Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
急性期病院における医療従事者の緩和ケア実践に関する実態調査
江藤 美和子 土橋 洋史石川 奈名藤本 和美松岡 晃子平石 孝洋山﨑 圭一
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電子付録

2023 年 18 巻 2 号 p. 105-109

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Abstract

【目的】急性期総合病院の医療従事者の緩和ケア実践の認識と関連因子を調べ,社会医療法人生長会ベルランド総合病院における緩和ケアの教育支援のあり方を検討する.【方法】急性期総合病院単施設の医療従事者を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,個人属性,緩和ケアの実践と理解の実態を調査し,緩和ケア実践への関連因子を同定するために二項ロジスティック解析を行った.【結果】955名中605名(63%)が回答し,緩和ケアを実践していると回答したのは全体の23%であった.緩和ケア実践の関連因子は,緩和ケアの概念の理解,および緩和ケアの機能,基本的・専門的緩和ケアの違い,アドバンスケアプランニングの理解という緩和ケア実践の具体的内容の理解であった.【結論】基本的緩和ケアの実践を促進するために,医療従事者に対し,緩和ケアの理解を深めて自己の役割認識を促進する教育支援が重要である.

Translated Abstract

Objective: This study intended to clarify whether healthcare professionals provide palliative care and the factors associated with such care. Methods: An anonymous self-administered questionnaire survey was conducted of healthcare professionals in in an acute care hospital in order to investigate their practice and understanding of palliative care as well as their personal attributes. A multivariate logistic regression analysis was conducted to identify factors associated with their palliative care practice. Results: 605 of 955 respondents (response rate: 63%) answered. Twenty-three percent of all respondents answered that they were involved in palliative care practice. A multivariate logistic regression analysis revealed understanding the concept and practical components of palliative care, including the functions of palliative care, differences between primary and specialized palliative care, and advance care planning, were factors associated with palliative care practice. Conclusion: Palliative care specialists should provide the educational support for healthcare professionals to enable them to deepen their understanding of palliative care. Such support from the palliative care specialist may promote the health care professionals’ awareness of their own roles in palliative care.

緒言

2012年の第2期がん対策推進基本計画以降,「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」が重点的に取り組まれ,がん診断時や治療期の患者の苦痛には主治医と看護師等メディカルスタッフが主に対処し,「基本的緩和ケア」と称されている1,2

今後,緩和ケアの対象の高齢化,対象となる疾患の拡大が予測され,患者の多様なニーズに対応するためには,基本的緩和ケアの強化が欠かせない3.本調査は,急性期総合病院の医療従事者の緩和ケア実践の認識と関連因子を調べ,社会医療法人生長会ベルランド総合病院(以下,当院)における緩和ケアの教育支援のあり方を検討することを目的とした.

方法

対象

急性期総合病院である当院(病床数477床)に勤務する職員を対象とし,幅広く緩和ケア実践状況を把握するために,臨床経験年数は問わず,患者に直接関わらない職員は除外した.

調査方法

関係部門の所属長に,研究協力依頼文を用いて研究の主旨,方法を説明し,院内全職員に調査実施について周知と協力を依頼した.方法は,Webアンケートツールを用いた横断調査であった.対象者には,アンケート入力画面上に研究の主旨と個人情報の取り扱い,研究参加は自由意志であることを掲示した.実施期間は2021年8月21日より2週間とした.

調査内容

調査項目は,緩和ケアの実践に影響を及ぼし得る,調査対象者の属性要因(性別,年代,職種,経験年数),緩和ケアに関する理解(緩和ケアの概念の理解,緩和ケアの機能の理解,基本的・専門的緩和ケアの違いの理解,アドバンスケアプランニングの理解)を含めた47

緩和ケアの実践は,世界保健機関(WHO)の緩和ケアの定義「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQuality of Life(QOL)を,痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」8を提示したうえで,「日常の診療・業務の中で緩和ケアを実践できている」の設問に,5件法(1:「まったくあてはまらない」~5:「とてもあてはまる」)で回答を求めた.

緩和ケアに関する理解4項目については,「緩和ケアについて理解し,患者,家族,同僚に説明できる」(緩和ケアの概念の理解),「緩和ケアチーム,緩和ケア外来,緩和ケア病棟,がん相談の違いを患者,家族,同僚に説明できる」(緩和ケアの機能の理解),「基本的緩和ケアと専門的緩和ケアの理解を理解している」(基本的・専門的緩和ケアの違いの理解),「アドバンスケアプランニングについて理解し実践できている」(アドバンスケアプランニングの理解)の設問に,5件法(1:「まったくあてはまらない」~5:「とてもあてはまる」)で回答を求めた.

「日常の診療・業務の中で緩和ケアを実践できている」に,1:「まったくあてはまらない」~3:「どちらでもない」と回答した場合には,その理由について,「時間がない」,「やり方がわからない」,「気持ちがつらい」,「複雑でありとりかかれない」,「その他」から選択回答を求めた.

統計解析

基本属性と調査項目について記述統計を実施し傾向を分析した.そして,緩和ケアの実践への関連因子を同定するため,「緩和ケアを実践している」という回答を目的変数とし,対象者の背景項目,緩和ケアの理解に関する4項目を説明変数とし,単変量解析を行った.次に,単変量解析の結果,p<0.05となった項目を説明変数とし,多変量解析(二項ロジスティック解析)を実施した.統計ソフトはJMP Pro 16®(SAS Institute Inc)を使用し,有意水準p<0.05とした.倫理的配慮として,本調査はベルランド総合病院の臨床研究審査委員会の承認を得て実施した.

