Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
症例報告
放射線治療が有効であった副咽頭間隙失神症候群の1例
石川(岡) ゆりか大坂 巌安井 和明原田 英幸大野 茂樹柳原 恵梨佐藤 哲観
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2018 年 13 巻 3 号 p. 257-261

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Abstract

【背景】繰り返す失神発作に対して,放射線治療が有効であった副咽頭間隙失神症候群を経験したので報告する.【症例】68歳,男性,中咽頭癌.腫瘍切除術後に化学療法を実施した.その後,頸部リンパ節転移,頸椎転移に対して放射線治療を行ったが,以降の化学療法は行わず経過観察されていた.経口摂取困難のため入院となったが,激しい頭痛を伴う失神発作を繰り返すようになった.CTでリンパ節転移による副咽頭間隙失神症候群が疑われ,放射線治療を実施した.その結果,失神発作は著明に改善し,死亡前の3カ月間はほぼ生じることなく経過した.【結論】頭頸部癌で失神発作を繰り返す患者においては,副咽頭間隙失神症候群が鑑別診断に挙げられ,その際には放射線治療が症状緩和の選択肢となりうる.

緒言

失神の原因としては,神経調節性失神,起立性低血圧,不整脈,器質的な心肺疾患,脳血管障害など多様な要因が考えられるが1),必ずしも原因を特定できるわけではない.頭頸部癌患者における失神は比較的まれであると考えられているが,特有の要因により失神が生じうることも知られている2,3).とくに,副咽頭間隙に腫瘍などが存在する場合,副咽頭間隙失神症候群による失神発作が鑑別診断のひとつとして挙げられる4).本邦においても複数の症例報告があるが5,6),終末期がん患者においては見逃されている可能性も否定できない.今回われわれは,リンパ節転移による副咽頭間隙失神症候群に対して,放射線治療により失神発作を改善できた症例を経験したので報告する.なお,倫理的配慮として個人が特定されないように配慮し,家族の了承を得ている.

症例提示

68歳,男性.主訴は頭痛,意識障害.既往歴は特記事項なし.2014年7月,他院にて中咽頭癌の診断で化学療法(ドセタキセル,シスプラチン,フルオロウラシル)を2コース行い,9月に腫瘍切除術および両側頸部郭清術を実施した.2015年1月,肺転移および左頸部リンパ節転移の増大が認められた.3月に当院へ紹介となり,計4レジメンの化学療法を実施したが効果は認められなかった.2016年6月以降,化学療法は行わない方針となったが,8月に左肩関節の運動時痛が生じるようになった.MRIにより第5~6頸椎レベルにおいて転移リンパ節が椎体に浸潤していることが判明し,放射線治療(20 Gy/5回)を実施した.12月に傍気管リンパ節転移による食道狭窄症状が出現し,放射線治療(30 Gy/10回)を実施した.その直後に第4~5頸椎レベルにおいて転移リンパ節による脊柱管内への進展が認められたため,放射線治療(30 Gy/15回)を行った.2017年1月,経口摂取困難となり消化器内科へ入院した.翌日の夕方から強い頭痛の後,血圧低下を伴う失神発作が出現し,数十秒で意識レベルは改善した.入院2日後に緩和ケア病棟へ転棟となった.

転棟時の意識は清明であり,右顔面,右頸部から耳後部にかけて軽度の浮腫が認められた.心音は異常なく,心電図は洞調律,心拍数は55 bpmであった.血液検査では,Hb 8.7 g/dL,Alb 3.1 g/dLと貧血および低栄養であり,AST 35 IU/L,ALT 104 IU/L,ALP 424 mg/dL,γ-GTP 103 IU/Lと軽度の肝障害を認めたが,電解質異常などはなかった.

軽度の頭痛は断続的に出現したが,失神発作なく経過していた.入棟10日目に強い前頭部の頭痛の後,失神発作が出現した.失神発作は1〜2時間毎に計4回起こり,発作の度に数十秒間,橈骨動脈触知不可・呼吸停止が認められたが,その前後には冷汗が生じていた.発作時にはジアゼパム2.5 mgの静脈注射で治療を行った.いずれも前兆として前頭部から始まり側頭部に広がる強い頭痛の訴えがあった.脳神経外科,神経内科にも相談し,てんかん発作の可能性が否定できないためホスフェニトインナトリウム注750 mgの静脈注射の隔日投与を開始した.脳波検査では全般性の徐波化が認められたが,明らかな左右差やてんかん波は認められなかった.入棟13日目に失神発作が再度出現したため,眠前にフェノバルビタール坐剤30 mgを定期投与し,ホスフェニトインナトリウム注375 mgは連日投与に変更した.その結果,軽い前頭部頭痛はあるものの,失神発作は一旦消失した.しかし,入棟24日目に前頭部・側頭部・後頭部の頭痛とともに数分~数十分毎に繰り返す失神発作が生じ,ミダゾラム注0.05 mg/hの持続静脈注射により数時間後に失神発作は消失した.さらに,眠前のフェノバルビタール坐剤を100 mgに増量した.失神発作は,頸部捻転などの体位交換や姿勢に関連なく生じた.

