Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
がん治療医・緩和ケアスタッフを対象としたターミナルケア態度尺度を用いた意識調査
熊井 正貴 加藤 信太郎小柳 遼敦賀 健吉伊藤 陽一山田 武宏武隈 洋菅原 満川本 泰之小松 嘉人
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電子付録

2022 年 17 巻 2 号 p. 51-58

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Abstract

【目的】緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度の実態とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とした.【方法】がん治療医と緩和ケア医を含む緩和ケアに携わる医療提供者を対象にFrommelt Attitude Toward Care Of Dying Scale Form B日本語版(FATCOD B-J)を用いて質問紙調査を実施した.【結果】解析対象は223例であった(回収率42.2%).FATCOD B-J総得点を目的変数とした重回帰分析の結果,偏回帰係数は年代で40代と比較して30代以下が低く(−3.8),業務から得られる満足感を感じているほうが高く(+5.7),緩和ケアへの関心が強いほうが高かった(+6.2).【考察】緩和ケアへの関心と業務から得られる満足感がターミナルケア態度の涵養に重要である可能性がある.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to analyze the terminal care attitudes of healthcare members engaged in palliative care and the factors associated with these attitudes. Methods: We conducted a survey for healthcare members engaging in palliative care including oncologists and palliative care doctors using the Japanese version of the Frommelt Attitudes Toward Care of the Dying (FATCOD B-J), a scale that measures the attitude of medical stuff toward the care of dying patients. Results: A total of 223 (response rate=42.2%) responses were obtained and analyzed. Multiple regression analysis using the FATCOD B-J total score as the objective variable showed that 30s had lower partial regression coefficients than 40s (−3.8). Higher “satisfaction from work” and “interest in palliative care” were associated with greater partial regression coefficients (+5.7, +6.2). Conclusion: A sense of satisfaction and interest in palliative care may be important to cultivate terminal care attitudes among health care providers involved in palliative care.

緒言

がん患者の抱える苦痛は身体的苦痛,精神的苦痛,社会的苦痛,スピリチュアルな苦痛に代表され,世界保健機関が2002年に公表し緩和医療学会が定訳を作成した緩和ケアの定義1では,患者だけでなく家族も対象に含めている.患者・家族の幅広い苦痛に対応するためには医師だけでなくさまざまな職種の介入が有効であり25,看護師,薬剤師,メディカルソーシャルワーカー,リハビリテーションスタッフなど多くの職種が患者・家族と関わりを持っている.

がん治療・緩和ケアに対する改善点・要望について,遺族調査では医療スタッフに関するものが最も多く,「患者とのコミュニケーションを充実させてほしい」が最も割合が高いこと,優先度は違うものの患者も同様の希望を持っていることが報告されている6.遺族の心に深く残る体験には施設で受けたいたわりや思いやりの態度を多く感じていることが関連しており7,患者の死亡時に部屋の外で医療スタッフ間の会話を耳にすることが遺族にとって強い苦痛の要因になっている報告8があることからも,医療スタッフの態度は患者・遺族にとって大きな影響を与える.

医療者の態度が患者・家族に影響を与える一方,死にゆく患者との関わり方には難しさがあり,良好なコミュニケーションの阻害につながる9.緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度とそれに関連する要因を明らかにすることは,医療提供者の教育や支援体制構築への示唆につながると考える.

医療提供者のターミナルケア態度について定量的に測定可能な尺度が開発されており,Frommelt Attitude Toward Care Of Dying Scale Form B日本語版(FATCOD B-J)10を用いた調査が多く報告されている.看護師11やグループホーム職員12,看護学生1315,薬剤師16,17などさまざまな職種について報告されているが,施設横断的に複数の職種で調査した報告は限られている.また,医師についてはがん治療医と緩和ケア医の立場の違いによるコンサルテーションの難しさが生じる場合があるため18,死にゆく患者への態度の違いを明らかにすることは相互理解につながり,円滑なコミュニケーションの推進に役立つことが期待されるが,がん治療医と緩和ケア医に分けて調査した報告は見当たらない.

