2023 年 18 巻 2 号 p. 123-128
地域全体の緩和ケアの質の向上を図るためには,各施設が緊密につながることが必要であると考え,2017年9月に「京都ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)連絡会」を発足させた.個々のPCU施設が抱える問題を気軽に話し合い,共に悩み考え,成長,発展させる場,新規立ち上げ施設を支援する場とした.連絡会では,その時々の話題(緊急入院,輸血,喫煙,遺族会など)をテーマに議論を行った.2020年,COVID-19流行のため連絡会は休会となったが,メール連絡網を用い,感染対策,PCU運営などの意見を交わし,WEB会議システムを用い連絡会を再開させた.日頃より顔の見える関係があることで,COVID-19流行という有事においてもPCU間の連携を維持し,がん治療病院との連携にも発展させることができた.京都府のPCUが一つのチームとなることで,患者,家族がどのような場所においても安心して生活できることを目指している.
To improve the quality of palliative care in the Kyoto region, we thought that closely connecting hospice and palliative care units (PCU) is necessary. Subsequently, we established the Kyoto PCU Liaison Committee in September 2017. This committee was created as a place to casually discuss the problems that individual PCU facilities have, deliberate on their worries together, grow and develop, and support newly launched facilities. Furthermore, discussions were held on current topics (emergency hospitalization, blood transfusion, smoking, bereaved family meetings, etc.) at the liaison meetings. While meetings were adjourned in 2020 due to the COVID-19 pandemic, we continued to exchange opinions on infection control, PCU management, etc., using the email network at first. Later, these meetings resumed via web conference systems. Thus, by having face-to-face relationships on a daily basis, we were able to maintain cooperation between PCUs even during the pandemic, and collaborate with cancer treatment hospitals. Overall, by forming a team of PCUs in Kyoto Prefecture, we aim to enable patients and their families to live with peace of mind wherever they are.
京都府は六つの医療圏からなり,2020年京都府全人口(2,578,087人)に占める割合は,北から丹後3.5%,中丹7.3%,南丹5.1%,京都乙訓62.7%,山城北16.7%,山城南4.7%であった1).京都府では,1995年にホスピス・緩和ケア病棟(palliative care unit: PCU)が初めて開設され,2023年現在,全16施設(中丹1,京都乙訓12,山城北3),総数317床の緩和ケア病床が存在する( 図1).PCUならびに病床数の確保にとどまらず,地域全体の緩和ケアの質の向上を図るためには,各施設が緊密につながることが必要2–5)であると考えた.個々のPCUが抱える問題を気軽に話し合い,共に悩み考え,相互理解を深める場,知恵と力と心を合わせて成長,発展させていく場,また新規PCUを立ち上げる施設を支援する場として,2017年9月に「京都ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)連絡会」を立ち上げた.日頃の連絡会を通じた顔の見える関係から,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)流行を経験し発展させた地域の緩和ケア連携について報告する.
2017年9月に第1回の連絡会を開催した.京都府の緩和ケアがつながり,同じ志が一つになり,緩和ケアの質の向上につながることで,患者,家族の幸せにつながる.この連鎖を目指すことが,本連絡会立ち上げ時の思いであった.あそか診療所・あそかビハーラ病院とのつながりで,京都市内の寺院の研修室を会議場として無償提供していただき,大きな第一歩を踏み出すことができた.会の開催は平日18:30からの約1時間とし,参加者は,PCUの代表医師や師長を中心に各PCU施設で緩和ケアに携わる1施設2–3名とした.連絡会は3カ月ごとの開催とし,司会は輪番制とした.第1回開催では,所属10施設のうち7施設が参加した.会のはじめに連絡会発足の趣旨を皆で共有し,各施設ならびに参加者の自己紹介を行った.連絡会として,日々の臨床現場やPCU運営の困りごとについて気軽に相談し,共に悩み,改善策を見出す場となることを大事にすることにした.また,連絡会として新設PCUの立ち上げに協力することにした.PCUでの勤務経験なしにPCUを開設するハードルは高く,新設予定のPCU代表者が会に参加し,PCU開設の参考にしていただいた.
連絡会設立当初は欠席施設があり,会所属施設に参加の声掛けを行うとともに,PCU新設予定施設への会参加の案内も続けた.連絡会では各施設の病床稼働状況,待機状況,平均在院日数,人事異動などの近況報告のあと,各回テーマを決めて討議した.討議内容は,PCU代表者に事前にメール網で募った.討議内容を 表1に示す.通常,自施設のみで悩み抱えてしまう問題について,他施設の取り組みを参考にすることで,自施設にとってよりよい策を取ることが可能となった.第8回開催では,「緩和ケアの中で大切にしていること」をテーマに,ワールドカフェ方式の会議も行った.一方,施設代表者の交代が不定期にあり,輪番施設が各施設からその都度報告を受け,連絡網を更新した.
