Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
一般市民の予後説明・終末期医療・意思決定者の希望とその関連要因
吉村 元輝濱本 愛阪口 杏香安藤 詳子佐藤 一樹
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電子付録

2022 年 17 巻 1 号 p. 7-15

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Abstract

【目的】一般市民の終末期の意思決定の希望とその関連要因を明らかにする.【方法】日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査2018年」の調査データを二次利用して分析した.成人1,000名対象のインターネット調査で,終末期の意思決定の希望を尋ねた.【結果】予後説明の希望は,54%が余命まで知りたいと回答した.余命告知希望に,若年,がん告知希望,医療者の信頼を重視,死んだら消えてなくなる死生観が独立して関連した.終末期医療の希望は,11%が積極治療,58%が緩和ケアを希望した.緩和ケア希望に,高齢,女性,苦痛がないことや気兼ねしない環境を重視などが独立して関連した.意思決定の主体者の希望は,77%が自分で,11%が家族に決めてほしいと回答した.自分以外主体の希望に,若年,がん告知を希望しない,死を考えない死生観が独立して関連した.【考察】一般市民の終末期の意思決定の希望とその要因が明らかになった.

Translated Abstract

Purpose: This study clarified the general public’s end-of-life decision-making expectations and related factors. Method: We analyzed secondary data of 1,000 adults surveyed through the Internet. The outcome was to determine the life expectancy at the end of life, end-of-life care, and decision-makers’ wishes. Results: Regarding the prognosis, 54% wanted to know the life expectancy in end-of-life. This preference was independently associated with being notified of cancer at a young age, trust in medical professionals, and the view of life and death that disappears. Regarding end-of-life care preferences, 11% requested active treatment, and 58% requested palliative care. This preference was independently associated with older age, women, and an emphasis on being pain-free and being yourself. Regarding decision-makers’ preferences, 77% wanted to decide for themselves, and 11% wanted to decide for their families. This preference was independently associated with the young, carefree of life and death, who did not want to be notified of cancer. Conclusion: We revealed the general public’s desire for end-of-life decision-making and associated factors. In clinical practice, it can be used for screening.

緒言

患者が希望に沿った終末期を過ごすためには,医療者とのEnd-of-Life(EOL)discussionを含めたAdvance Care Planning(ACP)が重要である.化学療法等の抗癌治療や人工呼吸器装着などの延命治療を含む終末期の積極的治療は患者と遺族のQuality of Life(QOL)悪化に関連し,終末期の緩和ケア選択はQOL向上に関連するとされ,患者が自身の病状や治療目的の理解があると,終末期に必要以上の積極的治療が減り緩和ケア選択が増えるとされている15.ただ,患者が自身の病状が終末期と認識するだけでは不安の増強やQOL低下につながる可能性があることも示されており6,終末期の情報だけでなく,苦痛緩和やQOL向上のための緩和ケア提供の情報を合わせて伝える必要がある.その一方で,患者が終末期と認識しても延命治療などの積極的治療の希望が一定数ある3ことも示されている.緩和ケアや意思決定支援の普及により,現状の一般市民の認識を把握しておくことは重要であると考える.

また,意思決定者に関する見解では「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」7で,患者自身が意思決定に参加が重要であるとされている.実際に意思決定を医師に任せた場合には,患者主体の意思決定と比較して遺族が評価する終末期患者のQOL評価が低いとする先行研究もある8.一方で病気や死を意識しないで意思決定を任せたいという希望もあり9,一般市民の実際の希望を把握することは重要であるといえる.

予後説明の希望についての意識調査では米国と日本の希望で米国が予後説明を希望する傾向にある10とされている.予後の説明は患者本人の希望を尊重する必要があるとされる11が,これまで日本人の予後説明に関する希望の意識調査は行われておらず,一般市民における予後説明の希望の分布を明らかにすることは終末期患者の予後説明を考えるうえでも重要である.

終末期医療,意思決定の主体,予後説明に関する希望の関連要因は明らかにされておらず,がん告知や療養場所の希望,終末期に大切だと思うこと,死生観などを調査し,その関連要因を分析することで,意思決定を他者に任せたいと希望する人などをスクリーニングでき,十分に話し合い配慮が必要な方への予測的な対応につながる可能性がある.

以上のことから,今回の研究では一般市民の終末期での予後説明,終末期医療,意思決定の主体者の希望の分布とそれらの関連要因を明らかにする.

方法

本研究は,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査(2018年度意識調査)」12で用いた既存データを二次解析して行う研究である.

