【目的】心不全患者と医療者の間で行われる人生の最終段階を意識した対話(EOLd)の現状と関連要因を明らかにする.【方法】京都大学医学部附属病院循環器内科で2015年4月から2020年3月に死亡した患者を対象に診療記録調査を行い,「予後説明」と「人生の最終段階の医療の話し合い」の有無と関連要因を検討した.【結果】109名中,予後説明は40名(36.7%),人生の最終段階の医療の話し合いは25名(22.9%)に実施されていた.予後説明の実施には,年齢(若年)・入院回数の多さ・緩和ケアチームの介入・人生の最終段階の医療の話し合いの実施が関連していた.人生の最終段階の医療の話し合いの実施には,性別(男性)・入院回数の多さ・心不全入院歴があること・緩和ケアチームの介入・予後説明の実施が関連していた.【結論】心不全患者のEOLdは重症および末期心不全患者を中心に行われている現状が示唆された.
Purpose: This study aimed to investigate the current status and related factors of End of Life discussions between heart failure patients and medical professionals. Method: We conducted a survey of medical records of patients who died between April 2015 and March 2020 in the Department of Cardiology, Kyoto University Hospital. We examined the presence or absence of discussions about prognosis and end-of-life care and their associated factors. Result: Of the 109 patients, prognosis was explained to 40 (36.7%) and discussion of end-of-life care was provided to 25 (22.9%). Age (younger), number of hospitalizations, palliative care team intervention, and end-of-life care discussions were associated with the prognostic explanations. Gender (male), number of hospitalizations, history of heart failure hospitalization, palliative care team intervention, and prognosis explanation were associated with the end-of-life care discussions. Conclusion: The study suggested that End of Life discussions in heart failure patients are currently focused on patients with severe and end-stage heart failure.
心不全はすべての循環器疾患における終末像といわれており,循環器領域における人生の最終段階の医療を議論するうえで中心となる病態である.心不全の5年生存率は約50%であり,乳がんや大腸がんの予後と比較しても不良である.さらに末期心不全(AHA/ACC分類ステージD)に進行すると5年生存率は約20%まで低下する1).心不全は治癒する疾患ではなく,増悪と寛解を繰り返し,徐々にQuality of Life(QOL)が低下し,やがて死に至る悪性の病態であるが,悪性新生物と比較して一般人における認知度は低い.そのため,患者自身が予後不良であることを認識できてないことが多い.また予後予測が難しいことや,患者の多くが病態の進行とともに認知機能が障害されること等の影響から,悪性新生物よりも患者医療者間における予後や死の可能性についてのコミュニケーションが複雑で困難である2).このような問題を抱える中,慢性心不全患者は感染や致死性不整脈の合併により急変することが多く,患者の意向が不明なまま最期を迎えることが少なくない.心不全は予後予測が難しく末期状態でも救命の可能性が残されているという疾患的特徴から,急変時は可能な治療はすべて行うという考えに至ることが多く,患者家族の望む人生の最終段階の医療が実施できていないという問題が指摘されている2).
循環器領域において,人生の最終段階の医療に関する患者家族の意思決定を支援するには,心不全発症早期から,心不全の病みの軌跡について理解を促し,意思決定能力が低下する前から,前もって人生の最終段階の医療に関する話し合いを始めることが望ましいといわれている3,4).また厚生労働省から2018年に発行された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(以下,プロセスガイドライン)」には,医療従事者からの適切な情報提供と説明に基づいて,医療・ケアを受ける本人が医療・ケアチームと十分な話し合いを行い,本人による意思決定を基本としたうえで,人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要であると述べられている5).だが現在の循環器領域では,予後予測の困難さや,介入時期の遅れにより,十分な説明と話し合いのもとに意思決定を行うという適切なプロセスを経ることができていない6).
循環器領域における人生の最終段階の医療の意思決定支援に関する研究は萌芽期にあり,わが国において心不全患者の人生の最終段階の医療に関する意思決定支援の現状を量的に検証した研究は存在しない.心不全患者の人生の最終段階の医療に関する意思決定支援の在り方を検討するためには,量的な研究による現状調査が必要であると考える.今回,心不全患者の人生の最終段階を意識した対話(End of Life discussion:以下,EOLd)の現状として,患者に対する予後説明の実施状況と,患者を含めた人生の最終段階の医療の話し合いの実施状況を明らかにし,その関連要因を同定することを目的に,診療記録を用いた後方視的観察研究を行った.