COVID-19流行拡大のため,2019年10月の開催以降,連絡会は休会となった.感染流行が続き,多くのPCUで「感染対策」,「家族の面会方法」,「病棟運営」などの悩みが増えた.連絡会所属施設でもクラスターが散見され,PCUに限らず多くの医療機関でCOVID-19に関する情報が不足し,孤立しやすい状況にあった.2021年1月,これまで使用していたメール連絡網を利用し,各PCUから配信された急ぎの課題や困りごとの質問に対し,可能な施設がメールで返答するという形の運営を行うことにした.多忙なCOVID-19対応のために情報が正確かつリアルタイムに届かない可能性があったため,PCU代表医師1名および代表看護師1名の各施設2名からなる連絡網(16施設32名)を構築した.そして,2021年6月,WEB会議システムを用い連絡会を再開した.討議内容は,「感染対策」,「面会条件」,「看護体制」,「スタッフのストレスマネジメント」,「COVID-19に関するスタッフの欠勤に伴う勤務調整」,「イベント開催」,「ボランティア活動」などのCOVID-19に関わる内容のほか,「身寄りのない患者支援」などの意見交換も行った( 表1).
COVID-19流行当初,PCR検査が可能なPCU施設は限られた.終末期がん患者では発熱がみられることが少なくないため,入院時の持ち込みによるPCU内のクラスター発生が懸念された.そこで京都府がん医療戦略推進会議と連携し,PCR検査が実施できないPCU施設に対しては紹介元病院が代わりに検査を実施する通達が京都府下のがん治療病院に行われた.また,感染流行拡大下において,がん治療病院の地域連携室の転医業務の負担が大きくなっていたため,各PCU施設の空床状況を提供するシステム(稼働状況,新患/入院までの期間,面会条件)を,Googleドライブを用いて急遽構築した.PCU空床状況の共有に関し,情報開示の必要性について各PCU施設に理解を得ること,リアルタイムでの情報提供に限界があること,開示された情報の閲覧権限の範囲をどこにするかなどの運用上の問題があった.現在,がん拠点病院を含めた京都府がん対策係と再整備を進めている.
看護ケアについて掘り下げた話し合いを行うために,2022年6月に全16施設による師長会を立ち上げた.構築した連絡網を用い,各PCU師長が連絡を取り合い,連絡会開催前の時間帯で師長会を開催している.また,京都府では,PCU申し込み用紙が施設毎で異なるために紹介元施設の負担になっているという長年の課題があった.連絡会全施設で意見を出し合い,「京都PCU共通質問用紙」( 図2)を作成し,2023年1月から運用を開始した.今後は患者・家族が希望する医療・療養を確認する問診票の統一化を目指す.
本PCU連絡会は,日々の臨床現場での悩みを気軽に相談できる場として立ち上げ,6年目を迎えた.COVID-19流行拡大によって一時的に休会を余儀なくされたが,顔を合わせ,話し合う関係ができていたため,コロナ禍においても,メール連絡網を駆使した連携体制に切り替え,WEB会議システムを用いた連絡会開催につなげることができた.遠隔であっても声も顔も心もつながることができることに気づかされた.今後は,緩和ケアに関わる多職種(ソーシャルワーカー,薬剤師)や在宅緩和ケア施設との連携を構築し,患者,家族がどのような場であっても安心して生活できることを目指していく.森田らは,地域連携を促進するためには,顔がわかるだけではなく,考え方や価値観,人となりがわかるような多職種小グループで話し合う機会を継続的に地域の中に構築することが有用であると述べている6).
また,COVID-19流行下で強化した医師と看護師から成る連絡網(1施設2名体制)は,施設間の連絡が円滑となり,人事異動による担当者の入れ替わりで施設間の連絡が滞りやすくなることを防いでくれる.このように日頃から連絡が取れる体制の強化は,災害などのさまざまな有時にも利用できる事業継続計画(business continuity plan: BCP)7–10)として今後重要になると考える.現在,京都PCU連絡会の連絡網をモデルとして,日本ホスピス緩和ケア協会11)近畿支部所属の約80施設(2府4県)の連絡網の構築作業が行われている.
PCUの密な連携により,行政のがん施策への働きかけが可能になり,逆に行政やがん治療病院からの要望を速やかにPCU全体で共有することが可能となった.前者として,「コロナ禍のPCU入院時のPCR検査実施指針」,「緩和ケアに関する京都府ホームページの整備」,後者として,京都府がん医療戦略推進会議からPCUへの「緩和ケアの実態調査(看取りの状況)の協力依頼」があった.
一方,会の運営が輪番制のため,団体や個人から連絡会へ相談する窓口が定まっていないこと,当番施設間で情報の円滑な引き継ぎを行うことが連絡会の運営上の課題である.
京都PCU連絡会は個々の施設が抱える問題を気軽に話し合うことができる会である.日頃より顔の見える関係があることで,COVID-19流行という有事においてもPCU間の連携を維持することができ,京都府内のがん治療病院との連携にも発展させることができた.
京都PCU連絡会の大西直世氏,加藤直子氏,佐々木美保氏,武田ヒサ氏,立木三千代氏,谷口裕美氏,中村喜美子氏,新堀慈心氏,服部華子氏,平松真氏,松橋晴子氏,馬淵真希子氏,森脇まゆみ氏,山本五十栄氏,吉田味予子氏に感謝します(五十音順).また,本PCU連絡会の立ち上げにご尽力いただきました皆様には心より厚く御礼申し上げます.
上野博司:講演料(第一三共株式会社,ファイザー株式会社)
その他:該当なし
山極,酒井,吉岡,上野,山代は研究の構想およびデザイン,研究データの分析,解釈および原稿の起草に貢献した.川上,荻野,土屋,大谷は研究の構想,研究データの収集,解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.大里,信谷,竹浦,上林,清水,大西,上田は研究データの収集,解釈および原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.