【目的】緩和ケアチームで介入する患者の栄養学的問題点を明らかにし,緩和ケアチームにおける管理栄養士介入の効果を調査する.【方法】緩和ケア診療加算・個別栄養食事管理加算を算定した症例を後ろ向きに調査し,①介入時の栄養学的問題点と介入内容,②Verbal Rating Scale(VRS)で評価した介入前後の食に関する苦悩,③エネルギー摂取量を調査した.【結果】患者年齢(中央値)66歳,①介入時の栄養学的問題点は「エネルギー摂取量不足」56例,介入内容は「食事形態変更」53例と最も多く,②食に関する苦悩はVRS(中央値)3から2へ改善し,③エネルギー摂取量は753 kcal±552 kcalから926 kcal±522 kcal/日と有意に増加(p<0.01)した.【考察】緩和ケアチーム管理栄養士の介入は,食事に関する苦悩を軽減させ,エネルギー摂取量を増加させる一つの要素になる可能性が示唆された.
Objectives: The purpose of this study was to investigate nutritional problems in cancer patients and effectiveness of Palliative Care Team Dietitians. Methods: We retrospectively surveyed cancer patients who received the nutrition support. We evaluated (1) nutritional problems and the details of nutrition support from Palliative Care Team Dietitians at the start of our intervention, (2) the degree of “Eating-related Distress” before and after our intervention using the Verbal Rating Scale (VRS), and (3) energy intake. Results: Patient age (median) was 67 years, (1) “Insufficient energy intake” was the most common nutritional problem at the start of our intervention (56 cases) and “arrangement of meal forms” was the most common intervention(53 cases), (2) dietary difficulty improved in VRS (median) 3 to 2, and (3) energy intake was increased from 753±552 kcal to 926±522 kcal/day (p<0.01) after our intervention. Discussion: The results suggested that Palliative Care Team Dietitians intervention could reduce dietary distress and increase energy intake.
がんは日本人の死因第1位の疾患であり1),「日本人の2人に1人ががんになる」という生涯リスクが示された2).「がん対策基本法」に基づき定められる「がん対策推進基本計画」において,緩和ケアは重点的に取り組むべき4課題の一つであることが示されており,「がん患者とその家族が可能な限り質の高い生活を送れるよう,緩和ケアが,がんと診断されたときから提供されるとともに,診断,治療,在宅医療など,さまざまな場面で切れ目なく実施される必要がある」3)と明記されている.がん薬物療法や放射線療法などがんの治療に伴う食事摂取量の低下や体重減少などの栄養障害は生活の質(以下,Quality of Life: QOL)を低下させるだけでなく,有害事象の発現率増加,そしてがん治療の完遂率にも影響を及ぼすことが報告されており4–7),栄養介入もがんと診断されたときから行われるべきである.
2018年度診療報酬改定では,緩和ケア診療加算を算定しているがん患者について,緩和ケアチームに管理栄養士が参加して患者の症状や希望に応じた栄養食事管理を行った場合に,個別栄養食事管理加算が上乗せできることになった8).がん治療中の栄養管理に関しては,消化器がんまたは頭頸部がんに対する外来放射線治療において,初期の集中的な栄養介入は体重減少や栄養状態の悪化を予防し,QOLの維持に有益な結果をもたらすことが明らかにされている9).終末期を迎えたがん患者とその家族においては,食事が摂れなくなることに大きな不安を抱き,それは死を連想させる10,11).最期まで患者やその家族に寄り添った食事に関する問題点への支援が患者のQOLに大きく寄与することが予想される.しかし,本邦における緩和ケアチームでの管理栄養士介入の効果に関する詳細な調査はわれわれの調べる限り存在していない.また,緩和ケアチームの支援を必要とする患者は,終末期のみならず積極的な治療を行っている者も含まれ多岐にわたるが,そのような患者の栄養学的問題点も明らかになっていないのが現状である.本研究の目的は,緩和ケアチームで介入する患者の栄養学的問題点を明らかにすること,および緩和ケアチームにおける管理栄養士の介入効果を調査することである.
本研究は後方視的研究であり,診療録から得られたデータを収集し,内容分析を行った.
対象2018年6月~2020年7月に東北大学病院にて緩和ケア診療加算・個別栄養食事管理加算を算定した症例を後ろ向きにカルテ調査を行った.対象者の適格基準は(1)組織学的にがんと診断された患者,(2)緩和ケアチームで介入し,管理栄養士の介入に書面で同意した患者,(3)緩和ケア診療加算・個別栄養食事管理加算を算定し,管理栄養士が実際に介入したがん患者とした.