本研究では,プロセスガイドライン5)と循環器疾患における末期医療に関する提言7)および心不全患者の在宅看取りを扱うクリニックで使用されているリビングウィル調査票2)を参考に,次の用語の定義を独自に作成した.
予後説明:プロセスガイドラインにおける「医療従事者からの適切な情報提供」を予後説明と解釈し,本研究では患者に対する医療従事者からの生命の危機とその可能性に関する適切な情報提供と定義する.なお,予後説明は①年単位・月単位などの期間を用いた予後予測の説明,②末期・終末期などの言葉を用いた予後予測の説明,③増悪期における急変および安定期における突然死のリスクの説明,④心不全の病みの軌跡を用いた病期(AHA/ACC心不全ステージ分類)の説明の四つの項目に分けられる.
人生の最終段階の医療の話し合い:プロセスガイドラインにおける「医療・ケアを受ける本人と医療・ケアチームとの十分な話し合い」を人生の最終段階の医療の話し合いと解釈し,本研究では患者と医療・ケアチームとで行われる死が避けられない状況を想定した医療に関する話し合いと定義する.なお,話し合いの内容は,①心肺蘇生,②侵襲的人工呼吸器管理,③補助循環装置,④人工透析,⑤電気的除細動,⑥植え込み型除細動機能の作動と停止,⑦昇圧剤,⑧鎮痛鎮静,⑨非経口的栄養管理,⑩ICU入室の10項目の医療行為および,⑪代理意思決定者,⑫末期における療養場所,⑬人生の最終段階における看取りの場所の全13項目に分けられる.
End of Life discussion(EOLd):予後説明と人生の最終段階の医療の話し合いから構成される患者と医療者の間で行われる人生の最終段階を意識した対話と定義する.
対象と期間調査対象は,京都大学医学部附属病院循環器内科(以下,当科)で,「心不全」で病名登録されている患者のうち,2015年4月から2020年3月に死亡した患者とした.除外基準として,①BNP40以下もしくは医師カルテに心不全の記載のない患者,②当科に入院歴および通院歴のある患者のうち意思決定能力が明らかに欠如している状態が過去5年以上持続している患者,③過去5年以内に当科での入院歴および通院歴がない患者のうち最終入院時に意思決定能力が欠如している患者,④がんにより生命予後が規定された患者とした.なお,診療記録調査を実施した研究者3名で審議のうえ,気管挿管中,意識障害,せん妄,脳血管疾患,認知症により「認知症高齢者の日常生活自立度」ランクIII以下相当と判定された患者は,意思決定能力の欠如を有すると判断し除外対象とした.また,心不全との関連性なくがんにより生命予後が規定された患者は,心不全の病みの軌跡を明らかに逸脱した患者であると判定し除外対象とした.
診療記録からの情報収集方法プロセスガイドライン5)および循環器疾患における末期医療に関する提言7)を参考に,独自に作成した診療記録調査票を使用して電子カルテから診療記録の調査を行った5,7).診療記録調査票および診療記録調査マニュアルの作成は人生の最終段階にある心不全患者に対するケアの経験を有する看護師3名で行い,循環器内科医師および慢性心不全看護認定看護師,緩和ケア看護学分野教員のスーパーバイズを受けて作成した.調査項目はプロセスガイドライン5)で推奨されている「医師等の医療従事者から適切な情報提供と説明がなされ,それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い,本人による意思決定を基本としたうえで,人生の最終段階における医療・ケアを進める」という適切なプロセスに沿った手順で人生の最終段階の医療が実施されているか否かを把握することを目的に設定した.項目は(1)患者背景(年齢,性別,心不全の原因となる基礎疾患,入院回数,最終入院日数,緩和ケアチーム(以下,PCT)介入の有無,同居家族の有無),(2)予後説明の有無,(3)人生の最終段階の医療の話し合いの有無とした.本調査に先立ち5名の患者を対象に予備調査を行い,診療記録調査票および調査マニュアルの精度を高めたのちに,本調査を実施した.
