Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
心不全患者に対する退院前段階における多職種Webカンファレンスの実施報告
相木 佐代 安部 晴彦吉村 麻美柿本 由美子交久瀬 綾香田中 奈桜西薗 博章河瀬 安紗美安井 博規
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2022 年 17 巻 3 号 p. 105-108

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Abstract

【目的】当院では,心不全患者の病診連携の強化,およびシームレスな支援体制を目指して多職種Webカンファレンスを実施している.この取り組みについて報告する.【方法】Web会議ツールを用いた多職種カンファレンスの開催概要を後ろ向きにデータを収集しその概要を記述する.【結果】主な対象者は,独居で介護力が不十分,かつ,再入院の予防目的に多職種介入ニードの高い症例とした.多職種Webカンファレンスでは,匿名性に配慮し,退院における課題と問題解決のための方策を共有していた.開催時期は退院が具体化する前段階とし,開催頻度と時間は週1回30分とした.参加職種は循環器内科医,看護師,薬剤師,理学療法士,管理栄養士,緩和ケア医,およびプライマリ・ケア医(以下,PC医)である.循環器スタッフは,患者の病態や診療方針を共有しつつ,多面的なチェックシートを用いて,課題の明確化を行う.緩和ケア医は,価値観に基づいた療養計画や意思決定支援について,PC医は,再入院予防に必要な在宅サービス,薬剤調節,生活指導について提案している.【考察】今後は現行の多職種Webカンファレンスの実施方法に改良を加えることや,同カンファレンスの意義についての客観的評価を行うことが課題である.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to report on the multidisciplinary web conferences for patients with heart failure to strengthen medical collaboration and provide seamless support. Method: We described and analyzed the web conferences by retrospectively collecting data on the conferences. Result: Main subjects of the conferences were those who lived alone and had inadequate nursing care, and those to whom the intervention of multidisciplinary professionals needed to be strengthened to prevent readmission. Using web conferencing tools, we shared issues and solutions for discharge with considering the anonymity of the patient’s personal information. The conferences were held once weekly for 30 minutes when the patients were in the stages of preliminary discharge planning. Participating physicians and healthcare professionals included cardiologists, nurses, pharmacists, physical therapists, nutritionists, palliative care physicians, and home doctors. The cardiology staff used a multifaceted checklist to clarify issues while sharing the patient’s condition and treatment plan. The palliative care physicians made suggestions about value-based treatment plans and decision support, and the home doctor made suggestions about home services, drug adjustment, and lifestyle guidance necessary to prevent readmission. Discussion: Further improvement in the web conferences and evaluation on the effect of the conferences are needed.

緒言

日本では,高齢化に伴い心不全患者が年間1万人以上増加している1,2

介護者も高齢となる中で,心不全患者に適切なケアを提供し,その生活を支えていくためには,病院循環器内科医とプライマリ・ケア医(以下,PC医)との連携だけでなく,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)・Quality of Life(QOL)・家族ケアを専門とする緩和ケアスタッフとの連携が重要である3

しかし,在宅療養への移行において,病院と地域のスタッフが直接話し合う機会は少なく,相談体制が整っていないほか,互いが重要視する患者情報や所見が異なるため,適切なケアが継続されていないのが現状である4

そこで,厚生労働省は,①医療者と患者・家族が,病状と患者の意向や価値観等を十分に共有・理解し,生活管理をサポートすること,②緩和ケアや循環器疾患に関する専門的な相談が可能な連携体制や地域での支援体制やネットワークづくりを行うこと,が必要かつ重要であるとの提言を行った5

以上のことから,患者を包括的にサポートし,QOLを改善させることを目標として,①顔の見える関係を構築し,病診連携を強化すること,②心不全患者をシームレスに支援すること,を目的に,PC医を交えて,退院を検討する前段階において心不全患者に対する多職種Webカンファレンス(以下,CF)を実施することとした.以下に,その活動内容について報告する.

方法

Web会議ツール(Zoom®)を使用し,毎週木曜日16時10分より30分間,匿名性に配慮しながら,後述のチェックシートを用いて,主に⑥,⑦,⑫,⑬の項目を中心に,対象患者1名について,課題と問題解決のための方策を共有・検討している.