調査対象

上記の研究対象者は調査会社(クロスマーケティング社)にモニター登録し,インターネット調査に協力可能な健康状態である一般市民で,調査参加に同意した20~79歳の成人1,000名であった.10歳ごとの年齢階級×性別の人口構成比に合わせた対象者数比になるように抽出された.

調査手順

本研究では,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査(2018年度意識調査)」の既存匿名データを,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の許可を得て取得し,分析した.

上記研究は,インターネットによる横断調査である.日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団事業委員会で企画され,第一生命経済研究所の協力を得て行われた.調査期間は2017年12月12日~12月15日で,インターネットによる質問紙調査で,調査の主目的は,ホスピス・緩和ケアに対する人々の認識や考え方,死にかかわる意識や死生観,宗教観を調査・分析し,今後のホスピス・緩和ケアをめぐる理解の現状や今後の課題を明らかにすることであった.

倫理的配慮として本研究は,名古屋大学大学院医学系研究科・医学部付属病院・保健学臨床・疫学研究審査委員会の承諾を得て実施した(承認番号:18-129).日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の許可を得て取得した.

調査項目

対象者背景は,年齢,性別,最終学歴,婚姻状況,同居者の有無,子どもの有無,信仰している宗教の有無,最近5年以内の死別経験の有無,その死別経験での心残りの有無のデータを得た.

予後説明の希望は,「人生の最終段階に,あなたは先々の見通し(余命や治癒が難しいことなど)を知りたいですか.」と質問をし,「予測される余命を含めて,先々の見通しを詳しく知りたい」「先々の見通しは知りたいが,予測される余命までは知りたくない」「あまり詳しいことは知りたくない」「わからない」の4件法で回答を得た.

終末期医療の希望は,「人生の最終段階に,あなたはどのような治療を受けたいですか.受ける治療に関する全体的な希望をお教えください.」と質問をし,「治療に苦痛がともなうとしても,病気に対する治療(生命をなるべく長くする治療)をより希望する」「生命予後を可能な限り長くするよりも,痛みや苦痛を取り除く治療をより希望する」「特に希望はない」「わからない」の4件法で回答を得た.

意思決定の主体者の希望は,「人生の最終段階に,医師から病状や治療等について十分な説明を受けたうえで,あなたは受ける治療をどのように決めたいですか.」と質問をし,「自分が主体的に決めたい」「家族に主体的に決めてほしい」「主治医に主体的に決めてほしい」の3件法で回答を得た.

予後説明・終末期医療・意思決定の主体者の希望に関連する要因は,自分自身のがん告知の希望,家族へのがん告知の希望,終末期に大切だと思うこと,療養場所の希望,死生観,宗教観の回答を得た.終末期に大切だと思うことは,10項目の質問について「非常に大切」「大切だと思う」「どちらかといえば大切」「どちらかといえば大切ではない」「大切ではない」「まったく大切ではない」の6件法で回答を得た.死生観は,14項目の質問に「そう思う」「まあそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」の4件法で回答を得た.

分析方法

はじめに各変数について記述統計を算出した.次に予後説明の希望・終末期医療の希望・意思決定の主体者の希望と背景因子との関連を探索するため,単変量解析として,Fisherの直接確率検定は名義変数に対して,Cochran-Armitageの傾向検定は順序変数に対して行った.予後説明の希望は先々の見通しは知りたいが,予測される余命までは知りたくないと,あまり詳しいことは知りたくないを合算し「予後は知りたくない群」,予測される余命を含めて,先々の見通しを詳しく知りたいの「予後を含め知りたい群」との2値名義変数とした.終末期医療の希望は,治療に苦痛がともなうとしても,病気に対する治療(生命をなるべく長くする治療)をより希望するを「積極的治療」群とし,生命予後を可能な限り長くするよりも,痛みや苦痛を取り除く治療をより希望するを「緩和ケア」群の2値名義変数とした.意思決定の主体者の希望は,自分が主体的に決めたいを「自分主体」群,「家族に主体的に決めてほしい」「主治医に主体的に決めてほしい」を「自分以外主体」群の2値名義変数とした.このとき,予後説明の希望,がん告知の希望,家族へのがん告知の希望で「わからない」の回答と,終末期医療の希望に「特に希望はない」「わからない」の回答は欠損扱いとした.単変量解析でp<0.05となった変数でモデルを作成し,変数減少法(p<0.05)により変数選択を行い,年齢は強制投入したロジスティック回帰分析による多変量解析を行った.目的変数は予後説明・終末期医療・意思決定の主体者の希望とし,有意水準はp<0.05とした.統計解析ソフトは JMP Pro 15(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた.

