.まだ十分なエビデンスはないものの,がん悪液質の病態生理を考慮した栄養サポートはがん悪液質の治療戦略として重要だろう,そして血中CRP値はがん悪液質治療の効果判定に有用であろうと思われた.

緒言

多くの進行がん患者はがん悪液質という進行性で全身性の病態で苦しめられる.がん悪液質の特徴は脂肪・骨格筋の組織量の変化にともなう体重減少で,抗がん治療への耐久力を脆弱化しquality of life(QOL)を低下させ予後を短縮させるといわれている1,2).進行がん患者のケアにかかわる医療者ならよく経験する病態であるのだが,現在でもその機序の解明は十分ではない.その理由として,関与する遺伝子・シグナル伝達物質とその経路の多様性,タンパク質・脂質・糖質の代謝障害の複雑性が挙げられ,結果として治療戦略の開発は遅れている1,2).本論文ではがん悪液質の病態生理と臨床像を踏まえ,進行がん患者でのがん悪液質の治療戦略における栄養サポートの重要性を考察する.

がん悪液質の病態生理と臨床像

1 定義と診断基準

がん悪液質は,進行性の骨格筋の減少(脂肪の減少の有無は問わない)を特徴とする複合的な代謝障害で従来の栄養療法では改善が難しく様々な機能障害をもたらす1).その病態生理は,食欲不振と代謝障害の多様な連動によって引き起こされるタンパク質異化かつエネルギー不均衡を特徴とする1).がん悪液質の進行度分類は未確立であるが,前悪液質(pre-cachexia)・悪液質(cachexia)・不可逆的悪液質(refractory cachexia)の三段階が考えられており,悪液質(cachexia)の診断基準は,6カ月以内に5%以上(body mass indexが20 kg/m2未満では2%以上)の体重減少あるいはサルコペニア(筋肉減少症)で2%以上の体重減少とされている1)

2 慢性炎症

がん悪液質は腫瘍と宿主との相互作用で生じる複雑な多因子性病態で,その本態は全身性慢性炎症である.つまりがん悪液質では炎症性サイトカインであるtumor necrosis facor-α(TNF-α)・interleukin-1(IL-1)・IL-6などが脂肪・骨格筋だけでなく肝・視床下部・副腎など全身に影響を与える1,2).次にTNF-α・IL-1によりnuclear factor kappa B(NF-κB)は活性化され,NF-κBは炎症性サイトカインを活性化し慢性炎症を助長するという負の連鎖反応が起こる1,2).炎症性サイトカインは肝細胞でC-reactive protein(CRP)の産生を促進させることから血中CRP値はがん悪液質の指標になると考えられる.

3 食欲不振

食欲不振はがん悪液質の典型的な症状の一つで,最近の研究ではがん悪液質における神経内分泌系の関与が指摘されており,食欲・摂食の制御中枢である視床下部・下垂体・副腎系の役割が注目されている.その中心となるのが食欲・摂食を促進するneuropeptide Y(NPY)とagouti-related peptide(AgRP),抑制するpro-opiomelanocortin(POMC)とcocaine-and amphetamine-regulated transcript(CART)である.がん悪液質では慢性炎症から視床下部での炎症性サイトカインの発現が促進し,NPY/AgRPニューロンが不活性化,POMC/CARTニューロンが活性化され食欲不振などの様々な症状に繫がる.さらに,食欲不振は痛み・発熱・消化器症状・呼吸器症状など身体的症状や抑うつ・せん妄など精神症状で二次的にも増強する1,2)

