Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
短報
悪性消化管閉塞患者におけるデキサメタゾンによる経口摂取量改善効果の後方視的検討
平塚 裕介佐藤 麻美子小野寺 克洋佐藤 勝智木幡 桂田上 恵太宮城 妙子佐竹 宣明井上 彰
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2018 年 13 巻 3 号 p. 229-233

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Abstract

悪性消化管閉塞(malignant bowel obstruction: MBO)に伴う症状に対して,デキサメタゾン(Dexamethasone: DEX)が投与される.本研究の目的は,DEXが投与されたMBO患者における経口摂取量の変化を調査することである.2016年10月〜2017年9月までに緩和ケア病棟に入院した患者(N=262)のうち,MBOの臨床的徴候を認める(病歴・身体所見・画像所見),Treitz靭帯以下の閉塞,治癒の見込めない腹腔内の原発癌を有する,または,腹腔内に病変を有する非腹腔内の原発癌を有し,DEX投与をした症例(N=10)を後ろ向きにカルテ調査した.対象症例のうち6例に平均3.8日間に経口摂取量の増加を認めた.全例DEX投与開始用量は8 mg/日であった.MBOに対するDEX投与により,経口摂取量の増加が得られる可能性がある.

緒言

悪性消化管閉塞(malignant bowel obstruction: MBO)はがん患者の3~15%が経過中に経験する病態であり,腹腔内・骨盤内腫瘍でとくにみられやすい1,2).がん終末期においては,診断からの生存期間中央値は4~5週と報告されている1).手術療法が有効な手段の一つだが,がん終末期においては手術適応となる全身状態の患者は多くない36).臨床症状としては,腹痛,疝痛,悪心・嘔吐が挙げられる.手術適応外のMBO患者に対する薬物療法の一つとして,コルチコステロイドは臨床的に用いられている.コルチコステロイドは腫瘍関連の炎症を抑制し,腸管閉塞部位近傍の炎症や浮腫を軽減させ,症状改善に至ると考えられる7,8).以上の機序を想定して,先行研究ではコルチコステロイド投与のMBOに対する有効性が報告されている911).しかし,抗がん治療終了後の終末期がん患者に限ると,Hardyらの報告9)ではデキサメタゾン(Dexamethasone: DEX)群とプラセボ群の間では有意差を認めず,Lavalらの報告10)では,胃管非挿入例に限り,メチルプレドニゾロンが有効とされている.DEXに限ると,Philipらの報告11)でのみ,DEX 8 mg/日の有効性が報告されている.最終的にシステマティックレビューにおいては,DEX 6~16 mg/日が推奨されているが,文献は上記のものを用いており,抗がん治療終了後の終末期がん患者における有効なDEXの開始用量や維持量については不明である12)

MBOに対する薬物療法の効果判定として,嘔吐回数や腹痛,腹部膨満感,排便状況を有効性の評価項目とした研究は多いが,経口摂取量を有効性の評価項目とした研究は少ない.実臨床においては,予後が4~5週と限られている状況では,患者の「最後に何か食べたい」という気持ちは強いにもかかわらず,MBOの診断後は絶食管理となることも多い.ゆえに,経口摂取量を評価項目として調べることは,患者の希望に寄り添う意味でも意義があると考えられる.

本研究の目的は,DEXが投与されたMBO患者における経口摂取量の変化を調査することである.

方法

2016年10月~2017年9月に東北大学病院緩和ケア病棟に入院した患者のうち,先行研究の診断基準に準じてMBOと診断し,DEX投与を開始した症例を後ろ向きにカルテ調査を行った.MBOの診断基準は,①MBOの臨床的徴候を認める(病歴・身体所見・画像所見),②Treitz靭帯以下の閉塞,③治癒の見込めない腹腔内の原発癌を有する,または,腹腔内に病変を有する非腹腔内の原発癌を有する,以上の①~③をすべて満たした場合とした13)

治療開始日をday 1と定義し,day 6およびday 10の経口摂取量を主要評価項目,嘔吐回数・悪心の程度・腹痛の程度・排便回数を副次評価項目としてDEXの効果を検討した.経口摂取量の指標については,先行研究で定まったものはなく,Gilesらの研究(0:経口摂取なし/マウスケアのみ,1:1口/口1杯のみ,2:少量/不完全な食事,3:普通食)を基に,1~4の4段階に経口摂取量を分類した14).また,治療効果については,臨床症状(悪心・嘔吐・疼痛)の悪化がなく,day 0に比較してカテゴリーが1段階以上上昇した場合,経口摂取量の増加を認めたとして,治療効果「有」とした(図1).効果維持の判断については,MBOに伴う臨床症状が悪化した場合は効果が維持されなかったと判断した.

オクトレオチドを継続使用中,胃管留置中で継続的にドレナージしている,原病の進行によりday 6までに死亡した例は解析対象外とした.

患者情報については,電子カルテの記録から情報を得た.とくに,主要評価項目である経口摂取量や副次評価項目である悪心や腹痛の程度の評価については,看護師による記録を基に評価した.

図1 DEX開始後の経口摂取量の変動

DEX開始後の経口摂取量の変動を示す.縦軸については,1:経口摂取なし〜マウスケアのみ,2:1口〜数口以下,3:軽食〜提供された食事を半量未満摂取,4:提供された食事を半量以上摂取,と定義した.10例中6例がday 6において,カテゴリー1段階以上上昇した.患者番号4は原病のためにday 9に死亡したが,day 10では9例中6例がカテゴリー1段階以上上昇した.

