ヒドロモルフォン塩酸塩1%注射液(高濃度ヒドロモルフォン注)の持続皮下注により皮下硬結を生じたが,希釈濃度を下げることで改善した1例を報告する.患者は60歳女性,膵がんによる背部痛に対して高濃度ヒドロモルフォン注の持続皮下注を行い,ヒドロモルフォン濃度を0.17%から0.83%に上げた際に発赤・皮下硬結が出現した.留置針の刺し替えを行うも改善せず,ヒドロモルフォン濃度を0.28%まで下げたところで皮下硬結が消失した.第61病日より嘔気に対してハロペリドールを混注し,第70病日より身の置きどころのなさの出現により,ミダゾラムをさらに混注で追加したが,ヒドロモルフォン濃度を0.28%以下に保つことで,第79病日に亡くなるまで皮下硬結を認めず,症状緩和も可能であった.高濃度ヒドロモルフォン注の持続皮下注の皮膚局所反応に,ヒドロモルフォンの濃度が関係している可能性が推測された.
がん終末期患者が嘔気や病状進行によってオピオイド鎮痛薬が内服困難となり,オピオイド貼付剤への切り替えで効果不十分となる場合は,オピオイド持続注射の選択が必要となる.患者が自宅療養中の場合は,その投与経路として抜針時の安全性や刺し替え時の確実性からCVポート留置がなければ持続皮下注が選択されることが多い.オピオイド持続皮下注は1980年代より使用されており,その有用性・安全性が報告され推奨されている1)ものの,時間流量の限界は薬剤吸収量を考慮し1 ml/時と報告されている2).高濃度オピオイド注射薬が発売され高用量オピオイドが投与可能となったが,しばしば発赤・硬結といった皮膚局所反応が認められる3).今回,われわれはヒドロモルフォン塩酸塩1%注射液(高濃度ヒドロモルフォン注)の持続皮下注で皮下硬結を生じたが,希釈濃度を下げることで改善した症例を経験した.また,希釈濃度を維持したまま,ハロペリドールやミダゾラムを混注しても皮下硬結を認めることなく苦痛緩和が可能であったので報告する.
【患 者】60歳女性
【既往歴】特記すべきことなし
【家族歴】特記すべきことなし
【現病歴】2019年5月食思不振で近医を受診し,腹部CTで膵腫瘤を認め,EUS-FNAで膵がんと診断された.手術適応はないと判断され,6月より化学療法を開始された.初診時より背部痛を認め,オキシコドン徐放錠を開始するも疼痛は緩和せず,フェンタニル貼付剤に切り替えたところ接触性皮膚炎と考えられる皮疹が出現したため,モルヒネ徐放錠へ変更した.一時症状緩和されたものの,徐々に疼痛増悪したため10月末に緊急入院となった.モルヒネを持続皮下注に変更し125 mg/日まで増量するも,1時間量の早送りによるレスキューが1日10回以上と頻回で疼痛コントロールは不良であった.超音波内視鏡下に神経ブロックを施行するも効果は乏しく,ヒドロモルフォン持続皮下注20 mg/日に切り替えたところ疼痛は軽減し,同年11月に退院となった.持続皮下注にはCADD®携帯型輸液ポンプ(以下,CADD®)を用い,皮下留置針は24Gプラスチック留置針を使用した.
