Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
緩和ケア病棟へ入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴
大野 栄治
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2020 年 15 巻 1 号 p. 21-27

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Abstract

【目的】造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者に比べて緩和ケア病棟を利用することは少ない.この研究では,緩和ケア病棟に入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴を明らかにした.【方法】われわれの緩和ケア病棟で5年間に死亡した造血器と固形腫瘍患者の,症状の重症度および有病率,最後の治療から死亡までの期間を比較した.【結果】560人のがん患者のうち56人(10%)が造血器腫瘍の患者であった.造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者と同じ程度の症状重症度であり,症状では倦怠感(52% vs. 32%; p=0.004)と発熱(45% vs. 21%; p=0.0004)を多く認めていた.治療終了から死亡までの期間の中央値は造血器腫瘍で69.0日,固形腫瘍で94.5日であった(p=0.031).【結論】緩和ケア病棟に入院した造血器腫瘍患者は,固形腫瘍患者と同程度の症状重症度があり,同様のホスピスケアが必要である.

緒言

ホスピスケアを利用する患者は,終末期に積極的な治療を受けた患者や一般病院で過ごした患者に比較して,Quality of Life(QOL)やQuality of Deathの指標の改善が認められ,また遺族の悲嘆や精神障害が少ないことが報告されており1,2),さまざまな利点があることが知られている.しかしながら,造血器腫瘍の患者は,固形腫瘍の患者と比べて,ホスピスへの紹介や入院は少ない35)

本邦における入院ホスピス施設である緩和ケア病棟において,造血器腫瘍患者がどの程度利用しているのかは明らかにされていない.しかし,厚生労働省の診療報酬明細書と特定検診等情報からなるナショナルデータベースより2012年10月のがん患者を抽出したサンプリングデータ1,203例の調査では,緩和ケア病棟で死亡したがん患者は124例で,そのうち造血器腫瘍患者は1例(0.8%)であった6).また,緩和ケア病棟133施設,6,989人の参加した遺族調査であるJ-HOPE3 studyに登録された造血器腫瘍患者は164人(2.3%)であり7),同様に16施設,820人の参加した予後予測調査であるJ-ProVal studyに登録された造血器腫瘍患者は5人(0.6%)であった8).これらは限られた施設での結果ではあるが,いずれも緩和ケア病棟での造血器腫瘍患者は1~2%前後にとどまっており,2017年度の全国部位別死亡数において,全がん死亡数373,334人のうち,造血器腫瘍が25,440人(6.8%)であった9)ことから,やはり本邦でも造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者と比べて,緩和ケア病棟へ紹介される機会が少ないものと推測される.

造血器腫瘍患者は,専門的な緩和ケアへ紹介されたときに症状の重症度が高く1012),終末期においてホスピスの必要性があることは示唆されているが,造血器腫瘍特有の症状があることや10,13),終末期まで化学療法が行われることが多いことが3,14,15),ホスピスの利用が少ない理由と考えられる.今回われわれは,本邦の緩和ケア病棟における造血器腫瘍患者の紹介が少ない理由を明らかにするため,われわれの緩和ケア病棟に入院した造血器腫瘍患者における,症状の重症度および有病率,また腫瘍に対する治療が終了してから死亡するまでの時間を,固形腫瘍患者と比較することにより,その臨床的特徴を検討したので報告する.

方法

対象

2014年4月~2019年3月の5年間に,アルメイダ病院の緩和ケア病棟で死亡したすべてのがん患者を対象とした.

方法

電子カルテから基本情報(年齢,性別,緩和ケア病棟での入院日数)と原発部位を調査した.また,造血器腫瘍患者における骨髄不全の状態を確認するため,入院中もしくは入院中に検査していない場合は入院直前の血液検査から,好中球数,ヘモグロビン値,血小板数を抽出した.

症状の重症度については,緩和ケア病棟入院時から退院時まで,担当の看護師により週に1回Support Team Assessment Schedule 日本語版(STAS-J)症状版を基にした,「痛みのコントロール:痛みが患者に及ぼす影響」(痛み),「症状が患者に及ぼす影響:痛み以外の症状が患者に及ぼす影響」(痛み以外),「患者の不安:不安が患者に及ぼす影響」(不安)の3項目を5段階で評価し記録しており,死亡までに認められた3項目のスコアそれぞれの最大値を抽出した.STAS-J症状版は,0=症状なし,1=時折症状があるが今以上の治療を必要としていない,2=中等度の症状があり日常生活に支障をきたすことがある,3=たびたび強い症状があり日常生活動作に著しく支障をきたす,4=持続的な耐えられない激しい症状がある,の5段階で,症状が患者に及ぼす影響を医療者が記録する評価尺度である16).また,STAS-Jでの評価が不可能であった症例は,短期死亡,意識障害,データの不備のいずれかが原因であったが,短期死亡と意識障害は重症度にも関連する項目であり,その症例数も抽出した.

症状の有病率については,それぞれの患者について緩和ケア病棟入院時にみられた症状を,STAS-Jの「その他」の項目を除く22項目(疼痛,しびれ,全身倦怠感,呼吸困難,せき,たん,嘔気,嘔吐,腹満,口渇,食欲不振,便秘,下痢,尿閉,失禁,発熱,ねむけ,不眠,抑うつ,せん妄,不安,浮腫)に分類した.

