Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
入院化学療法中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因の検討
石井 瞬 夏迫 歩美福島 卓矢神津 玲宮田 倫明中野 治郎
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電子付録

2022 年 17 巻 4 号 p. 181-189

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Abstract

【目的】本研究の目的は,入院化学療法中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因を明らかにすることである.【方法】本研究は後方視研究である.対象は入院中に化学療法を実施した造血器腫瘍患者90名とした.総合的,身体的,精神的,認知的倦怠感をそれぞれ従属変数とし,基本情報,ADL, Performance Status,不安・抑うつ,身体症状,栄養状態を独立変数として単回帰分析を実施した.単回帰分析で有意差を認めた項目を独立変数として,重回帰分析を実施した.【結果】総合的倦怠感を従属変数とした重回帰分析では抑うつが関連する要因として抽出された.さらに,身体的倦怠感は痛みの有無と抑うつ,精神的倦怠感はmFIMと抑うつが関連する要因として抽出された.【結論】倦怠感の症状がある造血器腫瘍患者に対しては,抑うつや痛み,ADLなどの倦怠感の原因に着目して対応する必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to identify factors associated with fatigue in patients with hematological malignancies undergoing chemotherapy. Method: A total of 90 patients with hematological malignancies undergoing chemotherapy were enrolled in this study. Simple regression analysis was performed using total, physical, emotional, and cognitive fatigue as dependent variables. On the other hand, the patient’s sex, age, blood test findings, physical function, activities of daily living (ADL), performance status, presence or absence of anxiety or depression, physical symptoms, and nutritional status were used as independent variables. Multiple regression analysis was conducted with the items that showed significant differences in the simple regression analysis as independent variables. Results: Multiple regression analysis with total fatigue as the dependent variable identified depression as an associated factor. Additionally, physical fatigue was noted to be associated with pain and depression, while emotional fatigue was reported to be associated with ADL and depression. Conclusion: Our results suggest that patients with hematological malignancies who have symptoms of fatigue should be managed taking in consideration possible causes of their fatigue, such as depression, pain, and ADL.

緒言

倦怠感は造血器腫瘍患者に高頻度で出現する症状の一つである 1.倦怠感の増強は,造血器腫瘍患者の運動機能の低下や抑うつの増強と関連しており,Quality of Life(QOL)の低下を引き起こす 1.そのため,造血器腫瘍患者は倦怠感へ対処することを強く望んでいるが,大多数の患者が倦怠感への対処について満足していないことが報告されている 2

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは,がんに関連する倦怠感の要因として,痛み,精神的苦痛,睡眠障害,貧血,栄養状態,身体活動量,薬剤の副作用,アルコール,併存疾患が挙げられている 3.化学療法中の造血器腫瘍患者においては,これらの要因は複数混在することが多い 1,4.そのため,化学療法中の造血器腫瘍患者の倦怠感を改善させるためには,それらの要因の中から強く影響をおよぼしているものを推定し,適切に対応することが重要となる.しかし,造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因について調査した研究は少なく,倦怠感に対して適切なケアが行えていないことが多い.そこで本研究では,入院化学療法中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因を明らかにすることを目的とし,後方視的に調査を行ったので報告する.

方法

本研究は後方視研究である.

対象

調査期間は2012年8月から2016年10月とした.期間中に長崎大学病院血液内科に入院し,リハビリテーションが処方された造血器腫瘍患者533名を対象とした.そのうち,化学療法以外の治療を実施した患者,重複がん患者,歩行に介助を要する患者,Performance Status 4の患者,意識レベルが低下していた患者(Japan Coma ScaleでI-1以上),認知症の疑いがあった患者(Mini-Mental State Examination 23点以下),研究に協力が得られなかった患者,化学療法開始前に評価を行った患者,一部の評価が行えなかった患者を除外し,残りの90名について解析を行った.(付録図1)

評価項目

前述のNCCNガイドライン 3に記載されている倦怠感の関連要因を参考に評価項目を抽出した.すべての評価はリハビリテーション開始時に担当理学療法士によって実施された.

1. 基本情報

患者の基本情報として性別,年齢,Body Mass Index(BMI),疾患名,がん化学療法レジメン,評価時の化学療法の実施クール数,化学療法開始から評価までの日数を記録した.

2. 血液検査所見

カルテより,ヘモグロビン,アルブミン,C反応性蛋白の数値を記録した.