調査項目①年齢・性別・原疾患,②がん治療の施行状況(なお,がん治療中の患者を「治療期」・積極的がん治療を終了した患者を「Best supportive care(BSC)期」とした),③身長・体重,④食欲に影響を及ぼす内服薬12–14)(ステロイド,抗ヒスタミン薬,抗精神病薬)使用の有無,⑤登録前14日以内の血液検査の結果.血液検査の調査項目は,血清アルブミン値,総コレステロール値,末梢血リンパ球数,ナトリウム値,カリウム値,カルシウム値,C-reactive protein(CRP).そのうち血清アルブミン値,総コレステロール値,末梢血リンパ球数測定値をスコア化し,それをもとに総合的かつ多面的に栄養状態を評価するcontrolling nutritional status(CONUT)値を用いて栄養状態を評価した15).CONUT値については0–1点が正常,2–4点が軽度異常,5–8点が中等度異常,9点以上を高度異常と定義されている.なお,登録の14日以内に血液検査を行っていない場合には血液検査結果は欠損とした.⑥管理栄養士介入時の主たる栄養学的問題点と管理栄養士の介入内容調査を行った.管理栄養士介入時の栄養学的問題点は,日本栄養士会「栄養管理ケアプロセス(Nutrition Care Process: NCP)」16,17)の栄養診断コードを用いて管理栄養士が栄養診断(栄養状態の判定)を行った.栄養診断コードは70のコードが設定されており,Nutrition Intake(NI:摂取量),Nutrition Clinical(NC:臨床栄養),Nutrition Behavioral/Environmental(NB:行動と生活環境)の三つの領域で構成されている.
栄養診断においては,栄養診断コードが複数該当することもあるが,その際は栄養診断コードを三つ以内に絞り込んで確定し,治療の状況や栄養問題の重症度に応じて優先順位を付け,最優先課題としたものを調査対象とした.なお,最優先課題とするのは三つの領域のうちNIとした17).その際,管理栄養士の介入内容は実際に行った栄養ケアを調査した.⑦食に関する苦悩はVerbal Rating Scale(VRS)18)を用いて評価を行った.食に関する苦悩を表す言葉を,VRS 0:食に関して困っていない,1:少し困っている,2:困っている,3:かなり困っている,4:耐えられないくらい困っている,の5段階で順に並べ,現在の食に関する苦悩を最も表している言葉を患者に選んでもらうことで食に関する苦悩を評価した.評価は介入日および介入後3–7日後に調査した.⑧VRS取得と同日(介入日および介入後3–7日後)の経口摂取エネルギー量を調査した.食事と併せて,経腸栄養剤や栄養補助食品を含む経口摂取エネルギー量をVRS取得と同日(介入日および介入後3–7日後)で調査し比較した.食事摂取量は主食・副食に分け,看護師が患者に聞き取りを行い,パーセンテージ評価した電子カルテ上の記録を基に算出した.持ち込みの食事など,入院患者食のほかに摂取したものについては,看護師もしくは管理栄養士が詳細に内容と摂取量を聞き取り,栄養価計算に含めた.なお,栄養価計算には栄養給食管理システムNutrimate® (大和電設工業,1985)を用いた.⑨管理栄養士介入の満足度調査を行った.二回目のVRS取得と同日(管理栄養士介入後3–7日後)に,管理栄養士による介入が満足か否かを「はい」もしくは「いいえ」で口頭質問した.管理栄養士介入の効果は食に関する苦悩評価,および食事摂取エネルギー量評価で判定した.
統計解析すべての分析において有意水準は5%とした.統計解析には,SPSS software (ver.19.0; SPSS Japan Inc., Tokyo)を用いた.
倫理的配慮本研究は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認を受けている(2020-1-370).
また,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)を準拠して研究を行った.
対象者は2018年6月~2020年7月に東北大学病院にて緩和ケア診療加算を算定した患者914例のうち,個別栄養食事管理加算を算定した患者215例で,女性122例(56.7%),年齢の中央値は66歳(範囲14–91歳)だった.がんの原発部位は肺38例(17.7%),女性器33例(15.3%),泌尿器31例(14.4%)の順に多かった.132例(61.4%)ががん治療中,83例(38.6%)ががん治療終了後だった.CONUT値の中央値は5点(範囲0–11)で,中等度栄養不良が51例(28.8%)と最も多かった.Body mass index(BMI)の中央値は21.0(範囲14.6–37.9)kg/m2,食欲に影響を及ぼす内服薬使用有は114例(53.0%)だった.ステロイド使用が84例と最も多かった(表1).