4 エネルギー不均衡

エネルギー消費とは個体が1日に消費するエネルギー(kcal/day)のことで,総エネルギー消費量(total energy expenditure: TEE)は安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure: REE)と活動時エネルギー消費量(activity energy expenditure: AEE)の和である.REEは基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure: BEE)と食事誘導性熱産生(diet-induced thermogenesis: DIT)の和である.つまりTEE=REE+AEE=BEE+DIT+AEEとなる.DITは栄養摂取によるエネルギー消費の増加を意味し消化・吸収・代謝で消費されるエネルギーだと考えられており,タンパク質によるDITは脂質・糖質のものに比べて大きい.がん患者で体重減少群の約半数でエネルギー消費が亢進していたこと,がんの診断時に約半数でREEが亢進していたことをそれぞれに示した研究がある3,4).複数の研究によると膵・肺がんでREEは亢進していたが胃・大腸がんでは不変であった48).がん患者のエネルギー消費は亢進する傾向があるとしても,がん悪液質による慢性炎症の程度によってREEは変動する可能性があり,がん腫・転移巣・治療による影響の差もあるだろう.一方,進行がん患者では活動性が障害されるためAEEは低下しREEが亢進したとしてもTEEは大きく変わらない可能性がある.The European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN) guidelines on nutrition in cancer patientsではがん患者のTEEは健常者と同様に活動性に応じて25〜30 kcal/kgで算出するのがよいとされているが,これは大まかな方法であり肥満・るいそうが高度の場合は過大・過小評価となり得る.より正確にするなら間接熱量計や身体活動計を用いるのがよい9)

進行がん患者でエネルギー消費が亢進する原因としてがん悪液質による慢性炎症が挙げられるが,がん細胞のエネルギー産生の特徴も考慮しなければいけない.がん細胞はブドウ糖への依存度が正常細胞より高く,十分な酸素の存在下でも嫌気性解糖でエネルギーを産生するので同時に大量の乳酸も産生する.この乳酸を肝のコリ回路(Cori cycle)でブドウ糖に再生するのにより多くのエネルギーを要する.つまり腫瘍がエネルギーを得るために宿主の大量のエネルギーが消費されることになる1,2).次に,最近の研究では白色脂肪の褐色脂肪化による影響が指摘されている.褐色脂肪は新生児や冬眠動物に多く存在し主な機能は熱産生である.褐色脂肪細胞はミトコンドリアが豊富で,ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞のβ3受容体と結合するとuncoupling protein 1(UCP1)が産生されミトコンドリアの内膜で脂肪が燃焼し熱となる.この系では脂肪は熱に変換されるだけに消費される.進行がん患者では炎症性サイトカインが白色脂肪の褐色脂肪化に,炎症性サイトカインに影響を受けた視床下部・下垂体・副腎系がノルアドレナリン活性化に関与しており,さらに腫瘍がparathyroid-related peptide(PTHrP)を分泌し直に褐色脂肪細胞を刺激しUCP1を産生させる.この発熱現象もがん悪液質の中でエネルギー消費など重要な役割を果たしていると考えられるが十分には解明されていない2).このように進行がん患者では,がん悪液質が食欲不振の原因となるだけでなくエネルギーを無駄に消費するためエネルギー不均衡が生じ脂肪・骨格筋からの糖新生を引き起こし両組織の分解による体重減少に繫がる.

5 タンパク質・脂質・糖質の代謝障害と体組成の変化

腫瘍が放出するがん悪液質因子としてlipid mobilizing factor(LMF)として知られるzinc-α2-glycoprotein(ZAG)とproteolysis-inducing factor(PIF)がある.LMF(ZAG)・PIFはそれぞれ脂肪・骨格筋の変化,ひいては体重減少に関与するとされるがヒトのがん悪液質にどのように関与しているのか十分には解明されていない1,2)

進行がん患者ではタンパク質の合成抑制・分解亢進が生じている.その原因として炎症や組織障害で生じる急性相反応といわれる急性相タンパク質の産生促進がある.つまり炎症性サイトカインが肝細胞でのアルブミン合成を抑制しCRP産生を促進する.次にubiquitin-dependent proteasome pathway(UPP)の活性化がある.この系ではubiquitinにより標識されたタンパク質がproteasomeで不可逆的に分解される.がん患者ではUPPが活性化し骨格筋の委縮が進行すると報告されている.その次にNF-κBの関与が挙げられる.NF-κBはTNF-α・IL-1だけでなくUPPによっても活性化され,さらにNF-κB が炎症性サイトカインを活性化し慢性炎症を助長させる.このように炎症性サイトカインがきっかけとなり様々な反応でタンパク質の合成抑制・分解亢進が加速し骨格筋は進行性に萎縮する1,2).また,慢性炎症により視床下部・下垂体・副腎系が受ける影響の一つとして性腺機能障害があり,テストステロン低下による骨格筋の萎縮が起こる.テストステロン低下はオピオイドの影響もあるといわれている1)

