Palliative Care Research
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短報
終末期がん患者にベッドサイドで行う末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)挿入に際して肘窩の穿刺血管別(尺側,正中,橈側)挿入成功率の検討
斉藤 英俊
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2017 年 12 巻 4 号 p. 321-325

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Abstract

【目的】終末期がん患者にベッドサイドで行う末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheters: PICC)挿入の際に,肘窩の穿刺血管の違い(尺側,正中,橈側皮静脈)によりPICC挿入成功率(以下,成功率)に有意差があるかを明らかにする.【方法】2011年9月〜2014年4月の当科入院患者で,PICC挿入が試みられた終末期がん患者を対象に後方視的に検討した.カテーテル先端が上大静脈内に留置された場合をPICC挿入成功と定義した.【結果】対象88名の成功率は尺側43/50(86.0%),正中23/31(74.2%),橈側6/7(85.7%)で,3群間で有意差は認めなかった(p=0.39).【結語】終末期がん患者にベッドサイドで肘窩の静脈を穿刺するPICC挿入の際には,臨床上の理由でやむを得ない場合は橈側の選択も許容されると考えられた.

緒言

終末期がん患者は,経口摂取が困難になることが多く,経静脈的な輸液が必要となる場合があり1),その際には患者負担の少ない静脈路の確保が重要である.肘窩から挿入する末梢挿入型中心静脈カテーテルperipherally inserted central catheters(以下,PICC)は,頻回の静脈穿刺が不要となり2),挿入に伴う重篤な合併症が少なく24),ベッドサイドでも行える手技であり2,3),終末期がん患者に対する有用性5)も報告されている.

肘窩から挿入するPICCとは,肘窩の尺側,正中,橈側皮静脈のいずれかを穿刺し,カテーテル先端を上大静脈内に進める手技2,3)である.中心静脈カテーテルの先端位置については,左右からの挿入の違いで上大静脈内での至適位置6)が示されている.

肘窩から挿入するPICCに関しては,穿刺血管は尺側または正中皮静脈を第一選択とする報告が多く2,79),橈側皮静脈はカテーテルが進みにくいことがあり2,8,9),推奨される血管ではないとする報告2)がある.しかし,筆者の検索した限り,これまでに肘窩の穿刺血管別にPICC挿入成功率を検討した報告はない.

本研究の主要目的は,終末期がん患者に対してベッドサイドで無透視下に肘窩から行うPICC挿入に際して,穿刺血管の違い(尺側皮静脈,正中皮静脈,橈側皮静脈,以下各々,尺側,正中,橈側)により,PICC挿入成功率に有意差があるかを明らかにすることである.副次目的は,PICCが経由する上腕の血管の違い(尺側皮静脈経由,橈側皮静脈経由)により,PICC挿入成功率に有意差があるかを明らかにすることである.

方法

対象

当院緩和ケア病棟でPICCが導入された2011年9月~2014年4月の期間内に筆者が主治医であった入院患者のうち,PICC挿入が試みられた終末期がん患者を対象とした.終末期がん患者の定義は主治医の余命判断が1カ月以内の患者とした.

当科のPICC挿入の適格基準と除外基準は以下の通りである.適格基準は,肘窩以外の末梢静脈穿刺が困難な患者,近い将来にそうなることが予想される患者,頻回の静脈穿刺を好まない患者,看護師が頻回の静脈穿刺にストレスを感じた患者に対し,PICCについて説明し文書で同意が得られた場合である.除外基準は,肘窩に穿刺可能な血管が視診/触診で認められない患者,10分程度の同一体位が保てない患者,出血傾向がある患者,せん妄の強い患者,患者の同意が得られない場合である.また,余命判断が日単位の患者も原則除外基準としているが,患者/家族が経静脈輸液の継続を望んだ場合は挿入が試みられた.上記のような基準を満たした連続した症例を対象とした.

調査方法と調査項目

本研究は,カルテ記載とX線写真の見直しによる後ろ向き研究である.

患者背景として,性別,年齢,がんの種類,PICC使用日数,PICC抜去理由,肘窩の穿刺血管,PICC挿入が左右どちらから行われたか(以下,PICC挿入側)を調査した.

また,カテーテルの先端位置,PICCが経由した上腕の血管,PICCを血管内に留置できなかった症例ではその理由を調査した.カテーテルの先端位置とPICCが経由した上腕の血管は,挿入後に撮影した挿入側の上腕骨正面像を撮影範囲に含めたポータブル胸部X線単純写真正面像により調査した.PICCが経由した上腕の血管の判定は,尺側皮静脈経由の場合は,カテーテルは上腕骨の内側を上行し上腕骨と交わることなく上大静脈方向に走行することで,橈側皮静脈経由の場合は,カテーテルは上腕下部では上腕骨の外側を上行し,その後,上腕上部で上腕骨を斜めに横断して内側に向かい上大静脈方向に走行することで行われた10).この判定は術者と放射線診断専門医の2名で調査した.

PICCの挿入方法

使用されたPICCキットはArgyle™ PICC Kit(日本コヴィディエン,東京)で,本キットはセルジンガータイプで先端開口型のカテーテルである.PICC挿入は全例ベッドサイドで,原則仰臥位で,困難な場合は半座位/座位で行われた.肘窩のいずれの血管を穿刺するかは,尺側/正中を優先に考え,また,血管径や穿刺後の操作の容易さも考慮し,成功の確率が最も高いと術者が判断した血管が選択されていた.挿入は高度無菌遮断予防策下に,全例単一術者により行われた.穿刺血管の同定は他1名の病棟医師も行っていた.