さらに,治療医による原疾患への手術・化学療法・放射線治療の最終実施日を確認できた症例について,カルテから治療終了日として抽出し,治療終了日から死亡までの日数を求めた.

以上について,それぞれ造血器腫瘍と固形腫瘍の患者群に分けて比較した.

統計処理

二群間の年齢はMann-Whitney U検定,性別はFisherの正確検定で比較を行った.個々の症状重症度の比較はMann-Whitney U検定で,短期死亡,意識障害症例数および症状有病率の比較はFisherの正確検定を用い行った.治療終了から死亡までの日数および入院日数についてLogrank検定にて比較し,95%信頼区間(CI)を求めた.いずれも有意水準は5%とした.すべての統計解析はEZR version 1.38を使用した.

倫理的事項

本研究は,大分市医師会立アルメイダ病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号161).

結果

対象期間中に死亡したがん患者は560名で,造血器腫瘍56名(10%),固形腫瘍504名であった.各群における患者背景についての情報を比較したものを表1に示す.各群間における年齢,性別,入院日数に有意差を認めなかった.造血器腫瘍患者の血液検査では,54名(96%)に一系統以上の血球数異常を認めており,それぞれの中央値(範囲)は,好中球3056(1404-29129)/μl,ヘモグロビン8.35(3.6-14.5)g/dl,血小板6.95(0.1-43.6)×104 /μlであった.とくに骨髄不全を反映した何らかの臨床症状を呈すると考えられる,好中球500/μl以下,ヘモグロビン8 g/dl以下,血小板2×104 /μl以下のいずれかを満たす症例は29名(52%)であった.

症状重症度について対象としたのは,観察期間中に死亡した560名の患者のうち,短期死亡や意識障害などのためにSTAS-Jの評価が不可能であった症例を除く造血器腫瘍患者31名,固形腫瘍患者350名であった.図1にそれぞれのスコアをグラフ化したものを示すが,何らかの介入を要するスコア2以上の症状は,「痛み」において造血器腫瘍36% vs. 固形腫瘍43%,「痛み以外」造血器腫瘍55% vs. 固形腫瘍51%,「不安」造血器腫瘍19% vs. 固形腫瘍26%であった.また,表2にそれぞれの症状におけるスコア平均値を示すが,いずれも両群間で有意差を認めておらず,造血器腫瘍においても固形腫瘍と同程度の苦痛の強さが認められていた.STAS-Jによる評価が不可能であった理由は,何らかのデータ不備によるものを除くと,「短期死亡」が造血器腫瘍患者全体の30%(17名)に対し固形腫瘍19%(95名)(p=0.052),「意識障害」は造血器腫瘍7%(4名)に対し固形腫瘍6%(32名)(p=0.774)であった.いずれも有意差は得られなかったが,造血器腫瘍において入院後短期での死亡が多い傾向にあった.

入院時の症状有病率については,造血器腫瘍56名と固形腫瘍504名のすべての患者で比較した.造血器腫瘍で発熱(造血器45% vs. 固形21%; p=0.0004),倦怠感(造血器52% vs. 固形32%; p=0.004)が,固形腫瘍で腹部膨満(造血器5% vs. 固形24%; p=0.0006),浮腫(造血器9% vs. 固形25%; p=0.007),疼痛(造血器55% vs. 固形73%; p=0.012)が有意差を認め,多かった.疼痛は,造血器腫瘍においても半数以上に認めており,有意差はなかったが食欲不振も造血器腫瘍で57%,固形腫瘍で55%と同程度に多く認めていた(表3).

治療終了日が確認できた造血器腫瘍患者53名,固形腫瘍患者416名で死亡までの日数を比較した.腫瘍に対する何らかの治療終了から死亡までの日数は,造血器腫瘍で中央値69.0日(95%CI:53-119日),固形腫瘍で94.5日(95% CI:88-107日)であり,p=0.031で有意差を認めた(図2).

表1 患者背景
図1 緩和ケア病棟入院中のSTAS-Jスコアによる症状強度の比較

緩和ケア病棟入院してから死亡退院するまで毎週記録を行い,その期間のスコア最大値を抽出した.

表2 緩和ケア病棟入院中のSTAS-Jスコアによる症状強度の比較
表3 緩和ケア病棟入院時の症状比較
図2 治療終了から死亡までの日数

造血器腫瘍患者と固形腫瘍患者の,治療終了から死亡までの期間について,Kaplan-Meier法による生存曲線を作成し,Logrank検定で2群間の有意差の検定を行った.

治療は,緩和ケア病棟紹介前に治療医によって行われた,原疾患への手術・化学療法・放射線治療を対象とし,輸血は含まない.

