Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
医療で一般に使用される言語に対する医療者と患者家族の意識調査
西村 一宣栗山 陽子行徳 五月寺戸 沙織
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2018 年 13 巻 3 号 p. 281-286

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Abstract

【目的】医療で一般に用いられる言葉,「年・月・週単位」と「季節や時期を示す言葉」について医療者と患者家族の認識を調査した.【方法】医療者と患者家族に対し質問紙調査を行った.【結果】年単位を5年以内とした医療者は100%,患者家族は67.1%だった.月単位を3〜6カ月とした医療者は39.3%,6カ月以内は100%,患者家族は3〜6カ月10.1%,6カ月以内は68.3%だった.週単位を4週以内とした医療者は89.3%,8週以内は100%,患者家族は69.6%と77.2%だった.年・月・週単位を「わからない」とした患者家族が約1/5いた.桜の頃を3月下旬〜4月上旬とした医療者は71.4%,患者家族は58.9%だった.紅葉の季節,暖かくなる頃,寒くなる頃はばらつきがあり,梅雨の時期は6月が多かった.【結論】一般的に使用される平素な言葉でも,医療者と患者やその家族で認識が異なる場合がある.

緒言

医療者にとって,患者やその家族とのコミュニケーション技術は重要である1).医療専門用語は一般市民には理解が難しく,医療者と患者やその家族の認識に差があることが知られている2,3).患者やその家族への説明の場面では,医療専門用語を平易な言葉へ言い換え,簡単な説明を加える工夫をしている2,4).一方,医療者が患者家族とコミュニケーションをとる際には,専門用語以外の日常会話に用いる平素な言葉も当然使用している.

私たちが一般会話を行う際には,社会常識と場面状況で多くの部分を推定し,情報を補いながら会話を行っている5).医療面談で医療者と患者やその家族がコミュニケーションをとる際にも,一般会話と同様に会話の中での無意識の推定が行われるため,個人の文化や社会的背景,参加者や環境,タイミングなどで認識は変化する.そのため医療者と患者やその家族の相互で理解した内容に差異が生じ,コミュニケーションの妨げになる可能性が報告されている6)

診療場面で使用される言語の理解は,医療者と患者やその家族あるいは医療者同士の関係性や社会の状況,会話の成り立ちで変化するため6,7),現時点での医療者の意識と患者やその家族の理解を明らかにしておくことは必要と考える.本研究の目的は,病状説明で使用する病状変化の時間や時期を表現する言葉について,医療者と患者やその家族間でどの程度の認識の差異があるかを明らかにすることである.

方法

予備調査と調査用語の選定

まず,予備調査として経験3年以上の看護師16名と医師事務作業補助者7名から,説明や面談時に使用したり聞いたりしたことのある季節や時期の目安となる言葉を収集した.記述回答を除いた226単語(重複あり)からライフイベントや年中行事などの特定の日を示す言葉を除外し,ある程度の幅が想定される言葉を候補とした.

次に緩和ケア病棟スタッフで話し合い,本調査に使用する言葉を選択した.今回の調査の端緒となった家族の言葉から,「年単位」「月単位」「週単位」を調査した.予備調査から「桜の頃」「紅葉の季節」「梅雨の時期」「暖かくなる頃」「寒くなる頃」の5語を選択した.

対象

調査は当院単施設で,2016年12月16日〜2017年1月27日で行った.医療者への調査は,当院勤務の常勤医師12名と,日常的に患者やその家族と病状や経過の見込みなどの会話に触れている緩和ケア病棟看護師15名,臨床心理士1名(以下,医療者)を対象とした.患者やその家族は,調査期間中に当院急性期病棟および緩和ケア病棟に入院した患者とその家族(以下,患者家族)を対象とした.

調査施設である当院は福岡県中央部にあり,急性期病棟92床,ICU 8床,緩和ケア病棟14床,回復期病棟36床の合計150床の病院である.調査期間中の筆者以外の常勤医師は,一般外科と糖内科が各2名,循環器内科,呼吸器内科,呼吸器外科,血管外科,整形外科,救急担当医,ICU担当医,放射線科医が各1名の合計12名だった.

急性期病棟の除外基準は,(1)余命3カ月以内が予想される患者,(2)記載能力がないか意識レベルが清明ではない患者,(3)病棟看護師で調査実施が適切ではないと判断した患者とその家族とした.急性期病棟には多様な状態の患者が入院しており,今回の調査する言葉で場合によっては余命を想起させ,心理的負担を与える可能性がある.病状や説明の内容,説明の場面や伝え方で心理的負担は変化するが8),がん疾患と比較し非がん疾患の経過を予測することは難しく9),個別に患者情報を把握し対応することは急性期病棟では困難である.より心理的負担を与える可能性がある患者を多く含む範囲として余命3カ月以内を設定し,調査から除外した.また,除外基準(3)の調査実施が適切ではないものの例として,「調査の妨げになる身体的問題がある」「疾患や病状経過で心理的動揺が激しい」「医療者や病院との意思疎通が困難である」「主治医から調査拒否がある」をあげて病棟看護師に説明をした.

