Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
外来でがんリハビリテーションを受ける再発・進行がん患者の経験
勝島 詩恵 今井 芳枝橋本 理恵子三木 恵美荒堀 広美井上 勇太長谷 公隆
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2022 年 17 巻 4 号 p. 127-134

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Abstract

本研究では,外来でがんリハビリテーション(以下,がんリハ)を受ける再発・進行がん患者の経験を明らかにし,がんリハの真のエンドポイントを検討することを目的とした.対象はがん薬物療法中でがんリハを行っている再発・進行がん患者13名とし,半構造化面接法を実施した.結果,【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】【自分で身体を動かしていく愉しみがある】【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】の6カテゴリーが抽出された.がんリハは再発・進行がん患者に,自身が持つ生きる意味や価値,目的を再確立することで,今の苦しい状況に適応させていく契機になると考えられた.これより,Masteryの獲得が,がんリハにおける新たなエンドポイントになると推察できた.

Translated Abstract

The aim of this study was to clarify the experience of recurrent/advanced cancer patients receiving outpatient cancer rehabilitation and evaluate true endpoints of cancer rehabilitation. The study was conducted by semi-structured interviews of 13 recurrent/advanced patients undergoing cancer rehabilitation during cancer chemotherapy. Six categories were extracted: [Finding the physical condition suitable for me] [Being unable to find movements that I can effectively utilize myself] [Being able to continue normal everyday life] [Showing people around me that I can still move] [Having fun actively moving my body] [Gives meaning to my present “living”]. Cancer rehabilitation is considered to give patients with recurrent/advanced cancer a chance to adapt to their present predicament by helping them re-establish the meaning, value, and objective of living. These results suggest that acquiring mastery can be a new endpoint of cancer rehabilitation.

緒言

わが国のがん罹患患者数は増加傾向1にある一方で,治療技術の進歩などにより死亡率は低下しているため,がんの治療期間は長期化2している.がんリハビリテーション(以下,がんリハ)は,がん治療の一環として医師をはじめ理学療法士・作業療法士,看護師,ソーシャルワーカー,臨床心理士等のさまざまな専門職から提供される医学的ケアであり,がん患者の身体的,心理的,認知的な障害を診断・治療することで,患者の自立度を高め,Quality of Life(QOL)を向上させることを目的とする3

がん患者は,疾患の進行もしくはその治療の過程でさまざまな機能障害を生じ,とくに身体機能に関して複合的な代謝異常を呈する悪液質や,骨格筋の持続的な減少および身体機能低下となるサルコペニアに陥りやすい4,5.サルコペニアはがんの治療の毒性を上げ,効果を下げる予後不良因子になるため6,がんリハにより早期発見や予防は重要となる.さらに,がんの治療期間の長期化によりがん治療の場は入院から外来治療へ移行しており7,外来通院にて家庭生活を継続しながら治療を受けるがん患者にとって,日常生活を遂行するための身体機能維持は重要である.がんのリハビリテーション診療ガイドラインにおいても,化学・放射線療法中のがん患者に対して運動療法を行うことは,身体活動性・筋力・身体機能等の改善に加えて,精神機能・心理面を改善するとして,強く推奨(グレード1B)されている3.実際に,がんリハは精神機能・心理面も改善するとされており8,外来通院する進行・再発がん患者にも病勢の進行とともに筋力や身体機能が悪化していても,がんリハを通して患者が肯定的になる経験をしていると推察できる発言が聞かれることも多い.これより,治療中の再発・進行がん患者にとって外来通院でのがんリハはQOL向上の鍵になると考える.

がんリハの効果に関しては,がん悪液質の主病態が骨格筋萎縮と身体機能障害であるため,これまでは筋力や筋量,身体機能といった量的な指標をエンドポイントとした臨床研究が主流であった9,10.しかし,進行・再発がんに関してはその疾患特異性がゆえ,上記のような量的な指標のみではがんリハの効果を見出せていないのが現状である11,12.つまり,再発・進行がん患者におけるがんリハの効果は,一律に筋力や筋量などの今まで活用されてきた量的な尺度や数値による身体機能に関する指標だけでは評価が難しく,精神機能や心理面に関する評価指標を含めた多面的な要素で評価するために,新たなエンドポイントの確立が必要であると考える.

本研究では,再発・進行がん患者ががんリハを通してどのような経験をしているのかを患者の視点から明らかにすることで,外来通院でのがんリハがもたらす効果を可視化し,がんリハの新たな支援への示唆を得ることを目的とした.

