Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
在宅緩和ケアにおいて訪問リハビリテーションを施行したがん患者の身体的QOLおよびADLの変化とその特徴について
尾関 伸哉立松 典篤三石 知佳石田 亮吉田 真理杉浦 英志
著者情報
ジャーナル フリー HTML
電子付録

2021 年 16 巻 3 号 p. 271-279

詳細
Abstract

【目的】在宅緩和ケアを受けるがん患者の訪問リハビリテーション(以下,訪問リハビリ)開始から4週後までの身体的Quality of Life(QOL)およびActivities of Daily Living(ADL)の変化とその特徴を明らかにすること.【方法】対象は在宅がん患者35例とした.身体的QOL評価はQLQ-C15のPhysical Functioning(PF),ADL評価はBarthel Index(BI)およびFIM運動項目(Motor FIM)を用いた.リハビリテーション(以下,リハビリ)開始時から4週後までのPFおよびADLスコアの経時的変化,PFスコア維持・改善群と悪化群でのADLスコアの変化と特徴について検討した.【結果】PFスコアは4週後で有意な改善を認め,PFスコア維持・改善群において4週後でMotor FIMスコアの有意な改善を認めた.【結論】在宅がん患者の身体的QOLは,リハビリ開始時に比べ4週後で維持・改善がみられ,在宅で実際に行っているADL(しているADL)能力を維持することは,身体的QOLの維持・改善につながる可能性が示唆された.

緒言

緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族のQuality of Life(QOL)を,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアル的な問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチであると定義されている1).緩和ケアでは苦痛に対するケアが重要であり,これは身体的苦痛(疼痛,倦怠感等の身体症状,日常生活動作,生活関連動作の支障),精神的苦痛(不安,いらだち,孤独感,恐れなど),社会的苦痛(仕事上の問題,経済上の問題,家庭内の問題など),スピリチュアル的苦痛(人生の意味への問い,価値体系の変化など)から構成される2).とくに,身体的苦痛において移動や排泄などの日常生活動作が障害されることは,患者の人間としての尊厳を阻害してしまうため2),適切な介入・ケアが必要とされている.がん患者の身体的苦痛に対する先行研究では,カウンセリングや薬物療法等の緩和ケアを行うことによりQOLの改善がみられたと報告されている35).このように,身体的QOLを維持するためには,身体的苦痛を適切に治療・ケアしていくことが重要であると考えられる.

緩和ケアの一つの手段として,緩和的リハビリテーション(以下:緩和的リハビリ)がある.この緩和的リハビリは,日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)が下降する時期においても,患者の要望を尊重しながら身体的・精神的・社会的にもQOLの高い生活が送れるように援助することと定義されている6).身体機能の低下はQOLと密接に関与するとされる起居,移乗,歩行,セルフケアなどのADLの遂行に影響を及ぼし,患者の尊厳にも影響を与えるとされている79).さらに,ADLはがん患者の終末期ケアにおいて重要なアウトカムであり,ADLを維持することはQOLの改善に重要な役割を果たす可能性があるとされている10,11).したがって,ADLを適切に評価し,緩和的リハビリによるアプローチを行うことはがん患者のQOLの維持・改善に重要であると考えられる.先行研究において,入院がん患者に対して緩和的リハビリを行うことは,身体機能やADLの維持・改善10,11),精神心理面12)やQOLの改善13)に有効であったと報告されている.その一方で,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハビリ)を利用する在宅がん患者のQOLやADLの経過およびそれらの関連についてはまだ明らかとなっていない部分が多く,在宅緩和ケアの領域における緩和的リハビリのエビデンスは乏しいのが現状である14)

そこでわれわれは,在宅緩和ケアにおいて訪問リハビリを施行したがん患者のリハビリテーション(以下,リハビリ)開始時から4週間後までの身体的QOLとADLの経時的変化とその特徴を明らかにすることを目的とした.

方法

対象

研究デザインは前向き観察研究であり,対象はマリアーナ訪問看護ステーションにおいて,2018年4月1日~2020年5月31日までに訪問リハビリを導入したがん患者35例とした.除外基準は,全身状態悪化のため評価が困難な者,重度認知症・精神疾患を有する者,せん妄や鎮静により意思疎通困難な者,本研究に同意が得られなかった者とした.

