Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
TEMを用いた緩和ケアスタッフの死に寄り添うことへの心理的適応過程の検討─死のとらえ方と時間的展望に着目して─
宇野 あかり
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 15 巻 2 号 p. 117-127

詳細
Abstract

【目的】緩和ケア病棟で働くスタッフを対象に,緩和ケアで死に寄り添うことへの心理的適応過程を死のとらえ方と時間的展望に着目して明らかにする.【方法】緩和ケアスタッフ10名を対象に半構造化面接を実施し,TEM(複線径路・等至性モデル)を用いて分析した.【結果】スタッフは緩和ケアのキャリアの中で死のとらえ方を変化させ,死にpositiveな意味を見出すことで精神的健康を維持して働いていた.また,死が身近な環境は,過去・現在・未来への視点を広げ,適応的な時間的展望の形成を促し,よりよい生を送ろうという意識を高めることが推測された.【結論】今後はスタッフの死のとらえ方を把握しpositiveな意味づけを促す必要がある.また,緩和ケアに時間的展望の視点を取り入れることは,緩和ケアが自身の成長の糧になっているという気づきや,日々のケアの意識にもよい変化があると考えられ,有意義であるといえるだろう.

緒言

終末期に携わる緩和ケアスタッフは,動揺や心理的負担を感じ,メンタルヘルスの悪化やバーンアウトのリスクがある13).国内の調査では,終末期に関わるスタッフの96.8%が精神的負担を感じていることや1),緩和ケアの看護師の半数以上にバーンアウトの兆候がみられた4)という報告もある.

緩和ケアの要となるのは患者の死と向き合うことである.スタッフが精神的健康を維持して働くために,患者の死を受容し,死に肯定的要素を見出すことが重要とされる5,6).死へのそのような態度は,患者の死や悲嘆から逃げない態度,人間的成長,ケアの質の向上につながる7)

では,死や看取りに肯定的意味を見出すことには,どのような要因が関連しているのだろうか.ここでは,その糸口として時間的展望(time perspective: TP)に着目する.TPは「ある一定の時点における個人の心理的過去,現在および未来についての見解の総体」と定義され8),われわれの行動や意識,人格特性に関わり,生涯発達の文脈でも重視される.適応的なTPとは,過去・現在・未来が適度に区分されながら統合し,各次元をポジティブに認識しつつ連続性を感じ,その連鎖が継続している状態である9).適応的なTPを有する者は精神的健康度も高く10),その形成は重要な発達課題となる11)

従来,心理学領域を中心に死とTPの関連は多く検討されてきた.死を意識することは自己の有限性に気づき,適応的なTPの形成を促す12).また,発達段階で死を考える効果は異なり,生涯を通じTPの発達に肯定的な影響を与える1315).過去・現在・未来の認知にもそれぞれ正の影響を与える12,1517)とされ,死が身近な環境に順応すると,適応的なTPを有すると推測される.

一方,緩和ケア領域においては,死を扱った研究は多くみられるものの,TPを扱ったものはみられない.しかし,TPを強調することで,生涯発達の観点から,死の肯定的意味づけをより促進させることが期待できる.そこで,まずは死に寄り添うことへの適応とTPとの関連を理解する必要がある.以上を踏まえ,本研究の目的は,緩和ケアスタッフが職業の要である死に寄り添うことへ心理的適応していく過程を,死のとらえ方を中心に明らかにし,さらにその重要な要因としてTPに着目し,それらの関連を探索的に明らかにすることである.

本研究では,緩和ケアで死に寄り添うことへの適応を,「心身が健康で,かつ患者の死を受容し,緩和ケア病棟で3年以上継続勤務している状態」と定義する.

方法

対象

緩和ケア病棟に勤務するスタッフで3年以上継続している10名であり,研究協力募集の文書を配布し,調査協力の承諾を得たスタッフを対象とした.3年以上としたのは,Bennerの看護論18)の「中堅」以上のスタッフが適切と判断したためである.Bennerは「中堅」の目安に約3~5年間類似の患者集団を対象に働いていることを提示している.

データ収集法

上記の10名に半構造化面接を実施した.面接内容は同意を得たうえで録音した.面接は,①死のとらえ方の変化②キャリアのなかでの過去・現在・未来のとらえ方の変化③働くうえでのサポートや困難に感じたこと,等を幅広く語ってもらった.調査期間は2018年11月~12月であった.