方法

用語の操作的定義

経験:大辞泉13では,「経験」とは実際に見たり,聞いたり,行ったりすることを意味するとされている.中木は「経験」の概念分析で「〈不確かな状況で生じた印象に残る出来事とそのときの心身の状態〉,とくに認識・感情・欲望・価値観などの〈内面的変化〉や〈主観的にとらえたあるがままの状態〉であり,結果として〈自己受容〉〈関心〉〈問題への対峙〉〈確信〉〈再構築〉〈習得・熟達〉を示す現象が見出されるもの」と述べている14.以上から本研究では,再発・進行がん患者が,実際に外来通院でがんリハをする中で印象に残る出来事やそのときに感じ,理解し,大事にしたいと願ったことを含んだ内容を経験とした.

研究期間・研究協力者

2021年8月~2022年1月に,がん薬物療法中でがんリハを外来通院で行っている20歳以上の再発・進行がん患者とし,調査協力に関する自己決定が行えないと主治医が判断した患者やがんリハ適応外の患者は除外した.がんリハは,がん薬物療法の待ち時間を有効利用し,リハ室にて医師・理学療法士による診察・身体機能評価を行い,自宅療養中のリハを各患者の筋力や症状に応じて指導し,定期的な通院にてリハの実施状況や身体機能の評価を繰り返していた.リハ内容は,各々の患者の筋力や症状に応じた強度のゴムバンドを用いた下肢筋力トレーニングが中心で,症状によって強度の調整されており,ゴムバンドの使用が困難な場合はウォーキングやストレッチなどの強度の低いリハを受けていた者であった.

データ収集方法・内容

本研究では,治療中の再発・進行がん患者でがん薬物療法を受けながら,外来通院にてがんリハを受けている方を対象とし,研究対象施設の施設長に依頼文にて研究協力を依頼し承諾を得た.研究協力者に該当する患者を主治医より紹介を受け,研究者が口頭と文書で研究依頼し,同意書の署名をもって同意を得た.同意後は,研究協力者の都合のよい日時,時間帯を設定し,プライバシーに配慮できる場所でインタビューを行った.時間は30~60分とした.対象者に承諾を得てICレコーダーに録音し,インタビュー内容は逐語録に起こした.インタビュアー2名は事前にインタビューを行い,インタビューガイドの内容を協議し,必要に応じて修正し,それぞれ質的研究論文を筆頭で論文化している博士号および修士号取得者であり,職業は看護師および作業療法士で,診療に関わらない者で実施した.研究内容は対象者の基本情報として,年齢,性別,病名,Performance Status,治療状況をカルテより収集した.面接は「リハビリを行うことで感じていることを教えてください,そのように思われるのはなぜですか?」「リハビリしてから変わったことはありますか?」「あなたにとってリハビリはどういうものですか?」というインタビューガイドを用いた半構造化面接法で行い,再発・進行がん患者の外来通院でのがんリハの経験を自由に語ってもらった.

データ分析

本研究は外来通院でがんリハを受ける再発・進行がん患者の経験を明らかにすることを目的としている.したがって,研究協力者の語りがデータとなり,データに示される内容が意味していることを探っていくことが必要となるため,文脈と推論を重視するKrippendorffの内容分析の手法15を参考に,以下の方法で分析を行った.理論的飽和化として,分析から浮上してくる内容と重要な新しいカテゴリーや解釈が出てこない状況より最適化を判断した.

1. 個別分析:面接の逐語録を繰り返して読み再発・進行がん患者の外来通院でのがんリハの経験について語られている内容について,前後の文脈を考慮して解釈し,その内容が患者の思いとして象徴的に示されるように命名し,簡潔な文章でコードを作成した.次に類似するコードをまとめてサブカテゴリーとした.

2. 全体分析:個別分析より得られたすべてのサブカテゴリーを集め,比較検討し,さらに意味内容が類似したものを集め,再発・進行がん患者の外来通院でのがんリハの経験として象徴的な意味を表すように表現し,カテゴリーとした.

真実性の確保

研究の全過程を通して,質的研究論文を筆頭で論文化している博士号および修士号取得者であるがんリハや質的研究の専門家からスーパーバイズを受け,要素の抽出およびカテゴリーの妥当性について検討を重ね,分析の真実性の確保に努めた.