PICC挿入成功の定義

上大静脈内での至適位置9)によらず,カテーテル先端が上大静脈内に留置された場合をPICC挿入成功と定義した.また,上大静脈内を含めていずれかの血管内にカテーテルが留置された場合を血管内留置達成と定義した.

統計解析

統計解析はFisherの正確確率検定を用いて行い,有意水準はp<0.05とした.統計ソフトはEZRを用いた.

結果

期間内の入院患者266名のうち200名が終末期がん患者で,うち82名が適格基準を満たし,うち6名は除外基準(余命判断が日単位)であったが,PICC挿入が試みられた.以上の88名が解析対象となった.表1に患者背景を示した.

表2に肘窩の穿刺血管別PICC挿入の結果を示した.主要評価項目である肘窩の穿刺血管別PICC挿入成功率は,尺側,正中,橈側穿刺の3群間で有意差は認めなかった(p=0.39).

88名中,血管内留置達成例は82名(93.2%)(表2)で,全例でX線上PICCが経由した上腕の血管の判定が可能であった.PICC挿入成功例と血管内留置達成例の各々について,PICCが経由した上腕の血管を表2に示した.双方の結果から,副次評価項目であるPICCが経由する上腕の血管別PICC挿入成功率は,尺側皮静脈経由53/60(88.3%),橈側皮静脈経由19/22(86.4%)で,有意差は認めなかった(p=1.00).図1に尺側および橈側皮静脈経由の症例の胸部X線写真を示した.

穿刺血管別のPICC挿入側と挿入側別PICC挿入成功率を表2に示した.穿刺血管別のPICC挿入側は3群間で偏りは認められなかった(p=0.19).PICC挿入成功率は,88名全体では左側33/41(80.5%),右側39/47(83.0%)で有意差は認めなかった(p=1.00).また,穿刺血管別の挿入側別PICC挿入成功率も左右各々3群間で有意差は認めなかった.

88名中6名でPICCを血管内に留置できなかったが,その理由は,血管穿刺不成功で挿入断念が3名(尺側2名,正中1名),ガイドワイヤが円滑に進まず挿入断念が3名(尺側,正中,橈側各1名)であった(表2).また,PICC先端位置異常を10名に認めた(表2).

表1 患者背景
表2 肘窩の穿刺血管別PICC挿入の結果
図1 胸部X線写真

A:尺側皮静脈経由の症例.PICCは上腕骨の内側を上行する.

B:橈側皮静脈経由の症例.PICCは上腕骨の外側を上行し,これを横断して内側に向かう.

考察

本研究は,終末期がん患者に対してベッドサイドで行う肘窩の静脈を穿刺するPICC挿入に関して,穿刺血管別のPICC挿入成功率を検討した初めての報告である.

本研究の結果から,肘窩の尺側,正中,橈側のいずれの血管を穿刺しても,PICC挿入成功率に有意な差を認めなかった.

また,本研究の結果から,PICCが上腕で尺側皮静脈,橈側皮静脈のいずれを経由しても,PICC挿入成功率に有意な差を認めなかった.

橈側皮静脈は腋窩静脈に注ぐ際に約90度の角度で交わる解剖学的理由10)から,橈側からのPICC挿入,すなわち橈側皮静脈経由のPICC挿入が困難なことがあるという報告2,8,9)がある.しかし本研究では,肘窩で橈側穿刺,および上腕で橈側皮静脈経由という理由でPICC挿入成功率に有意な差を認めなかった.

添付文書11)ではPICC挿入はX線透視下で行うことが推奨されているが,その際の患者負担は軽いものではない.しかし,無透視下でのPICC挿入では,カテーテルがリンパ管に迷入した症例12)が報告されており,慎重な操作が求められる.当科ではガイドワイヤが円滑に進まないときは挿入を断念している.

終末期がん患者にベッドサイドで行うPICC挿入の意義は,患者の負担軽減にあると考えられる.そのためには,苦痛の少ない体位で,1回の穿刺で,短時間でPICC挿入を成功させることが肝要である.このとき,穿刺血管の選択が重要になると考えられる.解剖学的理由10)は穿刺血管を選択するうえで最も重要な要因であり,尺側/正中を優先2,79)すべきと考えられる.しかし,痛みや関節拘縮などで前腕の回外が困難な患者では,尺側穿刺は苦痛を伴う場合がある.また,解剖学的理由よりも,怒張の良い太い血管7)や,ガイドワイヤ等の操作が容易な血管を選択したほうが,挿入成功と時間短縮の面から良い結果が得られる場合もあると考えられる.さらに,終末期がん患者では,選択の余地がなく,特定の血管を穿刺せざるを得ない場合がある.本研究では,以上のような観点から穿刺血管が選択されていた.

本研究の限界として,後ろ向き研究であること,単施設の単一術者による終末期がん患者のみを対象とした本研究の成績を一般化できないこと,症例数が少なく統計学的解析が不十分であること,穿刺血管の選択は術者の主観により行われたこと,PICCが経由した上腕の血管の判定は血管撮影やCT/エコーによるものではなく胸部X線単純写真で行われたことなどが挙げられた.今後は,信頼性の高い結果を得るために,症例数を増やした前向きな研究を行い,さらなる検討が必要であると考えられた.

結語

本研究の結果から,終末期がん患者に対してベッドサイドで肘窩の静脈を穿刺するPICC挿入に際して,尺側,正中,橈側のいずれの血管においても成功率に有意差を認めなかった.臨床上の理由でやむを得ない場合には,橈側の選択も許容されると考えられた.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

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© 2017日本緩和医療学会
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