Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
がん専門病院の緩和ケア病棟における死亡退院患者を対象としたデスカンファレンス開催の要否に対する関連要因の検討
角甲 純小林 成光關本 翌子
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2017 年 12 巻 4 号 p. 929-935

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Abstract

【目的】デスカンファレンス開催の要否に対する関連要因を明らかにする.【方法】2013年8月〜2015年2月までの期間に,国立がん研究センター東病院の緩和ケア病棟で亡くなったがん患者416名の診療録およびデスカンファレンスの記録用紙を用いて調査を行い,デスカンファレンス開催の要否に対する関連要因を分析した.【結果】デスカンファレンスの開催が必要だと判断された患者は107名(25.7%)であった.多変量解析の結果,年齢が50歳未満,PCU入院日数が20日以上,硬膜外鎮痛法を実施,失声あり,腹部膨満感があることが,デスカンファレンス開催要に関連した.【結論】本研究によって明らかとなった関連要因は,いずれも支援の困難さを理由にケース選択されている可能性があった.

緒言

臨死期のがん患者を支援する看護師は,悩みながらも患者の死や死の過程に対する支援を行っている.そのような中で,よりよい支援の提供を実現するためには,患者の死後,終末期に提供された支援を振り返るデスカンファレンスが有用であると言われている1)

デスカンファレンスの目的は「亡くなった患者の支援を振り返り,今後の支援の質を高めること」であり,開催する意義は「支援を評価してこれからの支援にいかすこと」「患者・家族への理解が深まること」などが挙げられている2).デスカンファレンスの方法論は,各施設の取り組みをまとめられたものが報告されており3),開催頻度は,「すべてのケース」「気になるケース」と施設により異なる1)

国立がん研究センター東病院(以下,当院)の緩和ケア病棟(以下,PCU)では,2007年から在宅支援の機能強化を目的に急性期運用に努め4),また,在宅での症状コントロールが困難な患者を中心に受け入れ,年間およそ300名の看取りを経験している.デスカンファレンスは,看取り患者の多さから,「支援の振り返りを行いたい」という事例に限定して開催している現状がある.そこで,本研究では,当院のPCUにおけるデスカンファレンス開催の要否を分析することで,看護師が支援の振り返りを行いたいと考える患者の特徴を明らかにすることを目的とする.

方法

デスカンファレンスの開催方法

患者が亡くなった当日または翌日の定例カンファレンス(13時半~14時に開催)にて,日勤看護師4~5名でデスカンファレンス開催の要否のみを決める.デスカンファレンスの開催が必要だと判断する基準は,「支援の振り返りを行いたい」と評価した看護師が1名以上いる場合としている.必要だと判断された場合,プライマリー看護師が死後2週間以内を目安に,デスカンファレンス開催の日程調整を行う5).開催日はプライマリー看護師と担当医が参加できる定例カンファレンスの時間を利用し,時間は15~30分程度である.担当医と看護師以外の参加者では,リエゾン精神看護専門看護師(支持療法チーム所属),薬剤師,理学療法士やMedical Social Workerなどに参加を依頼することもある.デスカンファレンスでは,プライマリー看護師以外が司会と書記を担当する.話し合われる内容では,ケアに直結する内容が論点に挙がることが多い.

対象者

対象者は,2013年8月~2015年2月までの期間に,当院の緩和ケア病棟で亡くなった全がん患者416名とした.

調査手順

入院診療録およびデスカンファレンス開催時の記録用紙から,調査票に従って情報を収集した.

本研究は,国立がん研究センター研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2013-285).本研究の目的,対象,方法,個人情報の取り扱い方法,問い合わせ先などを明記した文書を当院のホームページに掲載し,対象者に対する情報提供とデータの研究への利用を拒否する場合の対応を行った.

調査項目

患者背景として,性別,年齢,婚姻状況,がん原発部位,がん罹患期間,緩和ケア病棟入院日を調べた.

次に,デスカンファレンスで挙げられる患者の特徴については,臨床的に死亡1週間以内の状況が大きく影響すると考え,死亡1週間以内に提供された医療および症状の有無について調べた.死亡1週間以内に提供された医療および症状の有無についての調査項目の抽出には,文献レビュー4,6)および,緩和ケア病棟に勤務する看護師4名と緩和医療科医師1名を対象に意見聴取を行い,調査項目を網羅させた.提供された医療では,薬剤の使用状況や検査の実施状況などを調べた.死亡1週間以内に体験していた症状では,疼痛,呼吸困難,浮腫などの情報を診療録から得た.さらに,患者の看取り後に話し合われた,デスカンファレンス開催の要否について調べた.

分析方法

デスカンファレンス開催の要否の関連要因を検討するため,単変量解析および多変量解析を行った.なお,年齢は50歳代から層別化し,PCU入院日数については当院のPCU平均在院日数(約20日間)から層別化して分析を行った.

また,ロジスティック回帰分析を行う前に,単変量解析の結果,P値が0.2未満の変数を用いてモデル式を作成し,関連要因間での多重共線性を確認するため分散拡大係数 (variance inflation factors: VIF)を算出した.VIFが4以上の場合,関連の強い要因のうちの片方をモデルから除外することとした.変数選択は,P値が0.05未満を基準に変数減少法によって行った.有意水準は5%とし,両側検定とした.統計解析にはEZR ver.1.31を用いた7)

結果

対象期間中に当院の緩和ケア病棟で亡くなった患者416名のうち,デスカンファレンスの開催が必要だと判断された者は107名(25.7%)であった.

