Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
原著
がん患者の苦痛に関するスクリーニング・トリアージを普及するためのワークショップの有用性の検討
内田 恵奥山 徹明智 龍男森田 達也木澤 義之木下 寛也松本 禎久
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2018 年 13 巻 3 号 p. 273-279

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Abstract

本研究の目的はがん患者の苦痛のスクリーニングを患者・家族のために効果的に運用するためのワークショップの有用性について検討することである.直前・直後アンケートでは参加者51名全員から回答を得た.スクリーニングに関する知識は参加直後で有意に改善していた.3カ月後のWebアンケートにも7割以上が回答し,3カ月以内に学んだ内容を実践に移した参加者は3割以上であった.スクリーニング実施時の阻害因子は3カ月後では有意に減少していた.スクリーニングツールの使用方法に関する知識は,年間新入院・外来がん患者数,病床総数,院内がん登録数と負に相関し,スクリーニング実践に関する阻害因子と緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)経験歴は正に相関した.本研究でがん患者の苦痛に関するスクリーニング・トリアージを普及するためのワークショップの有用性が示唆された.対象者はPCT経験歴が長くがん患者数が多いがん拠点病院の医療者が適している可能性が示された.

緒言

緩和ケアにおけるスクリーニングとは,緩和ケアに関するニードを患者に確認し,苦痛の軽減を図ることで,欧米で提唱されその導入が進められてきた1,2).欧米においては複数の先行研究にてその効果が検証されているが,結果は一貫していない.緩和ケアスクリーニングの効果ははっきりしないとの結論もあるが3),スクリーニング自体が大切なのではなくその後の対応,トリアージする先があることが重要であるとの指摘もある1,2,4,5).日本においては2014 年1月に示された「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」に新しい要件として,病院に通院・ 入院している患者を対象として「身体・心理・社会的苦痛のスクリーニング」を行うことが加わった6).しかし人員の不足やスクリーニングに対する患者の反応が必ずしも肯定的でないことから実臨床への導入が難しいといった声が上がっていた7,8).そのため,厚生労働省がん政策研究事業「汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究」班が立ち上がり,わが国のがん診療連携拠点病院における緩和ケアスクリーニングの実態を把握し,改善点および普及の方策を提言するための全国調査が実施された.その結果,実際に緩和ケアスクリーニングが実施されている比率は低く,実施において経験する困難も多いことが示された9)

われわれは,先行研究で得られた情報をもとに,通常臨床でのがん患者の苦痛に関するスクリーニングの実施とその後のトリアージを可能にするために,それらを効率的に運用するためのワークショップを開催することとした.本研究の目的は苦痛のスクリーニングを患者・家族のために効果的な運用をするためのワークショップの有用性とその適切な対象者について検討することである.本研究は厚生労働省がん政策研究事業「汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究」の一環として行われた.

方法

「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」の要件の中に,緩和ケアチームと連携し,スクリーニングされたがん疼痛をはじめとするがん患者の苦痛を迅速かつ適切に緩和する体制を整備することが挙げられているため6),スクリーニングに困難を感じているがん拠点病院の医師・看護師・薬剤師を対象に,スクリーニングをどうすれば効果的・効率的に導入・運用できるか,患者・家族のために役立てることができるかを学ぶワークショップを開催した.

ワークショップにおいては,緩和ケアスクリーニングに関する講義(緩和ケアスクリーニングの課題・現在までの国内外での研究状況・国内での状況・今後の展望について;30分),9つのテーマに関するグループディスカッション(65分×3,各テーマあたり約20分),緩和ケアスクリーニングの運用の実際と課題に関する講義(発表者施設におけるスクリーニングの運用について,介入の実際,課題;20分)が行われた.9つのテーマは先行研究9)の中で,緩和ケアスクリーニングを実施中に経験する困難やその阻害因子として頻度の高かったものから抽出した.参加者は7〜8人のグループに分かれ,グループごとにファシリテーター1名が参加し,各テーマ(スクリーニングをするのに必要な時間・人員がいない,がん患者の特定方法〈スクリーニング対象患者〉がわからない,スクリーニング実施について病院の医師の理解が得られない,どのスクリーニングを使うのがよいのかわからない〈使用しているアセスメントツールのメリットとデメリット〉,スクリーニングツールの説明は時間がかかる・記入方法は難しい,スクリーニング結果等のデータの集積方法がわからない,スクリーニングでトリアージされた患者のフォローアップ方法がわからない,トリガーされた患者を専門の外来に紹介しても患者が受診しない,スクリーニングで見つかった問題に有効な解決方法がない)について,その現状,実際どのようなことで困っているのか,どのように解決したらよいのかを話し合った.グループディスカッションの後,全員で各グループの話し合いの内容を共有した.