入棟32日目に撮影した頸部CT(図1)から,外側咽頭後リンパ節転移を認め,心血管性失神やてんかん発作などは脳波や治療経過からは考えにくいことから副咽頭間隙失神症候群が疑われた.病棟スタッフ,患者・家族および放射線治療科医師らと相談のうえで治療を行うこととした.予後はPalliative Prognostic Index 2.5点のため月単位と判断し,短期間の治療(20 Gy/5回)を行うこととなった.治療中に失神発作が生じる可能性も考えられたため,病室から放射線治療室への移動には担当医が付き添いでストレッチャーによる搬送を,治療中はモニターを装着したうえで医師・看護師・放射線治療技師が十分に観察を行った.

放射線治療終了後,頭痛は数日~1週間に1回程度の頻度に減少した.その後,ミダゾラム持続注射およびフェノバルビタール坐剤は減量から中止にすることができ,治療終了後3カ月間失神発作をほぼ生じることなく永眠された(図2).

図1 造影CT

左副咽頭間隙に腫瘍を認める.

図2 入院後経過

考察

失神とは,一過性の全脳虚血により一時的に意識を失う現象を指していたが,近年は,てんかん発作やてんかんによる低血糖発作,心因性失神なども含めた一過性の意識消失を指すことが多い7).失神の原因の分類方法は複数あるが,予後の比較という観点からは,心血管性失神,非心血管性失神(主に神経調節性失神や起立性失神),原因不明に分類される.頭頸部悪性腫瘍に伴う失神は神経調節性失神に分類され,発生頻度は250例に1例程度と報告されている3).機序としては,舌咽神経を介した刺激が延髄孤束角から迷走神経あるいは交感神経へ伝わり発作が誘発される.さらに,異なる遠心路への刺激によって,心抑制型,血管抑制型.混合型の3つに大別される.また,発作の様式は,腫瘍が求心性神経線維に影響する部位によって,①頸動脈洞過敏症候群(carotid sinus hypersensitivity syndrome: CSHS),②舌咽神経痛症候群および③副咽頭間隙失神症候群の3つに分類される3).本邦における報告では,①と②が約30%で③が約40%の頻度で認められている6).中でも,副咽頭間隙失神症候群はCicognaらによって提唱され,臨床的な特徴として1)副咽頭間隙に腫瘍が存在すること,2)血管抑制型の発作が主で心臓ペーシングが失神発作の予防に無効であること,3)失神発作に誘発因子がないこととされている4)

本邦における文献では,2005年4月〜2017年1月までの期間に副咽頭間隙失神症候群と診断,推測される報告は5例であった(表1).頭痛の前兆の報告はなく,発作時,発汗を伴う報告は自験例以外に1例であった.全症例で原疾患に対する放射線治療・化学療法が奏功し失神発作が消失したと報告されている5,6)

表1 自験例を含めた報告例のまとめ

本症例では,頸動脈洞症候群,舌咽神経痛症候群に加えて,てんかん発作を伴わない非痙攣性てんかん重積(nonconvulsive status epilepticus:NCSE)も鑑別診断として考えられた8).しかし,誘発因子が同定できず,舌咽神経痛の部位と不一致であり,明らかな異常脳波は検出されなかったことなどから,これらの疾患である可能性は低いと判断した.CTで咽頭間隙にリンパ節転移が認められ,放射線治療による効果が明白であったことから,副咽頭間隙失神症候群による失神発作として矛盾しないと考えた.

副咽頭間隙失神症候群に対する治療方法は,放射線化学療法による原疾患の治療である.本症例においては,すでに複数のレジメンによる化学療法では奏功が得られなかったため,治療の選択肢にはならなかった.放射線治療は,本症例においては他部位での効果が認められていたため腫瘍縮小効果は期待できたが,治療前に副咽頭間隙の病変による失神発作であると確定診断は困難であったため診断的治療となった.

本症候群からの失神発作に対する薬物療法として,限定的ではあるがカルバマゼピンが有効との報告がある9).アトロピンは心臓抑制型には発作時に効果がみられるが,血管抑制型と混合型には無効であるとされている10).さらにペースメーカー留置については現在も様々な結果が報告されており11),心臓抑制型の頸動脈洞症候群には効果が期待できるが混合型の場合には効果が期待できないと考えられ,治療効果は限定的である.

本症例においては,当初NCSEも疑われたためホスフェニトインやフェノバルビタール,ミダゾラムなどを投与したが,放射線治療により失神発作が改善したため薬剤の減量・中止を行うことができた.薬剤による眠気を減少させ,本人および家族にとって安心感をもたらし,質の高い時間を維持することにつながった.患者が希望していた自宅への外出は遠方のため困難であったが,車椅子での散歩や近隣の公園へ花見のための外出などを実現させることができた.患者・家族にとって生活の質を高め,生命予後を延長させた可能性があるとも考えられる.

担癌患者が失神発作を繰り返す場合,施設によって行う検査・治療には差があり,想定される予後によっても対応は異なると考えられる.頭頸部癌の患者では本症例のような病態を念頭におき,月単位の予後が期待できる場合は患者家族と相談のうえ,ある程度の検査を行い他科医師と治療の適応を検討することでより安定した時間を過ごせる可能性が今回示唆された.失神発作を繰り返すことは患者家族にとって極めてストレスの大きな状況である.迅速に医療者が対応できるようにチーム内で対応を共有することが患者家族の安心につながってくるだろう.

結論

頭頸部癌患者で失神発作を繰り返す患者においては,副咽頭間隙失神症候群を疑い,放射線治療の適応を検討する必要がある.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

石川(岡)は研究の構想およびデザイン,原稿の起草に貢献;大坂,安井,原田,大野,柳原,佐藤は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018日本緩和医療学会
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