Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
緩和ケアチームが介入した一般病棟入院中の終末期がん患者に対する鎮静についての後方視的カルテ調査
金村 誠哲橋本 典夫藤原 和子原武 麻里岩井 真里絵小島 一晃岸本 寛史
著者情報
キーワード: 鎮静, がん, 鎮静の話し合い
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2017 年 12 巻 4 号 p. 317-320

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Abstract

鎮静は症状緩和の方法として広く行われているが,一般病棟での鎮静の実態を多職種による話し合いの施行率を含め包括的に調査した報告は少ない.本研究の目的は当院一般病棟で緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)が介入した患者の鎮静の実態を後方視的に調査することである.2012年8月〜2015年10月まで当院においてPCTが介入を開始した一般病棟入院中の終末期がん患者938例のうち2015年11月末時点で,246名が一般病棟で死亡し終末期に鎮静が行われたのは28名(11.4%)で,鎮静開始から死亡までの期間は4.1±3.1日,原疾患は肺がん,対象となった症状は呼吸困難が最も多く,用いられた薬剤は全例ミダゾラムであった.平日はPCTが毎日患者を回診し,多職種による鎮静の話し合いも全例行い鎮静を行うことができていた.

緒言

わが国では診療報酬で緩和ケア診療加算が認められた2002年以降加算の要件を満たしている施設は2002年の22施設から2014年には182施設と増加し,加算の要件を満たしていない施設まで含めると2014年度の日本緩和医療学会の緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)登録施設は513施設と多くの施設でPCTが活動している1).鎮静は症状緩和困難な苦痛に対して行う方法として世界的に用いられている2)が,一方で生存期間を短縮させる可能性があるなど安楽死との違いが議論になることもある3).そのため日本4),ヨーロッパ緩和ケア学会(European Association for Palliative Care: EAPC)5),カナダ6),オランダ7)などで鎮静の適応や意思決定などを含めたガイドラインがまとめられている.これらを含む1980〜2013年に英語またはドイツ語で発表された9つのガイドラインをまとめた報告8)によると,意思決定に際しわが国を含め7件のガイドラインで医師以外のスタッフの参加を推奨するとされている.

そのため,当院では鎮静を開始する際はPCTを交え主治医,病棟看護師など多職種での話し合いを実施しているが,一般病棟でどの程度の割合で多職種による話し合いが行われているかを調べた報告は少ない.そこで,本研究では当院での実態調査を目的とし当院一般病棟でPCTが介入しているがん患者に対する,鎮静の施行率,鎮静期間,対象症状,投与薬剤,多職種による鎮静の話し合いの施行率,合併症について後方視的にカルテ調査を行うこととした.

方法

対象患者

2012年8月〜2015年10月まで当院においてPCTが介入を開始した一般病棟入院中の終末期がん患者938例のうち2015年11月末までに一般病棟で死亡した246名を対象に鎮静の施行率,鎮静期間,対象症状,投与薬剤,多職種による鎮静の話し合いの施行率,合併症について後方視的にカルテ調査を行った.また,持続鎮静の方法に関しても,カンファレンス記録から苦痛の程度に応じて徐々に鎮静の深さを調節し,できるだけ意識が保たれるようにする方法を選択したのか,急速に鎮静を深める方法で鎮静する方法を選択したのかも合わせて調査した.今回の研究での鎮静とは,間欠的,持続的問わず新たに鎮静薬を開始し患者の意識を低下させることにより症状緩和困難な苦痛を緩和することを指し,症状緩和目的に投与したオピオイドによる副次的鎮静は除いている.なお,一般病棟で多職種による話し合いを行う場合,一同に集まるのが理想であるが主治医が手術や外来で都合がつかない場合も少なくない.そのような時は事前に主治医と相談し意向を確認しており,ここでいう多職種による話し合いとはそういった場合も含めている.

当院における緩和ケア提供体制

はじめに,当院は446床を有する大阪府がん拠点病院の急性期病院でそのうち20床が独立型緩和ケア病棟であり,PCTと緩和ケア病棟各2人ずつ合計4人の医師が緩和ケアの常勤医として在籍している.PCTの医師は一般病棟で介入していた患者が緩和ケア病棟に転棟する際には主治医になる体制をとっている.当院のPCTは緩和ケア認定看護師とがん看護専門看護師各1名ずつに加え,薬剤師,臨床心理士,他部署の看護師や医療社会福祉士なども参加する体制となっており,平日は毎日チームでミーティング後に介入全患者の回診を行い,依頼や症状緩和に迅速に対応し早期から終末期まで幅広く関わっている.

結果

PCTが介入した938例のうち調査時点で一般病棟にて死亡した患者は246名であった.そのうち鎮静を行ったのは28名(11.4%)で患者背景を表1に示す.平均年齢(平均±標準偏差)は67.3±14.9歳 ,男女比は18対10と男性に多く,原疾患は肺がんが最も多く,PCT介入から死亡までの平均期間は36.3日(2-205日)であった.