考察

今回われわれは,海外で報告されているのと同様,本邦の緩和ケア病棟においても造血器腫瘍患者の利用が少ないと推測されることから,その理由を明らかにするため,緩和ケア病棟における造血器腫瘍患者の特徴について固形腫瘍患者との比較を行った.これはわれわれの調べ得た限りでは,本邦の緩和ケア病棟で行われた最初の報告である.その結果,緩和ケア病棟へ入院した造血器腫瘍患者は,固形腫瘍患者と同じような症状重症度を認めたことから緩和すべき苦痛を有しており,専門的緩和ケアにて症状緩和を図る必要性があることが明らかになったが,いくつかの症状有病率に差異を認めた.また,これまでの報告と同様,造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者に比べて,より終末期近くまで血液内科医による治療が行われていた.

本研究では,造血器腫瘍患者において,症状の重症度および有病率は固形腫瘍患者とほぼ同等であったが,発熱と倦怠感は有意差を持って多く認められた.専門的緩和ケアを行うチームやホスピスなどの施設に紹介された時点での症状を比較した報告でも,その症状重症度や有病率は造血器と固形腫瘍の間でほぼ同等であったことが報告されているが1012),造血器腫瘍において倦怠感や眠気,せん妄が有意に多く10,11),Palliative Performance Scaleが低かったことが報告されており13),造血器腫瘍の特徴に応じた対応も必要になってくる.これらの造血器腫瘍患者に多く認められた症状は,今回対象とした造血器腫瘍患者の多数にも認められたように,造血器腫瘍に特徴的な骨髄不全による,貧血や出血,易感染状態に起因する症状を反映しているものと考えられた.骨髄不全に対して,寛解導入などの治癒を目指す治療中であれば予防投与を含む輸血や抗生物質の投与が推奨されているが,終末期におけるこれらの使用は,依然として議論の余地がある17,18).これらの造血器腫瘍特有の治療について,専門的な緩和ケアを行う医療者と造血器腫瘍の患者や血液内科医との考えの相違が,ホスピスの利用を躊躇する原因になっていることから19,20),輸血などの造血器腫瘍に特有の処置を組み込んだ終末期医療モデルを構築することや19,20),輸血や抗生物質などどこまで治療を行うのか,医療者が患者や家族とともに慎重な「終末期の話し合い」を繰り返し行うことが望まれる.

また本研究において,治療医による何らかの治療が終了してから死亡するまでの時間は,造血器腫瘍患者において有意差をもって短かったことから,これまでの報告と同様,固形腫瘍患者と比べて,より終末期まで治療が行われていることが確認できた.血液内科医は,腫瘍内科医と比較したときに,予想される予後が1カ月以内の状態の悪い患者に化学療法を推奨する可能性が高いことが示されているが21),当然ながら医療者の態度は患者の意思決定に重要な役割を持つ.また,造血器腫瘍の患者も,終末期に非現実的な治療への期待を示し,積極的な治療を希望する場合が多いことが報告されている22).寛解導入などの集中的な治療のみならず,終末期の患者に対して行われる,症状コントロールや,希望の維持,QOLや生存の延長を目的とした緩和的化学療法においても,有意な副作用を招く可能性があるため,血液内科医は,最適な治療法に関する推奨のなかで,患者の予後ならびに患者や家族の価値を統合し,彼らのQOLへのさまざまな治療の影響を考慮しながら,その長所と短所を理解してもらう必要がある.このような「終末期の話し合い」を行うことが終末期における不必要な化学療法を減らし,緩和ケア病棟など専門的な緩和ケアへの紹介にもつながるであろう.また,血液内科医にとっても造血器腫瘍の終末期の時期を特定することが難しく4),そのこともより終末期近くまで治療が行われている理由として考えられる.最後の治療から死亡するまでの時間があまりないことが,緩和ケア病棟への移行を困難にすることも考えられるため,これらの「終末期の話し合い」は,終末期を確認することなく,アドバンスケアプランニングのなかで,固形腫瘍よりもさらに早期から開始することを意識していく必要がある.

本研究の限界は,単一施設の後ろ向き研究であること,われわれの施設の造血器腫瘍患者の比率は他施設の緩和ケア病棟より高いと思われ,一般化には慎重を要すること,また緩和ケア病棟へ入院した患者を対象にしており,より多いであろう緩和ケア病棟に紹介されなかった患者とは臨床的特徴が異なる可能性があること,STAS-Jによる症状重症度の比較は5段階の評価であるため有意差が得られなかった可能性があること,が挙げられる.また,固形腫瘍患者と異なり,終末期に望むべき療養場所として慣れ親しんだ血液内科病棟を挙げる患者も多く23),造血器腫瘍患者が緩和ケア病棟に入院することによる利益があるかどうかも明らかにされていない.今後のさらなる研究が必要である.

結論

緩和ケア病棟へ入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴を,固形腫瘍患者と比較することで明らかにした.造血器腫瘍においては,より早期から腫瘍の治療と並行して,時期を逃すことなくアドバンスケアプランニングの一つとして「終末期の話し合い」を開始することや,造血器腫瘍の患者の特徴にあった緩和ケア病棟のモデルを構築していくことが必要である.造血器腫瘍患者の終末期におけるQOLを改善するために,さらなる血液内科と緩和ケアを行う医療者間での協働が望まれる.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

大野は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.また,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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