解析の概要心不全患者のEOLdの実施状況として,予後説明の有無,人生の最終段階の医療の話し合いの有無について記述統計を求めた.記述統計において,「予後説明」および「人生の最終段階の医療の話し合い」の有無に関しては,定義に挙げた内容の1項目以上に関する説明および話し合いを実施した場合に「有」と集計した.また予後説明の有無,人生の最終段階の医療の話し合いの有無と,患者背景との関連をt検定またはカイ二乗検定で解析した.なお,疾患の種類は多岐に渡るため関連要因の検討には含めなかった.有意水準は0.05とした.解析にはIBM SPSS Statistics ver.27(日本IBM,東京)を用いた.
倫理的配慮研究内容は京都大学大学院医学研究科・医学部および医学部附属病院医の倫理委員会で承認され(no.R242-3),「ヘルシンキ宣言」と「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づき実施した.
調査対象期間中に当科で死亡した患者は152名であった.そのうち,①当科に入院歴および通院歴のある患者のうち意思決定能力が明らかに欠如している状態が過去5年以上持続している患者2名,②過去5年以内に当科での入院歴および通院歴がない患者のうち最終入院時に意思決定能力が欠如している患者38名,③がんにより生命予後が規定された患者3名,計43名を対象から除外し,今回の調査対象者は109名となった.
表1に対象者109名の患者背景を示す.平均年齢は76.8±16.8歳,男性66名(60.6%)で,心不全の原因となる基礎疾患は虚血性心疾患40名(36.7%),弁膜症20名(18.3%),心筋症15名(13.8%)などであった.入院回数は平均4.8回(範囲1–31回),最終入院日数は平均50.7日(範囲1–1335日)で,過去に心不全での入院歴がある患者が74名(67.9%),PCTの介入がされていた患者が35名(32.1%)であった.約8割の患者が家族と同居していた.
心不全患者のEOLdの実施状況として,患者に対する予後説明の実施状況と,患者との人生の最終段階の医療の話し合いの実施状況(表2)を示す.109名の対象者のうち,患者に対して予後説明が行われた患者は40名(36.7%),患者との人生の最終段階の医療の話し合いが行われた患者は25名(22.9%)であった.また,予後説明と人生の最終段階の医療の話し合いが両方とも行われた患者は23名(21.1%),予後説明のみが行われた患者は17名(15.6%),人生の最終段階の医療の話し合いのみが行われた患者は2名(1.8%)であった.予後説明と人生の最終段階の医療の話し合いの詳細な項目の実施状況は表2の通りである.
表3に予後説明の実施状況と関連要因を示す.予後説明の実施状況には,患者の年齢,入院回数,PCT介入,人生の最終段階の医療の話し合いの4項目が有意に関連していた.年齢は予後説明なし群の平均79.9歳に対して予後説明あり群では平均71.4歳と若く,入院回数は予後説明なし群の平均3.4回に対して予後説明あり群では平均5.6回と多かった.また,PCT介入があった患者35名中予後説明あり群は22名(62.9%)であったのに対し,PCT介入がなかった患者74名中予後説明あり群は18名(24.3%)であり,PCT介入のあった患者で多くの予後説明が実施されていた.同様に,人生の最終段階の医療の話し合いがあった患者25名中予後説明あり群は23名(92.0%)であったのに対し,人生の最終段階の医療の話し合いがなかった患者84名中予後説明あり群は17名(20.2%)であり,人生の最終段階の医療の話し合いがあった患者で多くの予後説明が実施されていた.
表4に人生の最終段階の医療の話し合いの実施状況と関連要因を示す.人生の最終段階の医療の話し合いの実施状況には,患者の入院回数,性別,心不全入院歴,PCT介入,予後説明の5項目が有意に関連していた.入院回数は話し合いなし群の平均3.5回に対して話し合いあり群では平均6.7回と多かった.また,男性66名中話し合いあり群は20名(30.3%)であったのに対し,女性43名中話し合いあり群は5名(11.6%)であり,男性に対して人生の最終段階の医療の話し合いがより多く実施されていた.同様に,心不全入院歴のある患者74名中話し合いあり群は23名(31.1%)に対し,心不全入院歴のない患者35名中話し合いあり群は2名(5.7%),PCT介入があった患者35名中話し合いあり群は18名(51.4%)に対し,PCT介入がなかった患者74名中話し合いあり群は7名(9.5%)であり,心不全入院歴のある患者とPCT介入があった患者で人生の最終段階の医療の話し合いがより多く実施されていた.また,予後説明があった患者では40名中23名(57.5%)と過半数の患者に人生の最終段階の医療の話し合いも実施されていたが,予後説明がなかった患者では69名中2名(2.9%)とほとんど実施されていなかった.