【検査結果】Hb 10.2 g/dl,CRP 0.43 mg/dl,Cr 0.59 mg/dl, Alb 3.3 g/dl
【経 過】退院時,ヒドロモルフォン1%注射液80 mg/8 ml+生理食塩水40 ml(ヒドロモルフォン濃度0.17%)を0.5 ml/時(20 mg/日)の持続皮下注で帰宅し,1時間量の早送りによるレスキューは5~6回/日程度で,簡単な料理ができる程度のADL(Activities of Daily Living,日常生活動作)であった.留置針の刺し替えは1週間に1回とし,第4病日に入院中と同様の24Gプラスチック留置針を反対側腹部に留置した(図1).刺入部に局所皮膚反応はなかった.刺入部皮膚の観察は,医師や看護師が訪問するたび(週2回以上)に行い,患者本人はほぼ毎日行っていた.家事で動くためCADD®のカセットは最小容量の50 mlが好ましく,訪問回数を最小限にしたい希望があったため,カセットの交換頻度を最小限にできるよう第7病日にヒドロモルフォン1%注射液400 mg/40 ml+生理食塩水8 ml(ヒドロモルフォン濃度0.83%)に希釈濃度を上げ,0.1 ml/時(20 mg/日)に時間流量を下げた組成とした.第11病日の刺し替え時,刺入部に皮膚局所反応は認めなかったが,ドレッシングテープ貼付部周囲にテープによる接触性皮膚炎と考えられる軽度の発赤を認めた.疼痛は緩和され室内の活動量も増加し,腹部の留置が気になるとの訴えがあったため第18病日に前胸部へ刺し替えを行った.第20病日頃より軽度発赤と搔痒感を自覚しており,前胸部のまま位置をずらして刺し替えを実施するも,第25病日には発赤と皮下硬結を認めた.前胸部に脂肪組織が少ないことによる可能性を考えて留置場所を腹部に変更したが,皮膚局所反応は改善しなかった(図2).そのため,第36病日にヒドロモルフォン1%注射液200 mg/20 ml+生理食塩水28 ml(ヒドロモルフォン濃度0.42%)に希釈濃度を下げ,0.2 ml/時(20 mg/日)に時間流量を上げるも皮膚局所反応は変わらなかった.第43病日にも同様の発赤・硬結を認めたため,ヒドロモルフォン1%注射液280 mg/28 ml+生理食塩水72.8 ml(ヒドロモルフォン濃度0.28%)とさらに希釈濃度を下げ,0.3 ml/時(20 mg/日)に時間流量を上げたところ,第46病日の訪問時,刺入部の発赤はわずかに残るものの皮下硬結は認めなかった.病状進行にともない徐々にADLが低下してきており,交換頻度を考え100 ml容量のカセットに変更し,刺し替えは1週間に1回の頻度で継続した.第61病日,嘔気が出現したためハロペリドール2.5 mg/日から混注を開始し,漸増してハロペリドール8 mg/日で嘔気は消失した.第66病日に疼痛が増悪したためヒドロモルフォン30 mg/日に増量したが,皮膚局所反応の再燃は認めなかった.第70病日より身の置きどころのなさが出現したため,本人・家族の希望を踏まえ医療・ケアチーム内での話し合いを経て,ミダゾラム12 mg/日から混注を開始した.ミダゾラムを徐々に増量し,時間流量は1 ml/時まで上げたが,ヒロドモルフォン濃度を0.28%以下に維持することで,皮膚局所反応を認めることなく症状緩和も可能であった.第79病日に自宅で永眠された.
オピオイド持続皮下注は安全性が確立されており1),自宅療養中のがん終末期患者にとってCVポート造設・血管確保なく高用量オピオイドが使用可能となるよい選択肢である.しかし,発赤や皮下硬結による皮膚反応のため搔痒感など不快感の表出のみならず,硬結部での薬液吸収遅延を認めるため留置針の刺し替えを余儀なくされることがある.発赤・硬結の原因は,時間流量・浸透圧・pH・薬液そのもの刺激性などが指摘されている4).荒木らは,各種薬剤で発赤・硬結の頻度を比較しており,0.05~0.2 ml/時では9~22%であったのに対して,0.8 ml/時では58%に認めており,時間流量が上がるほど発赤・硬結が出現しやすくなることを指摘している3).ヒドロモルフォン注射液10 mg/mlについて0.07~2.9 ml/時までの症例を比較し,時間流量がおおむね0.9 ml/時以上で硬結が出やすいという報告がある5).濃度について,荒木らは塩酸モルヒネ注射液の濃度による硬結の頻度を比較しており,1%製剤で10.6%,4%製剤で23.5%と,4%製剤の方に硬結の発生が多かったと報告している3).ヒドロモルフォンを30±15 mg/時,0.3±0.25 ml/時で使用した症例の比較で局所皮膚反応と濃度の関係性は認めなかったという報告があるが6),本症例では,ヒドロモルフォン1%注射液を希釈して使用し,時間流量を0.5 ml/時から0.1 ml/時に下げ,ヒドロモルフォン濃度を0.17%から0.83%に上げた際に皮下硬結を認め,流量を0.1 ml/時から0.3 ml/時に上げ,濃度を0.83%から0.28%に下げた際に改善を認めていることにより,薬液の濃度が関与している可能性が考えられた.
