Palliative Care Research
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症例報告
ステロイドによる症状緩和効果と抗腫瘍効果により在宅管理が可能となった終末期リンパ系腫瘍2症例
矢萩 裕一
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2020 年 15 巻 3 号 p. 227-231

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Abstract

【緒言】リンパ系腫瘍では,ステロイド治療は症状緩和に加えて抗腫瘍効果も期待できる.生命予後3週間以下と見込まれた終末期リンパ系腫瘍症例ながら,ステロイドの緩和治療効果と抗腫瘍効果により,在宅療養・通院治療が可能となった2症例を報告する.【症例1】55歳女性.腸管症関連T細胞リンパ腫の患者.再発時に高ビリルビン血症とPS悪化を認めた.症状緩和目的のステロイド治療はそれのみならず抗腫瘍効果も発揮し,3カ月間の在宅療養が可能となった.【症例2】63歳男性.ATLL急性型の患者.VCAP療法を中心に化学療法を施行したが,再発再燃を繰り返したため,症状緩和目的でステロイド治療を行った.ステロイドは抗腫瘍効果も発揮し,8カ月にわたる在宅療養が可能となった.【結語】終末期リンパ系腫瘍患者において,ステロイド治療は症状緩和と抗腫瘍効果の両方を視野に入れた,強力な選択肢になり得ると考えられた.

緒言

ステロイド(glucocorticoid; GC)は医療のさまざまな場面において重要な役割を果たしている1).進行がん患者の諸症状をコントロールする目的でも使用されており24),リンパ系腫瘍の治療でも頻用される薬剤である.リンパ系腫瘍に対するGCの治療効果は1940年代からすでに報告されており5,6),また,進行がん症状緩和作用も1970年代から報告がある7,8).しかしながら,リンパ系腫瘍であっても,とくに成人ではGC単剤での効果は限定的で短期であり9,10),化学療法不耐容の進行期にGC単剤治療から,数カ月に及ぶ在宅療養が可能となる症例は稀である.生命予後が3週程度と見込まれたが,GCでの症状緩和治療を契機に3〜6カ月に及ぶ在宅療養が可能となったリンパ系腫瘍症例を経験したので,報告する.

症例提示

症例1

55歳,女性.2016年5月に小腸穿孔,腹膜炎で入院.小腸部分切除後に病理検査で,腸管症関連T細胞リンパ腫と診断された.CHOP療法(cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, predonisolone)で第1完全寛解を得た.2016年12月に第1再発.ESHAP療法(etoposide, methylprednisolone, high-dose cytarabine, cisplatin)でサルベージ療法を開始.ESHAP療法で第2完全寛解を得た後に,2017年5月に自家末梢血幹細胞移植を施行し,経過観察となっていた.2019年1月に全身倦怠感,全身の浮腫が出現.汎血球減少の悪化,脾腫の悪化,急速な血性胸腹水の貯留,全身の浮腫を認め,再発と診断した.肝臓へのリンパ腫浸潤も著明で,急速な黄疸の進行を認めた.サルベージ療法の導入を計画したが,ECOG Performance status(PS) 4で,総ビリルビン(T-Bil)10.35(mg/dl),直接ビリルビン(D-Bil) 6.82(mg/dl)であり,化学療法施行は困難と判断した.PPI(Palliative Prognostic Index)11)は11点で,3週間以内の死亡が予想された.倦怠感や呼吸困難,腫瘍熱による苦痛などの症状緩和を目的として,GC治療を開始した(PSL(プレドニゾロン) 0.5 mg/kg/day 連日内服).PSL内服開始直後から,全身倦怠感の軽減や解熱などの症状緩和を速やかに図ることができたが,さらに5日ほどで高ビリルビン血症の改善傾向を認めた.10日後にはD-Bilは1 mg/dl以下となり,サルベージ療法の導入が可能となった.腹部CTでは腫大していた脾臓の縮小傾向を認めた.15日間でステロイド治療を終了し,ゲムシタビンを導入したが,GC終了直後から再度直接ビリルビンの上昇傾向を示し,発熱等の腫瘍関連症状の悪化を認めたため,リンパ腫増悪と判断した.そのためゲムシタビンは休薬し,PSL 0.3 mg/kg/dayでGC単剤治療を再開した.GC開始直後から再び速やかな黄疸や浮腫の改善傾向を示し,患者のPS(ECOG)も1まで改善し,外来通院および在宅療養が可能となった.GCの副作用として軽度の不眠や糖尿病の悪化を認めたが,薬物療法の調整で管理可能な範囲であった.退院後はゲムシタビンとPSLを併用して外来化学療法を施行し,3カ月間,在宅療養を継続することができた.リンパ腫の肝浸潤を背景とした高ビリルビン血症や持続する発熱,体液貯留などが化学療法を妨げていたが,症状緩和目的のGC治療が症状コントールのみならず抗腫瘍効果も発揮し,外来治療・在宅療養を可能にした症例であった.