鎮静開始から死亡までの期間は中央値(四分位偏差)〔範囲〕で4(2-5.25)〔1-40〕日であった.

鎮静の対象症状は呼吸困難が16例で最も多く,続いて倦怠感9例,嘔気2例,せん妄1例の順であった.

持続鎮静に用いた薬剤は全例ミダゾラムであった.ミダゾラムの初期投与量は18.3±12.5 mg/日,最終投与量は31.7±25.4 mg/日で大きな合併症なく良好な鎮静状態が得られた.また,併用薬剤は呼吸困難,疼痛緩和目的に投与したモルヒネ15例,嘔気,せん妄に投与したハロペリドール9例,疼痛緩和に用いたフェンタニル貼付剤6例の順で多かった.多職種による話し合いの結果,苦痛の程度に応じて徐々に鎮静の深さを調節し,できるだけ意識が保たれるようにする方法で鎮静を行ったのは23例であり,急速に鎮静を深める方法で鎮静を行ったのは5例であった.

多職種による鎮静の話し合いは「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」4)に準じて鎮静の適応や意図を全例で検討していた(表2).ただし,28例のうち主治医,病棟看護師,PCTが全員揃っての鎮静の話し合いは20例(71.4%)で他の8例では主治医が手術や外来などで出席できなかったため,事前に主治医との話し合いを行い意向を確認していた.

表1 一般病棟で亡くなった246名のうち鎮静を行った28名の患者背景
表2 鎮静の話し合いの際に主治医・病棟スタッフと緩和ケアチームで確認・協議した内容

考察

Maltoniらによる1980年から2010年の文献をまとめたシステマティック・レビュー9)によると,1807人を対象にした患者のうち鎮静を受けたのは621人で施行率は34.4%であり,鎮静の対象となった症状はせん妄,呼吸困難,精神的苦痛,疼痛の順で多く,鎮静に最も使用された薬剤はミダゾラムで,鎮静期間は0.8-12.6日であったと報告されている.また,Maedaらによる国内の施設を対象にした報告10)では,1,827例中269例(15%)が鎮静を受けたとされている.

当院での鎮静の施行率は11.4%であり前記報告9,10)やわが国のガイドライン4)による報告(20〜35%)と比べても低い結果となったが,本研究では後方視的カルテ調査で集める情報にも限界があり,鎮静の施行率が過去の研究と比較して低かった理由はわからなかった.

次に,本研究では鎮静の中央値は4日であり,前記報告9)と比較して大きな差はなかった.鎮静期間が40日となった症例が1例あったが,鎮静前カンファレンスに加え鎮静中も全身状態や苦痛緩和の程度,鎮静の程度,有害事象の有無,家族の精神的苦痛などの評価を行い継続が妥当と判断していた.

当院での鎮静の対象症状はカルテ記録から抽出した結果,呼吸困難,倦怠感,嘔気,せん妄の順で多かった.前記報告9)と比較し,せん妄が少なった原因に関しては以下のように考えられる.当院では病棟看護師が日本語版ニーチャム混乱/錯乱状態スケールを用いて評価しているが十分に評価できていない可能性が高いこと,また,倦怠感とカルテ表記されているものの中にせん妄が多く含まれていることが考えられる.今後の課題としてPCT,病棟スタッフでのせん妄評価の周知などが必要と思われる.

当院で持続的鎮静に使用されていたのは全例ミダゾラムであり,間欠的鎮静には,ハロペリドールやフルニトラゼパムも使われており前記報告9)と大きな差はなかったが,最終的には全例ミダゾラムによる持続鎮静に移行していた.持続的鎮静に関しては,苦痛の程度に応じて徐々に鎮静の深さを調節し,できるだけ意識が保たれるようにする方法と急速に鎮静を深める方法がある2,1113)が,当院では23例が前者であり,残り5例は後者であった.また,本研究ではミダゾラムの投与量は過去の研究14)での投与量(10〜480 mg/日)と大きな差はなかった.また,併用薬剤はモルヒネが多かったが,これは原疾患として肺がんが,症状としては呼吸困難が多かったためと考えられる.

多職種による鎮静の話し合いは全例行われていた.PCTの役割として適切な情報提供はもちろん大切なことではあるが,一方的な関係になってしまうのではなく主治医や病棟スタッフが自ら考え,評価し,行動していけることが理想であると考えるため,関係性を築き話し合いの中で意思決定していくことが大切であると考えられる.

結論

当院の一般病棟入院中の終末期がん患者での鎮静の施行率は11.4%であった.原疾患は肺がんが,鎮静の対象となった症状は呼吸困難が最多で全例ミダゾラムで鎮静を行われていた.鎮静開始の際には多職種による話し合いも全例行われていた.PCTが適切に介入することで鎮静による話し合いも全例行われ鎮静が必要な患者に適切に鎮静を施行できることがわかった.

付記

本論文の要旨は,第21回日本緩和医療学会学術大会(2016年,京都)にて発表した.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

References
 
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