当科における心不全患者のEOLdの現状を調査した結果,109名の対象者のうち,予後説明は40名(36.7%),人生の最終段階の医療の話し合いは25名(22.9%)の患者に行われていた.この結果からは,心不全患者のEOLdは十分に行われているとは言い難い現状がうかがえる.心不全患者の予後告知に対する看護師の認識調査では,看護師は予後告知が本人に与えるショックへの懸念から,多職種チームが予後に関する話し合いを患者と行うことに慎重であることが明らかにされている8).一方で,心不全患者の終末期に対する医師と看護師の認識調査では,医師・看護師ともに90%以上が事前指示の検討を行うべきであると回答している9).このことから,医師と看護師は人生の最終段階の医療の話し合いを患者と行うべきと考える一方で,患者への精神的な侵襲を考慮して予後説明には慎重な姿勢を取っていると言え,本調査の結果もそのような医療者の意識を反映していると考えられる.しかしながら,本調査において予後説明の実施と人生の最終段階の医療の話し合いの実施には関連が認められ,予後説明がなかった患者のうち人生の最終段階の医療の話し合いが行われたのは2名(2.9%)のみであった.心不全は増悪と寛解を繰り返すという疾患の特徴上,患者家族は回復への期待が強く,エンドオブライフケアに関して現実的な検討ができないことが指摘されている10).このことから,患者との人生の最終段階の医療の話し合いを推進するには,まずは医療者からの予後説明を通して,予後を含めた患者の病状理解を深める必要があると考えられる.しかしながら,予後説明は患者にとって精神的な侵襲となる恐れがあるため,精神的侵襲に配慮した生命予後の伝え方を検討する必要がある.本研究では患者に対する予後説明は「急変や突然死のリスク」という表現で実施されていることが最も多く,次に「期間を用いた予後予測」の説明が多かったが,具体的な数値や期間を用いた予後説明は侵襲性が高いといわれている11).一方で「病みの軌跡を用いた病期の説明」は1件のみであったが,心不全患者とEOLdを行うためには,心不全の特徴的な病期・軌跡を患者と共有することが重要であり2,12),今後は発症早期から心不全の病期や軌跡,そして将来的な生命の危機の可能性を共有しておくことでEOLdに対する患者の準備性を高める必要があると考える.「2021年改訂版循環器疾患における緩和ケアについての提言」では,日本の心不全患者の実情を想定したEOLdの方法が提案されており,予後の話を行う前に患者の病状理解や医学的情報に対するニーズを尋ねることで話の内容を調整することや,予後の話をする際は「患者の希望を支持しながらも起こりうる最悪の事態に備える」といった表現を用いることが提案されている13).このような提言を参考に,患者の病期やEOLdに対する準備状態に合わせ,精神面に配慮しながらも万が一の場合を想定した準備を行えるような説明を行うことが望ましいと考える.
患者との人生の最終段階の医療に関する話し合いでは,25名全例で「治療内容」について話し合われていた.一方で「代理意思決定者」の話し合いが行われていたのは4名(3.7%)のみであった.臨床ではキーパーソンが医療者からの病状や治療に関する説明を聞くため,「キーパーソン=代理意思決定者」として扱われることが多い.しかし,人生の最終段階の医療を考えるうえで代理意思決定者とは「本人の意思を推定しうる者」であり5),EOLdを行う中で代理意思決定者についての患者自身の希望や認識を改めて確認しておくべきであると考える.
予後説明の実施は年齢との関連が認められ,年齢が若いほど多くの予後説明が行われていた.本調査の対象者は平均76.8歳と高齢者が中心であり,認知機能低下がEOLdを阻害する要因となった可能性がある.本調査と同様に心不全患者は約70%が75歳以上の後期高齢者であり,今後も高齢心不全患者の急増が予測されている.そのため心不全患者においても,認知機能低下に備えた早期からのEOLdの検討や,認知機能低下のある患者に対して残存する意思決定能力の評価を適切に行い,患者個々の能力に応じたEOLdの在り方を検討するなど,認知機能の低下した患者への意思決定支援の考え方を取り入れる必要があると考える.