ヒドロモルフォン注射液は,持続皮下注においての有効性はすでに確立されており7),本邦では2018年5月に発売開始され,持続皮下注で投与可能なオピオイド力価1日量が最も多い薬剤である.持続皮下注の時間流量を限界の1 ml/時で計算した場合,1日の投与限界量は4%高濃度モルヒネ注射液(40 mg/ml)で960 mg/日(経口モルヒネ換算1920 mg)であることに対し,1%高濃度ヒドロモルフォン注射液(10 mg/ml)では240 mg/日である.塩酸モルヒネ注射液からヒドロモルフォン注射液へ切り替える場合の換算比1:8である8)ので,ヒドロモルフォン注射液240 mg/日はモルヒネ注射液の倍量である1920 mg分(経口モルヒネ換算3840 mg/日)のオピオイドが投与可能となる.
また,モルヒネ注射液やヒドロモルフォン注射液の持続皮下注に制吐剤を混注する方法は報告されている9)が,加藤らは,ヒドロモルフォン注射液にハロペリドールを混注することで皮膚局所反応が起きやすいことを報告している10).また,モルヒネ注射液については,ハロペリドール・ミダゾラムとの3剤の混合について,その安全性が報告されている11).今回,高濃度ヒドロモルフォン注射液をハロペリドールとミダゾラムにより希釈することで,皮膚局所反応が消失した時点のヒドロモルフォン濃度を維持し,持続皮下注の最大時間流量である1 ml/時まで上げたが,皮膚局所反応を認めることなく,症状緩和も可能であった.皮膚局所反応が消失したヒドロモルフォン濃度は0.28%であり,既存製剤であるヒドロモルフォン塩酸塩0.2%注射液に近い濃度であったが,生理食塩水ではなく症状緩和に必要な薬剤で希釈したことで,複数薬剤を1つの投与経路で投与可能となり,患者にとって医療機器を最小限にできるメリットになったと考えられる.
本症例では,高濃度ヒドロモルフォン注射液の希釈濃度を下げることで皮膚局所反応が消失し,その濃度を維持したまま複数薬剤を混注し,時間流量を上げても皮膚局所反応は再出現しなかった.皮膚局所反応にヒドロモルフォン濃度が関与した可能性が考えられた.しかし,1例報告であり,患者の個別性としてテープによる接触性皮膚炎を起こすなど皮膚局所反応が出現しやすい可能性があったこと,皮膚局所反応の出現は同濃度で維持していたときに生じているためIV型アレルギーの可能性も否定できず、刺し替えのたびに刺入点の深さや皮下組織の厚さなど刺入部位の条件が異なることが限界である.また,今後,希釈濃度の段階を細かく検討することや,留置針の留置部位による比較,デキサメサゾンの使用を試みるなど,さらに症例を積み重ねての検討が必要である.
高濃度ヒドロモルフォン注射液を0.83%に希釈して行った持続皮下注により皮下硬結を認めたが,0.28%まで希釈濃度を下げることで改善した1例を報告した.ヒドロモルフォン注射液単剤の持続皮下注でも高濃度であれば皮下硬結を起こす可能性があり,また希釈濃度を下げることによって皮下硬結が改善したことより,皮膚局所反応に濃度が関係している可能性が推測された.
著者の申告すべき利益相反なし
中村は研究の構想,デザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;堤,安藤,高柳,地曵は研究データの解釈,原稿の内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.