Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
日本バプテスト病院ホスピス病棟で看取り後にチャプレンが行う「お別れ会」 —質問紙調査による遺族の評価—
宮川 裕美子伊藤 怜子升川 研人宮下 光令山極 哲也
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2022 年 17 巻 2 号 p. 59-64

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Abstract

【目的】日本バプテスト病院ホスピス病棟において,チャプレンの司会により行っている「お別れ会」の実際を報告し,お別れ会に対する遺族の感想を記述する.【方法】遺族84名に対して,お別れ会の感想を質問紙票にて調査し,自由記述の内容分析を行った.【結果】回答者40名のうち,お別れ会を経験した遺族は15名であった.お別れ会の内容でよかった点として,[祈祷(祈り)],[スタッフの参加]などが抽出され,遺族はお別れ会を行うことによって,[区切り],[気持ちの平安],[心身の癒し]を感じ,[振り返りの機会]や,[心に残る特別な思い出]を得ていた.【考察】お別れ会は,遺族の気持ちの平安や喪失感の軽減の助けとなり,死別後の遺族の悲嘆の軽減につながる可能性が考えられた.本調査から得られた遺族の声をもとに,遺族の思いに寄り添った,より質の高い遺族ケアの実施や,今後のさらなる研究につなげていきたい.

Translated Abstract

Purpose: Our purpose is to report an actual performance of our farewell prayer gathering held by the chaplain in our inpatient hospice at the Japan Baptist Hospital, and to describe what impressions and thoughts the bereaved families had about our farewell prayer gathering. Method: The questionnaires were sent to 84 patients’ families asking about our farewell prayer gathering. We analyzed the content of their comments. Results: Among the 40 families that responded, 15 families experienced our farewell prayer gathering. The words such as “prayer” and “participation of the staff” were mentioned as the favored experiences. The bereaved families felt “an emotional closure”, “peace of mind”, and “healing of mind and body”. They also found the gathering as “an opportunity to look back” and “special memorable moment”. Discussion: Our farewell prayer gathering is likely to be helpful for the bereaved to give peace to their mind and to reduce feelings of loss. By sharing the voices of bereaved families, it will be helpful for the betterment of grief care to future bereaved families in hospice care. We would like to see further research in the future.

緒言

日本バプテスト連盟医療団は,1954年にキリスト教精神に基づいて設立され,創立以来,チャプレン(施設付牧師)が専従し,チーム医療の一員として重要な役割を担っている.チャプレンは,キリスト教の信仰に基づいて,個人の魂の痛みや苦痛に寄り添うが,援助を必要とする相手の信仰や宗教的背景を尊重し,キリスト教を押し付けることはない1

チャプレンは,患者の病室を訪問し,傾聴や時間を共有,讃美歌や祈りを提供するなど,患者や家族の精神的苦痛やスピリチュアルペインに対する援助を行う.加えて,看取り後の「お別れ会」を実施している2.お別れ会は,遺族の心の平安と慰めを祈り,亡くなられた患者を送り出す場である.

お別れ会は,ホスピス病棟で大切な家族を失った遺族に対する遺族ケアの一環として,非常に重要な役割を果たしていると考えるが,その有用性は明らかにされていない.わが国のホスピス緩和ケア病棟の多くが実践している遺族ケアとして,手紙の送付や追悼会の実施などが報告されているものの3,お別れ会の実施に関する報告は少数の活動報告があるのみである4,5

本調査は,当院ホスピス病棟で死別を経験した遺族のお別れ会に関する評価を調べ,より質の高い遺族ケアのための可能性を得ることを目的とした.

方法

当院で行っているお別れ会(図1)
図1 「お別れ会」実施のフローチャート

当院では病院設立以来,チャプレンによるお別れ会を行ってきた.現在のホスピス病棟でのお別れ会は,患者の看取り後,スタッフが家族へ会について説明し,実施の希望の有無を確認する.希望がある場合は,衣装を整えて死に化粧を行うなどのエンゼルケアの後に,病棟から送り出す15分前に,チャプレンの司会・進行によって,患者の病室で行う.