症例2

63歳,男性.2013年11月に,咳・痰,発熱,皮疹,白血球増多を認めた.精査の結果,成人T細胞性白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia/lymphoma: ATLL) 急性型と診断した.2013年11月より,VCAP療法(vincristine, cyclophosphamide, doxorubicin, prednisolone)を施行.PRを得たが治療毒性が強いため,同年12月からCHOP療法に切り替え,治療を継続した.しかし,効果はStable disease(SD)であるため,モガムリズマブ単剤療法に治療を変更し,2014年1月には第1完全寛解を得た.2014年3月に同種造血幹細胞移植を予定していたが,移植直前に再発(第1再発).VCAP療法再施行後に第2完全寛解が得られたため,2014年4月に臍帯血移植を計画した.しかし,移植直前に皮膚病変および肺病変で再発した(第2再発). 40℃を超える発熱も伴っており,全身状態の急速な悪化を認めた.第2再発診断時に,このときのPPIは7.5点であることから3週間以内の死亡が予想された.ECOG PS 4であり,化学療法は不可と判断した.解熱効果,全身倦怠感の軽減などの症状緩和を目的として,2014年4月にmPSL(メチルプレドニゾロン) 0.5 mg/kg/dayを3日間施行した.症状の改善傾向を認めたため,引き続き,PSL 0.3 mg/kg/day の内服治療を継続した.GC開始後順調に解熱し,全身倦怠感などの諸症状も速やかに改善した.再発病変であった皮膚病変も消退傾向を示し,GC開始2週間後である2014年5月にPSLの内服を継続した状態で退院可能となった.退院後も外来でGC治療を継続した.化学療法不応性の難治症例であり,2014年4月の再燃時にはPPI 7.5点であることから3週間以内の生命予後を見込んでいたが,症状緩和目的で開始したGCが抗腫瘍効果も発揮し,退院後約8カ月間の在宅療養が可能となった.2015年6月に末梢血液中に白血病細胞が出現し,再燃と診断した.その後ATLLは急速に悪化し,3週間で死亡した.化学療法不応や合併症,全身状態不良などの問題からGCによる緩和的治療に至った症例である.GCの長期投与が必要だったが,副作用は軽度の不眠を認める程度で,管理可能な範囲であった.

考察

GC治療の実際と効果に関して

GCを症状緩和目的で使用したが,抗腫瘍効果も同時に発揮し,3カ月以上にわたる通院治療を可能とすることができた2症例である.