対象患者の選択基準

退院が具体化する前段階にあり,かつ(a)または(b)に該当する患者

  • (a) 独居で介護力が不十分である,服薬や食事制限のアドヒアランスが不良であるなど,再入院の予防目的に多職種の介入強化を要する症例
  • (b) 本人や家族の病状理解に乖離がある,治療方針の希望に差異があるなど,侵襲性の高い治療や療養場所の選択に向けた意思決定支援が必要な症例

参加職種

循環器内科医(指導医と担当医),病棟看護師,病棟薬剤師,心臓リハビリ理学療法士,病棟栄養士,緩和ケア医(訪問診療経験あり),PC医(院外参加者・循環器専門医)

うち,循環器内科指導医,緩和ケア医,PC医は固定メンバーである.

開催までの準備

上記基準を満たす患者1名を病棟看護師が選択し,病歴および論点を前々日までに参加者にメールで連絡する.

緩和ケア医,PC医は遠隔参加し,そのほかの参加者は,病棟CF室から参加する.循環器内科指導医が,チェックシートを当日までに電子カルテ上に作成し,緩和ケア医とPC医には,ZoomアクセスURLとともにメールで送付する.なお,院外参加者であるPC医にはすべて匿名化して送信している.

主な議題内容

  • ・服薬アドヒアランスが不良な患者の薬剤管理方法
  • ・病識が乏しい患者の体重や食事管理への介入方法
  • ・嗜好品を止められない患者の治療・療養のゴール設定
  • ・自宅環境や介護力が乏しい中で,在宅療養を継続するために必要な項目
  • ・身寄りのない患者のACPを早期から行うための,声掛けの方法とタイミング
  • ・患者や家族が楽観的で,重症度を医療者と共有できず,療養の協力が得られないときの関わり方

チェックシート項目

  • ①既存心疾患と心不全増悪の要因
  • ②入院時の初期病態と治療
  • ③併存疾患
  • ④内服薬
  • ⑤治療経過と現在の全身状態(バイタル,体重)
  • ⑥家族背景(家族との関係性,家族の認知機能や介護能力)
  • ⑦生活歴(飲酒量や依存度,食事内容と食事量,嗜好)
  • ⑧基礎心疾患の精査状況
  • ⑨併存疾患の管理状況
  • ⑩薬物療法の十分性の確認
  • ⑪侵襲的治療の適応の有無
  • ⑫患者教育のゴール設定と具体的方策(心不全管理帳の配布の有無,増悪因子管理の指導内容や指導相手の確認,ADL評価と心臓リハビリ指導の要否,認知機能評価,介護認定の要否,療養場所の意向,栄養状態(Geriatric Nutritional Risk Index),服薬アドヒアランス,感染予防指導の要否,増悪時の症状と対処方法の指導の要否)
  • ⑬ACPのための価値観の共有(趣味や嗜好品に対する要望の強さ,療養場所へのこだわり,治療選択に関わる宗教理念や価値観の有無)

各職種の視点

各職種は下記項目を中心にコメントする.最初の5分間で循環器内科担当医が病歴と課題を述べ,同科指導医が平易な言葉で要約した後,1分間ずつで多職種がそれぞれコメントし,残り20分間で緩和ケア医,PC医からの質問を交えながら議論を深める.司会進行は指導医が行う.

  • (a) 循環器内科医:病歴,病状の概要,今後の見立てと方針
  • (b) 看護師:生活状況や介護必要度
  • (c) 薬剤師:服薬アドヒアランス,薬剤への理解度と管理能力
  • (d) 理学療法士:歩行や日常動作の到達状況,心負荷とのバランス
  • (e) 栄養士:本人の嗜好,栄養状態,調理介助や栄養指導の要否
  • (f) 緩和ケア医:本人の嗜好,生活習慣,価値観を踏まえた,療養計画の実現可能性.意思決定支援を見据えた,本人や家族への意向の尋ね方やタイミング
  • (g) PC医:再入院を防ぐために必要な在宅サービス,薬剤調節,生活指導

結果

当初は接続トラブルもあったが,現在は速やかに別のアクセスURLを送付し対処している.原則週1回の開催を予定しているが,祝日や該当患者なし等の事由もあり,本CFの開催回数は,2021年6月から始まり,2022年2月末時点で計28回であった.各職種の参加状況については,あらかじめ曜日と時間を固定にすることで,事前に業務調整することが可能となり,すべての職種が参加できている.Web会議ツールを用いることにより,移動の負担や接触リスクを考慮する必要がなく実施可能である.

