Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
リハビリテーション専門職によるアドバンス・ケア・プランニング—非がん性呼吸器疾患患者一例へ試みた経験より—
角田 健 大山 優喜福村 佳子杉浦 瑞季
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2023 年 18 巻 3 号 p. 201-205

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Abstract

症例は76歳の慢性閉塞性肺疾患患者.リハビリテーション場面における対話を活用し,アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)の実践を試みた.ACPの実践は,呼吸リハビリテーション中のコンディショニングやセルフマネジメント教育の対話の場面を主に活用した.リハビリテーション専門職がACPに関わる場合,いわゆる広義のACPが関わりやすかった.リハビリテーション専門職は,他の職種と比較して対話する時間が得やすく,生活を主軸に置いた視点で患者の価値観や将来の不安について対話することができる.現場でのACPを促進するため,他の職種と比較して対話する時間が得やすい利点があるリハビリテーション専門職は,繰り返しの対話の機会を活用しACPへ関わる必要がある.

Translated Abstract

We herein report a case of a 76-year-old male patient with chronic obstructive pulmonary disease whose advance care planning (ACP) was facilited by rehabilitation staff by utilizing dialogue in rehabilitation settings, mainly in the context of conditioning and self-management during pulmonary rehabilitation. When a rehabilitation professional is involved in ACP, it is easy to be involved in the so-called ACP in the broad sense. Compared to other professions, rehabilitation professionals have more time being with a patient for dialogue and can discuss the patient's values and future concerns from a life-centered perspective. To promote ACP in the practical settings, rehabilitation professionals, who have the advantage of having more time for dialogue than other professions, need to be involved in ACP by taking advantage of repeated opportunities for dialogue.

緒言

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)を行うことの重要性が社会全体として強く認識されつつある.ACPはさまざまな内容が示されている13.国内では近年,Miyashitaらの報告による次の定義がある4.「アドバンス・ケア・プランニングとは,必要に応じて信頼関係のある医療・ケアチーム等の支援を受けながら,本人が現在の健康状態や今後の生き方,さらには今後受けたい医療・ケアについて考え(将来の心づもりをして),家族等と話し合うこと.とくに将来の心づもりについて言葉にすることが困難になりつつある人,言葉にすることを躊躇する人,話し合う家族等がいない人に対して,医療・ケアチーム等はその人に適した支援を行い,本人の価値観を最大限くみ取るための対話を重ねていく必要がある」.非がん性呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者は,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)と緩和ケアの両者を早期から導入することが重要とされ,ACPの開始時期は,できる限り早い時期が望ましいとされている5

ACPの実践者は,本人,家族等,そして本人に関わる多職種の医療・ケア従事者とされる6.診療報酬体系上,リハビリテーション(以下,リハビリ)専門職は患者1人に1日20分(1単位)以上,繰り返し関わることができる.リハビリ専門職は患者の身体に触れるなどのリハビリを介して,他職種よりもACPに必要な患者との対話の時間を日頃,繰り返し得やすい利点がある.そのため,リハビリ専門職においてもACPに関わることが可能であると考える.しかし,リハビリ専門職によるACPへの関わりについて国内の報告は見当たらない.国外においては介入研究の確立されたACPプログラムで医師,看護師に加えてリハビリ専門職などが関わった報告はあるが7,リハビリ専門職の関わる効果や関わり方については示されていない.今回,非がん性呼吸器疾患であるCOPD患者一例に対する呼吸リハ中の患者との対話を活用し,ACPに関わることを試みた.なお,本報告については患者の同意を得て,個人が特定できないように十分な倫理的配慮を行った.

症例提示

76歳男性,2011年COPDと診断.2021年11月に在宅酸素療法を導入,同年12月7日,肺炎による増悪で当院入院,薬物療法とリハビリを開始,入院中は1日20~60分,週5日の頻度でリハビリを提供した.リハビリ評価は以下の通りである.体型はbody mass index (BMI) 16.9,呼吸困難はmodified Medical Research Council Dyspnea Scale (mMRC)でGrade3,Activities of Daily Living (ADL)はNagasaki University Respiratory Activities of Daily Living questionnaire (NRADL)で30/100点,Quality of Life (QOL)はCOPD assessment test (CAT)で27/40点と,やせ型で,歩くと呼吸困難により立ち止まり,休憩が必要な状態でADL, QOLともに低下していた.苦痛はIntegrated Palliative Care Outcome Scale (IPOS)で身体的苦痛(Q2)が21/52点,心理・社会・スピリチュアル的な苦痛(Q3–Q9)が19/28点と,身体的苦痛に加えて心理・社会・スピリチュアル的な苦痛も生じていた.「死んじゃうかもしれない」,「どうやって暮らしていけばいいの」と将来の暮らし方に不安を感じ,治療や健康管理の方法についても混乱,苦悩している様子であった.

増悪症状が改善したのちACPの実践と対話を開始するのに際して,阻害要因5,8の一つである医療者のACP実践への懸念が生じた.非がん性呼吸器疾患患者のACPを開始する好機は,「急性増悪からの回復期で次の急性増悪に備えるとき」,「フレイルが進行し訪問看護が必要になったとき」,「在宅酸素療法や人工呼吸療法が導入されるとき」など疾患の進行を感じながらも少し心穏やかでいられるタイミングとされる9.本症例は,ACPを開始する好機に該当していた.また,入院中,人工呼吸器を装着した患者や重症患者を見て関心も持っていたことから,言い回しに配慮しながら意思決定が困難になりつつある患者を引き合いに出し,意思決定が困難になった際に限らず,今後どのような治療を受けたいか,どのような生活を送りたいか.将来の暮らしや健康の維持,治療の全般について,何を大切にしたいのか.身近な人や,われわれと対話することの必要性を尋ねたところ,本症例は対話することの必要性を感じておりACP実践への懸念は払拭された.