GC自体がリンパ系腫瘍に対する抗腫瘍効果を持つため12,13),リンパ系腫瘍においては,治癒を目指した積極的治療の時期からGCは頻用される.今回報告した2例は,症状緩和目的のGC治療が病勢コントロールをも可能にし,3〜8カ月の在宅療養を実現した症例である.終末期緩和治療を目的としたGCの開始用量,期間,漸減方法などは,第Ⅰ相試験を踏まえた用量決定や無作為比較試験に基づいた効果検討等の報告はなく,経験的な使用が中心である.当科では急性リンパ性白血病のpre-phase治療やリンパ腫標準治療で使用されるGC用量を基準とし,患者の病状に応じて減量して対応している.例えば,PSL 60 mg/m2/day14,15)やPSL 1 mg/kg/day 7日間投与を基本とし,腫瘍崩壊症候群発症や糖尿病悪化などの副作用発現のリスクを鑑みて,必要に応じて0.5 mg/kg/dayなどに減量して使用し,最終的には漸減する方法等である.リンパ系腫瘍の寛解導入療法で使用されるような抗腫瘍効果を発揮することが期待できるGC用量で治療を行うことが望ましいが,終末期では,最小限の副作用で症状緩和が得られるGC治療を行うことを最優先に考えている.今回の2症例とも,PSL の使用量は0.3〜0.5 mg/kg/day程度に減量している.GC使用の目的は治療開始時に明確にしておく必要がある.症状緩和が目的か,あるいは抗腫瘍効果が目的であるかという違いは,最終的にGCの薬剤選択や用量,使用期間などに影響するからである.エンドオブライフケアとしての症状緩和が主目的である場合は,GCの副作用を最小限にし,Quality of Life(QOL)の改善が最大限に得られるように十分配慮する必要がある.腫瘍縮小効果が期待できない腫瘍系では,ステロイドの使用目的は症状緩和に限定されるので,緩和治療で推奨されているGC用量が適切であると考える.緩和対象の症状によってもGC使用量は異なる.Hanksらは,緩和治療においてはプレドニゾロン10〜30 mg/day,デキサメタゾン4〜16 mg/dayで使用されることが多いことを報告している8).腫瘍による脊髄の圧迫などでは,比較的高用量の使用(例えば,デキサメタゾン 6 mgを4時間ごとに投与する8),デキサメタゾン16 mg/day7)など)も推奨されている.使用するステロイドの種類は,プレドニゾロンやデキサメタゾンが一般的に頻用されているが,両者において,その効果に大きな差はないとされる8).日本の緩和ケア病棟では,ベタメサゾンの使用頻度が高いという報告もある1)

リンパ系腫瘍に対するGCの抗腫瘍効果や反応性を治療前に予測するのは困難である.今回の2症例においては,抗腫瘍効果がより強く発揮されたことで,より良好な症状緩和効果も得ることができたと考えるが,なぜこの2症例でそれだけの抗腫瘍効果が得られたかは明らかでない.腫瘍細胞のグルココルチコイドレセプター発現量などの関連因子は想定されるが10),GC使用前の事前診断は現時点では困難である.今後,ステロイド治療反応性を臨床的に予測できるような因子の同定や技術開発が望まれる.

GC治療の副作用に関して

日本の緩和治療医を対象としたアンケート調査でも,GCが緩和ケアの現場で頻用され,有用であることが報告されている16).しかしながら,進行期がん患者におけるGCの副作用の出現に十分注意する必要がある7,16,17).長期投与になるほど,その副作用対策が重要になる.今回の症例では,とくに,症例2においては,GCの投与期間が6カ月以上に及んだが,軽度の不眠を認めた程度で,管理上,問題となるものはなかった.がん患者を対象としたGC使用方法の標準化,ガイドライン作成を求める報告もある4).副作用対策の面でも緩和的GC治療の指針の確立が望まれる.

PPIに関して

経過中にPPIを用いて終末期患者の予後を評価した.PPIは,対象患者に血液疾患患者が含まれていること11)や血球変動の著しい血液腫瘍でも使用しやすいことから,当科では,血液腫瘍患者の予後予測に使用している.血液患者を対象としたPPIの有用性に関する検証は必要と考えるが,その点は,今後の課題である.

結語

今回報告した2症例において臓器障害や全身状態不良な状況下で,GC治療により,症状コントロール,疾患コントロールの両面で患者の状況を改善させることができた.緩和的治療において,生存期間延長は必ずしも目的ではないが,在宅管理可能となり,QOL改善を得たうえで生存期間の延長を図ることができたことには意義があると考える.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

矢萩は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.また,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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