3. 倦怠感

倦怠感はがん疾患特異の自己記入式質問紙評価であるCancer Fatigue Scale(以下,CFS)を評価結果を採用した.CFSは総合的倦怠感および下位尺度である身体的倦怠感,精神的倦怠感,認知的倦怠感を解析することができる.身体的倦怠感とは「疲れやすい」「体がだるい」などの身体的知覚,精神的倦怠感は「物事への興味」「活気」など精神的活動の低下,認知的倦怠感は「不注意」「忘れやすい」などの注意・集中力の低下を示す.なお,最高60点の総合的倦怠感のカットオフ値は19点とされている 5

4. 全身状態

全身状態はEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のPerformance Status(PS) 6を採用した.

5. 運動機能

筋力の評価としては,握力および等尺性膝伸展筋力を採用した.握力の測定方法はデジタル握力計(TKK5401,竹井機器工業社製)を用いて左右2回ずつ測定し,そのいずれかの最大値を記録した.等尺性膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーター(hand held dynamometer: HHD)(μ-Tas F-1,アニマ社製)を用いて測定した.測定は左右2回ずつ行い,その最大値を体重で除した%体重比を算出した.歩行能力の評価としては10 m歩行テストを実施した.具体的には前後各2 mの助走路を確保し,最大歩行速度での10 m歩行時間を1回測定した 7.そして,歩行距離をその歩行時間で除した歩行速度を算出した.日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)能力はFunctional Independence Measure(FIM)を用いて評価し,運動関連の13項目(mortor functional independence measure: mFIM)の合計をADL能力の評価として採用した.

6. 精神症状

精神症状の評価には不安と抑うつを区別して解析できるHospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS)を採用した.がん患者における不安,抑うつのカットオフ値はそれぞれ8点,5点とすることが推奨されている 8,9

7. 睡眠障害,痛み

がん患者のQOLの質問紙評価であるEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire-C30(EORTC QLQ-C30) 10の結果を利用し,痛みおよび睡眠障害の有無について評価した.具体的には.「痛みがありましたか」,「睡眠障害がありましたか」それぞれの質問に対して,「全くない」と答えた者を症状なし,「少しある」,「多い」,「とても多い」と答えた者を症状ありとした.

8. 栄養状態

栄養状態の指標はGeriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRI)を用いた.GNRIの計算式は「GNRI=14.89×アルブミン値+41.7×(現体重/理想体重)」を使用し,理想体重はBMI=22に設定した 11.体重/理想体重が1.0以上の場合は,その比率を1とした.GNRIの値が82点未満で重度栄養リスク,82点–91点で中等度栄養リスク,92点–98点で軽度栄養リスク,99点以上でリスクなしと評価される 10

解析方法

倦怠感に関連する要因を調査するために重回帰分析を実施した.CFSの総合的倦怠感および身体的倦怠感,精神的倦怠感,認知的倦怠感の点数をそれぞれ従属変数として単回帰分析を行った.独立変数には,NCCNガイドライン 3に記載されている倦怠感の要因を参考に,性別,年齢,ヘモグロビン,C反応性蛋白,握力,膝伸展筋力,歩行速度,mFIM,PS,HADSの不安および抑うつの点数,痛みの有無,睡眠障害の有無,GNRI,評価時の化学療法の実施クール数,化学療法開始から評価までの日数を独立変数として単回帰分析を実施した.そして,単回帰分析で有意差を認めた項目を独立変数として重回帰分析を実施した.統計解析にはEZR versioin 1.52を使用し 12,有意水準はすべて5%未満とした.

倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言に従って長崎大学病院臨床研究倫理委員会で承認(承認番号16042502)を得て行った.

結果

基本情報

対象者の基本属性を表1に示す.性別は男性が54.4%,女性が45.6%とほぼ同等であり.平均年齢は65.3歳であった.診断名は悪性リンパ腫の割合が多かった.化学療法開始から評価までの日数の平均値は10.6日であり,52名(57.8%)が化学療法開始から1週間以内,17名(18.9%)が1週間から2週間の間に評価されていた.化学療法には多くのレジメンが使用されていた(付録表1)

表1 基本属性

評価項目の結果(表2

1. 血液検査所見

ヘモグロビンの平均値は9.8 g/dlで,基準値(男性:13.0~18.0 g/dl,女性:11.5~16.5 g/dl)よりも低値であるのは79名(87.8%)であった.アルブミンの平均値は3.4 g/dlで,基準値(3.8~5.3 g/dl)よりも低値であるのは68名(75.6%)であった.C反応性蛋白の平均値は1.3 mg/dlで,基準値(0.3 mg/dl以下)よりも高値であるのは48名(53.3%)であった.