お別れ会には,患者の家族または親しい関係者と医療側のスタッフが集まり,皆で讃美歌を歌い,チャプレンが聖書を朗読し,祈る.用いられる讃美歌や聖書箇所は,慰めや平安を祈る内容を含むもので,参加者への配慮から一般に広く知られているもの—讃美歌は「いつくしみ深き」6,聖書は詩編23編7—であるが,患者本人や遺族の希望する讃美歌や聖書箇所がある場合は,それに応じる.祈りは,定型の祈りではなく,一人一人の患者とその遺族のために個別に準備する.お別れ会実施の前にチャプレンは,スタッフや電子カルテの記録を通して,患者と家族がホスピス病棟で過ごした間の出来事や様子を振り返るとともに,遺族から直接,生前の患者の思いや遺族の思いを聞かせていただく.その振り返りと傾聴をもとに,遺族への労いの思いをもって,患者の魂の平安や,遺族の辛さや痛みの癒しなどの祈願と,患者が喜びや楽しみとしていたこと,遺族自身がよかったと振り返ったことなどの感謝を神に祈る.遺族の思いや心を傾聴し,かつ相互に共有しうる言葉を用いるよう心がけている8

遺族調査・解析

2018年1月31日以前に当院ホスピス病棟で死亡した患者の遺族のうち,2018年7~9月に実施した「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE4研究)」9の対象者90名に対して調査を行った.当院独自の調査票を同封し,お別れ会を行った遺族に対して,「お別れ会についてどう感じたか」,「お別れ会がこころの平安と慰めに役立ったか」,「お別れ会に対してイメージの違いがあったか」の質問に5件法で,お別れ会に対する感想や改善点を自由記載で回答を求めた.自由記述内容は,テキストデータ化し,一つの意味内容を1単位として抽出し,類似性をもとにして帰納的に分類および抽象化しカテゴリー化した.倫理的配慮として,本調査は東北大学病院および当医療団倫理委員会の承認を得て実施した.

結果

対象者90人のうち,不適格例を除いた84人に調査票を送付し,40名(47.6%)から回答を得た.お別れ会を実施したのは15名(37.5%)であった(表1).

表1 患者,遺族背景 (n=15)

15名のうち,お別れ会に対して14名(93.3%)が「よかった」,「お別れ会は役に立った」と回答し,抱いていたイメージとの違いがあったと回答した遺族は6名(40.0%)であった.お別れ会を実施しなかった理由として「宗教の違い」や「とまどい」,「辛さが増強することを懸念した」があった.

自由記述によるお別れ会に対する感想を内容分析したところ,お別れ会のよかった点として24のカテゴリーが抽出され,「宗教的な事柄に関すること」,「スタッフとの関わりに関すること」,「お別れ会への参加そのものに関すること」に分類することができた(表2).

表2 「お別れ会」のよかった点(24 カテゴリー)

考察

当院のお別れ会は,チャプレンが主体となり,キリスト教の形式で行っているが,われわれは,お別れ会をただ形式的に実施するのではなく,一人一人の患者や遺族に応じた,個別のケアとして実施することが重要であると考えている.そのためには,遺族の思いを聞くこと,主治医や看護師をはじめ患者とともに過ごしたスタッフが参加すること,遺族が自由に感情を表出でき,思いを話せる雰囲気を作ることが大切である.

お別れ会のよかった点

1. 宗教的な事柄に関すること

祈りや音楽,言葉などの提供は,宗教の有無にかかわらず,重要な遺族ケアになることが報告されているが10,当院のお別れ会においても,[祈祷(祈り)],[聖書朗読],[讃美歌]によって,遺族が故人の旅立ちの平安を感じ,癒しや喪失の軽減につながる可能性が示唆された.また,儀式的でなく宗教色の濃くない[会の雰囲気]や[宗教に関わらないこと]に対する肯定的な意見が聞かれたことから,宗教や信仰の異なる遺族に対しても,受け入れられる可能性がある.