入院回数の多さとPCT介入が行われていることは,予後説明と人生の最終段階の医療の話し合いの両方で関連要因として抽出された.当院のPCTは,緩和医療専門医および看護師を中心に構成されており,2018年4月に緩和ケア診療加算の対象疾患に末期心不全が追加されたことを機に,心不全患者への介入も積極的に行われるようになった.PCTの役割は身体および精神的苦痛の緩和やEOLdの支援など多岐にわたるが,当科におけるPCT介入は主科で緩和困難な身体症状への対応を主としており,診療加算の対象となる末期心不全の基準に相当する患者を中心に介入が実施されている.そのような患者では,容態急変時の対応を事前に確認するためにEOLdが行われ,その際に苦痛緩和目的でのPCT介入が選択肢として提示されることが多い.そのためEOLdとPCT介入の関連がみられたと考えられる.また,当科のPCT介入が,末期心不全の基準に相当する患者を中心に行われていることや,末期心不全の基準の一つとして「半年以内の心不全再入院」が挙げられることから,入院回数の多さとPCT介入は,いずれも重症心不全や末期心不全に関連した指標であるといえる.このことから,心不全患者のEOLdは,重症および末期心不全患者を中心に行われている現状が示唆される.しかしながら,心不全患者では重症および末期心不全に限らず,致死性不整脈による突然死や心不全の急性増悪による突然の意思決定能力の喪失が起こりえる.心不全患者に対する緩和ケアの紹介基準に関するコンセンサスは未だ得られていないが14),緩和ケアが早期介入することによって,患者や家族が最後の日々をどう過ごすかの決断に参加する機会を提供することが可能となることが示唆されている15).また,緩和ケアの介入はQOLの向上や入院回数の減少など心不全患者にとっての有効性が示唆されている16).そのため重症や末期からではなく,心不全発症早期から緩和ケアを導入し,突然の人生の最終段階への移行に備えたEOLdを実施するための体制や具体的な方法を今後検討する必要があると考える.
本研究の限界としては,診療記録調査のため,診療記録には残されていないがEOLdが行われていたケースが存在し,実際にはより多くのEOLdが行われていた可能性がある.また疾患が多岐にわたり関連要因の検討が難しかったことや,大学病院での単施設調査であるため一般化には限界があることが限界として挙げられる.さらに本調査では,EOLdについてガイドライン等を参考に項目を設定し調査を行ったが,並存疾患等の関連因子として考えられる患者情報の追加や,項目の妥当性について検討が必要である.現在日本では,心不全緩和ケアのquality indicatorを策定する取り組みが行われており17),それらを参考に,より妥当で客観的な評価指標を用いた研究が望まれる.また,EOLdの関連要因であるPCT介入は,それ自体がバイアスの一因である可能性があり,PCTの活動実績を踏まえたより正確な解析が必要である.
心不全患者のEOLdの現状が明らかとなった.予後説明の実施には,年齢(若年)・入院回数の多さ・PCTの介入・人生の最終段階の医療の話し合いの実施が関連していた.人生の最終段階の医療の話し合いの実施には,性別(男性)・入院回数の多さ・心不全入院歴があること・PCTの介入・予後説明の実施が関連していた.心不全患者のEOLdは重症および末期心不全患者を中心に行われている現状が示唆された.今後は,心不全患者との適切なEOLdの検討と推進,また信頼性・妥当性が検証された調査票での大規模な調査が求められる.
本研究にご協力いただいた患者様に心より御礼申し上げます.
本研究は,京都大学医学部附属病院看護部の「看護研究助成金制度」により実施した.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
臨床研究の実施にあたり,利益相反については,「京都大学利益相反ポリシー」「京都大学利益相反マネジメント規程」に従い,「京都大学臨床研究利益相反審査委員会」の審査を受けた.
大上は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの収集,分析および研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.今村は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの収集,分析および研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.八木は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.井上,門は,研究の構想もしくはデザインおよび原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.加藤は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.白井は,研究の構想もしくはデザインおよび研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.