2020 年 15 巻 4 号 p. 293-296
終末期医療に関わる者は,患者の人生観や価値観を理解し,それに寄り添ってその人らしい人生の最期を迎えられるように援助を行う必要があり,そのためには十分なコミュニケーションを図ることが前提となる.われわれは慢性骨髄性白血病の治療中に進行期肺がんを発症したろう者患者の1例を経験した.ろう者とのコミュニケーションは日常的に手話を用いない者にとって困難なことであるように思われたが,試行錯誤しながら手話,筆談や非言語的コミュニケーションを通してより適切な意思疎通を図っていくようにした.ろう者には聴者とは異なる生活環境やコミュニティーが存在しており,独自の言語や文化を持っているということを認識し理解する必要があった.これらのことは,日々の診療においてがん患者と向き合う際にも応用でき,医療者が患者の思いを理解しようとする姿勢が大切であると考えられた.