脂肪はトリグリセリド(triglyceride: TG)として白色脂肪の細胞質内の脂肪滴で貯蔵されており,脂肪分解とはTGをグリセロールと脂肪酸に加水分解することである.進行がん患者では,がん悪液質の影響により白色脂肪が褐色脂肪化し脂肪は燃焼される.また,脂肪加水分解酵素であるadipose TG lipase(ATGL)とthe hormone-sensitive lipase(HSL)の活性化により白色脂肪での脂肪分解が亢進する.さらに炎症性サイトカイン・LMF(ZAG)などによりlipoprotein lipase(LPL)の活性が低下し血中でのTGのグリセロールと脂肪酸への加水分解が抑制される.つまり腫瘍・宿主から放出される物質,すなわち炎症性サイトカイン・LMF(ZAG)・アドレナリン・ノルアドレナリン・糖質コルチコイドなどにより脂肪の合成は抑制され分解は亢進する.ただし脂肪分解ががん悪液質にどのように関与しているのか十分には解明されていない1,2)

進行がん患者ではがん細胞でのブドウ糖の消費にともない肝での糖新生が亢進し,インスリン産生は抑制されインスリン抵抗性が出現し耐糖能が低下する.さらに,がん細胞のブドウ糖の消費により肝のグリコーゲンは枯渇し糖新生がさらに盛んになり脂肪・骨格筋の分解が促進する.一方,骨格筋でのブドウ糖の利用は抑えられ骨格筋の委縮に拍車が掛かる1,2)

近年,骨格筋内脂肪沈着が指摘されている.これは白色脂肪の脂肪分解が亢進し生じた脂肪酸が骨格筋に取り込まれるためである.骨格筋内脂肪沈着が進行すると筋力低下・activities of daily living(ADL)障害に繫がり体重減少とも関連する10).その程度は筋生検をするまでもなくcomputed tomography(CT)画像で骨格筋のHounsfield units(HU)を測定することで評価でき,CT画像での骨格筋断面積とともにがん悪液質の指標となり得る11)