訪問リハビリテーションの内容

訪問リハビリは週に1~2回,40分程度の実施を原則とし,プログラム内容はマッサージ,関節可動域練習,ストレッチ,レジスタンストレーニング,日常生活動作練習,立位・歩行練習を対象者の全身状態および希望に合わせて実施した.また,全例に対して主治医の指示による訪問看護での緩和ケアが導入されていた.なお,本研究は名古屋大学医学部倫理審査委員会保健学部会(承認番号:20-501)の承認を受けて実施しており,研究対象者には文書および口頭にて十分な説明を行い,同意を得た.

評価時期と評価項目

評価時期は訪問リハビリ開始時,1週間後,2週間後,3週間後,4週間後と1週ごとに実施した.それぞれの評価時期における評価項目を以下に示す.

1.基本情報

がん種,年齢,性別,服薬数,転移,生存期間,Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(以下,PS),訪問リハビリの内容をカルテより収集した.

2.身体的QOLおよび精神的QOL

身体的QOLの指標として,The European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire Core 15 Palliative Care(以下,QLQ-C15)のPhysical Functioningスコア(以下,PFスコア)を用いた.QLQ-C15は,緩和ケア領域での使用目的で開発され,機能スケール(Physical Functioning, Emotional Functioning),症状スケール(Dyspnea, Pain, Insomnia, Nausea and Vomiting, Appetite Loss, Constipation, Fatigue),Global QOLの10項目15問から構成される簡易的なQOL評価ツールである15).QLQ-C15の機能スケールと全般的QOLはスコアが高いほどQOLが良好であることを示し,症状スケールはスコアが低いほどQOLが良好であることを示す.さらに,QLQ-C15の機能スケールの一つであるEmotional Functioningスコア(以下,EFスコア)を精神的QOLの指標として用いた.

3.ADL

ADLの指標として,Barthel Index(BI)を「できるADL」の指標として用いた.これは,各項目の自立度に応じて15点・10点・5点・0点で採点を行う.最高得点は100点,最低得点は0点である.得点が高いほど自立度が高いことを示し,現在持っている運動機能を用いれば行うことが「できるADL」能力を評価している16,17).さらに,Functional Independence Measureの運動項目(Motor FIM)を「しているADL」の指標として用いた18).これは,運動項目13項目と認知項目5項目から構成され,各項目を7段階で評価する.運動項目の最高得点は91点であり,最低得点は13点である.得点が高いほど自立度が高いことを示し,日常生活で実際にどのように動作を行っているかについて介助量などを考慮して,「しているADL」能力を評価している18).また,FIMに関しては認知項目も存在するが,緩和的リハビリの対象となるがん患者においてはMotor FIMがPSと強い負の相関を認めていたとする報告があるため19),本研究ではMotor FIMのみを指標として用いた.なお,QLQ-C15およびBI,Motor FIMは同一検者(理学療法士)にて評価を実施した.Motor FIMに関して,入浴など評価が困難な一部の項目は看護師によって評価を実施した.

統計解析

統計解析として,各時期(リハビリ開始時・1週間後・2週間後・3週間後・4週間後)でのQLQ-C15のPFスコアとEFスコア,ADLスコアの変化はFriedman検定を使用し,事後検定としてBonferroni法で調整した.さらに,先行研究13)に準じてQLQ-C15のPFスコアを用いて対象者を2群に分け(維持・改善群:リハビリ開始時スコア≤4週間後スコア,悪化群:リハビリ開始時スコア>4週間後スコア),以下の比較検討を実施した.まず,2群間の対象者特性の比較には,Fisherの正確確率検定およびMann-Whitney U検定を用いた.また,2群間のリハビリ開始時から4週間後のADLスコアとEFスコアの変化および特徴を明らかにするため,Wilcoxonの符号順位検定を用いた.統計解析にはEasy R(version 2.5-1 自治医科大学付属病院さいたま医療センター 日本)を用い20),統計学的有意水準はp=0.05未満とした.