本研究ではがん治療医と緩和ケア医をはじめとする緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度の実態とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とした.

方法

研究対象者と調査方法

厚生労働省が指定する北海道内の都道府県がん診療連携拠点病院,地域がん診療連携拠点病院,地域がん診療病院,および北海道が独自に指定する北海道がん診療連携指定病院の計51施設19を調査対象施設とした.各施設の緩和ケア担当者宛に研究協力依頼文を郵送した.研究協力依頼文では「がん治療医および緩和ケア医(緩和ケアチーム,緩和ケア病棟,緩和ケア外来などに1年以上従事している)」および「緩和ケア(緩和ケアチーム,緩和ケア病棟,緩和ケア外来など)に1年以上従事している薬剤師,看護師などの緩和ケアスタッフ」に研究協力依頼文,質問紙,返信用封筒の一式を配布するよう依頼した.各施設に研究協力依頼文,質問紙,返信用封筒の一式を配布先の配分について明記せずに,医師向けは6セット,メディカルスタッフ向けは4セット同封して郵送した.著者らの所属する北海道大学病院においてはがん診療を行っている診療科に他施設と同様の文書一式を学内便で配布した.質問紙は返信用封筒による返送で回収した.2020年4月に各施設へ文書一式を郵送し,返送期間は1カ月を目途として2020年5月末で締め切った.

調査内容

1. 調査対象者の背景

調査対象者の背景として調査する項目は既報16,17を参考とし,「性別」,「年代」,「職種」,「業務への従事歴」,「死にゆく患者と接する機会の頻度」,「死にゆく患者と関わった人数」,「業務から得られる満足感」,「業務から感じる困難さ」,「緩和ケアへの関心」とした.医師向けの質問紙を付録図1に示す.医師以外のメディカルスタッフ向けの質問紙は「Q3, 主に行っている業務」を職種に置き換えて作成した.

2. ターミナルケア態度

ターミナルケア態度の測定はFrommelt Attitude Toward Care Of Dying Scale Form B日本語版(FATCOD B-J)を用いた.FATCODはFrommeltによって看護師の死にゆく患者に対するケア態度を測定するために開発された20.その後,医師やその他のメディカルスタッフでも使用可能なForm Bという形で改訂されたものが中井らによって翻訳され,信頼性・妥当性の確認が行われている10

30項目の質問で構成され1項目につき5件法で得点化する.総得点はさらに因子I[死にゆく患者への前向きさ],因子II[家族・患者を中心とするケアの認識],因子III[死の考え方]の下位尺度で構成され,それらに対する考えや感情が積極的になるほど得点が高くなる.因子III[死の考え方]は一つの質問項目のみで構成されており,開発者も使用を推奨していないことから本研究では用いなかった.総得点,因子I,因子IIの得点範囲はそれぞれ30~150点,16~80点および13~65点である.

統計解析

本研究の対象集団におけるFATCOD B-Jスコアの内的信頼性の確認のために因子I,因子IIに対してCronbachのα係数を求めた.回答者属性ごとのFATCOD B-Jスコアを2群間の比較にはt検定を3群以上の比較には分散分析を用いて解析を行った.FATCOD B-Jスコアの総得点に対する回答者属性の影響の強さを評価するため総得点を目的変数,回答者属性を説明変数として重回帰分析を行い,検定には尤度比検定を用いた.重回帰分析は回答数が少ない選択肢でほかの選択肢と統合が可能なものは統合して解析を行った.なお,有意水準はp<0.05として両側検定を行い,統計ソフトはJMP Pro 14®を使用した.

倫理的配慮

本研究は北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の承認を得て実施し,集計,分析において個人が特定されないように配慮した(自019-0174/自019-0175).研究の趣旨について依頼文上で説明し,回収をもって同意とした.