患者背景,死亡1週間以内に受けた医療および体験していた症状等とデスカンファレンス開催の要否との関連をそれぞれ表12に示す.デスカンファレンス開催の要否では,年齢,がん原発部位,入院形態,緩和ケア病棟入院日数,硬膜外鎮痛法,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,経管栄養,失声が有意に関連した.

デスカンファレンス開催における要否の多変量解析結果を表3に示す.デスカンファレンス開催否に対して,年齢が50歳未満,PCU入院日数が20日以上,硬膜外鎮痛法を実施,失声あり,腹部膨満感があることが独立した関連要因であった.

表1 患者背景とデスカンファレンス開催の要否の関連
表2 死亡1週間以内に受けた医療および体験していた症状等とデスカンファレンス開催の要否の関連
表3 デスカンファレンス開催の要否の関連要因(多変量解析)

考察

本研究では,当院の緩和ケア病棟で開催されるデスカンファレンス開催の要否の関連について報告した.

第1に,年齢が50歳未満であることが示された.この年齢層では,早すぎる死に対して「まだまだこれからだったのに」という看護師の思いや,精神的社会的支援の難しさが指摘されている8)ことから,支援の振り返りの場を必要とする傾向にあったと考える.第2に,緩和ケア病棟入院日数が20日以上であることが示された.当院のPCUは急性期運用を目指している背景があり4),平均在院日数が20日未満で推移する傾向にある.入院期間が長期化する背景には,退院調整や症状緩和に難渋するケースが考えられる.第3に硬膜外鎮痛法の実施が示された.当院における硬膜外鎮痛法の実施については,難治性の疼痛を抱える場合などであり,硬膜外鎮痛法の適応と矛盾しない9).このことから,難治性疼痛の症状緩和に対して,難渋していたことが予測される.第4に,失声があることが示された.失声のある患者とのコミュニケーションでは,患者が伝えたいと考えている内容を十分に汲み取ることができず,患者が不満や苛立ちを表現する場面を経験することは少なくない.がん看護では患者・家族とのコミュニケーションに関する困難感は高いと報告されているが1012),失声のある患者とのコミュニケーションでは,支援の困難さはさらに高まると考えられる.そのため,デスカンファレンスの患者選定に挙げられると考える.第5に,腹部膨満感があることが示された.当院のPCUを対象施設に選択して行われた先行研究では,腹部膨満感があることで,自宅退院が困難になることが報告されている4).腹部膨満感があることは,患者の希望する療養場所を叶えられなかった要因の一つとなり,看護師の不全感に繫がっている可能性が考えられる.

本研究の限界としては,まず,デスカンファレンス開催の要否の決定が,その場の看護師の感覚や直感をもとに行われているため,看護師の経験や患者との関わりの浅深の程度によって変わる可能性がある.本研究ではこの直感的な感覚を客観的データで代用し言語化したが,今後は,実際に行ったデスカンファレンスの内容と合わせて解析する手法で分析することが望ましい.2つ目の限界として,単施設における後方視的研究であることから,本結果を一般に外挿して考えることはできない.3つ目の限界として,症状の有無は診療録から収集することはできたが,症状の程度までは評価されておらず,情報収集できなかった.そのため,症状が「ある」と回答した集団と,症状が「ない」と回答した集団について,その集団の中でも症状の程度にばらつきがあることが推察される.今後は,各症状について,その程度を主観的および客観的データとして前向きに収集し,看護師の抱く困難感との関連を評価する必要がある.4つ目の限界として,家族の面会状況については診療録から収集することはできたが,家族関係や家族背景など,家族に関する詳細な情報は十分に収集できなかった.そのため,解析に必要な変数が欠落している可能性がある.

本研究で挙げられた患者の特徴は,支援の困難さが共通していると考える.今後は,これらの特徴を持つ患者が,他の患者と比べてどの程度支援の困難さが高いのか,デスカンファレンスの開催によって,患者支援の際に抱いていた支援の困難さは低減または解決するのかを検討することが課題である.なお,これらの調査を行う際には,「患者が大切にしていた思いは達成されたか」「患者や家族が希望する最期を迎えられたか」という変数に加え,各症状の程度,good deathの要素13),QOL評価14,15)などを調査項目に含め,前方視的に検討することが望ましい.

結語

当院のPCUで行われているデスカンファレンス開催の要否には,年齢が50歳未満であること,PCU入院日数が20日以上であること,硬膜外鎮痛法を実施していること,失声があること,腹部膨満感があることが関連した.今後は,デスカンファレンス開催前後で患者支援の困難さに変化があるのかも含めて情報を収集し,今回の結果の妥当性について検討する必要がある.

謝辞

本研究の実施にあたり,国立がん研究センター東病院緩和医療科の木下寛也先生(現・東葛病院),松本禎久先生,三浦智史先生,看護部からは永井千恵様はじめ多くの方にご協力いただきました.皆様に心より感謝とお礼を申し上げます.

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