ワークショップ直前・直後・3カ月後に以下を実施した.アンケートの項目は欧米を中心とした既存のスクリーニング・トリアージに関する文献1,2,4,5)と先行研究として行ったスクリーニング担当者を対象としたアンケート調査9)をもとに作成し,緩和ケアスクリーニングの経験のある医師・看護師が項目の適切性について話し合った.本研究においてはプライマリーアウトカムをスクリーニング実施における阻害因子の軽減とし,セカンダリーアウトカムをスクリーニングに関する知識の増加,スクリーニング実施時における困難の軽減とした.

直前アンケート

ワークショップ参加者を対象に,①スクリーニングに関する知識14項目(表1),②スクリーニング実施時に経験する困難4項目(表2),③スクリーニング実施時の阻害因子4項目(表2)に関して0点(全くそう思わない)〜10点(とてもそう思う)のNumerical Rating Scaleを用いて質問した.加えて背景情報として緩和ケアチーム経験歴・スクリーニング経験歴・職種・自施設での外来患者対象のスクリーニングの有無・自施設での入院患者対象のスクリーニングの有無に関しても質問した.

表1 研修会前後のスクリーニングに関する知識の変化(n=51)
表2 研修会前と研修会3カ月後のスクリーニング実施時に経験する困難と阻害因子の変化(研修会前n=51,研修会3カ月後n=38)

直後アンケート

ワークショップ参加者に,前記①に加えてワークショップに関する感想12項目(図1)を0点(全くそう思わない)〜10点(とてもそう思う)のNumerical Rating Scaleを用いて質問した.加えてワークショップの時間(長過ぎる・やや長い・適切・やや短い・短すぎる)と自由記載によるワークショップでとくに役立った点・改善の余地がある点について質問した.

図1 ワークショップに関する感想(n=51)

3カ月後のWebアンケート

ワークショップ参加者のうち,Webアンケートへの参加を希望した対象者に前記②,③とワークショップで学んだ内容を実践に活かしたかどうか,その場合,どのような内容を活かしたかについて尋ねた.

その他背景情報として,参加者の所属施設情報(年間新入院がん患者数・年間新外来患者数・病床総数・緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)による年間新規症例数・院内がん登録数)についても情報収集をした.

統計解析

直前アンケートで尋ねた項目について,因子分析によって因子構造を検討し,各因子についてクロンバックのα係数を算出することによって内的整合性を検討した.α係数が0.6以上の場合は各因子の合計得点を算出することとした.直前・直後と直前・3カ月後の変化は,得られた因子ごとの合計点の平均点を対応のあるt検定にて解析した.参加者の背景とそれぞれの因子との関係に関してはPearsonの相関係数(緩和ケアチーム経験歴・スクリーニング経験歴・年間新入院がん患者数・年間新外来患者数・病床数・緩和ケアチーム(PCT)による年間新規症例数・院内がん登録数)の計算とχ二乗検定(職種・自施設での外来患者対象のスクリーニングの有無・自施設での入院患者対象のスクリーニングの有無)で検討した.有意水準は5%とし,統計解析にはSPSS(version 24; IBM SPSS, Chicago, IL)を用いた.

倫理面への配慮

医療者対象の介入であるため,倫理審査委員会の承認は得ていない.本研究への参加は個人の自由意思によるものとし,本研究に同意した後でも随時撤回可能であること,また,得られた結果は統計学的処理に利用されるもので,個人のプライバシーに関しては十分守られる旨を文書で説明し,文書による同意を得た.

結果

直前・直後アンケートについて

対象者の背景

ワークショップに参加した51名全員から回答を得た.参加者の背景は看護師が8割と多く,自施設での外来患者・入院患者対象のスクリーニングを行っている割合は7〜8割であった(表3).

表3 参加者背景(n=51)

ワークショップの効果:直前・直後アンケートの結果

直前に調査した項目を因子分析した結果,スクリーニングに関する知識14項目は4因子に分かれ,スクリーニング実施時に経験する困難は1因子に,スクリーニング実施時に経験する困難は1因子に分かれた.クロンバックのα係数は,因子ごとにそれぞれ以下のとおりであった.スクリーニングの実践に関する知識(0.785),様々なスクリーニングツールに関する知識(0.823),スクリーニングツールのデータの取り扱いに関する知識(0.749),スクリーニングツールの使用方法に関する知識(0.69),スクリーニング実施時に経験する困難(0.812),スクリーニング実施時の阻害因子(0.607).