分析方法

分析方法はTrajectory Equifinality Model(TEM: 複線径路・等至性モデル)を用いた19).TEMは時間を捨象せず個人の変容を社会との関係でとらえる新しい質的研究法である.主要概念が存在し,多様な径路を辿ったとしても,等しく到達する等至点(Equifinality Point: EFP),正反対にある両極化した等至点(Polarized EFP: P-EFP)がある.径路の中で発生・分岐する点は分岐点(Bifurcation Point: BFP),ほとんどの人が経験せざるを得ない点を必須通過点(Obligatory Passage Point: OPP)とする.径路中の社会的な力の働きに着目し,促進する力を社会的助勢(Social Guidance: SG),阻害する力を社会的方向づけ(Social Direction: SD)として示す.そして,時間を示す概念に非可逆的時間(Irreversible Time)がある.なお,本研究では等至点を「緩和ケアで死に寄り添うことに適応する」とした.また,適応状態は「点」として表しにくいとの指摘20)から,等至点に代わる「等至域」を用いた.TEMでは対象者数の目安に「1・4・9の法則」が提唱されている.1人は個人の径路を深く探る,4±1人は経験の多様性を描く,9±2人は径路の類型を把握する,というように人数により異なる質的結果を産み出すとされる.本研究は死に寄り添うことに適応した径路と,不適応となった径路を明らかにすることを目指し対象者を10名とした.

分析の手順

データを逐語化し,意味のまとまりごとに切片化した.さらに先行研究19)を参考にKJ法21)の手法で,類似するものをグループ化した.この過程において,臨床心理学専攻の大学院生6名の協力を得た.次に,グループを対象者ごとに時系列順に並べた.その過程で類似的,相互背反的と考えられる事象は縦に並べて配置した.この作業を繰り返し,類似する内容をまとめてラベルをつけた.ラベルをもとにTEM図を作成し,逐語データと見合わせ適宜修正した.全対象者の径路が十分に描けたと思えるまでこの作業を繰り返した.径路を辿ることで,全員のキャリアを追体験することを意識して作業した.

倫理的配慮

対象者には,調査目的やプライバシー保護,任意性の確保,情報の取り扱い等の説明を行い,協力が得られた場合は同意書に署名をしてもらった.なお本研究は所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得た.

結果

対象者の概要

対象者の概要を表1に示す.面接時間は約60~150分で,平均面接時間は82.8分だった.

表1 対象者の概要

緩和ケアで死に寄り添うことへの心理的適応過程

10名の語りをもとにTEM図を作成した(図1).本文中ではTEM概念を[ ],下位概念を〈 〉,スタッフの語りを「 」で表記した.また,本研究のTEM概念の位置づけとラベルを説明する発言例を表2に示した.

まず,死のとらえ方の変化の過程を[死と直面する段階][死を考える段階][死に肯定的な要素を見出す段階][死を受容する段階]に分けた.以下ではこの段階に沿いながら,そのなかで重要なポイントおよびその要因について言及する.

(1)分岐点とその要因

適応過程で重要な出来事や選択と考えられるものをBFPとし,[死との心理的距離][不全感のある看取り][患者との深い関わり・死との直面][良い看取り][多様な死生観を知る]が見出された.

まず,就業前の[死との心理的距離]は,[就業前の死のとらえ方]に大きく関連していた.身近な人の病気や死の経験,宗教的背景を有すると心理的距離が近く,これらがSGとなって死への接近行動をとっていた.一方遠い場合,死への漠然とした恐怖によって距離を置いていた.SDは文化的死のタブー視や年齢であった.

[死と直面する段階]では,医療職に就き病院等で働き始め,死にゆく患者と向き合うことで多様な感情を経験していた.以前の職場では死と触れる機会がほとんどなく,緩和ケア就業後にこの段階を経ている場合もあった.そのなかで,[不全感のある看取り]は緩和ケアへの意識が高まるきっかけの一つだった.他科で終末期ケアの課題を痛感し,不全感や無力感が芽生え,患者の最期を意識するようになっていた.同時に寄り添いの感情が高まり,緩和ケアへの志に寄与していた.また,緩和ケア離職後も他科での終末期の姿に疑問を感じ,「経験者として終末期ケアが優れていることに気づいた」「やっぱり緩和で働きたいと思った」と,緩和ケア復帰の径路もみられた.SGは終末期への関心の高まりやキャリアアップ等があり,SDは死のタブー視や多忙なスケジュールがあった.[患者との深い関わり・死との直面]は多くの場合,肯定的な経験と捉えていた.一方経験が浅いと,患者側の心理的依存に負担を感じる場合もあった.このような関わりでは,患者側との距離感がその後の死のとらえ方や適応に関わっており,SGは先輩看護師等のロールモデルの存在であった.

