Palliative Care Research
症例報告
がん終末期における植え込み型除細動器停止にどう対応するか─緩和ケア病棟における5症例の経験から─
下川 美穂久永 貴之矢吹 律子萩原 信悟志真 泰夫

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12 巻 (2017) 3 号 p. 553-557

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Abstract

当院緩和ケア病棟では,2015年1月から2017年1月の間に5例の植え込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator: ICD)を有するがん終末期の患者を経験した.ICD停止について,5例中4例でせん妄や認知症により患者本人の意思決定能力がなく,1例は意思決定能力はあったが,家族が患者本人の意思確認に同意せず,5例とも家族による代理意思決定であった.ICD停止の手順は,家族と死亡の2〜21日前に話し合いを開始し,1〜5回の面談を経て同意を得たうえで,死亡の3時間〜11日前に停止した.今回の経験を通じて,ICD停止に関して①意思決定に関する医療者の経験不足,②ICDが患者に与える苦痛に関する医療者の認識不足,③話し合いにかかる心理的負担や時間的制約,④患者と家族のICDに関する知識不足,という問題点が明らかになった.がん患者のadvance care planningの一環としてこの問題に対応していく必要がある.

緒言

1980年代,欧米では不整脈に対しての非薬物療法として,植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator: ICD)が普及し始めた.2001年には不整脈や慢性心不全に対して両心室ペーシングによる心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)が確立され,さらには心室細動による突然死回避のため,2002年は両心室ペーシング機能付きICD(CRT-D)も開発された.わが国でも1996年にICD,2004年にCRT,2006年8月にはCRT-Dが保険適応となり,年々植え込み件数は増加している1)

現在,わが国においては欧米諸国と同様,不整脈の非薬物治療ガイドラインが作成され,CRT-Dを含めたICDの植え込み適応が確立されている.一方でICD停止については明確な指針は整備されていない.心不全末期のICD停止については「循環器疾患における末期医療に関する提言」の中で「欧米のガイドラインに準じたデバイス停止の倫理指針,患者教育基準,緩和治療基準等の早期策定が望まれる」とあり2),ACC/AHA/HRS(米国心臓学会/米国心臓協会/米国不整脈学会)が発表した「不整脈のデバイス治療ガイドライン」でデバイス停止について言及している3).しかし,対象は心疾患の終末期であり,がん患者の終末期について言及されたものではない.

当院緩和ケア病棟では,2015年1月から2017年1月の間に5例のICDを有するがん終末期の患者を経験した.回復の見込みのない,予測された死の間際の除細動は身体的,精神的に大きな苦痛となると考えられたことからICD停止についての話し合いを行ったが,わが国ではがん終末期のICD停止についてのガイドラインや報告は存在せず,手探り状態の意思決定となった.当院での経験をふまえて,がん終末期におけるICD停止の問題点について,文献的考察を加えて報告する.

症例提示

表1に2年間に経験した5例のまとめを,表2にICD停止に関して著者が認識した問題点を示し,代表症例として課題の多かった症例②,③を呈示する.

表1 5症例のまとめ
表2 ICD停止に関して著者が挙げた問題点

【症例②】80歳,男性,下部胆管癌

2012年10月,心房細動,同期不全を伴い繰り返す心不全に対してCRT-Dが植え込まれた.

2015年2月,腹痛と黄疸で近医を受診し,下部胆管癌と診断された.心機能低下のため抗がん治療は行わず,内視鏡的に減黄処置のみ行われた.2015年4月に症状緩和を目的として緩和ケア病棟に入院(入院日を第1病日とする).第11病日に,患者より蘇生措置拒否(do not attempt resuscitation: DNAR)があり,その場に居合わせた妻,長女も同意した.この時点で担当医からICD停止についての情報提供や,ICD停止の話し合いは行われなかった.

全身状態が悪化したため,第65病日に家族に「予後1カ月前後が予測されること」,「DNAR」,「今後ICDが,患者が望む“苦痛がないこと”の妨げになる可能性と,ICD停止の選択肢」について説明した.しかし,2015年2月と5月に計2回ICDが作動して突然死を回避しており,代理意思決定を主導していた長女は「停止は寿命を短くする可能性がある」と述べ,患者が希望するDNARについても結論を出せずにいた.患者本人への意思確認は,「不安の強い患者にはICD停止の話はしないで欲しい」という家族の強い希望があったため,行えなかった.家族とは計5回,5時間以上の面談を行った.予期悲嘆が強くDNARに踏み切れない長女と,本人の意向に沿いたい妻,長男,次女との間で意見の相違があり,話し合いは難航した.第86病日に呼吸不全が進行し,患者が強い呼吸困難を訴えた.長女の同意を得てミダゾラムによる持続鎮静を開始し,DNARおよびICD停止にも同意したため,臨床工学技士の協力を得てICDを停止させた.停止から3時間後に永眠された.