結果

529通を配布して223通回収した(回収率42.2%).回収した223通はすべて解析対象とした.回答者背景について表1に示す.医師については質問紙上で「主に行っている業務」について回答してもらい,「がん治療医(緩和ケアチームの一員)」と回答した者は緩和ケア医として解析を行った.また,「業務内容」について,医師で〈7. そのほか〉を選んだ回答者の業務内容は自由記載によるとホスピス医であったため,以後は緩和ケア医として解析した.Cronbachのα係数は因子Iで0.86,因子IIで0.69でありFATCOD B-Jの開発論文である中井らの報告(因子I0.73,因子II0.65)と同等以上であった.

表1 回答者背景

調査対象者の背景別FATCOD B-Jスコア

調査対象者のFATCOD B-Jスコアを表2に示す.FATCOD B-Jスコアは総得点,因子I,因子IIのいずれも職種間で有意な差があり,総得点が最も高かったのは看護師,次いで緩和ケア医であった.

表2 調査対象者のFATCOD B-Jスコア

調査対象者の背景を比較すると「業務への従事歴」,「業務から感じる困難さ」ではいずれのスコアでも有意な差はなかった.「性別」,「年代」,「死にゆく患者と接する機会の頻度」,「死にゆく患者と関わった人数」,「緩和ケアへの関心」は因子Iと総得点で有意な差があり,「職種」と「業務から得られる満足感」は因子I,因子II,総得点のすべてで有意な差があった.

がん治療医と緩和ケア医を比較すると総得点,因子I,因子IIのいずれも緩和ケア医のほうが高かったが,とくに因子Iで平均スコアの差が大きかった.

調査対象者の背景がFATCOD B-Jスコアに与える影響

FATCOD B-Jスコアのうち,総得点に対する調査対象者の背景の関連を評価した重回帰分析の結果を表3に示す.各説明変数の基準カテゴリーと比較して尤度比検定でp<0.05となったのは「年代」の〈30代以下〉で偏回帰係数は−3.8,加えて「業務から得られる満足感」の〈感じている〉で+5.7,「緩和ケアへの関心」の〈関心があり勉強している〉では+6.2であった.

表3 職種別重回帰分析

考察

本研究によりがん治療医と緩和ケア医およびメディカルスタッフを含めた緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度の実態が明らかとなった.

今回,複数の調査項目による交絡を調整していないFATCOD B-Jスコアの総得点が高い職種は看護師(122.4±8.3)と緩和ケア医(122.0±10.6)であった.看護師は既報の一般病院看護師(113.0.9±12.07)21や訪問看護師(117.78±11.14)11,緩和ケア病棟看護師(因子I62.8±7.4,因子II50.1±4.9)22と比較しても高い水準であった.日本看護協会の都道府県別緩和ケア認定看護師数23を見ると,調査対象施設がある北海道は東京都,神奈川県についで3位となっている.人口あたりで考えると北海道は緩和ケア認定看護師を取得する看護師が多く,看護師では緩和ケアが盛んであると考えられる.

FATCOD B-Jスコアの総得点に関連する要因を評価するため重回帰分析を行ったところ,「性別」,「職種」,「業務への従事歴」,「死にゆく患者と接する機会の頻度」,「死にゆく患者と関わった人数」,「業務から感じる困難さ」はカテゴリー間の偏回帰係数に有意差がみられなかったが,「年代」,「業務から得られる満足感」,「緩和ケアへの関心」では有意差がみられた.「業務から得られる満足感」は〈感じている〉,「緩和ケアへの関心」は〈関心があり勉強している〉群で偏回帰係数が上昇しており,既報22,24と同様の傾向がみられた.緩和ケアの知識や技術を身につけ実践することは質の高い緩和ケアにつながる.それらの体験で得られる満足感が緩和ケアに対する興味・関心を深め,さらなる知識や技術の習得というよい循環が生まれ,ターミナルケア態度の涵養につながることが推察される.

FATCOD B-Jスコアへの年齢の影響はさまざまな報告があり,総得点との関連が有意であるもの25と有意でないもの16,17,21,26が報告されている.総得点と年齢に有意な関連がみられなかったものでも年齢が上がるにつれて因子Iのスコアが上昇する傾向がみられていた.本研究では〈30代以下〉は〈40代〉と比較して偏回帰係数が有意に低く,下位尺度を見ると因子Iが30代以下と比較して40代で上昇しており,既報と同様の傾向がみられた.