がん悪液質の治療戦略における栄養サポートの重要性の考察

1 がん悪液質治療としての栄養サポートのニーズと栄養療法の効果

これまで述べてきたように,がん悪液質は複合的な代謝障害で従来の栄養療法では改善が難しく,その病態生理を考慮した栄養サポートが重要であると考えられる.ESPENのガイドラインによるとがん悪液質の治療には栄養療法・運動療法・薬物療法の組み合わせが必要だとされ,栄養療法は栄養状態に影響を与える症状の緩和・栄養カウンセリングとともに栄養サポートの一環と考えられている9).同ガイドラインでは,予後が数カ月以上と期待できる進行がん患者には定期的に栄養スクリーニングを行い,すでに栄養障害がある・栄養障害のリスクがある場合は栄養療法のメリット・デメリットを検討したうえで実施することが推奨されている9).最近のシステマティックレビューでは,がん患者に対する栄養療法は個々の患者で検討すべきとある一方で,栄養カウンセリングの栄養障害を予防・改善させる有効性のエビデンスレベルは高いと報告されている12).また,専門家の意見として,栄養サポートはがん悪液質の進行を抑制し早期緩和ケアの一環としての効果は期待できると述べられている13).さらに同ガイドラインでは,栄養療法として経口栄養補助食品・人工的栄養水分補給(artificial nutrition and hydration: ANH)が提案されている.ANHとは経腸栄養・静脈栄養のことで,経口摂取だけで不十分な場合はいずれかあるいは両方での補給を検討する9).また,予後が2〜3週間以上ある進行がん患者に対する在宅でのANHの効果が示されており,慢性的に十分な食事ができず栄養障害がある場合はANHが推奨されている.ただし同時に,死が差し迫っている患者にはANHは控えるべきである,との記載もある9).つまり栄養療法の実践では,ANHは強制栄養であるので患者の意向をしっかり確認すべきであること,状態にあった栄養療法を行わないと害にしかならないこと,を常に念頭に置く.とくに静脈栄養では脂質・糖質代謝と水分バランスに注意を払う.本邦で投与できる脂肪乳剤の主成分は大豆油由来のTGで,含有される脂肪酸の50%以上はω-6脂肪酸のリノール酸である.進行がん患者ではTGの加水分解が低下するため血中TGが上昇しやすく,リノール酸は代謝され炎症を引き起こしがん悪液質の増強に繫がる可能性は否定できないので脂肪乳剤投与に関しては十分に検討する.また進行がん患者では耐糖能が低下するので糖質が高濃度の輸液製剤では高血糖を引き起こす可能性があるので注意を要する.そして胸腹水・浮腫など溢水所見がある場合は水分投与過剰にならないように心がける.次に,がん悪液質の影響を緩和する薬理効果が期待できる栄養素(pharmaconutrients)としてアミノ酸と脂肪酸が注目されている.分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids: BCAA)の一つであるロイシンを強化した高タンパク質栄養補助食品でがん患者の骨格筋でのタンパク質合成が促進したとの報告がある14).ロイシンの代謝産物であるβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(β-Hydroxy-β-MethylButyrate: HMB)の骨格筋の増強効果も期待されている15,16).進行がん患者ではインスリン産生抑制・インスリン抵抗性出現により耐糖能が低下し骨格筋でのブドウ糖利用は抑えられ骨格筋は委縮する.この観点からアミノ酸・インスリンを同時に補充することでがん悪液質の影響を緩和できる可能性が示された17).一方,インスリン投与(0.11 IU/kg/day)で脂肪は増えたが骨格筋は不変であったという報告がある18).現時点ではアミノ酸・インスリンのがん悪液質に対する有効性に関する十分なエビデンスはない9).脂肪酸としては,多価不飽和脂肪酸の一つであるω-3脂肪酸の抗炎症作用が期待されている.ω-3脂肪酸はエゴマ・亜麻に代表される植物性油脂に含まれるα-リノレン酸や魚油に含まれるドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid: DHA)・エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid: EPA)の総称で,DHA・EPAはα-リノレン酸を基に体内で合成される.これまで多数の研究があるにもかかわらずω-3脂肪酸のがん悪液質に対する有効性を示すエビデンスは不十分であったが,最新のシステマティックレビューでは抗がん治療中の患者の体組成の著しい改善効果が示された9,19)

われわれが実施した進行がん患者・遺族を対象とした緩和ケア病棟での調査では,進行がん患者・遺族の栄養サポートのニーズはそれぞれ76・73%であった20,21).この結果は医療側が思っている以上に患者側は栄養サポートを求めているという印象であった.さらに,がん悪液質によって生じる食欲不振・体重減少などについての医学的説明に対するニーズはそれぞれ50・41%であった20,21).やはり患者側は,食べないといけないのはわかっているが食べられない,体重を増やそうとしているがむしろ減ってしまう,という体験・苦悩からその原因を知り可能なかぎり対処したいと望むのだろうと思われた.そして,われわれは進行がん患者への栄養療法の目標として,患者のTEEとタンパク質を充足させること(タンパク質は1〜1.5 g/kg/dayで算出9)),がん悪液質の影響を緩和すること,と考えている.進行がん患者を対象とした栄養療法の効果を検討した研究はほとんどなく,われわれが上記に基づいて栄養療法を実践した緩和ケア病棟での後方視的研究では,選別した進行がん患者にて褥瘡発生を抑える効果が示唆された22).そして緩和ケア病棟での進行がん患者への栄養療法の効果を検討するための29例での実施可能性試験では,2・4週間の栄養療法を継続できたのはそれぞれ93・45%で,2週間のKarnofsky performance status(KPS)改善率は41%,4週間の死亡率は45%であった23)

