Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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症例報告
希少がんである脂腺がんによる巨大頭部腫瘍に対し緩和的放射線療法を含む集学的な加療を行い局所コントロールに成功し,ADL(Activities of Daily Living)が大幅に改善した1例
松坂 俊大屋 清文片山 勝之松本 美奈佐々木 理絵Ivor Cammack柏木 秀行
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電子付録

2021 年 16 巻 1 号 p. 67-72

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Abstract

【緒言】緩和的放射線療法を含む集学的な加療により長期間放置され巨大化し自壊した頭部脂腺がんの局所コントロールができ,ADLが大幅に改善した1例を経験したので報告する.【症例】退職し独居,家族とも疎遠であり,社会的孤立がある48歳男性.3年前に頭部腫瘍を自覚した.近医に受診したが診断が得られず,その後放置していた.その後巨大化し,疼痛,滲出液が増悪し体動困難となり救急搬送された.頭頂部に最大径30 cmの腫瘤を認め,手術不能な脂腺がんと判断された.全身管理とともに計27 Gy/9 Frの緩和的放射線療法をしたところ腫瘍は2/3程度に縮小し,疼痛も改善,滲出液の減少も認め,外出することも可能となった.【考察】手術不能な巨大頭部脂腺がんであっても緩和的放射線療法を含む集学的加療で局所コントロール,症状緩和をし得る.

緒言

皮膚組織由来の悪性腫瘍の代表は悪性黒色腫,有棘細胞がん,基底細胞がん,Paget病などがあるが,脂腺がんの属する皮膚付属器がんの発生は0.003%とまれである1).皮膚付属器がんとは毛包,脂腺,感染から発生する悪性腫瘍であり,基底細胞がん以外はさらに症例が少なく希少がんに分類されている2)

これらのがんは手術切除が原則であり,術後放射線療法や原発巣が手術できない場合や限られた転移巣に対して放射線療法が行われる3).外科的切除が困難となった後の症状緩和に関する報告は少なく,巨大な頭部脂腺がんに対して全身管理および緩和的放射線したという報告はない.今回,手術不能な巨大な頭部脂腺がんへの緩和的放射線療法を含む集学的な加療により局所コントロールが成功し,止血,鎮痛,腫瘍縮小効果を得られ,Activities of Daily Living(ADL)が大幅に改善した1例を経験したため報告する.

症例提示

【症 例】48歳男性

【主 訴】頭部痛,倦怠感

【現病歴】3年前から頭頂部の腫瘤を自覚し,近医受診したが診断がつかず,その後医療機関受診をしなかった.来院10カ月前より腫脹が著明となり,疼痛,排膿を自覚していたにもかかわらず頭部を隠して生活し,腫瘤は放置していた.来院4カ月前から排膿が増え,徐々に疼痛,倦怠感が増悪し体動困難となったため自身で救急搬送依頼をし,当院に搬送された.頭部に最大径30 cmの周辺組織の壊死した巨大腫瘍を認めたが(図1),頭部CT検査で腫瘍が静脈洞に接していることから,手術は不能であると判断された(付録図1).その後組織診断では脂腺がんの診断となり,疼痛管理も含め,第16病日に緩和ケアチームの介入依頼となった.

【既往歴】とくになし

【内服薬】なし

【家族歴】とくになし

【社会歴】酒,たばこなし,元自衛官,独居で鳥を飼っている.

【介入時所見】全身状態は不良でるい痩著明.意識は清明ではあるが,頭部の疼痛でうなっており,重さもありほとんど動くことはできなかった.疼痛は頭部の腫瘍部位の疼痛であり,重だるい疼痛が常に存在し,体動時,創部処置時には強い疝痛を訴えていた.疼痛管理はフェンタニル持続静脈投与で55 μg/h(経口モルヒネ換算132 mg/日)投与していたが,臥床安静でNumerical Rating Scale(NRS)は2/10程度,起き上がる時にNRSは5~6/10に上昇,体動で10/10までに達することもあった.とくに頭部の処置時にはフェンタニルを予防的に追加投与してもNRS 10/10の激痛を訴えていた.頭頂部に前後径約30 cm,左右径約20 cm,高さ約15 cmの巨大な自壊した腫瘤で頭頂部は約5 cm陥凹している.血液検査所見では白血球 14140/μl,Hb 6.3/dl,血小板 45.4万/μl,総蛋白 4.1 g/dl,Alb 1.3 g/dl,BUN 21.6 mg/dl,Cre 0.66 mg/dl,AST 24 U/l,ALT 20 U/l,ALP 456 U/l,γGTP 59 U/l,Na 142 mEq/l,K 3.5 mEq/l,Cl 109 mEq/l,CRP 24.3 mg/dlと貧血と高度の低栄養状態,および炎症反応高値を認めた.