次に[死を考える段階]で,看取りを積み重ねるなかで死を積極的に意識し,自身のとらえ方を形成していた.とくに[よい看取り]を通じ,死と向き合う機会の増加と心理的接近があり,死を考えることが増加していた.そして相互作用を通じ,「穏やかな顔で旅立たれる(中略)その経験のなかで徐々に受け入れた」と,死のとらえ方が変化していた.よい看取りとして,穏やかな様子,やり残しのないケア,患者の主体性の尊重等が語られ,どのスタッフもよい看取りを提供したい思いを抱いていた.ここでは死を語り合う病院の体制がSGだった.

そして[死に肯定的な要素を見出す段階]で,よい看取り経験の積み重ねや,死を語るなかで多様な死生観に触れ,死に肯定的要素を見出し,とらえ方を変化させていた.この段階では,仕事への向き合い方に変化のある場合とない場合がみられた.変化がある場合はSGに立場や環境の変化,加齢が関連し,自分のペースをつかんでいた.ない場合は元々仕事への向き合い方に問題がないか,負担になる向き合い方を維持しているかの違いがあり,後者は疲労の蓄積から一度離職していた.[多様な死生観を知る]は,死にpositiveな要素を見出した先にみられた.そこでは多くの出会いから多様な死生観に触れるが,自身と異なる死生観を受容できるか否かで分岐がみられた.どんな死生観も受容できると,患者との接し方やケアの質に変化を感じていた.一方で相手の死生観が自身と大きく異なると,時に患者側との関わりに困難を感じていた.死は自然な現象と考えるスタッフは,死を受容できない家族へのやるせなさと同時に,「大切な人を失う家族に失礼だから自分の死生観が表に出ないように努力しています(中略)家族に寄り添うケアが必要ですが,自分の死生観が邪魔しているかもと心配」と語った.

このような過程を経て,最終的に[死を受容する段階]に至り,自身が死を受容することに加え,他者の死生観も寛大に受容していた.

(2)死のとらえ方の変化

本研究では死のとらえ方を就業前・就業直後・現在に分け,OPPと位置づけた.死のとらえ方はまず10の下位概念が見出され,さらにその上位概念としてpositive,neutral,negativeに分類した(表3).

[就業前の死のとらえ方]は死への心理的距離と関連し,近い場合はpositive,neutralだったが,遠い場合はneutral,negativeだった.就業前のpositiveは宗教的背景が関連することで〈死後の世界への信念〉を抱き,人生の使命感や目的意識もみられた.neutralは〈断絶〉〈未知〉が含まれ,negativeは〈恐怖〉が含まれた.

[就業直後の死のとらえ方]は患者との距離感をつかめた場合はpositive,neutralだったが,できなかった場合はnegativeだった.negativeは,他者の死と直面することによる〈悲哀〉や,死を目前に無力感や未熟さを痛感し〈虚無感〉を抱いていたことが特徴だった.

[現在の死のとらえ方]はよい看取りを通じ,全スタッフがpositive,neutralだった.同時にnegative感情があっても,割り切って精神的健康を維持して働けていることから,それを乗り越えたと判断した.この時点の特徴はpositiveの下位概念の多様さだった.neutralの〈未知〉は就業前もみられたが,多くの看取りを積んだ後の〈未知〉と質的に異なり「これだけ死に触れても実際死はわかんない.自分で経験してないことはあくまで他人のこと」と,自他が根源的に異なる存在である認識を強めていた.

(3)死に寄り添うことへの心理的適応と時間的展望の関連

死への意識と関連が考えられるTPの諸概念が,キャリアのなかで変容し,スタッフの生涯発達で重要な機能を果たすことが示唆された.本研究で扱うTPに関連する概念の発言例を表4に示した.なお,時間的連続性や時間的有限性はTPの関連概念とする.

[死に直面する段階]は,肉体は永遠ではないことを認識し,[時間的有限性]が自覚されていた.そして患者をロールモデルに死を考え,語る機会が増えていた.自身の終末期を考えることは,人生を逆算し[未来展望の拡大]につながり,目標を抱く場合もあれば,多様な死を見たからこそ不安を抱く場合もあった.

[死を考える段階]は,よい看取りの経験で死と向き合うことが可能となり,患者の旅立ちから多くの気づきを得ていた.その中で「生きてきたように死んでいく」ことを実感していた.また,終末期は「生きてきた過程が色濃くでる」と感じ,[時間的連続性]を自覚していた.同時に[過去展望の拡大]もみられ,過去の経験が現在を形成している気づきにつながり,辛い経験も肯定的に捉え直したという語りもみられた.

