【目的】一般市民の終末期の意思決定の希望とその関連要因を明らかにする.【方法】日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査2018年」の調査データを二次利用して分析した.成人1,000名対象のインターネット調査で,終末期の意思決定の希望を尋ねた.【結果】予後説明の希望は,54%が余命まで知りたいと回答した.余命告知希望に,若年,がん告知希望,医療者の信頼を重視,死んだら消えてなくなる死生観が独立して関連した.終末期医療の希望は,11%が積極治療,58%が緩和ケアを希望した.緩和ケア希望に,高齢,女性,苦痛がないことや気兼ねしない環境を重視などが独立して関連した.意思決定の主体者の希望は,77%が自分で,11%が家族に決めてほしいと回答した.自分以外主体の希望に,若年,がん告知を希望しない,死を考えない死生観が独立して関連した.【考察】一般市民の終末期の意思決定の希望とその要因が明らかになった.
【目的】本研究の目的は,看護師の進行がん患者への積極的治療の推奨とその関連要因を明らかにすることである.【方法】A県内のがん診療連携病院2施設の看護師383名に無記名自記式質問紙調査を実施.2事例への積極的治療の推奨,推奨を決定づける看護師の価値観を尋ね,単変量および多変量解析を行った.【結果】有効回答の得られた300名(有効回答率78.3%)を分析した.治療の推奨には,患者の予後やPerformance Status(PS)を問わず患者の希望や生存期間の延長を重視する看護師の価値観が,予後1カ月の患者には副作用に伴う不利益の回避を重視する価値観が関わっていた.また,予後6カ月の事例には治療を推奨するが,予後1カ月の事例への治療の推奨は看護師の価値観の違いにより二分された.【結論】看護師の治療の推奨には看護師の価値観が関わっていた.看護師は,患者の治療目標を共有したうえで,治療の意思決定のプロセスに関わる必要性が示された.
【緒言】悪夢は緩和ケアの臨床において珍しくない症状の一つだが,がん患者における研究は乏しい.今回われわれは,一般的な不眠治療で緩和されない悪夢による苦痛に対し柴胡加竜骨牡蛎湯が有効だった症例を経験した.【症例】82歳,男性.悪性リンパ腫による疼痛,倦怠感と悪夢を伴う不眠を認めた.身体症状はステロイドで改善したが,悪夢と不眠は持続し,一般的な不眠治療には不応であった.柴胡加竜骨牡蛎湯を投与したところ速やかに悪夢と不眠が改善した.【考察】柴胡加竜骨牡蛎湯は,他の睡眠剤や抗不安薬などに比べて有害事象の懸念が少なく,がん患者の悪夢の治療に安全かつ有効に使用できる可能性がある.【結語】柴胡加竜骨牡蛎湯が進行がん患者の悪夢を改善した.
眼症状を有する脈絡膜転移に放射線照射を行い,症状緩和の得られた3例を報告する.症例1は71歳女性.右乳がん術後7年目に多発転移を認め化学療法が行われていた.術後16年目に右眼痛と視力障害を伴う右脈絡膜転移が出現し,同部への緩和照射により,右眼痛の軽減と腫瘍の縮小を認めた.症例2は54歳男性.右眼痛および視野異常を自覚し,精査にて右下葉肺がんおよび右脈絡膜を含む全身多発転移と診断された.右脈絡膜転移巣への緩和照射により,眼痛の改善と腫瘍の縮小を認めた.症例3は71歳女性.右上葉肺がん術後1年5カ月で左眼痛が出現し,精査にて左脈絡膜転移の診断となった.同部に対して緩和照射を施行し,照射後は腫瘍の縮小と左眼痛の一時的な消失を認めた.脈絡膜転移に対する緩和的放射線治療は,眼症状の軽減に有効と思われた.
【目的】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性について検討する.【方法】医中誌,Cochrane Library, EMBASE, MEDLINEを用いて,2019年10月23日までの期間に報告されたすべての文献について検索を行った.また,2020年6月30日と2021年12月7日に,PubMedを用いてハンドサーチを行った.適格基準は,1)送風療法を扱う無作為化比較試験,2)対象者の年齢が18歳以上,とした.除外基準は,1)重複文献,2)学会発表,とした.【結果】110件中10件が採用され,そのうち5件についてメタ解析を行った.送風療法は標準化平均値差−1.43(95%信頼区間−2.70~−0.17; I2=94%;異質性のp値<0.0001)であり,呼吸困難を有意に改善した.【結論】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対して送風療法は有効であることが示された.