本研究の結果では「年代」,「業務への従事歴」,「死にゆく患者と関わった人数」において偏回帰係数の増加が単純な直線性を示していない.一般病院勤務看護師では臨床経験はターミナルケア態度に関連しなかったとの報告21がある一方,訪問看護師においては「看取りの症例数」がターミナルケア態度の積極性に有意な関連があったという報告24があることから,一般病棟における臨床経験ではなく,直接的な看取りの経験がターミナルケア態度に影響している可能性がある.本研究では普段から直接患者を看取る医師,看護師に加え普段看取りを経験しない職種も対象にしており,経験の質的な違いを考慮できていないことで正しく評価できていない可能性がある.あるいは,死にゆく患者と直接関わる臨床経験がターミナルケア態度に与える影響は直線性を持たないことも考えられ,さらなる検証が必要である.

緩和ケア医とがん治療医の比較については緩和ケア医のほうがFATCOD B-Jスコアのうち,とくに因子Iのスコアが高い傾向がみられた.抗がん治療により治癒や生存期間延長を目指すがん治療医と,苦痛の軽減やQuality of Life(QOL)の向上に焦点をあてる緩和ケア医という立場の違いはあるものの,重回帰分析により交絡因子を調整して比較すると有意差はみられなかった.さらに,FATCOD B-Jスコアの総得点が最も高い職種は看護師だったが,重回帰分析の結果からはがん治療医と比較して偏回帰係数に有意差はみられず,その他の職種とも大きな差はみられなかった.本研究からは,職種や立場の違いよりも満足感や緩和ケアへの関心の高さのほうがターミナルケア態度への影響が大きいことが明らかとなった.また,困難さを感じることでターミナルケア態度の積極性が低下することを予想したが有意な影響はみられず,満足感というポジティブフィードバックのほうが大きく影響することが明らかとなった.今後はどのようなときに満足感を得られるかを調査することが,効率的にターミナルケア態度を高めていく方法論の確立に有用であると考える.

本研究の限界として,以下のものが挙げられる.横断研究であり因果関係は特定できない.調査協力者は緩和医療に積極的に取り組んでいる可能性があり,調査結果に影響した可能性がある.調査対象はがん診療連携拠点病院をはじめとするがん診療に関わる認定施設を幅広く選択したが,北海道のみの調査で地域性が影響している可能性があり,一般化には注意が必要である.調査対象者の背景調査の一部は著者らが作成した設問を含んでおり,回答しやすさを考慮して簡潔な表現を用いたため質問者バイアスには注意を要する.調査対象者のうちがん治療医は緩和ケアスタッフと異なり,従事して1年以上という適格基準を設けなかった.回収した質問紙に研修医の属性を選択したものはなく,結果として解析に影響しなかったと考えるが,経験年数の少なさによる交絡が入る可能性があった.

結論

緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度の実態が明らかとなった.緩和ケアに対して関心を持ち満足感を得られる成功体験が緩和ケアに携わる医療提供者のターミナルケア態度の涵養に重要である可能性がある.

謝辞

本研究の調査にご協力いただいた皆様に心より感謝を申し上げます.本研究は研究グループHOME(Hokkaido Team Oncology Meeting)の活動の一環として実施された.

利益相反

小松嘉人:講演料等(小野薬品工業株式会社,バイエル薬品株式会社,大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社),奨学(奨励)寄附金等(小野薬品工業株式会社,大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社),受託研究費(小野薬品工業株式会社,IQVIAサービスジャパン株式会社,国立開発研究法人国立がん研究センター,大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社)

そのほか:該当なし

著者貢献

熊井は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草を行った.加藤,小柳は研究データの収集,分析を行い,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.敦賀は研究の構想およびデザインについて貢献をし,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.伊藤は研究データの収集,分析,解釈について重要な貢献を行い,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.山田,武隈,菅原,川本,小松は研究データの解釈に貢献し,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 日本緩和医療学会
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