表2 評価結果

2. 倦怠感

CFSの平均点数は,身体的倦怠感が7.6点,精神的倦怠感が8.4点,認知的倦怠感が3.8点,総合的倦怠感が19.7点であった.総合的倦怠感がカットオフ値以上であったのは48名(53.3%)であった.

3. 運動機能

それぞれの平均値は握力が22.2 kg,等尺性膝伸展筋力が0.44 kgf/kg, 10 m歩行速度が1.1 m/秒,mFIMが80.9点であった.

4. 全身状態

PSは1が31.2%,2が34.4%,3が34.4%であり,PS1-3の割合はほぼ同等であった.

5. 精神症状

HADSの平均点数は,不安が6.2点,抑うつが7.5点,合計が13.7点であった.カットオフ値以上であったのは,不安が28名(31.1%),抑うつが67名(74.4%),合計が61名(67.8%)であった.

6. 痛み,睡眠障害

痛みの症状を有する症例は67名(74.4%),睡眠障害の症状を有する症例は70名(77.8%)であった.

7. 栄養状態

GNRIの平均は90.1であった.重度栄養リスクが24名(26.6%),中等度栄養リスクが30名(33.3%),軽度栄養リスクが11名(12.2%)であった.

倦怠感に関連する要因の抽出

1. 総合的倦怠感(表3

単回帰分析において,総合的倦怠感との相関関係が認められた項目は膝伸展筋力,歩行速度,mFIM, PS,不安,抑うつ,睡眠障害であった.それらの項目を独立変数として重回帰分析を実施した結果,抑うつが総合的倦怠感に関連する要因として抽出された.また,独立変数間の多重共線性は認めなかった.

表3 総合的倦怠感を従属変数とする重回帰分析の結果

2. 身体的倦怠感(表4

単回帰分析において,身体的倦怠感との相関関係が認められた項目は歩行速度,PS,抑うつ,痛みであった.それらの項目を独立変数として重回帰分析を実施した結果,抑うつと痛みの項目が身体的倦怠感に関連する要因として抽出された.また,独立変数間の多重共線性は認めなかった.

表4 身体的倦怠感を従属変数とする重回帰分析の結果

3. 精神的倦怠感(表5

単回帰分析において,精神的倦怠感との相関関係が認められた項目はC反応性蛋白,膝伸展筋力,mFIM,PS,不安,抑うつ,睡眠障害の項目において有意差を認めた.それらの項目を独立変数として重回帰分析を実施した結果,mFIMと抑うつの項目が精神的倦怠感に関連する要因として抽出された.また,独立変数間の多重共線性は認めなかった.

表5 精神的倦怠感を従属変数とする重回帰分析の結果

4. 認知的倦怠感(付録表2)

単回帰分析において,認知的倦怠感との相関関係が認められた項目は不安,抑うつであった.それらの項目を独立変数として重回帰分析を実施した結果,認知的倦怠感に関連する要因は認めなかった.

考察

本研究では,化学療法を実施している入院中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因について調査した.その結果,最も倦怠感に関連している要因は抑うつであり,総合的,身体的,精神的倦怠感の要因として抽出された.それに加えて,身体的倦怠感では痛みが,精神的倦怠感ではmFIMが要因として抽出された.