【経 過】その後さまざまな感染症の合併症やせん妄などを起こしたが症状緩和とともに集学的な加療をした.主な経過を図2に示す.

図1 来院時頭部所見
図2 入院後経過

1. 全身管理について

来院時から発熱,炎症反応高値があり,自壊した腫瘍の感染を認めた.表層から膿を認め明らかに感染している状況であった.血液培養ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が4セットで陽性となり,血流感染も併発していた.頭部の重みと疼痛でずっと片側を向いて寝たきりの状態であり,経過中に肺炎を発症した.

栄養状態が非常に悪く,経口摂取のほかにPeripherally Inserted Central Venous Catheter(PICC:末梢挿入型CVカテーテル)での高カロリー輸液を行い,栄養状態の補助をした.また,滲出液が多かったため採血結果を確認しながら適宜外液補液での調節をした.その後第36病日にClostridioidesClostridiumdifficile(CD)腸炎を発症したが,メトロニダゾール投与で改善した.頭蓋骨を破壊した腫瘍が直接影響を及ぼしていると考えられるせん妄が時々認められていたが,第45病日ごろより悪化し,大声で叫び興奮することが多くなった.その後徐々に傾眠傾向となり,食事も急に摂取できなくなったため第47病日に血液培養を採取したところ緑膿菌が検出され,腫瘍部から侵入した緑膿菌髄膜炎と診断し,抗菌薬の変更を行い意識は改善した.第53病日に30 Gy/10 Frの予定で緩和的放射線治療を開始した.その後40度を超える高熱が続き,第62病日に再度意識障害を発症したため,27 Gy/9 Frで放射線治療は終了とした.血液培養でCandida parapsilosisが陽性となり,カテーテル関連血流感染症と診断され,カテーテルを抜去し抗真菌薬を開始した.意識状態はJapan Coma Scale(JCS)100~200にまで数日低下したが,その後回復した.せん妄は繰り返していたものの,第71病日より経口摂取が可能となり,第78病日には食事はほぼ全量摂取できるようになり,リハビリも継続することができた.

2. 疼痛について(付録図2)

介入時にはフェンタニル持続静脈投与をベースで55 μg/h(経口モルヒネ量換算132 mg/日)およびナプロキセン600 mg/日が投与されていた.処置前や体動前のオピオイド1時間量レスキュー投与を1日4~5回していたが「包丁を2本頭に刺すような痛みが突然来る」というような表現で疼痛コントロールは不良であった.緩和ケアチーム介入後にアセトアミノフェン2400 mg/日を追加し,フェンタニルを60 μg/h(経口モルヒネ換算144 mg/日)増量するも効果に乏しかったため,第23病日から3日間かけてオキシコドン持続皮下投与36 mg/日(経口モルヒネ量換算72 mg/日)へオピオイドローテーションを行い,オキシコドン持続皮下注射48 mg/日(経口モルヒネ換算96 mg/日)まで増量した.NRSは体動時の最大疼痛で10/10が4~5/10に,安静時は1~5/10に改善し,ある程度のコントロールができた.しかし,残存する疼痛と重さで座位は10分以上耐えることができず,ほぼ寝たきりの状態が継続した.せん妄も悪化しており,レスキューの効果の判定は非常に困難であった.第53病日に緩和的放射線治療開始し,カテーテル関連血流感染症で意識障害となった際に傾眠傾向が続いたため第67病日にオキシコドン持続皮下注射36 mg/日(経口モルヒネ換算72 mg/日)に減量,第71病日には食事開始とともに元々のナプロキセンとアセトアミノフェンを再開した.第76病日にオキシコドン持続皮下注射24 mg/日(経口モルヒネ換算48 mg/日)減量したが,疼痛の増悪はなく,全身状態も改善していった.安静時の疼痛はNRS 0~2程度で維持することができ,睡眠も確保できるようになった.処置時,体動時の疼痛が放射線照射前は一度増悪すると長時間うなっているような状態で動けなくなることがほとんどであったが,レスキューおよび処置前の投薬で対応できるようになった.腫瘍は縮小し(図3),頭重感も改善した.第77病日には歩行練習も開始できるようになり,第81病日にはオキシコドン徐放製剤内服30 mg/日(経口モルヒネ換算45 mg)に変更,体動時,処置時のレスキューのオキシコドン即効製剤5 mg/日で対応できるようになった.自力歩行可能で,コンビニへの買い物などもできるようになり体動が多くなったため痛みが少し増悪した.オキシコドン徐放製剤内服は40 mg/日(経口モルヒネ換算60 mg/日)まで増量し,状態は落ち着いた.その後も疼痛の増悪はなく経過し,同量の投薬で第129病日には自宅に家族と一度外出し身の回りの整理をすることができるまでの疼痛コントロールとなった.