結果

対象者背景(表1

年齢は20~39歳298名(29.8%),40~64歳467名(46.7%),65歳以上235名(23.5%),性別は男性494名(49.4%),女性506名(50.6%),婚姻状況は,配偶者あり586名(58.6%),死別・離婚108名(10.8%),未婚306名(30.6%)であった.同居者の有無はあり769名(76.9%)であった.子どもの有無はあり556名(55.6%),信仰している宗教の有無はあり359名(35.9%)であった.最近5年以内の死別経験の有無はあり439名(43.9%)であった.

表1 対象者背景

予後説明・終末期医療・意思決定の主体者の希望の分布(図1)

予後説明の希望の分布は,「予測される余命を含めて,先々の見通しを詳しく知りたい」540名(54.0%),「先々の見通しは知りたいが,予測される余命までは知りたくない」189名(18.9%),「あまり詳しいことは知りたくない」116名(11.6%),「わからない」155名(15.5%)であった.

図1 予後説明・終末期医療・意思決定の主体者の希望の分布

終末期医療の希望の分布は,「治療に苦痛がともなうとしても,病気に対する治療(生命をなるべく長くする治療)をより希望する」109名(10.9%),「生命予後を可能な限り長くするよりも,痛みや苦痛を取り除く治療をより希望する」581名(58.1%),「特に希望はない」127名(12.7%),「わからない」183名(18.3%)であった.

意思決定の主体者の希望の分布は,「自分が主体的に決めたい」770名(77.0%),「家族に主体的に決めてほしい」113名(11.3%),「主治医に主体的に決めてほしい」117名(11.7%)であった.

予後説明の希望の関連要因

単変量解析の結果は付録表1に示す.

多変量解析の結果を表2に示す.「予後を含め知りたい」と希望した人は,年齢で65歳以上と比較して20~39歳(オッズ比[OR]:2.44, 95%信頼区間[CI]:1.54–3.85, p<0.001)と,40~64歳(OR: 2.17, CI: 1.47–3.33, p<0.001)であり,若い世代ほど65歳以上と比較して予後を含めて知りたいと希望した.がん告知の希望で「治る見込みがあれば知りたい」と比較して「治る見込みがあってもなくても知りたい」(OR: 4.35, CI: 2.70–6.67, p<0.001)で,治癒が困難な状態でもがん告知を希望する人ほど予後を含めて知りたいと希望した.大切にしたいことでは「医師や看護師を信頼でき,気持ちがわかってもらえる」(OR: 8.33, CI: 3.33–20.0, p<0.001),死生観で「死んだら私は消えてなくなる」(OR: 1.49, CI: 1.79–5.88, p<0.001)で予後を含めた説明を希望した.また,「予後は知りたくない」という希望は,死生観で「私にとって,自分の死は最大の恐怖である」(OR: 0.30, CI: 0.17–0. 55, p<0.001)が関連した.

表2 予後説明の希望の関連要因(多変量解析)

終末期医療の希望の関連要因

単変量解析の結果は付録表2に示す.

多変量解析の結果を表3に示す.「積極的治療」の希望は,年齢で65歳以上と比較して20~39歳(OR: 2.50, CI: 1.22–5.26, p=0.012)であり,20~39歳で65歳以上と比較し積極的治療を希望することが示された.家族へのがん告知の希望で「本人の意向があれば,それに従う」と比較して「本人の意向にかかわらず,知らせる」(OR: 2.08, CI: 1.25–3. 57, p=0.005),死生観で「私にとって,自分の死は最大の恐怖である」(OR: 1.56, CI: 1.09–2.22, p=0.014),「私は,死んでも生まれ変わることができる」(OR: 1.35, CI: 1.01–1.81, p=0.040),「私にとって,自分の死はもっともつらいものである」(OR: 1.85, CI: 1.30–2.70, p<0.001),「死は,私がどう生きたかの集大成である」(OR: 1.49, CI: 1.09–2.08, p=0.011)で積極的治療を希望することが示された.また,「緩和ケア」の希望は,性別で「女性」(OR: 0.48, CI: 0.28–0.79, p=0.005)であり,大切にしたいことで「からだの苦痛が少なく,穏やかな気持ちで過ごせる」(OR: 0.68, CI: 0.50–0.93, p=0.016),「自由で人に気兼ねしない環境で過ごす」(OR: 0.62, CI: 0.46–0.83, p=0.001)で緩和ケアを希望することが示された.

表3 終末期医療の希望の関連要因(多変量解析)

意思決定の主体者の希望の関連要因

単変量解析の結果は付録表3に示す.

多変量解析の結果を表4に示す.