結果

2018年4月1日から2020年5月31日の期間内でマリアーナ訪問看護ステーションにおいて,訪問リハビリを導入したがん患者53例のうち,全身状態悪化のために評価が困難な者(7例),本研究に同意が得られなかった者(7例),4週後まで評価が行えなかった者(4例)を除いた,4週間の訪問リハビリを実施した35例を研究対象とした(付録図1).

対象者特性

対象者特性を表1に示す.年齢中央値[第1四分位数-第3四分位数]は74[69-86]歳であり,男性14例(40%),女性21例(60%)であった.PSの割合は,PS 1は3例(9%),PS 2は9例(26%),PS 3は7例(20%),PS 4は16例(45%)であり,PS 3以上の者が全体の65%を占めていた.リハビリ開始後4週以降の生存期間は中央値13[6-42]日であった.対象者のがん種としては,胃がんが7例と最も多かった.訪問リハビリの担当職種は理学療法士のみであり,訪問リハビリの内容としては,マッサージ(91%),ストレッチ(89%),関節可動域練習(71%)の順で実施率が高い傾向にあった.また,対象者への自主トレーニング(非監視下の運動)の指導は実施しなかった.訪問看護の実施内容はバイタルサイン測定(100%),褥瘡管理および疼痛管理(各34%),排泄管理(29%)の順で実施率が高い傾向にあった.

表1 対象者特性と2群での群間比較

PFスコアおよびEFスコアの経時的変化

QLQ-C15のPFスコアおよびEFスコアの経時的変化を図1に示す.PFスコアの中央値[第1四分位数-第3四分位数]は,リハビリ開始時11.1[0-38.9],1週後22.2[0-44.4],2週後33.3[0-55.6],3週後22.2[11.1-55.6],4週後22.2[5.6-55.6]であり,開始時と比較してほかのすべての時期においてPFスコアの有意な改善が認められた.EFスコアの中央値はリハビリ開始時83.3[65.5-100.0]点,1週後83.3[66.7-100.0]点,2週後83.3[66.7-100.0]点,3週後83.3[66.7-100.0]点,4週後83.3[66.7-100.0]点であり,開始時と比較してすべての時期においてEFスコアの有意な差は認められなかった.

図1 QLQ-C15のPFスコア(左図)とEFスコア(右図)の経時的変化(n=35)

箱ひげ図は,上より最大値,第3四分位数(75%点),中央値(50%点),第1四分位数(25%点),最小値を表す.

Friedman検定(Bonferroni法) : p<0.05 **: p<0.01 : p<0.001

BIスコアおよびMotor FIMスコアの経時的変化

BIスコアの経時的変化を図2に示す.BIスコアの中央値[第1四分位数-第3四分位数]は,リハビリ開始時60.0[25.0-90.0]点,1週後67.5[25.0-90.0]点,2週後67.5[28.8-90.0]点,3週後70.0[30.0-90.0]点,4週後60.0[28.8-86.3]点であり,開始時と比較して2週後にてBIスコアの有意な改善が認められたが,その他の時期では有意差は認められなかった.Motor FIMスコアの中央値は,リハビリ開始時49.0[31.8-67.3]点,1週後49.0[34.0-70.3]点,2週後50.0[34.8-71.3]点,3週後54.5[37.0-72.0]点,4週後48.5[34.0-68.5]点であり,リハビリ開始時と比較して1週後,2週後,3週後においてMotor FIMスコアの有意な改善が認められたが,4週後では有意差は認められなかった.

図2 BI(左図)とMotor FIM(右図)の経時的変化(n=35)

箱ひげ図は,上より最大値,第3四分位数(75%点),中央値(50%点),第1四分位数(25%点),最小値を表す.

Friedman検定(Bonferroni法) : p<0.05 **: p<0.01 : p<0.001

PFスコアによる2群間の比較結果

2群間での対象者特性の比較を表1に示す.PFスコア維持・改善群と悪化群の2群間における対象者特性の有意な差は認められなかったが,PFスコア悪化群において,PSが4である対象者の割合が多く(p=0.17),リハビリ開始後4週以降の生存期間も9[6-23]日と短い(p=0.38)傾向にあった.