図3 緩和的放射線療法後の頭部所見

3. 頭部腫瘍の処置および滲出液について

巨大な頭頂部の処置は疼痛,出血,滲出液の量の問題があり難渋した.滲出液は最大1日約1.7 Lまでに達し,吸収シートを1日6回以上交換する必要があり,頻繁な処置のたびに疼痛,出血を惹起してしまっていた.頭部の処置は形成外科および皮膚・排泄ケア認定看護師とともに行った.初めはメトロニダゾールゲルを使用していたが,疼痛および悪臭の増悪を認めたため,精製白糖・ポビドンヨード軟膏/ゲンタマイシン軟膏の使用に変更した.創部感染は落ち着いたものの疼痛の改善はあまりなく,滲出液の減少も1日0.8 L前後までにとどまった.最終的に保護シートおよび吸収シートのみの交換で済むようになったが(付録図1),1日4~6回の交換が必要であった.頭部処置を行う際に保護シートと腫瘍の癒着のため,剥がす際に激烈な疼痛と大量出血を起こすことがあり,いくつかの創傷保護用のシートを使用し,最終的にエスアイエイド®を使用することで疼痛と出血は軽減した.緩和的放射線照射開始後12日目,第65病日に初めて1日の滲出液量が0.5 Lを下回るようになり,第76病日の滲出液量は0.19 Lに低下し,1日1回の吸収シートの交換で済むようになった.

4. 意識状態の変化およびせん妄について

来院時,意思疎通は可能であり,痛みが強い時に大声を出すことはあったが了解可能な言動であった.自分の状況について「まれな状況としてテレビに出られるくらいの珍しい状況」「戦場で死ぬことはあるかもしれないと考えていたがそれ以外は考えておらず死生観はない」「痛みをとって歩けるようになりたい」などとしっかり考えを言える状態であった.手術が困難で根治が難しい脂腺がんであったことを本人,家族に説明した.症状コントロールメインの加療になることについても理解できていた.第22病日より尿器に入っている尿をジュースと言ったり,近くのマンションを病院と言い,「これからあそこに行く」といったりとつじつまの合わない言動が出現した.CD腸炎を発症した数日後の第38日位より症状が悪化し,「ここは敵地だ,船と船がぶつかっている.ここにいたら殺される,それは毒薬だろう」などと幻覚妄想なども出現し,モニター類を引きちぎるなどの行動も認められた.精神科保健科の介入も依頼し,投薬調節を行った(付録図3).投薬によって幻覚妄想は落ち着き,緩和的放射線についても理解し,同意が得られたため,照射を行ったが,カテーテル関連血流感染症で意識障害で内服不可能となり,内服が可能になるまでハロペリドール,フルニトラゼパムの静脈投与で対応した.

せん妄も疼痛や滲出液の改善と同様の経過を辿った.放射線照射開始約10日後から徐々に意思疎通が取れるようになり,放射線開始後約20日後,オピオイドが内服に変更した時期にはほとんど異常言動,行動はなくなった.最終的にクエチアピン100 mg,リスペリドン1 mg,ラメルテオン8 mg,オランザピン5 mgを各夕1回の投与で維持した.第95病日には再度本人から病気の今後のことについての説明を聞きたいとの言動があった.CT再検で両側頸部のリンパ節への転移を認めており,そのことも含めて説明した.がんの末期であることを理解し,本人から「どれくらい生きられるか知りたい」,「ペットホテルに預けている鳥が心配で会いに行きたい」,「散歩がしたい」,「自宅に帰り,整理をし,家族に迷惑をかけないようにしたい」というように死を受け入れられる状況にまで改善した.

5. その後の経過について

放射線治療終了後全身状態は著明に改善し,食事も十分とれるようになった.血清アルブミン値は放射線療法終了約2カ月後の採血では2.6 g/dlまで改善した.

頭部の重量も減り,自力歩行もできるようになり,当初は現実的でないと考えられていた自宅への一日外出が可能となった.入院時より気にしていたペットの鳥のことを含めた身の回りのことを整理するという希望を叶えることができ,自宅で身辺整理をすることもできた.自己での頭部腫瘍の処置が難しいことから療養病院への転院となり,その後約4カ月で死亡退院となった.