【症例③】72歳,男性,右肺扁平上皮癌

2007年5月,心房細動,左室肥大,同期不全を伴うNew York Heart Association(NYHA)分類クラスII以上の慢性心不全,失神発作の既往のためCRT-Dが植え込まれた.

2013年6月,かかりつけ医で施行した胸部レントゲンで右肺上葉に空洞影の指摘があり,当院呼吸器外科で扁平上皮癌と診断された.患者,家族の希望により放射線照射のみ行った.2015年2月に症状緩和治療目的で当科に紹介となった.

2015年9月にPS 3となり,10月には外来通院も困難となったため,在宅医療に切り替えた.この時点で1カ月以内の死亡が予測され,ICD停止の話し合いが必要であったが,患者本人はせん妄のために意思決定は困難であり,妹を代理意思決定者として話し合った.妹はDNARについては希望したものの,「ICD停止=直ちに心停止に至る」という誤解から,ICD停止については同意が得られなかった.その後,ICD停止は除細動機能の中止であり,ペースメーカー機能の中止ではないことを追加説明し,ICD停止が直接心停止を促すものではないという理解が得られた.家族内の話し合いと,担当医との2回目の話し合いを経て,死亡13日前にICD停止の同意を得た.それを受け,循環器科主治医が業者に連絡を入れ,2日後に訪問医師同席のもと,自宅で停止させた.停止から2日後,呼吸不全の進行により,緩和ケア病棟に入院.モルヒネ投与と,ミダゾラムによる鎮静を行い,第10病日に永眠された.

考察

今回経験した5症例から挙げられた4つの問題点について,それぞれ考察する.

第1はICD停止の意思決定の問題である.今回の5例はすべて家族による代理意思決定であった.前述のACC/AHA/HRSガイドライン上には終末期の項目があり,患者本人へのICD停止に関する情報提供を推奨しているが,一方で患者の思考能力低下への対応についても言及している3).今回の5例中4例では,患者のせん妄や認知症により話し合いは困難であった.

また,同ガイドラインでは,デバイス停止の前提として患者のDNAR指示が必要であり,診療録に記載することを義務付けている3).症例②においては,DNARについて本人から意思表示があった際にICD停止について希望を聞いておくことも必要であったが,そうできなかったのは担当医の経験不足によるところが大きかった.ICD停止について話し合うに至ると考えられる予測因子の一つが,医師の経験によるものであるという報告もある4). 

一方で,ICD停止は必要ないと考えたり,その話し合いや停止に抵抗感を感じたりする臨床医も多いとされており,話し合いが行われない要因となっている4).ACC/AHA/HRSガイドラインは,患者がICD停止を希望している状況下で,「デバイス停止を行うべきでないとする信念を担当医が持っている場合は,他の臨床医に紹介すること」を推奨している3)

Bradyらは,ICD植え込み前から心不全末期に至るまで,全身状態の経年変化に応じた意思決定を推奨しており5),循環器専門医や臨床工学技士,看護師と連携をとりながら,継続的な意思決定を支援していくことが必要であると考える.

第2は,医療者側の問題として,デバイスが患者に与える苦痛の認識不足がある.ICD作動には強い痛みが伴うが,医療者側にその認識が欠如していることも,話し合いが行われない一つの要因となっている4).がん終末期のICD作動頻度の報告は存在しないが,心不全終末期では死亡直前の1カ月間に21〜27%の患者で作動するという報告がある6,7).直接的な心機能低下のないがん終末期におけるICD作動頻度は,心不全終末期と比較すると少ないと考えられ,ICD停止が生命予後を短縮させる可能性についても認識しておくべきである.患者や家族が「苦痛を伴っても停止を希望しない」可能性もあり,患者や家族の希望も聴取しながら十分な話し合いを行う必要があると考える.

第3に,患者と家族,医療者の心理的負担と時間的制約の問題がある.症例②ではICD停止に関する話し合いに多くの時間と労力を要し,話し合いの中で家族は死を強く意識し,医療者側も強いストレスを感じる場面が多かった.ICD先進国である米国でも,双方の心理的負担や忙しい日常の診療の中で話し合いを持つという時間的制約が,ICD停止の話し合いに必要な医師-患者の信頼関係を妨げる要因の一つであると指摘されている3)

第4は,患者側のデバイスに関する誤った認識である.5例中2例の患者家族は,ICD停止にとくに強い抵抗感を示した.症例③のように「ICD停止=ペースメーカー停止」という誤った認識や,症例②のように「ICDが作動すればいかなる状況でも生命は維持できる」という過剰な期待が背景にあった.話し合いの中では患者や家族のデバイスに対する理解度も確認し,必要に応じた情報を与えることが必要である.

わが国では年々CRT-D植え込み患者が増加し,今後ICD停止について話し合う機会が増えることが予想され,がん患者においても終末期における事前のケア計画(advance care planning: ACP)の一環としてこの問題に対応していく必要がある.但し,ICD停止の是非については結論が出ておらず, 必ずしも停止することを前提として話し合いを進めないことにも留意すべきである.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
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