本研究のCFSの平均値は総合的倦怠感が19.7点,身体的倦怠感が7.6点,精神的倦怠感が8.4点,認知的倦怠感が3.8点であった.がん患者の倦怠感について調査した先行研究 13では,CFSの平均値は総合的倦怠感が18.1点,身体的倦怠感が6.6点,精神的倦怠感が7.6点,認知的倦怠感が3.1点と,得点の割合は本研究と類似しており,造血器腫瘍患者の倦怠感は精神面に強く出現する傾向が伺えた.倦怠感とうつ病の関連性は多数報告されており,肺がん患者987人のうち33%がうつ病と診断され,倦怠感がうつ病の独立した予測因子であることが認められている 14.造血器腫瘍患者においては,Logeらはホジキンリンパ腫患者の457人のうち,26%が6カ月以上の倦怠感を生じており,倦怠感はうつ病スコアと中程度の相関関係があることを報告している 15.さらに,Hoferらは高齢の造血器腫瘍患者において,うつ病スコアと倦怠感に高い相関があることを報告している 1.本研究においても,総合的倦怠感,身体的倦怠感,精神的倦怠感の要因として抑うつが抽出されており,造血器腫瘍患者の倦怠感を予測する因子として,抑うつが最も重要であることが示唆された.特筆すべきことは,精神的倦怠感のみでなく,身体的倦怠感の要因にも抑うつが抽出されたことである.Oldervollらも,進行がん患者が椅子立ち上がりテストにおける運動機能が改善しても,倦怠感が改善しないことから,がん患者の倦怠感は運動機能以外の心理的不安などとの関連が強いとしている 16.「疲れやすい」,「横になりたい」,「身体がだるい」といった主訴に対しても,身体面だけでなく,精神面の問題について評価を行うことが必要な可能性が考えられる.

身体的倦怠感に関連する要因として,抑うつ以外にも痛みが抽出された.先行研究でも,がんに関連する倦怠感の要因の一つとして痛みが報告されている 17.一方で,植松らは化学療法中のがん患者の倦怠感は痛みと関連していなかったことを報告しており,その理由として痛みを合併していた患者が少なかったことを挙げている 18.造血器腫瘍患者の抱える問題を調査した報告においても,倦怠感は上位に挙がっているが,痛みに関する項目は認めない 2.しかし,本研究では痛みを合併していたがん患者は74.4%であり,植松らが報告している11.9%と比較して非常に高い割合となっている.その原因の一つとして,植松らの対象は初回化学療法実施患者のみであるのに対して,本研究では対象の化学療法実施回数は規定していないため,化学療法を複数回実施している患者が含まれていることが考えられる.がんに関連する倦怠感は孤立した症状であることはまれであり,多くは痛み,抑うつ,倦怠感などのほかの症状とともに症候群として表れ,近年では,それらを共通の病態から生じる一群の症状として捉える「symptom cluster」という概念が提唱されている 1921.従って,痛みを強く生じる病態でなくとも,複数回の化学療法で生じた倦怠感が,痛みなどの主観的な症状と相互に影響しあっている可能性がある.そのため,痛み,抑うつ,倦怠感といった主観的な症状は包括的に考える必要があると考えられる.しかし,痛みの合併の定義が,本研究では痛みの症状を有することであるのに対して,植松ら 18の研究ではVASで20 mm以上の痛みを有することと異なっている.このことも,本研究で痛みを合併する患者の割合が高かったことの要因の一つと考えられるため,結果の解釈には注意が必要である.

精神的倦怠感に関連する要因には,抑うつ以外にもmFIMが抽出された.造血器腫瘍の治療では化学療法が多剤併用で行われるため有害事象の発生頻度が高いといった特徴があり,その治療期間中は感染管理のために活動範囲が制限されることが多く,さらにADL能力低下や身体活動量低下が助長される 22.ADL能力や身体活動量の低下はQOLの低下を引き起こす 23とされている.今回の結果では,精神的倦怠感は握力,膝伸展筋力,歩行速度といった運動機能低下と関連しておらず,ADL能力と抑うつが関連していた.その結果から考えると,客観的な運動機能の数値が低下するよりも,ADL能力が低下して,自分でできることが少なくなっていくという自覚が精神的倦怠感と関連している可能性が考えられる.すなわち,精神的倦怠感においても,主観的な症状や思いを聴取することが重要であることが示唆された.

がん患者の認知的倦怠感の要因としては,うつや睡眠障害が報告されているが 24,25,今回測定した項目の中には,認知的倦怠感に関連する要因は認められなかった.先行研究は乳がん患者が対象であり,年齢も今回の研究より若年であるため,対象の特徴の違いが影響しているのかもしれない.また,がん患者の倦怠感は認知的側面よりも,身体的,精神的側面の方が強く,半数の患者は認知的倦怠感を有していないといわれている 26.今回の研究においても,認知的倦怠感は他の倦怠感と比べて点数が低い傾向であった.つまり,対象に認知的倦怠感を有する患者が少なかったため,その要因が抽出されなかったのかもしれない.