緩和ケア病棟では,緩和ケア科の医師が病状や経過の見込みなどの面談を行い,患者やその家族の理解度を把握し対応可能なため,余命による除外基準(1)は設定せず,除外基準は前述の(2)と(3)とした.

方法

自記式の質問紙調査で行った.医療者へは筆者が調査用紙を配布し,対象者が記載後に回収箱に投函し用紙を収集した.患者家族へは病棟看護師が調査用紙配布を行い,急性期病棟と緩和ケア病棟に設置した回収箱への投函で用紙を収集した.

調査項目

対象者の背景についての質問は,医療者は年齢,性別,職種とした.患者家族は年齢,性別,患者本人か家族かの別とした.

「単位」という言葉については,医療者へは「どのくらいの期間を想定して『年単位』『月単位』『週単位』という言葉を使用するか」,患者家族へは「『年単位』『月単位』『週単位』という言葉を聞いてどのくらいの期間を想定するか」とした.「年単位」の選択肢は,2年以下,2~3年,3~5年,5~10年,10年以上,わからない,の6択とした.「月単位」の選択肢は,2カ月以下,2~3カ月,3~6カ月,6~12カ月,12~24カ月,24カ月以上,わからない,の7択とした.「週単位」の選択肢は,2週以下,2~4週,4~8週,8~12週,12週以上,わからない,の6択とした.両群共通の質問として「年・月・週単位」という言葉と,ある期間の幅を示す「○~○年・カ月・週」という言葉についての嗜好性を聞いた.

季節や時期を示す言葉については,それぞれの言葉で「何月」の「上旬・中旬・下旬」と考えるかを聞いた.回答の有効・無効は,著者と緩和ケア病棟看護師2名と臨床心理士1名の計4名で,質問ごとに欠損値と二重回答を除外し判断した.

分析方法

「年単位」「月単位」「週単位」については,最上位の回答カテゴリーは表記数字を,その他は各回答カテゴリーの中位数をとって連続変数に置き換え,「わからない」の回答は欠損値とした.医療者群と患者家族群の比較をMann−WhitneyのU検定を用いて行った. P<0.05を統計学的有意差ありと判定し,解析ソフトはStatcel 3(オーエムエス出版,埼玉)を用いた.「年・月・週単位」「○~○年・カ月・週」の嗜好性と「季節や時期を示す言葉」については,実態調査として記述統計を用いた.

倫理的配慮

回答用紙には,本研究の主旨と必要性,回答は任意であり投函も自由意志であること,回答をしないことで不利益はないこと,個人を特定できる情報は収集しないことと個人情報保護について,収集したデータは本研究目的以外では使用しないとの説明文書を付けた.説明文書と回答用紙には,「余命」や「終末期」などの人生の限りを表す言葉は使用しなかった.さらに,質問や意見を,研究責任者の筆者もしくは病院相談窓口で受けることを記載した.嶋田病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2016-005).

結果

医療者28名と患者家族83名から回答を得た.医療者の回収率は100%だった.患者家族の回収率は,急性期病棟での質問用紙配布人数が正確に把握できていない可能性があり,不明だった.有効回答は,医療者28名(100%),患者家族は欠損値が多かった4名を無効回答とし79名(95.2%)だった.患者家族の内訳は,患者が45名でその家族が34名,急性期病棟入院が64名,緩和ケア病棟入院が15名だった(表1).

表1 対象の背景

医療者が「年単位」を用いる時にはすべて5年以内を想定しており,わからないとの回答はなかった.患者家族が「年単位」と聞いた時に5年以内を想定したのは67.1%で,わからないとしたのは27.9%だった.医療者が「月単位」を用いる時にはすべて6カ月以内を想定しており,わからないとの回答はなかった.患者家族が「月単位」と聞いて6カ月以内を想定するのは68.3%で,6~12カ月や24カ月以上とする回答もあり,わからないとしたのは21.5%だった.医療者が「週単位」を用いる時にすべて8週以内を想定しており,わからないとの回答はなかった.患者家族が週単位と聞いて8週以内と考えるのは77.2%で,わからないとしたのは21.5%だった.医療者と患者家族間の検討で,「年単位」「週単位」では有意差なく,「月単位」のみ有意差を認めた(表2).

医療者で「年・月・週単位」が「○~○年・カ月・週」よりもよいとした回答はなかったが,無回答が14.3%あった.患者家族で「○~○年・カ月・週」がよいとしたのは81.0%で,「年・月・週単位」がよいとしたのは11.4%だった(表2).