管理栄養士介入時の栄養学的問題点としては,治療期患者は「エネルギー摂取量不足」が50例(39.4%)と最も多く,BSC期患者は「栄養不良における生活の質」が33例(39.8%)と最も多かった(表2).管理栄養士が行った介入内容は,治療期患者は「嗜好を取り入れた食事提供」30例(22.7%),「食事形態変更」29例(22.0%)が多く,BSC期患者は「食事形態変更」24例(28.9%),「食事のエネルギーを下げる」21例(25.3%)の順に多かった(表3).
食に関する苦悩は全患者を対象にした場合,VRS(中央値)3から1(p<0.01)と管理栄養士介入前に比し,管理栄養士介入後に有意に軽減した.さらに治療期患者ではVRS(中央値)3から1(p<0.01),BSC期患者でもVRS(中央値)3から2(p<0.01)と,いずれも有意に軽減した.
摂取エネルギー量調査エネルギー摂取量は全患者を対象にした場合753 kcal±552 kcalから926±522 kcal/日(p<0.01)と管理栄養士介入前に比し,管理栄養士介入後に有意に増加した.さらに治療期患者では864 kcal±560 kcalから1030 kcal±526 kcal/日(p<0.01),BSC期患者でも530 kcal±465 kcalから719 kcal±451 kcal/日(p<0.01)と,いずれも有意に増加した(図1).また,がん種によるエネルギー摂取量に有意な差はみられなかった.
214名(99.5%)が管理栄養士の介入に満足と回答した.残りの1名(0.5%)に関しては,明確な回答が得られなかった.
本研究は日本において緩和ケアチームで介入する患者の栄養学的問題点を明らかにし,緩和ケアチームにおける管理栄養士介入の効果を評価した初めての調査である.本研究の結果から,緩和ケアチームで介入する患者には「食事に関して困っている」患者が多く存在していることが明らかになり,管理栄養士介入により食に関する苦悩が軽減し,食事摂取エネルギー量を増加させる一つの要素になる可能性が示唆された.
管理栄養士介入時の栄養学的問題点介入した患者のBMIは21.0(範囲14.6–37.9)kg/m2と正常範囲内であり比較的体重が保たれていた.がん患者のQOLは体重の減少によって大きく損なわれるため19),がん治療中の継続した体重評価は重要である.また,がんの栄養管理は原発部位および病期により異なるため,がん治療を開始する際には必ず体重評価を含む栄養状態を評価し,低栄養に陥るリスクが高いと判断した場合には積極的な栄養療法を実施するよう推奨されている20).
がん治療期患者の栄養学的問題点は「摂取エネルギー不足」が最も多かった.がん治療中の摂取エネルギー不足は低栄養状態を引き起こし,治療完遂率に影響を及ぼすことから4),緩和ケアチームで介入するがん治療中患者も同様に摂取エネルギー不足がないか注視することが重要である.また,頭頸部や消化管の腫瘍に対して放射線治療を受ける患者が,早い段階で栄養指導を受けることの有用性が報告されており21,22),緩和ケアチームで介入するがん治療中患者に対しても早期に管理栄養士が介入することが重要であると考える.
BSC期患者の栄養学的問題点は,「栄養不良における生活の質」の低下が最も多く,食べられないことがQOLに直接的に結びついていることが推察され,苦痛軽減を目的とした個人に合わせた食事対応が必要であると考える.日本緩和医療学会からも,終末期がん患者の経口摂取量低下に対して検討すべき主な緩和医療がガイドラインとして示されており,必要エネルギー量確保のための輸液療法を検討する前に,経口摂取量低下を来している病態を探索し,治療可能な要因に対する治療を行うことが推奨されている23).その中には,食事のにおいや味,量の不都合などの食事調整を管理栄養士が行うことが記されているほか,口内炎や高血糖などの代謝異常,便秘,消化器異常などの医学的要因や精神的要因など経口摂取量低下を来たす要因に対しチーム医療で対応することの重要性が示されている.また,腰本らも緩和ケアで管理栄養士が活動するためには「患者に寄り添う気持ち」「患者との会話を大切にする」「チームワーク」など,終末期独特の視点が必要なことを示しており24),緩和ケアに特化した管理栄養士の積極的な介入が望まれる.