倫理的配慮

関西医科大学附属病院倫理審査委員会の承諾を得た(承認番号2020328).本研究への参加について自由意思による研究参加であること,同意しない場合でも不利益を受けることはないこと,識別コードで特定しプライバシーを保護すること,公表する場合も個人情報を保護すること,データは本研究以外に使用しないこと,同意した場合でも随時撤回できることを口頭および文書で提示し,説明した.また,研究協力者は再発・進行がん患者であり,身体的・精神的な苦痛や負担が生じる可能性を考慮し,インタビュー前後には必ず体調の確認や気分不良など生じたときは申し出るように声をかけた.気分不良が生じた場合はインタビューを中断し担当医へ報告し,必要な医療処置を受けられる状況下でインタビューを実施した.

結果

研究協力者の概要

表1に示すように,70代以上7名であり,年齢中央値(範囲)73.5歳(51–87歳),男性7名,女性6名であった.疾患は大腸がんが3名,後は肺がん,乳がん,膵がん,胃がん等であった.Performance Statusは1が10人であった.病期は術後再発およびstage IVの患者であり,転移部位は肺,肝,リンパ節,骨等であった.がんリハで実施したプログラムは,ストレッチおよびコムバンドを用いた筋力トレーニングであった.

表1 研究協力者の概要

外来通院でがんリハを受ける再発・進行がん患者の経験

表2に示すように,外来通院でがんリハを受ける再発・進行がん患者の経験として,6カテゴリー,18サブカテゴリー,45コードが抽出された.カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは[ ],語りは「斜字」とした.

表2 外来通院でがんリハビリテーションを受ける再発・進行がん患者の経験

1. 【自分にあった身体の状態を見つける】

再発・進行がん患者は,がんリハを通して[いまの自分の身体の状態把握ができる]ことでいまの治療に耐えられるように[前の身体の状態に戻すようにする]努力をしていた.また,外来通院でがんリハを定期的に行うことで〔身体が鍛えられている]と感じ,[1日でも長く身体を動かし続ける]ようにしていた.これより【自分にあった身体の状態を見つける】のカテゴリーは,がんリハで自分の身体の状態を可視化できることで自身の状態把握をしている経験を示していた.

自分の身体のことはちゃんと知っていたいので,まあ体力を落ちていったり,とか大丈夫大丈夫ではなくて,こういうところもうちょっと頑張ったらいいとか,教えてもらいたいですし,まあ体力的にどんなに頑張れるのかはわからないですけども,なるべくできることはしたいので」とE氏は語った.

2. 【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】

再発・進行がん患者は,医療者が自分の身体の状態を考えてがんリハを行ってくれるに対して[思うようにがんリハの効果を示せない申し訳なさ]を感じていた.また,自宅でのトレーニングに取り組むことができない状況があり,[自分の生活にがんリハを上手く組み込めない]と語っていた.さらに,がんリハをして自分の身体が劇的に変化したとは思えず,[運動が自分に役立っていると思えない]と感じていた.これより【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】のカテゴリーは,外来通院で行っているがんリハを身体に生かせられていない経験を示していた.

(今のリハビリが自分の身体に対して)なんの役に立つのかなというのがわかりません,素人的にはね」とI氏は語った.

3. 【普段と変わりない日常生活を継続できる】

再発・進行がん患者は,普段の生活に支障がないように[いまの自分の日常生活の基盤を維持する]生活をしており,がんリハをしているから家事を今まで通りに行うことができ,[家族の中の役割は果たし続ける]ことができると語っていた.これより【普段と変わりない日常生活を継続できる】のカテゴリーは,再発・進行がんであっても,がんリハのおかげで今までと変わらぬ生活を維持できている経験を示していた.

「聞いたことを自分の生活に取り入れて,コツコツやって,それで筋力を維持できてるな(中略)勤めて帰ってきてるときの夕食くらいは作ってやれているから,大事な仕事です.これをこなさなければならないと思っています.いろんなところでお母さんの役割できてます」F氏は語った.

4. 【自分が動けていることを周りに示す】

再発・進行がん患者は,がんリハを通して身体を動かせることで人の役に立つことができると[自分にかけられた周りの期待に応える]気持ちを持っていた.また,全部自分一人できるようにすることで,こんな病気でも最後の最後まで[誰にも迷惑をかけないようにする]としていた.これより【自分が動けていることを周りに示す】のカテゴリーは,進行・再発がんで病状が先細りしていく中でも,自分は今まで通り動けるとことを,意図的に周りに示していく経験となっていた.