[死に肯定的要素を見出す段階]は,死に対しpositive面を見出すことで仕事へのやりがいを感じ,現在の生活への意欲も高めていた.また,死にゆく患者と正面から向き合えるようになり,患者との関わりで「いま,ここ」がいかに重要かを感じ,タイミングや時間を大切にする意識が芽生えていた.この段階では患者との関わりで,かけがえのない[現在展望の拡大]がみられ,結果的に全次元への[時間的展望の拡大]につながっていた.

図1 緩和ケアスタッフの死に寄り添うことへの心理的適応に至るまでのTEM図
表2 本研究のTEM概念の位置づけと発言例
表3 本研究の死のとらえ方と時期
表4 時間的展望に関連する概念の発言例

考察

緩和ケアのキャリアと死のとらえ方の変化

本研究の結果から見出された死のとらえ方の要素は,死生観に関する先行研究2226)の結果と概ね一致し,否定的側面に限らず,肯定的側面も多く含まれていた.

就業前の[死との心理的距離]が近いと[就業前の死のとらえ方]がpositiveに,遠いとnegativeになる傾向がみられた.死の認知発達は児童期までに一般的理解が進み27),青年期までは年齢の上昇に伴って死への不安は低下するが,死への軽視や無関心の傾向が高まる28).したがって就業前は死へのリアリティが欠け,意識自体も低くなると推測される.死への意識が低いと死のタブー視という社会通念に左右されやすく,無関心や否定的なとらえ方をしやすいと考えられる.

実際に医療機関で働き始めると[不全感のある看取り]が緩和ケアへの意識を高めるきっかけとして機能していた.ターミナルケア態度を高める要因に年齢や臨床経験等が挙げられるが29),緩和ケアを始める動機を検討した国内の先行研究は見当たらず,本研究で[不全感のある看取り]が見出されたことは意義があるだろう.

緩和ケアを始めると[患者との深い関わり・死との直面]を経験するが,死が近い患者や家族との関わりは一般病棟と質的に異なり,ストレス因子にもなりうる30)ことから分岐点となっていた.緩和ケアでは親密な関係を築くほど患者の死への葛藤が強まるため31),患者側との距離感が[就業直後の死のとらえ方]および,その後の適応に大きく関連すると推測された.

次に[よい看取り]が適応過程で重要な役割を担っていた.[よい看取り]は,看護実践の指針となり,達成を感じると肯定的感情を抱くとされる32).さらに,終末期への前向きな気持ちや職業満足感に影響し33),自身の職業評価にも関わる34)ため,[よい看取り]の実現はポジティブ感情の経験につながり,死に肯定的な意味を見つける場として機能する.その経験は,死を考え語り合うといった接近行動を導くことも推測された.これらの行動は[よい看取り]の実現に効果を示すため35),死を考えることとの相互作用で[現在の死のとらえ方]が形成されたと考えられる.[現在の死のとらえ方]は全スタッフがpositive,neutralだった.終末期ケアの看護師のレジリエンスに《死に対する否定的な固定観念を払拭し柔軟にとらえ直す力》があるが6),死に肯定的要素を見出すことは死の不安を乗り越えるうえで重要だと確かめられた.また,これらの内的作業を通じ,仕事へのやりがいや充実感,ケアの質向上への意欲も芽生えていた.

緩和ケアで経験年数を積むと,看取りの数も多くなり,[多様な死生観を知る]経験をしていた.そして,他者の死生観に目が向くことで,自他の違いを強く自覚していた.どのスタッフも常に患者側に寄り添おうと努めていたが,死生観を受容できるか否かで,ケアに感じる負担感に違いがみられた.このことから,死の受容の先に他者の死生観への寛容な理解の段階があることが示唆された.

死に寄り添うことと時間的展望の発達

死が身近にあることで,心理的負担の増加やバーンアウト等のリスクも高まる緩和ケアにおいて,スタッフはその環境を生かし,適応的なTPの発達につなげていた.

[死と直面する段階]は,[時間的有限性]に気づく環境にあると考えられる.この気づきは時間の尊さや新たな生への気持ちを生じさせる36).また,死の不安が低い者は人生目標が高く,将来への時間的広がりも大きいため15),[時間的有限性]への気づきは「生きているうちにできることをやろう」という[未来展望の拡大]にもつながると考えられる.有限性への気づきは,生ではなく死からこそ得られる効果とされる12).キャリア初期で有限性に気づき未来展望が広がることで,その後の将来計画や目標意識の高まりにもつながり,よりよい人生への意欲を高めるだろう.