表4 意思決定の主体者の希望の関連要因(多変量解析)

「自分主体」の意思決定の希望は,婚姻状況で「配偶者あり」と比較して「未婚」(OR: 0.56, CI: 0.35–0.91, p=0.018),がん告知の希望で「治る見込みがあれば知りたい」と比較して「治る見込みがあってもなくても知りたい」(OR: 0.45, CI: 0.27–0.73, p=0.001),大切にしたいことで「自分が望んだ場所で過ごし,最期を迎えられる」(OR: 0.70, CI: 0.57–0.85, p<0.001)で,意思決定の主体を自分と希望した.また,「自分以外主体」の意思決定を希望したのは,年齢で65歳以上と比較して20~39歳(OR: 2.71, CI: 1.53–4.82, p<0.001),死生観で「自分の死について真剣に考えることはあまりない」(OR: 1.46, CI: 1.17–1.84, p<0.001)であった.

考察

本研究は,日本の一般市民に対して終末期医療やその意思決定,予後説明の希望などの認識を終末期に大切にしたいことや死生観とともに検討した初めての調査であり,死についての認識が終末期の治療選択や意思決定,予後についての説明に関連することが示された.

予後説明の希望

予後説明の希望の質問では,治癒困難な病状告知の希望は7割を超え,余命を含む説明の希望は54%あった.これらの希望は,外来通院中の高齢患者13への先行研究や終末期がん患者を対象の14先行研究でも同様の結果を示しており,調査時点における一般市民の認識もがんや高齢患者同様の予後説明の希望を示した.ただし,あくまで一般市民を対象とした調査であるため,実際の終末期に希望が変化する可能性も考慮する必要がある.

余命を含む説明の関連要因を多変量解析した結果,高齢者と比べ若い世代で余命を含めた説明を希望していた.国立がん研究センターでは15~30歳代までをAdolescent and Young Adult(以下,AYA)世代としており,AYA世代対象の先行研究でも半数近くが余命を含む予後説明を希望する15ことが示されており,高齢者と比較しても若い世代は余命を知りたいと希望すると示唆された.若い世代は率直なコミュニケーションを希望することがあり,予後説明の希望に合わせた説明をすることが求められる.一方でAYA世代の末期がん患者への先行研究では16,主治医より病気の治癒可能性を過大評価することが明らかとされており,若い世代は治癒可能性や予後期間を過大に評価することで余命を含めた説明を希望した可能性がある.臨床では,余命を含めた告知が精神的苦痛を与える可能性があることを認識し,病状理解に必要十分な情報や,知りたい希望の把握,伝える技術や告知後の支援が重要であると考える.

治癒困難ながんであっても告知を希望することが独立した関連要因であった.がん告知の希望は確認可能となってきており,まずがん告知の希望を尋ねることで余命を含めた説明の希望を推察または確認の布石とできる可能性がある.さらに医師・看護師への信頼などが独立して有意な関連要因であった.これはACPに関する先行研究17,18とも同様の結果であった.予後説明には年齢やがん告知の希望などに配慮が必要であるが,その前提として医師や看護師と患者の信頼関係構築が重要となることを念頭に置き,日頃から患者とコミュニケーションを取ることが臨床現場では求められると考える.

終末期医療の希望

終末期医療の希望は「緩和ケア」が約60%,「積極的治療」は約10%であった.アメリカの先行研究3同様の結果であり,また日本の厚生労働省の調査19,20においても延命治療は望まず,末期癌で希望する療養場所は70%以上が居宅を希望していた.終末期に積極的治療を受けることは過剰な医療やQOL低下につながる可能性が先行研究5でも示されており,緩和ケアを60%の人が希望した結果は望ましい結果であったと考えられる.

一方で,終末期に積極的治療を希望する人は日本の一般市民でも一定数あり,特に20~39歳の若い世代に積極的治療を希望することが明らかとなった.これは若い世代で終末期に人工呼吸や化学療法を希望する傾向があるという先行研究21同様の結果であった.予後説明の考察同様に,若い世代は死を現実に捉えていない可能性がある.そのため十分な説明によって終末期で治癒しない現実を理解したうえで治療希望を確認する必要があると考える.また死生観では死は最大の恐怖など死を避けることが関連要因にあり,回避的コーピング反応ともいえるが実際に死は避けられないものである.患者と医療者で早期からEOL discussionが行われた場合,終末期の積極的治療が減少するとも報告されており4,終末期によりよい医療選択ができるよう,臨床現場では終末期医療の希望がない人や,わからない人などを含め,早期から患者家族と今後希望する生活に関して話し合うことが重要だと考える.