結果

対象者の基本属性

当院の適格基準を満たす職員955名に調査協力を依頼し,605名より回答を得た(回収率63%).職種は看護師が404名(67%)と過半数を占めていた.年齢は,20~30代は394名(65%),40代以上は211名(35%)であり,臨床経験年数は10年未満が358名で全体の59%であった( 表1).

表1 参加者背景(n=605)

緩和ケア実践と緩和ケアの理解

「日常の診療・業務の中で緩和ケアを実践できている」について,5:「とてもあてはまる」,4:「まあまああてはまる」と回答したのは全体の23%であった.緩和ケアの概念の理解については,5:「とてもあてはまる」,4:「まあまああてはまる」と36%が回答していたが,緩和ケアの機能の理解,基本的・専門的緩和ケアの違いの理解,アドバンスケアプランニングの理解においては,5:「とてもあてはまる」,4:「まあまああてはまる」と回答したのは全体の10~20%程度であった(付録図1).

緩和ケア実践に影響を与える因子

単変量解析の結果,経験年数(10年未満vs. 10年以上,オッズ比(OR)=0.59; p=0.007),緩和ケアの概念の理解(あてはまらない(3:「どちらでもない」・2:「あまりあてはまらない」・1:「まったくあてはまらない」)vs.あてはまる(5:「あてはまる」・4:「まあまああてはまる」),OR=0.11; p<0.0001),緩和ケアの機能の理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.097; p<0.0001),基本的・専門的緩和ケアの違いの理解(あてはまらないvs. あてはまる,OR=0.069; p<0.0001),アドバンスケアプランニングの理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.201; p<0.0001)において,有意な差を認めた( 表2).

表2 緩和ケアの実践に対する関連因子(単変量解析)

多変量解析の結果,緩和ケアの概念の理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.724; p<0.0001),緩和ケアの機能の理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.316; p=0.032),基本的・専門的緩和ケアの違いの理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.218; p<0.0001),アドバンスケアプランニングの理解(あてはまらないvs.あてはまる,OR=0.49; p=0.027)において有意な差を認め,影響を与える要因として明らかとなった( 表3).

表3 緩和ケアの実践に対する関連因子(多変量解析)

緩和ケアが実践できない理由として,「やり方がわからない」(緩和ケア実践方法の知識不足)に255名(45%)が回答していた(付録表1).

考察

本調査において,当院の医療従事者のうち,緩和ケアを実践していると答えたのは約20%と少数であり,緩和ケアに関する理解が関連因子であることが明らかとなった.緩和ケア専門家が数少ない急性期総合病院で患者のQOL向上を達成するためには,基本的緩和ケアの実践が不可欠である.緩和ケア実践の実行には,医療従事者の緩和ケアの理解と役割認識が必要であり,実践を有意義な成功体験として意味づける教育支援が求められる911

病院内で緩和ケアの実践を実行するための具体的な方策として,医療従事者に対し,緩和ケア専門家によるコンサルテーションと緩和ケア実践の協働が重要である.緩和ケアに対する医療従事者の困難感は,重篤な患者への緩和ケア実践経験と教育不足とケアに関わる医療従事者間での目標共有の不十分さから生じる1215.緩和ケア専門家の支援を得て,患者・家族のQOLを高めるプロセスを体験することは,緩和ケアの理解を深め,自己の役割認識と実践の実行につながる可能性がある16

そして,医療従事者の緩和ケアに関する理解不足や価値の相違から,患者への緩和ケアの説明や専門的緩和ケアへの紹介を躊躇することは,患者が適時的に緩和ケアの恩恵を受けることの障壁となっている可能性がある13,17,18.緩和ケア実践の促進に必要な教育として,緩和ケアの概念,基本的緩和ケアの具体的な内容,緩和ケア専門家との協働の具体的なあり方と有用性が挙げられる13,19.このような教育は,医療従事者の緩和ケアへの誤解を解き,緩和ケアの意義とその恩恵を理解し,必要な時期に患者のニーズに見合った基本的緩和ケアを提供することにつながる.そして,より複雑で困難なニーズに対しては,緩和ケア専門家と協働することで,患者にとっては早期からの苦痛緩和となり16,17,20,医療従事者にとっては困難感の減少につながると考える.

研究の限界と今後の課題

緩和ケアは多次元的なニーズを取り扱う,全人的実践であり,今回の研究ではその実態を十分捉えきれていない可能性がある.医療従事者の属性,対象の疾患や患者集団の違いからその認識と実践を比較検討することが今後の課題である.最後に,本研究は単一施設を対象とした研究であり,結果の一般化には限界がある.

結論

医療従事者の緩和ケア実践の実態と関連因子を分析した結果,日常的に緩和ケアを実践していると返答した医療従事者は約20%であり,緩和ケアに関する理解が関連因子として明らかとなった.緩和ケアの理解を深めて自己の役割認識を促進する教育支援の重要性が示唆された.

謝辞

本研究の調査にご協力いただいた,社会医療法人生長会ベルランド総合病院の職員皆様に心より感謝を申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

江藤は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.土橋,山﨑は,研究のデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.石川,藤本,松岡,平石は研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2023 日本緩和医療学会
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