[死を考える段階]では,死と正面から向き合い「生きてきたように死んでいく」患者を目の当たりにする.その姿から人生全体のつながりを強く意識し,自己は過去から未来まで一貫した存在だという[時間的連続性]を自覚していた.[時間的連続性]は「自分の過去・現在・未来がつながっているという実感37)」と定義されるものである.この過程で過去と現在の関連性が整理され38),現実に即して未来を展望し現在の行動を統制するため37),過去と未来へTPが拡大する.とくに過去と現在のつながりを認識することで,過去の辛い経験も現在を形成する一部である感覚を強め,多くの学びを得て成長感につながる.キャリアのなかでも同様で,「後悔の残るケアのおかげで今のケアがある」という語りが多かった.以上より,緩和ケアに慣れて自身を振り返る余裕も出る時期に,[時間的連続性]の獲得と[過去展望の拡大]によって,自身のキャリアへの自信や誇りを芽生えさせる効果が示唆された.これは《過去の看護実践で得た手応えに立脚して自信を再獲得する力》6)に類似する.

[死に肯定的要素を見出す段階]では,死の意味づけが一貫し,終末期に携わる存在意義や充実感をより感じることが示唆された.この段階は,《終末期患者との関わり合いを通して看護師としての自己価値を高める力》6)を獲得したと考えられる.同時に,死への恐怖や不安が和らぎ,患者と正面から向き合うことで,患者との関わりで「いま,ここ」の重要性を意識していた.さらにその意識は日々のケアに色濃く影響することも示唆された.時間への意識が広がるなかで,多くの人生に寄り添うからこそ,現在のかけがえのなさへの気づきといった,[現在展望の拡大]もみられると考えられる.

以上より,緩和ケアスタッフは,適応的なTPを有し,死を通して生を深く考え,よりよい生への意欲が高いことが伺えた.さらにTPは自身のキャリアやケア意識とも密接な結びつきがあることが示唆された.

本研究の臨床的示唆

第一に,スタッフの死のとらえ方を把握し,positiveな意味を見出す手助けが必要だろう.入職時に死生観を聞き取り,今後の精神的リスクが予測される場合は個別フォローを,またスタッフが死を語る機会を設け,新たな意味づけを促す支援等が有効だろう.

第二に,緩和ケアにTPを取り入れることは有意義と考えられる.TPを強調することで,死と直面する経験が自身の生涯発達に肯定的意味を持つという気づきにつながる.また,具体的なケアにおいて例えば,患者との関わりに葛藤するスタッフに時間的連続性を伝えることは,患者の人生全体に目を向けることを促し,新たな患者の側面に気づくことで関わりの可能性が広がると考えられる.また,時間的有限性を強調することは,ケアのなかでタイミングを逃さない意識を高めるとも考えられる.このように,TPはさまざまな場面で有効なツールとして働くことが期待できる.

本研究の限界として,特定の集団を対象としたものであり,経験に偏りがあることを述べておく.また,本研究は死や看取りのpositive面に目を向けて考察を進めたが,悲嘆や恐怖といったnegative面から生み出される感情も,同時に人間的成長に大きく関わり,単純に切り捨てることできない.よって今後は対象者の拡大や,positive/negativeの両側面の相互作用を丁寧に見ていく必要がある.

結論

本研究は,緩和ケアで死に寄り添うことへの心理的適応過程を死のとらえ方と時間的展望(TP)に着目し明らかにした.その結果,スタッフはキャリアのなかで死のとらえ方を変化させ,最終的にpositiveな意味を見出すことで精神的健康を維持して働いていた.また,死が身近な環境は適応的なTPの発達を促し,よりよい生への意欲を高めることが推測された.以上より,今後はスタッフの死のとらえ方を把握し,positiveな意味づけを促す必要があるといえる.また,緩和ケアにTPを取り入れることで,緩和ケアへの従事が自身の成長の糧になっているという気づきや,ケアの意識にもよい変化があると考えられ,有意義であるだろう.

謝辞

本調査にご協力いただいたスタッフの皆様に心より御礼申し上げます.また,本調査・論文作成にあたり,丁寧にご指導いただいた東北大学大学院教育学研究科の安保英勇准教授,研究計画にあたり適切なご助言をくださった吉田沙蘭准教授,大阪教育大学の白井利明教授に深く感謝いたします.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

宇野は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020日本緩和医療学会
feedback
Top