「緩和ケア」を希望する関連要因は,性別では女性が多く,終末期に大切にしたいことでは「からだの苦痛が少なく,穏やかな気持ちで過ごせる」,「自由で人に気兼ねしない環境で過ごす」が挙げられた.この結果はWHOの緩和ケアの定義やGood Deathに関する先行研究9とも一致しており,終末期に緩和ケアを希望した場合に身体症状の緩和と全人的苦痛への対応,気兼ねせず自律した環境で過ごすことの支援などが重要であることが一般市民の認識からも考えることができる.

意思決定の主体者の希望

意思決定の主体者は,77%が自分主体を希望した.自分以外主体の意思決定を希望した割合は20%程度あり,がん治療の意思決定者の先行研究でも医師と家族主体を希望する割合が10%ずつあり22,同様の結果であった.しかし,77%の人が自分主体を希望しながら,がん患者の遺族を対象とした先行研究では,患者主体の意思決定は13%で,患者が家族と医師とともに意思決定をした場合と合わせても4割であった7ことから,希望と現実の不一致があることが明らかとなった.

自分以外を意思決定者と希望した関連要因には,20~39歳の若い世代があった.付録表3で確認すると若い世代は主治医を自分以外の意思決定者と希望した場合が多い傾向があった.付録表2では,若い世代に終末期の積極的治療希望の割合が多く,積極的治療を希望するため治療の情報提供を受ける主治医に終末期の意思決定を委ねた可能性も考えられる.また,付録表3によると30~40歳代で特に意思決定者を家族と希望する人が多かった.東アジアでは家族を意思決定者とする文化23,24の影響も考えられるが,この世代は子育て世代であり,治療や生活など今後の見通しを含めた意思決定が可能な配偶者に委ねることを希望した可能性もある.その他の関連要因では,死生観で死を真剣に考えることがないことが挙げられた.臨床では意思決定を他者に委ねたいと希望した背景にある本人の意思を把握し,現実の理解が正確にできているのか確認しながらともに意思決定していく支援も必要と考える.そのうえで,意思決定者を家族と選択した場合は,ガイドライン7に基づき本人の意思を推定しながら家族とともに意思決定をし,家族の精神的負担にも十分に配慮した支援が必要と考える.

自分主体の意思決定を希望した人の関連要因は,婚姻状況が未婚であることがあった.未婚の人は過去の生活でもさまざまな意思決定を自身でしてきたことが考えられ,意思決定の主体者を自分としやすいと考えられる.そのほかに治る見込みがなくてもがん告知を受けたい人や,望んだ場所で最期を迎えることが大切と考える人が挙げられた.最期の療養場所を自分で選択するためにも,治癒の見込みのないがんになってもその事実を知り,意思決定は自分でしたいと希望したと考えられ,臨床ではがん告知のみではなく,どのような療養を希望し,そのためどこで過ごしたいのかまで話し合うことを意思決定支援として重視する必要があると考える.

研究の限界

本研究の限界として,対象者が一般市民であり現在抱える基礎疾患の有無は反映されておらず,基礎疾患による回答への影響が反映できない.また実際に終末期を迎えた場合と希望が異なる可能性はある.インターネットによる調査で,対象者がインターネットを利用する人に限られ,回答に偏りが生じている可能性がある.さらに今回の研究では,予後告知や意思決定の主体者について2値変数として分析を進めたが,予後告知では先々の見通しは知りたいが予後までは希望しない郡を独立させた分析や,意思決定者では家族や医療職などの違いなど3値による分析や関連要因調査をすることなど今後の課題としたい.

結論

本研究では,一般市民の予後説明・終末期医療・意思決定の主体者の希望の分布,そしてその関連要因の分析を行った.予後を知りたいと希望した人が半数以上であり,その関連要因としては医療者との信頼関係が挙げられた.終末期に受ける医療の希望は緩和ケアが約60%であった.ただし積極的治療の希望も10%あり,その関連要因には死を避けたい思いがあると考えられた.意思決定は77%の人が自分主体の意思決定を希望した.一方で,自分以外を主体とした意思決定を希望する人もおり,その関連要因は死についてあまり考えていないことが挙げられた.今回得られた終末期の意思決定に影響する関連要因を元に,臨床現場における終末期医療や意思決定支援方法の質向上に向け,さらなる知見を重ねる必要がある.

謝辞

本研究は,平成30年度公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団事業委員会で企画実施された.事業委員の筑波メディカルセンターの志真泰夫氏,シニア生活文化研究所の小谷みどり氏,関西学院大学の坂口幸弘氏の協力に感謝する.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

吉村,佐藤は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの収集,分析および研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.濱本,阪口は研究データの収集,分析および研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.安藤は研究データの解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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