管理栄養士の介入内容調査管理栄養士が行った介入内容は,治療期患者は「嗜好を取り入れた食事提供」,「食事形態変更」が多く,ベッドサイドで患者から得た食嗜好を踏まえてより摂取エネルギー量増加を図るための食事対応が必要であった.またBSC期患者は「食事形態変更」や,「食事のエネルギーを下げる」が多く,介入前は患者に不適な食事が選択されている可能性が示唆された.食形態を調整することや,見た目の圧迫感軽減のためにあえて食事量を少なくすることは患者の食べきれたという達成感にもつながることがあるため,管理栄養士介入による細やかな食事対応が必要であることを示唆している.
食に関する苦悩軽減要因緩和ケアチーム管理栄養士の介入は,治療期・BSC期ともに食に関する苦悩を軽減し,摂取エネルギー量増加に寄与することが明らかとなった.曽根らは,化学療法治療患者の嗜好調査により77%の患者で食事に何らかの問題を抱えていると報告した25).本研究では,管理栄養士の介入によって食事摂取エネルギー量が増加したことが示されたが,このことは患者の「食べられている実感」につながり,食に関する苦悩軽減の要因となりうる可能性が考えられる.
研究の限界本研究の主な限界は,第1に,単施設調査であるため,今回の結果を緩和ケアチームで介入するがん患者の食に関する苦悩改善効果として一般化することはできない.第2に,食事摂取量にはせん妄,腹水,便秘,痛み,悪心,嘔吐などさまざまな身体的側面と,不安・不眠,抑うつなど心理的な側面,また緩和ケアチームが介入したことによる症状緩和が影響するが今回はそういった解析を行っていないため,食事摂取エネルギー量増加が管理栄養士介入によるものだけとは言い難い.また,介入後の摂取エネルギー量調査は3–7日と設定し,その間に複数回訪問した場合は,介入日から直近の日を調査日としたが,その日が偶然摂取エネルギー量が多い日であったなどの可能性は否定できない.第3に,本研究においてBSC期と定義した患者には,がんの進行状況がさまざまな患者が混在しており,積極的治療を中止したばかりの,食事摂取エネルギー量が比較的良好な患者が結果に影響を及ぼした可能性が否定できない.第4に,本研究では管理栄養士2名が調査・介入を行ったが,管理栄養士と患者間の評価者間信頼性は検討されていない.また患者が改善を期待されていると感じることで,管理栄養士を喜ばせ介入が成功したと告げるなどのホーソン効果もバイアスを生む26).以上のような限界があるものの,本研究は日本において緩和ケアチームで介入する患者の栄養学的問題点を明らかにし,緩和ケアチームにおける管理栄養士介入の効果を評価した初めての調査である.今後,対象者数を増やしデータを蓄積して関連要因をより明確にする必要があると考える.
本研究は,緩和ケアチームで介入するがん患者の栄養学的問題点を明らかにし,緩和ケアチームにおける管理栄養士介入の効果を調査した.緩和ケアチームで介入するがん患者には,エネルギー摂取量不足や栄養不良における生活の質の低下などのがん治療の経過や予後,終末期のQOLに深く関係する栄養学的問題点があることが明らかとなった.また,緩和ケアチーム管理栄養士が直接介入することは,がん患者の食に関する苦悩を軽減し,食事摂取エネルギー量を増加させ,満足度を上げる一つの要素になる可能性が示唆された.それはがん患者の「食べること」への思いや希望を料理に反映させ,栄養学的問題点の改善への支援には管理栄養士が必要であることを示唆している.今回の調査は,緩和ケアチームにおいて管理栄養士が積極的に協働していくことの重要性を示す,臨床的基礎資料になりうると考える.
本研究にご協力いただいた対象者の皆様に心より御礼申し上げます.また,緩和ケアチームの皆様のご支援・ご指導に深謝いたします.
井上 彰:講演料等50万円以上(アストラゼネカ株式会社,日本イーライリリー株式会社)
そのほか:該当なし
佐々木,田上は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,批判的な推敲に貢献した.田口,押切,前嶋,中條,金澤,佐藤は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,批判的な推敲に貢献した.布田,井上は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終認証,および研究の説明責任に同意した.