結果

調査期間に緩和ケア病棟に入院した全患者(N=262)のうち,DEXを投与していたMBO患者は12例であった.そのうちday 6までの死亡例1例,オクトレオチド継続使用中1例を解析から除外し,最終的に10例を解析した.

解析対象となった患者の内訳を表1に示す.平均年齢54.8歳(中央値60歳),診断からMBO発症までの平均期間は36.5カ月(中央値22.5カ月)であった.全例予測予後は3カ月以内であり,DEX投与開始用量は8 mg/日,H2受容体拮抗薬(ラニチジンまたはファモチジン)が用いられていた.対象全例のDEX投与から死亡までの日数は平均31.3日(中央値29.5日)であった.有効症例6例に限ると,DEX投与から死亡までの日数は平均39日(中央値44日)であった.Day 6では10例中6例,day10では9例中6例が経口摂取量の改善を認めた(図1).4例は死亡時までMBOに伴う臨床症状の悪化を認めなかった.有効症例6例のDEX投与から効果発現までの期間は平均3.8日(中央値3.5日)であった.有効症例6例の治療効果があると判断した日からの効果持続期間は平均32日(中央値34日)であった(表2).治療効果があると判断した6例のうち5例がday 10の時点でDEX 4 mg/日に減量されていたが,うち2例はMBOに伴う臨床症状の悪化を認めた.全例,死亡時までDEX投与が継続された.

Day1~10において,DEXの投与と因果関係が明らかと判断される死亡または死亡のおそれのある重篤な有害事象はみられなかった.

表1 患者背景
表2 DEX投与の効果

考察

本研究はDEXによるMBOに対する有効性を経口摂取量の改善で示した初めての報告である.本研究では10例中6例で,DEXの投与により,経口摂取量の増加を認めた.その機序として先行研究と同様に,DEXが腸管閉塞部位近傍の炎症や浮腫を軽減させ,症状改善に至ったと考えられる911).それに加えて,H2受容体拮抗薬により上部消化管分泌液が減少したことも,経口摂取の改善に寄与したと推測した15)

また,DEX投与にてMBOの改善をもたらし,経口摂取量のみならず,嘔吐・悪心・腹痛などの臨床症状も改善した.しかし,臨床症状の改善は,DEXそのものによる食欲増進効果や腹痛および嘔吐・悪心の改善によって経口摂取量が改善した可能性も否定できないと考えられる.

経口摂取量の増加で定義される治療有効率は,day 6において60%,day 10において67%であり,治療有効率を悪心などのMBOに伴う臨床症状の緩和作用で評価した先行研究911)と比較し,ほぼ同等の有効率であった.

Philipらの報告では,DEX有効症例の効果持続期間は平均38日(中央値31日)であり,対象全例のDEX投与後の平均生存期間は44.2日(中央値34日)であった11).当研究では,対象全例では手術例も含まれており,それらを除外すると,非手術例全例におけるDEX投与後の生存期間は平均36日(中央値26.5日)であった.一方,本研究ではDEX有効症例の効果持続期間は平均32日(中央値34日),対象全例のDEX投与後の生存期間は平均31.3日(中央値29.5日)であった.本研究で示された効果持続期間はPhilipらの報告よりも短いが,Philipらの報告では,PSがよい症例も含まれていること,治療開始後早期退院例も含まれており,本研究とは対象患者が異なるため,直接比較することはできない.

本研究では先行研究12)と同様に,重篤な有害事象は認められなかった.また,DEX投与から効果発現までの期間は平均3.8日(中央値3.5日)であったことから,投与5日目までに効果判定をするべきという先行研究10)の知見を支持する結果であった.本研究では治療効果を認めた例は全例day 6までに効果を認めており,day 6でも無効と判断された例はday 10でも治療効果を認めなかった.ゆえに,DEX 8 mg/日で開始した場合,day 6までに効果判定を行ってよいと考えられた.しかし,DEXを8 mg/日で投与し,MBOの臨床症状の改善を認め,4 mg/日に漸減した症例では,MBOに伴う臨床症状の悪化を認めた.原病の進行による臨床症状の悪化が推測されるが,DEX減量がMBOに伴う臨床症状の悪化に直接関与した可能性もあり,本研究の結果からは,MBOに伴う臨床症状が緩和された後に漸減しない方がよいと考えられる.

本研究の限界として,症例数が少ないため,結果の妥当性が低いこと,すべての症例は緩和ケア病棟で専門的な緩和医療を受けていたために,研究結果を一般化できないこと,MBOに対する治療とケアを複数の医療者より同時に受けており,とくにH2受容体拮抗薬は,消化管分泌抑制作用を介して,MBOに伴う臨床症状の緩和に寄与するため15),DEXの効果を必ずしも反映していない可能性があることが挙げられる.また,主要評価項目である経口摂取量や副次評価項目である悪心や腹痛の程度の評価は看護師の記載に従ったが,看護師は勤務ごとに異なるため,評価方法が一定ではないこと,提供された食事は個々で異なること,悪心や腹痛の程度がNRS評価ではなく,客観性に欠けることが挙げられる.また,早期死亡例を除外したため,全身状態やかなり予後の限られた患者での有効性は示せていない.今後は多施設にて多くの症例数で,治療法を統一した前向き試験による本治療法の有効性を検証することが求められる.

結論

MBOに対するDEX 8 mg/日投与により,経口摂取量改善を得られる可能性が示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

平塚および田上,井上は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.佐藤(麻),小野寺,佐藤(勝),木幡,宮城,佐竹は研究データの収集・分析,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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