2 がん悪液質治療としての栄養サポートにおける血中CRP値の意義

前述したように血中CRP値はがん悪液質の慢性炎症を反映する指標と考えられることから,われわれは進行がん患者におけるCRPの予後予測マーカーとバイオマーカーとしての意義を調べた24,25).血中CRP値で4群,すなわち1.0 mg/dl未満・1.0 mg/dl以上5.0 mg/dl未満・5.0 mg/dl 以上10.0 mg/dl未満・10.0 mg/dl以上,に層別しCRPと予後の関連をみたところ,CRP値が高いほど生存率は低下し30・60・90日死亡率はそれぞれ上昇した24).同様に4群に層別しCRPと症状・ADL障害の関連をみた.全体では食欲不振・倦怠感・体重減少の頻度はそれぞれ75・71・67%であり,層別ではCRP値が高いほど頻度が高く10.0 mg/dl以上ではそれぞれ90・81・79%であった.また,全体では入浴は73%,着替え・排泄・移乗は57・55・57%,食事摂取は39%で障害されており10.0 mg/dl以上ではそれぞれ85・73・72・73・57%であった.層別での有症状数はCRP値の上昇にともなって増えADL障害数は10.0 mg/dl以上で増えた25)

このように進行がん患者の血中CRP値は慢性炎症の程度,すなわちがん悪液質の勢いを反映していると考えられる.しかし肺炎などの感染症や心筋梗塞などの偶発症でも血中CRP値は上昇しがん悪液質の特異的マーカーではないため,がん悪液質の評価と栄養サポートの効果判定に使用できるかどうかはこれから探索していく必要があり,栄養状態を反映するアルブミンやCT画像を併用するのがよい.

血中のCRP値・アルブミン値を組み合わせたスコアリングシステムであるGlasgow prognostic score(GPS)は病期とは独立したがん患者の予後スコアで,カットオフ値はCRP 1.0 mg/dl・アルブミン3.5 g/dlと設定され CRP値1.0 mg/dl以上かつアルブミン値3.5 g/dl未満が最も予後不良とされている26).MiuraらによりGPSは緩和ケア領域(緩和ケア病棟・一般病棟での緩和ケアチーム・在宅緩和ケア)の進行がん患者でも有用であることが示されたが,その71%がCRP値1.0 mg/dl以上かつアルブミン値3.5未満に分類された27).このことより緩和ケア領域の進行がん患者にあったCRP値・アルブミン値を用いたより詳細なスコアリングシステムの開発が必要であろうと思われる.

結論

進行がん患者でのがん悪液質の病態生理を考慮した栄養サポート(栄養状態に影響を与える症状の緩和・栄養カウンセリング・栄養療法)の効果は期待できるものの,まだ十分なエビデンスはなくさらなる研究が求められる.すなわち,がん悪液質ステージや治療状況などによる患者の栄養サポートのニーズの差異は明らかにされていない.また,積極的に栄養療法を行うための適格基準やその管理法と評価法についても今後の課題である.

昨今,抗がん治療と並行した緩和ケアのよい効果が示されつつあり2832),介入時期に関する緩和ケアの専門家の合意を調査する国際的な研究が行われた33).その研究ではがん悪液質(3カ月以内に5%以上の体重減少と定義)であれば75%の専門家が,低アルブミン血症(2.5 g/dl以下と定義)であれば76%が緩和ケア介入時期だと回答した.これらの研究を踏まえて今後は世界的に緩和ケアの介入時期が早まり,これからの緩和ケアではがん悪液質治療の対象となる進行がん患者が増えていくと予想される.また,欧米ではCancer cachexia clinicが開設されており栄養療法・運動療法・薬物療法を組み合わせたがん悪液質治療が実践され成果を上げている34,35).遅ればせながら本邦でも医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・リハビリ療法士など各職種の専門性を活かした集学的がん悪液質治療を積極的に実践し発展させていきたい.

References
 
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