表2 年・月・週単位について

「桜の頃」で3月下旬〜4月上旬を想定するのは,医療者は71.4%,患者家族は58.9%でその約3/4は4月上旬を想定していた.「紅葉の季節」は9月,10月,11月とばらつきがあり,その中でも11月よりも10月とした医療者が多く,患者家族は10月よりも11月が多かった.「梅雨の時期」を6月とした医療者は92.9%で,患者家族は87.0%だった.「暖かくなる頃」は,医療者の85.7%が3月や4月を想定しているのに対し,患者家族が3月4月としたのは66.2%で,7月と考えていた患者家族も12.7%存在した.「寒くなる頃」を 11月としたのが医療者,患者家族各々64.3%と56.3%だった(表3).

表3 季節や時期を示す言葉について

考察

医療者が患者やその家族と病状や治療について話す時には,提供する情報や選択肢を理解して合理的な判断ができるように心がけている.そのためには正確な情報提供が必要になるが,日本人はがん病名の明確な告知を望みつつも,気持ちや家族への配慮を重要視しているとする先行研究があり8,10),生命に関わる疾患にあたってはより慎重な配慮が必要とされる.心情に配慮し慎重な言い回しをすることは,時に正確な情報提供と相反することがあり11),とくに病状が重症化したり急速に進行したりすると患者やその家族の理解が進まず,現実と釣り合わない期待や見通しをもつことはしばしば経験する.

Enzingerらは,進行がん患者590名のうち71%が余命の告知を希望したが,医師による告知を覚えていたのは17.6%にとどまるとしており12),ある程度の明確な伝え方をしないと必要な情報が残らないこともある.一方,余命を伝える場合などに数値での断定的な言い方をすると患者やその家族の心理的負担は大きくなるため,幅をもたせた婉曲的な表現方法をとることもある13,14)

医療者の全回答が,「年単位」を5年以内,月単位を6カ月以内,週単位を8週以内としており,患者家族の70%程度が医療者と同様に考えていた.「年単位」「月単位」「週単位」という言葉で,医療者と患者家族の検討で有意差があったのは「月単位」のみで,他は有意差を認めなかった.ある幅を想定させる意図で医療者が使用する「年単位」「月単位」「週単位」という言葉で,患者とその家族の約7割は医療者とおおむね同様の期間を想起していると考えられる.

しかし,患者家族の20%以上が時期は「わからない」と答えており,医療者が考える期間より長く想定する患者家族が存在した.医療者が使用する言葉は,場面,文脈,使い方,受け取る側の感じ方で理解が変化するため6,15),「年単位」「月単位」「週単位」という言葉では患者やその家族の一部は理解できないか,医療者が意図したものとは違う期間を想起する場合もあり得る.

季節や時期を示す言葉については,多くの回答が上旬,中旬,下旬の10日間の期間で示すことができていた.九州北部の桜の開花は例年3月下旬で,桜の花を見るには2週間から3週間である.また,梅雨の期間も1カ月程度である.実際の回答も,医療者の想定と患者家族ともにその時期が多かった.「紅葉の季節」については,樹木の種類や高度の影響で比較的長い期間その季節が続くためか,医療者と患者家族ともにばらつきがあった.寒さや暖かさに関しても,人それぞれの感じ方に違いがあるためか,ばらつきがあった.

本研究の限界と課題は,対象に一般病棟入院患者を含め,かつ除外基準を余命3カ月以内としたため,将来や余命を考えることが現実味を帯びてきた時期の認識を反映していないことがあげられる.また,季節や言葉には地域性があるため全国各地方を同じように考えることはできない.そして調査は単施設であり,患者家族は当院入院中であるため市民のレベルではないことと,医師以外の職種は緩和ケア病棟の看護師と臨床心理士であり,医療者一般のレベルではないことも今後の課題である.最後に,季節や時期を示す言葉については,医療者が期間の幅をもたせる表現を意図して使用しても,個人が想起する時期はある程度限定的になることが示唆された.婉曲的に思える表現でも時期を限定して伝わる可能性がある言葉に関しては,今後の研究課題である.

結論

今回調査した「年・月・週単位」や「季節や時期を示す言葉」のように,医療専門用語以外の一般的に日常会話で使用される言葉でも,医療者と患者家族との間に認識のずれが起きうる可能性が示唆された.私たち医療者は,患者やその家族とよいコミュニケーションを行うために,患者やその家族の気持ちへ配慮しつついかに情報を誤解なく伝えられるかを模索していかなければならない.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

西村は研究の構想・デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の起草および批判的推敲に貢献;栗山は研究のデータの収集・分析・解釈,原稿の批判的推敲に貢献;行徳と寺戸はデータの収集・分析および原稿の批判的推敲に貢献した.また,すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018日本緩和医療学会
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