2. スタッフとの関わりに関すること

さらに,お別れ会には,患者に関わったスタッフが,病棟や施設を越えて参加する.遺族は,[スタッフの参加]に対して新たな感謝の思いを抱いていた.お別れ会にスタッフが集うことや,その場に一緒にいることが,スタッフの優しさとして遺族に伝わったと考えられる.

3. お別れ会への参加そのものに関すること

お別れ会に参加した遺族は,[区切り]や[死の受容への助け],[気持ちの平安],[心身の癒し],[喪失感の軽減]を感じていた.お別れ会は,気持ちの平安のみならず,心身の癒しや喪失感の軽減の助けとなっている可能性が考えられた.一方で,遺族は,[故人の魂の平安を確信した]と,故人の魂の上にも平安を感じていた.お別れ会は,遺族自身の気持ちや心身の平安のみならず,遺族が故人の平安を感じるうえでも役に立つ可能性がある.

病室でのお別れ会は,故人に最も近い人たちが集まる場として,[家族の時間]を提供し,祈るという行為が,[落ち着いた時間]を生み出していると考えられた.また,患者や家族が「よかった」と思えたことや,希望や願いが叶えられた喜びなどが,神への感謝として祈られる言葉を通して,遺族は[振り返りの機会]を得ていたと考えられる.

さらに,遺族はお別れ会の時間を過ごすことによって,スタッフから受けた患者・家族への生前の関わりを想起し,スタッフによる[生前の温かい見守りを認識]していた.お別れ会は,病棟から送り出す前のわずか15分ほどの間に提供されるケアであるにもかかわらず,「皆様に守られた尊い日として心に刻まれた」,「非常に心に残る優しい思い出となった」など,遺族の[心に残る特別な思い出]なっていた.最大の遺族ケアは,入院中に受けた的確かつ心のこもった温かいケアである11と報告があるように,より質の高い遺族ケアを提供するためには,患者の死後に提供されるケアだけでなく,生前からの関わりや心のこもったホスピスケアの重要性が示唆された.

課題点

お別れ会に対してとまどいを感じた遺族や,異なるイメージを抱いていた遺族が少なからずいたことから,今後はお別れ会の内容や趣旨を丁寧に伝えることで,遺族の希望を適切に反映することができると考えられる.また,夜間や休日に看取りとなった場合は,お別れ会という形でなくても,お別れ会の経験を生かした声かけや関わりによって,同様の遺族ケアを提供できるかもしれない.

本調査は,対象者が少なく回答率も十分高いとはいえないこと,質問紙調査の自由記述によって得られたものであることから,お別れ会に対する遺族の声がすべて捉えられたものではない.今後は,インタビューなどの調査によって遺族の体験をさらに探求し,お別れ会の遺族への効果を調べる必要がある.

結論

お別れ会は,遺族の気持ちの平安や喪失感の軽減の助けとなり,死別後の遺族の悲嘆の軽減につながる可能性が考えられた.本調査から得られた遺族の声をもとに,遺族の思いに寄り添った,より質の高い遺族ケアの実施や,今後のさらなる研究につなげていきたい.

謝辞

J-HOPE4研究にご協力いただいたご遺族の皆様へ心より御礼申し上げます.また,本稿作成にあたり,当院ホスピス遺族自助の会「虹の会」世話人橘俟子医師のご助言,ご指導に感謝いたします.

研究資金

本研究は,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団研究事業として実施した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

貢献内容

宮川,伊藤は研究の構想およびデザイン,研究データの分析および解釈,原稿の起草に貢献した.山極は研究データの分析および解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.升川,宮下は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 日本緩和医療学会
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