呼吸リハはコンディショニング,ADLトレーニング,筋力持久力トレーニングから構成され,セルフマネジメント教育は運動療法と同等に呼吸リハの中核をなしている10.ACPの実践と対話は,呼吸リハ中のコンディショニングの場面やセルフマネジメント教育の場面を主に活用した( 図1).本人から語られる「ゆっくりしか歩けなかった」とADLに関する嘆きや,「家に帰ってからの酸素の使い方がわからない」と在宅酸素療法に関する悩み,患者の抱える身体・心理・社会・スピリチュアル的な苦痛などの話を入口に,対話と共感のプロセス11を用いながら対話を開始した.これまでの病いの体験やライフヒストリーなどについて尋ねることも中軸にした対話を実践した.入院治療を終え同年12月28日,自宅退院.翌月からは外来にてリハビリを1回60分,週1回~月1回の頻度で継続した.

図1 リハビリテーション介入中の患者との対話とACPの実践

退院直後の外来ではBMIが18.1,mMRCはgrade2, NRADLは42/100点,CATは15/40点と改善し,IPOSは身体的苦痛(Q2)が5/40点,心理・社会・スピリチュアル的な苦痛(Q3–Q9)は13/28点であった.症例からは「また青春したい,病気になる前のやりたいことやりたい」「私のことだ,残された命のために」との言葉も聞かれるようになった.残りの人生において大切にしたいことを見出し,再び入院しないため在宅酸素療法を用いながら暮らすことや,運動を続け過ごすことを決心し,ノートに日々の出来事や思い,運動の経過を記録し外来にて確認しあった.今回,入院中に医療者間のカンファレンスの機会はあったが,ACPに関する内容を話題とするところまでは至らず,退院後の外来においては,カンファレンスの機会はなく,電子カルテ上での情報提供にとどまった.

本症例のACP実践結果について,ACPの具体的支援内容・活動指標5を参照し, 表1に示す.本症例は,明らかな終末期とは言い難く,かつ,リハビリ専門職という立場上,事前指示書や代弁者に関わるもの,さらに医療行為についての説明や確認などは実践しづらいものであった.本症例には同居する妻がいたが,家族と話す機会は,入院中はコロナ禍の面会制限により設けることができず,外来では同行同席を提案したが実現しなかった.家族への支援はしにくく,自宅において夫婦で話す機会を設けることを提案するだけにとどまった.一方,病状や生活の理解の促進,患者の意思の確認,価値観や心配事に関わる支援などは実践しやすいものであった.

表1 本症例へのACPの具体的支援内容と活動指標

考察

今回は一症例に対するリハビリテーション介入中の対話によるACPの実践を報告した.リハビリで関与できるACPの範囲は患者,リハビリ専門職,各施設で異なると考えられる.本症例のように,まだ終末期とは言い難い時期から,リハビリ専門職がACPに関わる場合,その立場などから,いわゆる広義のACPが関わりやすいと推察する.

リハビリ専門職は,他職種と比較して対話する時間が得やすい.また,生活を主軸に置いた視点で患者の価値観や将来の不安について対話することができる.単に運動療法を提供することやADLの観点からのリハビリにとどまらず,患者の生活や生き様,価値観を支援する視点を持つことで,患者にACPの必要性があれば,リハビリ専門職においても広義のACPの一部に関わることが可能と考える.本症例同様,リハビリを通じて経験する患者との対話とACPとの間に類似性を感じるリハビリ専門職は少なくないと推察する.現場でのACPを促進するため,他の医療・ケアのチームメンバーと比較して,対話する時間の得やすい利点があるリハビリ専門職は,繰り返しの対話の機会を活用し,本人の価値観を最大限くみ取るための対話を重ねてACPに関わる必要がある.

今回は,ACPに関する多職種でのカンファレンスまでには至らず,ACPに関する情報は電子カルテ上での提供にとどまった.ACPは多職種やチームでの実践が理想とされる12.リハビリ専門職がACPに関わる際も,患者を取り巻く多職種やチームで実践するACPに還元されて初めて意義あるものになるといえる.情報提供や情報共有をはじめとする,多職種やチームで実践するACPへ生かすための条件や方法を検討することは今後の課題である.ACPの阻害要因の一つである時間的制約8は,リハビリ専門職がその一役を担うことで解消できる可能性があると考える.

リハビリ専門職がACPへ関わる体制が十分に構築されていない臨床現場も,まだ多く存在することが推察される.本報告は,リハビリで行われる対話をACPへの活用に試みた独自性のある一例と考える.ACPは重要とされる一方で障壁も存在している.現場でのACPを促進するため,われわれリハビリ専門職も,ACPの支援の可能性を探ることは一つのテーマになりうると考える.関心を持っていただけるリハビリ専門職などから,今後議論が蓄積されていくことに期待したい.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

角田は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析と解析,原稿の起草および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.大山,福村,杉浦は,研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2023 日本緩和医療学会
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