「誰かの世話にならなきゃいけなくなっちゃうので.だから頑張って(中略)あの子供とかね,寝たきりで歩けなくなってとかなると大変ですもんね.なるべく自分でできるように,それでなくても病気で迷惑かけているので,なるべくほかのことは自分でできることは自分でしなきゃいかんと思っていますね」とL氏は語った.

5. 【自分で身体を動かしていく愉しみがある】

再発・進行がん患者は,がんリハを通して今日はこれができたという満足感を得ており,[自分はできるという自信が持てる]と感じていた.それは,自分自身が頑張ろうとする力をもらえる状況を作り,[自分がやらなければならないと奮起できる]気持ちになっていた.また,[身体を動かすことで症状を抑えている]と考えると[身体が動くことに嬉しさがある]と身体を動かすと気持ちよくなっていた.これより【自分で身体を動かしていく愉しみがある】のカテゴリーは,がんリハを通して自分で能動的に身体を動かすことで快の刺激を感じている経験を示していた.

「性格が前向きに,明るくなりましたね.やっぱし,歩いても運動したら息切れもしないし,去年までは息切れとかちょっと途中で休憩したり,とかやっていましたが,今は休憩なしで,かなり1時間をめどに朝と夕歩いてるが,今はもっと2時間でも3時間でも歩けると思う.自信になっている.ストレスがないですね,減りました」とC氏は語った.

6. 【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】

再発・進行がん患者は,根治不能な状態の中,不安定な心の揺れを[身体を動かすことで精神状態を平らにできる]と感じ,気持ちが安定する感覚を感じていた.がんリハは単なる身体機能を高めてくれるだけではなく,[自分が生きていくことを支えてくれる]もので生きていく励みになっていた.それは,その日その日を一生懸命生き切ろうと思える気持ちにさせ,[いま自分が生きる価値付けをしてくれる]と感じていた.これより【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれている】のカテゴリーは,がんリハを通して,病気に捉われず,人としての成長や人生統合につながるような生き方に気持ちをシフトしていくような経験を示していた.

「広がるというのか,そこにゆっくり居れるというのか,もう今さら,新しいというか,興味がいりますけどね,そこに向かって,自分のいろんな世界を維持するなりは,まず体ですから,呼吸ですから,そこらへんのこと,希望を持てるというのか」とB氏は語った.

7. 大カテゴリー

抽出された6カテゴリーより,三つの大カテゴリーが示された.一つは【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】のカテゴリーから,「身体機能が変化する中でコントロール感覚が掴める」という身体機能を可視化より身体のコントロール感覚を掴めるという内容であった.次に,【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】のカテゴリーから,「自分で身体を動かせるという自律性がある」という自分自身で行動を規範できるという内容であった.最後に,【自分で身体を動かしていく愉しみがある】【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】のカテゴリーから,「自分の可能性を広げていく新たなる意味付けとなる」という新たな価値を見出していることを示す内容であった.

考察

ここでは,本研究結果に基づいて外来通院でがんリハを受ける再発・進行がん患者の経験の特徴について考察する.

身体機能が変化する中でコントロール感覚が掴める

再発・進行がん患者はがんリハを通して,【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】ような経験をしていた.がんリハにおいて身体的数値だけでなく,経時的な経過も可視化されることより,自分の身体的状況が明確になり,それが【自分にあった身体の状態を見つける】経験につながっていたと考える.その反面,病態・症状悪化し,低下していく身体機能により,がんリハの効果を感じられず【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】経験にもなっていた.再発・進行がん患者は病態的な進行や治療の副作用によりActivities of Daily Livingが容易に低下しやすい状況があり10, 11,がんリハによる自分の身体機能の可視化は,先細りする自分の状態に再直面させていく面も持ち合わせていることを示唆していた.このことは保坂16も病状が悪化しているときのリハビリは「機能が低下していること」「何もできなくなっている自分」に患者を直面させてしまう可能性があり,そのような喪失に直面させない配慮が重要であると述べている.この【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】双方の経験より,がんリハで身体機能を可視化した際に,いかに自分の身体のコントロール感覚をつかめるのかということが重要ではないかと考える.今泉は,がんサバイバーのコントロール感覚は,変化する状況の中でQOLと適応を求め,未来に向け変化し続ける人間の本質的なありようであり,可能性を見いだすことにつながる重要な概念であると述べている17.本研究においても,再発・進行がん患者たちは,がんリハを通して身体状況の可視化に伴い,置かれている厳しい状況に直面しながら,自分の状態に合わせた身体を作るために模索しており,身体機能が変化する中でコントロール感覚をつかむことが重要であると推察できた.