2群間におけるADLスコアの変化の特徴について図34に示す.BIスコアにおいて(図3),PFスコア維持・改善群ではリハビリ開始時80.0[51.3-90.0]点,4週後80. 0[42.5-90.0]点であり,リハビリ開始時と4週後で有意な変化は認めなかった(p=0.32).一方で,PFスコア悪化群ではリハビリ開始時47.5[18.8-88.8]点,4週後37.5[17.5-67.5]点であり,リハビリ開始時と比較して4週後で有意に低下していた(p=0.04).Motor FIMスコアにおいては(図4),PFスコア維持・改善群ではリハビリ開始時57.5[42.3-70.0]点,4週後65.0[41.3-72.0]点であり,リハビリ開始時と比較して4週後で有意な改善を認めた(p=0.007).一方で,PFスコア悪化群ではリハビリ開始時38.0[21.8-48.8]点,4週後35.0[21.8-44.8]点であり,リハビリ開始時と4週後で有意な変化は認めなかった(p=0.18).さらに,PFスコア維持・改善群と悪化群におけるMotor FIMの各項目の変化量について付録図2,3に示す.PFスコア維持・改善群では歩行,トイレ移乗,階の項目の順で変化が多くみられ,PFスコア悪化群ではトイレ移乗,歩行,食事の項目の順で変化が多くみられた.

2群間におけるEFスコアの変化の特徴について,付録図4に示す.PFスコア維持・改善群および悪化群ともにリハビリ開始時と4週間後で有意な変化は認めなかった.

図3 PFスコア維持・改善群(左図)と悪化群(右図)でのBI(できるADL)の比較

箱ひげ図は,上より最大値,第3四分位数(75%点),中央値(50%点),第1四分位数(25%点),最小値を表す.

Wilcoxonの符号順位検定 : p<0.05 **: p<0.01

図4 PFスコア維持・改善群(左図)と悪化群(右図)でのMotor FIM(しているADL)の比較

箱ひげ図は,上より最大値,第3四分位数(75%点),中央値(50%点),第1四分位数(25%点),最小値を表す.

Wilcoxonの符号順位検定 : p<0.05 **: p<0.01

考察

本研究は,在宅緩和ケアにおいて訪問リハビリを施行したがん患者の身体的QOLとADLの経時的変化とその特徴を明らかにすることを目的に実施された.これまで,緩和ケア領域では症状緩和に重きが置かれ,身体的QOLは重要にもかかわらず,あまり注目されてこなかった21).しかしながら,先行研究において,身体的QOLはがん患者の尊厳に影響を与える因子であり,それらの低下は患者が抱える苦痛の一つであると述べられており6,7),緩和ケアが主体となる時期のがん患者においては重要な側面であると考えられる.したがって,本研究は在宅緩和ケアにおいて訪問リハビリを利用するがん患者の身体的QOLに着目した数少ない研究の一つであり,有益なデータであると考えられる.

本研究で用いたQLQ-C15のPFスコアは,PSや生存期間と有意な関連があり22,23),緩和ケアの領域では,重要な指標になると報告されている21)

本研究において,PFスコアは,リハビリ開始時に比べて4週間後では11.1ポイントの有意な改善を認めた.先行研究において,PFスコアの10ポイント以上の改善は臨床的に意義があると報告されている24).したがって,本研究の対象者において訪問リハビリ開始後の4週間で認められたPFスコアの改善は臨床的に意義のある変化であったと考えられる.

先行研究において,終末期がん患者を対象として身体機能やADLの改善を目的とした訓練に加え,マッサージやストレッチなどを組み合わせた包括的リハビリ治療を実施した結果,ADLスコアの有意な改善がみられたと報告されている25)

本研究の訪問リハビリの内容においても,マッサージやストレッチなどを実施する割合は多く,これらを実施することで筋の柔軟性低下や関節拘縮予防,症状緩和などが得られた結果,より効率的な離床支援やADLトレーニングへとつながったことがADLの維持・改善へと寄与した可能性が考えられる.