考察

緩和的放射線療法を含む集学的な加療により長期間放置され巨大化し自壊した脂腺がんが縮小し,止血,鎮痛,滲出液減少効果を得ることができ,また,局所コントロールができ,ADLが大幅に改善した1症例を経験した.

頭部の巨大な自壊した腫瘍であり,局所の感染の治療を要した.血液培養で複数回コアグラーゼ陰性ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌が検出され,血流感染を起こしていることが確認された.また,経過中に意識障害を発症し,血液培養2セットおよび創部から同様の緑膿菌を認め,臨床的に緑膿菌髄膜炎を発症したと診断し,加療を要した.局所感染から感染と疼痛の関係については抗菌薬投与後の疼痛の変化や局所処置後の創部の状態の改善と疼痛の改善との関係ははっきりせず,原因は頭蓋骨破壊を伴う浸潤に伴うものが主であると考えられた.

今回手術不能な巨大頭部脂肪腺がんに対し緩和的放射線療法を行い,腫瘍縮小とともに止血,鎮痛効果を認めた.脂腺がんは眼瞼や鼻などの小さなものであれば放射線療法単独で治癒したという報告もあり4,5),放射線療法効果が期待できる腫瘍であるが,このような巨大な腫瘍に対しての放射線療法の報告は筆者の知る限りない.根治のための放射線療法では50~60 Gyが通常の照射量であるとされている6,7).本症例は緩和的な治療であり,全身状態などから放射線療法は30 Gy/10 Frを予定した.予防薬としてグリセリンおよびグラニセトロンを併用したが,腫瘍からの出血を含め放射線療法自体の副作用は認めなかった.カテーテル関連血流感染症の影響で総線量は27 Gy/9 Frで終了となった.放射線療法の効果は照射開始後10日以降で認められ.オピオイド必要量は放射線照射前の2/3に減量することができ,処置時に止血処置が必要なことはなくなった.最終的に腫瘍も2/3程度に縮小した(図3,付録図4).腫瘍の縮小による頭重もある程度改善し,歩行可能となった.

緩和的放射線療法は滲出液の減少にも効果があった.緩和的放射線療法は腫瘍縮小による疼痛緩和,管腔臓器の閉塞,静脈などの圧迫解除,止血などが適応とされているが8),滲出液減少効果も報告されている9).当症例では腫瘍壊死部を適切に処置していたにもかかわらず滲出液のコントロールが難しかった.国内誌「薬局」66巻8号によれば滲出液に対しては創部処置時使用する外用薬をジメチルイソプロピルアズレンなどの油脂性基剤やスルファジアジン銀などの乳剤性基剤ではなく,ポピヨンヨード・シュガーなどの水分の吸収力が強い水溶性の外用薬を使用した方がよいと記載がある.また,国内誌「WOC Nursing」2巻12号にはこの状態でアルギン酸塩やハイドロファイバーなどの水分を吸収し形を保持するドレッシング材を使用し,さらに紙おむつなどの吸収力の高いパット類を使用することによって滲出液の多い場合の処置が容易になると記載されているものの滲出液量自体を減らすことはできない.これらの工夫をし,感染のコントロールはできていたが滲出液は0.8 L/日前後で推移し,頻回の処置を必要としていた.

放射線療法により滲出液が減少し,1日1回の吸収シーツ交換となったことにより,外出もできる状態となった.

緩和的放射線照射を含む集学的な加療により局所コントロールができ,全身状態が改善した.せん妄も改善し本人は病状説明を理解し,終末期に関する希望も話し合うことにより,自己決定を支援することができた.

結論

皮膚希少がんである脂腺がんによる巨大頭部腫瘍に対し緩和的放射線療法を含む集学的な加療を行い局所コントロールに成功した.腫瘍は縮小し,頭重,疼痛,滲出液の改善がみられ,当初寝たきりで動けない状態であったものが歩行もできるようになり,外出まで可能となり,ADLの大幅な改善を認めた.手術,根治不能な巨大な腫瘍であってもそれぞれの病態に合った加療および放射線加療により症状緩和をし得る.

謝辞

形成外科で主科として処置などをしていただき,写真を提供していただいた北海道大学形成外科の三浦隆洋先生,大澤昌之先生,放射線療法に携わっていただいた手稲渓仁会病院放射線治療科の三浦勝利先生に厚くお礼を申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

松坂,大屋,柏木は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の起草および知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;片山,Cammackは研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;松本,佐々木は研究のデータの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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