自分で身体を動かせるという自律性がある

再発・進行がん患者はがんリハを通して,【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】ような経験をしていた.がんリハをしているからこそ,病態や症状の悪化が起こる中でも,今までと変わらない生活や自分の役割遂行が担える経験をしていた.根治不能な病態にあるからこそ,変わらない日常生活や役割遂行は再発・進行がん患者の自律性を支えていたことを示していた.村田18は自立し,生産的であることが自律存在である人間として重要であることを指摘している.再発・進行がん患者は病状や治療の副作用に対して,先行きに対する不安や不確かさを感じていることが予測され,それゆえに,普段と変わりない状態は不安な気持ちを低下させる役割を果たしていたのではないかと考える.【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】のような自律性は,身体を自分で動かせるという状況が根底に存在する.再発・進行がん患者の状況を考えると,次第に動けなくなることが予測でき,自律性を徐々に失う経験をしていくと考えられる.島﨑8は,がんリハの過程においては,活動の遂行能力に焦点をあてるのではなく,失われた活動の意味に焦点をあてていくアプローチも備えておく必要性を指摘している.活動に重きを置くような場合,再発・進行がん患者が病状進行に合わせて新たな自律性を見出していけるようにがんリハのプロセスを通して継続的に支援することが重要になると考えられた.

自分の可能性を広げていく新たなる意味付けとなる

再発・進行がん患者はがんリハを通して,【自分で身体を動かしていく愉しみがある】と【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】ような経験をしていた.がんリハを通して,今の状況に向き合い,狭小化していくだろう先行きに目を向けるのではなく,いまを生きていることへの重み付けをするような経験が示唆された.竹山19は,このような病いの体験の意味付けは進行がん患者の特徴の一つであると報告している.保坂16は,手術や薬物療法などの積極的に抗がん治療など徐々に行える治療がなくなっていくとき,リハビリを継続することが患者の希望を実現するための方法と感じているとの発言が患者から聞かれるときが多いと述べている.再発・進行がん患者は状態が悪化する中でも,がんリハでは自分の可能性を感じることができる場になっており,それが新たなる意味付けとなり,根治不能な状態にある状況に適応していくことにつながったと推察できた.

外来通院でのがんリハへの示唆

本研究の結果より,【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】ような身体機能が変化する中でコントロール感覚が掴める経験の特徴が示唆された.これより,がんリハを通して,患者自身が身体の状態に合わせた活動ができているという感覚がつかめるように支援していくことも指標の一つとして重要であると考える.また,【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】ような自律性を保つような経験をしていた.がんリハの様子だけではなく,患者自身が日常生活をどのように営んでいるのか,普段の生活状況を把握することもアプローチの一つになることが示唆された.最後に,【自分で身体を動かしていく愉しみがある】と【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】ことより,いまを生きていることへの重み付けをするような経験が示唆された.がんリハは,単なる身体機能の維持だけではなく,狭小化する現状を受容していくうえでの新たな意味付けを与える可能性を含んでおり,再発・進行がん患者の精神的な支えになる支援になると考えられた.

研究の限界と今後の課題

本研究は1施設の結果であり,一般化するためには今後,対象者数を増やし,がんリハに対する経験に影響する対象患者の疾患や治療状況などを検討していく必要がある.

結論

外来通院でがんリハを受ける再発・進行がん患者の経験を明らかにした結果,【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】【自分で身体を動かしていく愉しみがある】【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】の六つのカテゴリーが抽出された.がんリハの特徴として,「身体機能が変化する中でコントロール感覚が掴める」「自分で身体を動かせるという自律性がある」「自分の可能性を広げていく新たなる意味付けとなる」と考えられた.

利益相反

本論文に関連する開示すべき利益相反はない

著者貢献

勝島,今井は研究の構想およびデザイン,データ分析および解釈,原稿の起草,批判的推敲に貢献した.橋本,三木はデータの収集,分析および解釈,原稿の起草に貢献した.荒堀,井上はデータの分析および解釈,原稿の起草に貢献した.長谷は批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 日本緩和医療学会
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