ワークショップ直前・直後のスクリーニングに関する知識に関しては,すべての因子において有意差が認められた(表1).ワークショップに関する感想はスクリーニングの実施に関する自信に関しては8点以上が3割であったが,それ以外の項目においては8点を超えるものが5割を超えていた(図1).また,ワークショックの時間に関してはやや長い(1人)・適切(44人)・やや短い(3人)・短すぎる(1人)との回答が得られた.自由記載においてはとくに役立った点として,他の施設の取り組みや状況・工夫・困りごとに関して知ることができた・話し合うことができた,問題点の対比ができた,問題解決ができた,スクリーニング後のフィードバック方法を知ることができた,トリガーされた患者のフォローアップ法を知ることができた,スクリーニングの必要性や意義を再認識できた,学びの場になった等が,改善点としては,他施設の資料やスクリーニングシートが見たい,同じ現状の施設の人と話し合いたい,ディスカッションの時間やディスカッション内容の発表時間が短い,多職種で参加したい,会場が狭い等が挙がった.

ワークショップの効果:3カ月後アンケートの結果

ワークショップの参加者51名のうち38名(75%)がWebアンケートに回答した.12名(32%)がワークショップの内容を実践に活かしたと回答した.実際に活かした内容として自由記載に,スクリーニングの用紙・対象者・運用・集計方法の見直し,スクリーニングのシステムの再構築,他施設のフィードバックの方法を導入,紙ベースから電子カルテへの移行の準備を始めた等が挙げられた.

ワークショップ直前と3カ月後のスクリーニング実施時に経験する困難・阻害要因の変化は,スクリーニング実施時に経験する困難は有意差がなく,スクリーニング実施時の阻害要因は有意差が認められた(表2).

参加者の背景とワークショップ直前の知識・考えとの関連の分析

スクリーニングツールの使用方法に関する知識は,年間新入院・年間新外来がん患者数,病床総数,院内がん登録数と負に相関し,スクリーニング実践に関する阻害因子とPCT経験歴は正に相関した(表4).それ以外の項目では有意な関連は認められなかった.

表4 参加者の背景とワークショップ直前のスクリーニングに関する知識・スクリーニング実施時に経験する困難・阻害因子との関連

考察

本研究のプライマリーアウトカムであるスクリーニング実施時の阻害因子に関してはワークショップ3カ月後に有意に低下しており,ワークショップに参加することでスクリーニング実施時に感じる妨げが軽減されたことが示され,ワークショップの有用性が示唆された.また,セカンダリーアウトカムであるスクリーニングに関する知識は,参加後有意に改善しておりワークショップによる好ましい効果が示唆されたが,スクリーニング実施時に経験する困難は参加前と3カ月後で有意差が認められなかった.ワークショップに関する感想は概ね良好であった.

ワークショップの改善点としては,複数の施設での取り組みやスクリーニングに使用しているツール提示する時間を設ける,内容を深めるためにディスカッションにかける時間をもう少し増やす,チームで参加しディスカッションしその内容を持ち帰れるよう参加人数を増やす等が挙げられる.また,本研究の限界は,参加者がスクリーニングに関心のある参加希望者に限られた点である.

スクリーニングツールの使用方法に関する知識とがん患者数・病床数は負に相関し,スクリーニング実践に関する阻害因子とPCT経験歴は正に相関したため,PCT経験歴が比較的長く,がん患者数が多いがん拠点病院の医師・看護師・薬剤師が対象者として適している可能性が示唆された.

結論

ワークショップによりスクリーニング実施時の阻害因子が低下し,スクリーニングに関する知識が改善し,参加者からも好評であり,その有用性が示唆された.

謝辞

ワークショップ実施に協力いただいた横浜市立大学附属病院荒井幸子氏,福井県済生会病院土田敬氏,聖隷三方原病院佐久間由美氏,国立がん研究センター中央病院平山貫敏氏,国立がん研究センター中央病院貞廣良一氏,長野市民病院横川史穂子氏に感謝する.また,本研究は平成27年度厚労科研補助金 がん対策推進総合研究事業「汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究」によった.

利益相反

森田達也:講演料(塩野義製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社)その他:該当なし

著者貢献

内田,奥山,明智,松本は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,研究データの収集,分析,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;森田,木澤,木下は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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