一方,がんに関連する倦怠感の要因として挙がりやすい,ヘモグロビンやC反応蛋白は,造血器腫瘍患者の倦怠感との関連は認められなかった.化学療法を行う造血器腫瘍患者は,その病態や化学療法に伴う骨髄抑制によって貧血が生じやすい 23.実際に,ヘモグロビンが基準値よりも低い患者は87.8%と非常に高い割合であった.たしかに,貧血の初期症状として倦怠感や易疲労性が挙げられる 27.しかし,慢性的に発症した貧血の場合は自覚症状の訴えがない場合があるといわれている 27.造血器腫瘍患者においても,ヘモグロビンが低値の状態が長期間続き,貧血が慢性化していることも少なくないため,倦怠感とヘモグロビンに関連を認めなかったのかもしれない.しかし,今回は,貧血を呈している期間については調査していないため,推測の域を脱せず,今後検討が必要である.また,近年では,がんに関連する倦怠感の発症は炎症がベースにあるという見解もある.LaVoyら 28は,がんの病態や補助療法の副作用により末梢部や全身性に炎症が発生し,炎症部の白血球の活性化とこれに関わる生理活性物質であるサイトカインが生成され,免疫機構の変動,調整過程を経て,活性化された蛋白分子が神経伝達物質により脳に送達され,脳幹部で再び各種のサイトカインが活性化し脳が倦怠感を認識すると推論している.先行研究においても,肺がん患者の倦怠感はC反応蛋白上昇と関連していることが報告されている 28.しかし,先行研究 29では倦怠感が生じているがん患者のC反応蛋白の中央値は12.8 mg/dlであるのに対し,本研究の対象の平均値は1.3 mg/dlとそれほど高値でなかった.C反応蛋白の数値の違いが,倦怠感に炎症が関連していなかったという今回の研究結果に影響しているのかもしれない.

本研究にはいくつかの限界がある.まず,単施設の研究であり,さらに対象をリハビリテーションの処方がある患者に限定したため,選択バイアスが生じている可能性がある.次に,今回解析した項目以外にも,倦怠感に関連する要因があった可能性がある.具体的には,化学療法の種類やサイクル,疾患名,病期,身体活動量,化学療法以外の薬剤の使用,アルコール摂取,併存疾患の有無,電解質のバランス異常などが挙げられる.さらに,倦怠感に関連する要因の評価のうち,睡眠障害と痛みに関してはQOL尺度の結果による症状の有無を使用している.そのため,睡眠障害と痛みの症状の程度が把握できていない.今後は,睡眠状態や痛みに関して詳細に評価できるツールを用いる必要性があると考えられる.次に,本研究は化学療法後の造血器腫瘍患者を対象としているが,評価時期をリハビリテーション開始時に設定しているため,評価時期に関して化学療法後からの日数が統一されていない.化学療法による倦怠感は,化学療法実施の翌日から1週間ほど症状が強く,その後症状が和らぐとされている 30.本研究では76.7%の患者が化学療法後2週間以内に評価を行っている.そして,単回帰分析において,化学療法開始から評価までの日数は倦怠感との相関関係は認められなかったが,化学療法から評価実施までの期間が倦怠感に影響を及ぼしている可能性も考えられる.さらに,本研究では評価時の化学療法の実施クール数を規定していないため,初回化学療法の患者や複数回化学療法を実施した患者が混在している.単回帰分析において,化学療法の実施クール数は倦怠感との相関関係は認められなかったが,化学療法の実施回数も倦怠感に影響を及ぼしている可能性が考えられる.したがって,今後は評価時期や化学療法の実施クール数を統一したうえで,倦怠感に関連する可能性がある要因をより含めた調査を前方視で実施して,化学療法後の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因を検討する必要がある.

結論

本研究では,化学療法を実施している入院中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因について調査した.その結果,最も倦怠感に関連している要因として抑うつが抽出された.それに加えて,身体的倦怠感には痛みが,精神的倦怠感にはmFIMが関連していた.これらのことから,倦怠感の症状がある造血器腫瘍患者に対しては,抑うつや痛み,ADLなどの倦怠感の原因に着目して対応する必要性が示唆される.

謝辞

実施に当たって協力を惜しまなかった対象者の皆様,長崎大学病院リハビリテーション部ならびに看護スタッフの方々に心から感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

石井は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.夏迫,福島は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.神津,宮田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.中野は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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