なお,本CFの目的であった①顔の見える関係の構築と病診連携を強化,②心不全患者のシームレスな支援,および最終目標である患者のQOLの改善については,固定メンバー以外の参加者が流動的であることや,転医となる症例もあることから,数値的な調査や比較対照調査での評価はできていない.ただし,参加者へのインタビューを行ったところ,「多職種で多様な視点から直接有意義な議論ができている」「退院に課題があるとき,まずはPC医に相談してみようと思うようになった」「病院職員が,退院後の生活を想像しながら方針決定していることが実感できた」などの声が聞かれた.なお,継続にあたり改善すべき点の指摘はなかった.

考察

本CFは,実施の有無による客観的な比較評価ができておらず,その意義については推測の域を脱しない.しかし,開催にあたり,先行研究で得られた心不全患者における連携課題を念頭に,問題解決につながるよう,参加を要請する職種や議題を検討し,継続可能な方法を模索しており,インタビュー結果からも,本CFの目的①,②につながると期待され,今後も継続が可能と考えられる意見が聞かれた.

先行研究では,PC医は患者・家族への教育内容,入院の相談基準,介護サービスの利用や生活環境,ACPに関する情報を求めているにもかかわらず,病院循環器内科医からの情報提供は乏しいことが指摘されている4.そこで,循環器内科担当医には,実際の退院前CFで教育内容と入院基準を情報提供するよう,本CFを通じて提案するとともに,在宅療養に必要な情報を網羅的に提供できるよう,チェックシートを用いて多職種間で共有する時間を設けた.一方,病院循環器内科医と循環器内科を専門とするPC医は,心不全入院の減少と死亡率の改善を第一優先目標とし,適切な治療の継続と体重管理や身体機能の評価を重要視していたものの,非専門のPC医では重要視されていなかったことから4,循環器内科医とPC医の双方の視点を持つ医師が本CFのメンバーに加わることで,循環器内科医としてPC医に強調して依頼しておくべき内容を提示するとともに,PC医としての視点から在宅スタッフが求める情報や改善点について補完することとした.加えて,とくにACPに関する情報については半数以上のPC医が情報提供を希望していたことから4,ACPやそれに関わる家族ケアの経験に富む緩和ケア医が本CFに加わることで,退院までに患者・家族と相談や共有しておくべき話題を提示し,より問題解決に即したCFとなるよう努めた.

なお,本CFのように在宅療養を前提としている参加メンバーの選定にあたっては,少なくとも参加メンバーのうち1名は,在宅療養の実情を知りうる経験を持つ者が望ましいと考える.また,地域スタッフは,循環器内科担当医と非専門のPC医との懸け橋になることを期待して,双方の視点を持つ循環器専門医資格を有するPC医の方が,より実情に即した提案が得られるかもしれない.

結論

本CFは,院内の多職種だけでなく,地域スタッフとの連携も強化し,患者・家族のQOL向上を最終目標として,継続していきたいと考えている.今後は特定の医療機関だけでなく,症例勉強会などを通して地域間で方針を共有できるよう試みるとともに,本CFの客観的な評価として,患者のQOL評価や,介入の有無による再入院時の重症度比較等を行っていく必要があると考える.

謝辞

本カンファレンスの開催について,承認・指導いただいている循環器内科上田恭敬先生,および本報告作成にあたりご指導いただいた緩和ケア内科前倉俊也先生に深謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

相木は,研究の構想もしくはデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.安部は,研究の構想もしくはデザイン,研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.吉村,柿本,交久瀬,田中,西薗,河瀬,安井は,研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 日本緩和医療学会
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