また,QLQ-C15のEFスコアについては,全対象者およびPFスコア維持・改善群と悪化群の群ごとの比較においてもEFスコアはリハビリ開始時と比較して4週後でスコアの有意差は認められなかった.本研究の対象者は在宅という住み慣れた環境で過ごされているがん患者であり,情緒面がすでに安定していた可能性が考えられた.

PFスコアの経時的変化については,BIスコアに比べてMotor FIMスコアの経時的変化と近似している傾向がみられた.先行研究では,緩和ケアが主体となる時期のがん患者においては,PFスコアとADLは強く関連していることが示唆されている26,27).また,がんの進行過程では起居や移乗,歩行,セルフケアなどのADLに制限が生じることがQOLの低下と密接に関与すること28),がん患者のADL制限は歩行,入浴,移乗の順で発生しやすいことが報告されている8).Motor FIMスコアは日常生活で,どのように動作を行っているかについて介助量などを考慮して「している能力」を評価するため,BIスコアと比べて日常生活動作により即しているMotor FIMスコアの方がPFスコアと近似した結果になったと考えられる.さらに,PFスコア維持・改善群と悪化群において,Motor FIMの歩行とトイレ移乗の項目の変化が最も多くみられ,前述の先行研究で述べられているようにセルフケアに関わる歩行とトイレ移乗は身体的QOLにより強く影響を及ぼす可能性が示唆された.

本研究において,PFスコア維持・改善群ではリハビリ開始時と比較して4週間後のMotor FIMスコアに有意な改善が認められた.先行研究において,進行がん・末期がん患者の日常生活動作や生活関連動作の障害は身体機能の低下を助長し,QOLを大きく阻害するとされている29).また,生命予後が月単位のがん患者においては潜在的な能力が生かされず,実際の能力以下のADLとなっていることが多いとされている30). 先行研究において,終末期がん患者に対してADLトレーニングを実施した結果,約8割の患者のADLスコアが維持・改善を認めたと報告されている13).したがって,在宅緩和ケアを受けるがん患者においても,「しているADL」を維持していくことが身体的QOLの維持・改善につながる可能性が考えられる.一方で,PFスコア悪化群では,BIスコアの有意な低下が認められた.BIスコアは緩和ケア領域の研究において,がん患者の全身状態を反映する指標としても用いられている25,31).本研究では2群間における有意差は認められなかったものの,PFスコア悪化群ではPSが低下している患者の割合やリハビリ開始後4週以降の生存期間が短い傾向にあり,このことから全身状態の悪化に伴ってBIスコアも低下した可能性が考えられた.

本研究にはいくつかの限界がある.一つ目は,本研究は単施設研究であるため,対象者に選択バイアスが生じた可能性がある.二つ目は,対象者の背景が多岐にわたるため,原発巣による病態や身体症状の違いが潜在的な交絡因子として存在している可能性がある.本来であれば,統計学的手法を用いてこれらの交絡因子の影響を検討すべきであるが,本研究のサンプルサイズでは実施することができていない.三つ目は,本研究は対照群を設定しない観察研究であるため,訪問リハビリと身体的QOLおよびADLの関連性に関しては検討できていない.今後は多施設での研究も含め,がん種や症状などによる影響を考慮した研究方法を検討していきたいと考えている.

結論

在宅緩和ケアにおいて訪問リハビリを利用するがん患者のPFスコアは,リハビリ開始時と比較して4週後で維持・改善がみられた.さらに,PFスコアとMotor FIMスコア(しているADL)の経時的変化は近似している傾向がみられた.緩和ケアが主体となる時期の在宅がん患者においては,「しているADL」を維持していくことが身体的QOLの維持・改善につながる可能性が示唆された.

謝辞

本研究に参加していただいた対象者の方々やそのご家族には,人生の大切なお時間を関わらせていただいたことを深く感謝申し上げます.データ収集に際して,多大なるご配慮をいただきました,マリアーナ訪問看護ステーションの看護師ならびにリハビリスタッフの皆様,研究デザインや論文執筆に際してご指導いただきました総合上飯田第一病院リハビリテーション科の柳澤卓也先生に心より感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

尾関は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;三石,石田,吉田は研究データの解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;立松,杉浦は研究の構想および研究デザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに最終承認および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021日本緩和医療学会
feedback
Top